Contents

第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

7 大規模災害などへの対応

自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

1 災害派遣などの概要

災害派遣は、都道府県知事などが、災害に際し、防衛大臣または指定する者へ部隊などの派遣を要請し、要請を受けた防衛大臣などが、事態やむを得ないと認める場合に派遣することを原則としている23。これは、都道府県知事などが、区域内の災害の状況を全般的に把握し都道府県などの災害救助能力などを考慮したうえで、自衛隊の派遣の要否などを判断するのが最適との考えによるものである。ただし、大規模地震対策特別措置法に基づく警戒宣言24または原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言が出されたときには、防衛大臣は、地震災害警戒本部長または原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき、派遣を命じることができる。

参照図表III-1-1-10(要請から派遣、撤収までの流れ)、 資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

図表III-1-1-10 要請から派遣、撤収までの流れ

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えており、この部隊を「FAST-Force(ファスト・フォース)」と呼んでいる。

参照図表III-1-1-11(災害派遣などにおける待機態勢(基準))

図表III-1-1-11 災害派遣などにおける待機態勢(基準)

2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害への対応

ア 広島県広島市における人命救助にかかる災害派遣

14(平成26)年8月20日、広島県広島市安佐南区および安佐北区において、大雨の影響によって土砂災害が発生した。自衛隊は、広島県知事からの災害派遣要請を受けて、人命救助や行方不明者捜索を実施した。この災害派遣での派遣規模は、人員のべ約14,970名、車両のべ約3,240両、航空機のべ66機となった。

陸自隊員の画像

広島県土砂災害の災害派遣に従事する陸自隊員

イ 御嶽山における噴火にかかる災害派遣

14(同26)年9月27日、御嶽山で噴火が発生し、自衛隊は、長野県知事からの災害派遣要請を受けて、自治体・警察・消防などと連携しながら、人命救助や行方不明者捜索を実施した。本派遣の規模は、人員のべ約7,150名、車両のべ約1,840両、航空機のべ298機に上った。

陸自隊員の画像

御嶽山噴火にかかる災害派遣に従事する陸自隊員

ウ 口永良部島における噴火にかかる災害派遣

15(同27)年5月29日、口永良部島で噴火が発生し、自衛隊は、鹿児島県知事からの災害派遣要請を受けて、避難支援・情報収集を実施した。本派遣の規模は、人員のべ約430名、車両のべ約20両、航空機のべ44機に上った。

エ その他の自然災害

14(同26)年11月22日には長野県北部を震源とする地震が発生し、同年12月5日から6日にかけては徳島県で大雪となったため、それぞれ災害派遣に対応した。

空自救難ヘリの画像

能登沖災害派遣で救出にあたる空自救難ヘリ

参照図表III-1-1-12(災害派遣の実績(平成26年度))

図表III-1-1-12 災害派遣の実績(平成26年度)

参照 資料42(災害派遣の実績(過去5年間))

(2)救急患者の輸送など

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送している(急患輸送)。平成26年度の災害派遣総数521件のうち、407件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)の離島などへの派遣が大半を占めている。

また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や、火災、浸水、転覆など緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施している。

さらに、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者をC-130H輸送機にて搬送する広域医療搬送も行っている。

また、平成26年度の消火支援件数は、73件であり、急患輸送に次ぐ件数となっている。その内訳は、自衛隊の施設近傍の火災への対応が最も多く、平成26年度は54件であった。また、山林などの消火が難しい場所では、空中消火活動も行っている。

空自隊員の画像

急患輸送に従事する空自隊員

(3)高病原性鳥インフルエンザへの対応

15(同27)年1月15日には、岡山県笠岡市の養鶏場において、同年1月18日には、佐賀県西松浦郡有田町の養鶏場において高病原性鳥インフルエンザが発生し、自衛隊が各県知事からの災害派遣要請を受けて、鶏の殺処分などを行った。この災害派遣での派遣規模は、人員のべ約670名、車両のべ約100両となった。また、同年4月12日には、熊本県球磨郡の養鶏場において高病原性鳥インフルエンザが発生し、熊本県知事からの災害派遣要請を受けて、鶏の殺処分などを行った。この災害派遣での派遣規模は、人員のべ約880名、車両のべ約180両となった。

(4)自衛隊が実施・参加する訓練

自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、平素から「自衛隊統合防災演習」をはじめとする各種防災訓練を行っている。また、地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方自治体などの関係機関との連携強化を図っている。

平成26年度は、東日本大震災から得られた災害対応に関する多くの課題などを防災訓練に積極的に取り入れ、大規模地震などの事態に際し、迅速かつ的確に災害派遣などを行うための能力を維持・向上することを目的として各種防災訓練を実施したほか、訓練に参加した。

参照 資料43(災害派遣にかかる主な訓練の実施および参加実績(平成26年度))

14(同26)年10月19日には、和歌山県が主催する津波災害対応実践訓練に参加し、南海トラフ地震対処における震災対処能力の向上を図った。在日米軍との連携においては、米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイ(V-22)により、沖合に待機する海上自衛隊の護衛艦「いせ」に傷病者を搬送する訓練などを実施した。また、同年11月6日には、東北方面隊震災対処訓練「みちのくALERT2014」を東北全域で実施した。

救出・救助の様子の画像

みちのくALERTにおける救出・救助の様子

海自隊員の画像

リムパック14災害救助演習で負傷者を搬送する海自隊員

(5)東日本大震災への対応など

11(同23)年3月11日に発生した東日本大震災において、防衛省・自衛隊は、最大時には10万人を超す隊員を派遣して、被災者の救助に全力で取り組み、同年12月26日原子力災害派遣の終結にともない活動を終了した。また、12(同24)年9月から原子力規制庁に2名の陸上自衛官を出向25させているほか、原子力防災訓練への参加などを通じて、関係機関との連携要領を検討するなどの実効性の向上に努めている。

3 災害対処への平素からの取組
(1)自衛隊の各種対処計画および業務計画

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする態勢を整備している。その際、東日本大震災の教訓を十分に踏まえることとしている。

また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、12(同24)年に策定した防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。

(2)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、地方公共団体などとの平素からの連携の強化も重要である。このため、①自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡担当官を設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)および事務官による相互交流(陸自中部方面総監部と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。15(同27)年3月末現在、全国46都道府県・220市区町村に334人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化する上できわめて効果的であり、東日本大震災においてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

参照 資料44(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)

活躍する退職自衛官の画像

地方自治体の防災監として活躍する退職自衛官

23 海上保安庁長官、管区海上保安本部長および空港事務所長も災害派遣を要請できる。災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣について、①派遣を命ぜられた自衛官は、自衛隊法に基づく権限を行使できる。②災害派遣では予備自衛官および即応予備自衛官に、地震防災派遣または原子力災害派遣では即応予備自衛官に招集命令を発することができる。③必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することができる。

24 地震予知情報の報告を受けた場合において、地震防災応急対策を行う緊急の必要があると認めるとき、閣議にかけて、地震災害に関する警戒宣言を内閣総理大臣が発する。

25 東日本大震災復興加速化のための第4次提言を踏まえ、原子力防災体制の強化にともない、14(平成26年10月14日に内閣府(原子力防災担当)に異動(出向)となっている。