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ダイジェスト 第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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概観

●わが国を取り巻く安全保障環境は、様々な課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきており、一層厳しさを増している。

●わが国周辺では、領土や主権、経済権益などをめぐり、純然たる平時でも有事でもない、いわゆるグレーゾーンの事態が増加・長期化する傾向にある。また、周辺国による軍事力の近代化・強化や軍事活動などの活発化の傾向がより顕著にみられるなど、アジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因は、より深刻化している。

●グローバルな安全保障環境においては、一国・一地域で生じた混乱や安全保障上の問題が、直ちに国際社会全体の課題や不安定要因に拡大するリスクが高まっている。イラク・レバントのイスラム国(ISIL:Islamic State of Iraq and the Levant)などの国際テロ組織の活動の活発化・拡散、ロシアによるウクライナにおける力を背景とした現状変更(いわゆる「ハイブリッド戦」の展開)、サイバー攻撃の高度化・複雑化などにみられるように、安全保障上の課題や不安定要因は、複雑かつ多様で広範にわたっており、一国のみでの対応はますます困難なものになっている。

●わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題が依然として未解決のまま存在している。

最近のわが国周辺の安全保障関連事象

米国

●アフガニスタンおよびイラクにおける2つの戦争が終息に向かい、米国の世界への関わり方が変化しつつある一方、米国は厳しい財政状況の中においても、引き続きその世界最大の総合的な国力をもって世界の平和と安定のための役割を果していくものと考えられる。

●15(平成27)年2月に公表された「国家安全保障戦略」(NSS:National Security Strategy)においては、テロの脅威や大量破壊兵器の拡散、サイバー攻撃などの様々な課題について、引き続き指導的な役割を果たすとともに、規範に基づく国際秩序を推進しつつ、同盟国などとともに行動を取っていく姿勢を強調している。また、アジア太平洋地域へのリバランスについても、引き続き推進することとしているが、中東およびウクライナを巡る情勢の変化がどのような影響を与えるのかが今後注目される。

●一方、2013(同25)年に開始した国防歳出を含む政府歳出の強制削減により、米軍に様々な影響が生じている。QDRも、強制削減が米軍にもたらす大きなリスクを強調しており、国防歳出の強制削減が国防戦略や安全保障戦略に与える影響が注目される。

●また、14(同26)年11月、ヘーゲル米国防長官(当時)は、限られた資源で米国の軍事的優位性を維持・拡大するため、敵の能力をオフセット(相殺)するための革新的な方策を見つけ出すことを目的とした国防イノベーション構想を発表し、これが第3のオフセット戦略へと発展することを期待する旨述べた。

ベンフォールドの画像

15(平成27)年夏に横須賀に展開する予定となっている
米海軍のイージス駆逐艦ベンフォールド【米海軍HP】

アジア・太平洋地域における米軍の最近の動向

北朝鮮

全般

●北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられるほか、軍事的な挑発的言動を繰り返している。北朝鮮のこうした軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、わが国はもとより、地域・国際社会の安全保障にとっても重大な不安定要因となっていることから、わが国として強い関心をもって注視していく必要がある。

大量破壊兵器・ミサイルの開発

●13(平成25)年3月、北朝鮮は、経済建設と核武力建設を並行して進めていく、いわゆる「並進路線」を決定した。

●北朝鮮の核開発については、何らかの見返りを得ようとするいわゆる瀬戸際政策であるとの指摘がなされてきたが、北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。

●北朝鮮は、06(同18)年以降3回核実験を実施しているほか、14(同26)年3月以降、更なる核実験の実施を繰り返し示唆し、国際社会の懸念を高めている。

●北朝鮮が核兵器計画を継続する姿勢を崩していないことを踏まえれば、時間の経過とともに、わが国が射程内に入る核弾頭搭載弾道ミサイルが配備されるリスクが増大していくものと考えられ、関連動向に注目していく必要がある。

●北朝鮮は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)およびSLBM搭載潜水艦の開発を行っていると指摘されてきたが、15(同27)年5月には、SLBMの試験発射に成功したと発表しており、打撃能力の多様化と残存性の向上を企図していると考えられる。また、東倉里(トンチャンリ)地区に所在するロケット発射タワーの大型化改修などを行っていると指摘されており、将来的にはこれまでよりも大型の長距離弾道ミサイルが発射される可能性もある。

●仮に北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化や核兵器の小型化・弾頭化を実現し、米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。

●また、14(同26)年以降に見られた弾道ミサイル発射事案では、北朝鮮が任意の地点・タイミングで複数の弾道ミサイルを発射するなど、奇襲攻撃能力を含む弾道ミサイル部隊の運用能力の向上が示され、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威がさらに高まっている。

●北朝鮮の大量破壊兵器・ミサイル開発は、わが国に対するミサイル攻撃などの挑発的言動とあいまって、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。

内政

●金正恩国防委員会第1委員長は頻繁に人事異動を行い、金正恩国防委員会第1委員長が引き上げた人物を党・軍や内閣の要職に配置するなど、自身を唯一の指導者とする体制の強化・引き締めを図っているものとみられる。

●14(同26)年には金正恩国防委員会第1委員長の叔母にあたる金慶喜(キム・ギョンヒ)朝鮮労働党書記の動静報道が途絶えた一方で、実妹とされる金与正(キム・ヨジョン)氏が朝鮮労働党幹部として動静が報じられるようになるなど、金一族の中での世代交代も進んでいる可能性がある。

●金正恩体制は一定の軌道に乗っていると考えられる。しかし、解任などを含む頻繁な人事異動に伴う萎縮効果により、北朝鮮が十分な外交的勘案がなされないまま軍事的挑発行動に走る可能性も生じつつあるほか、貧富の差の拡大や外国からの情報の流入などにともなう社会統制の弛緩などに関する指摘もなされており、体制の安定性という点から注目される。

対外関係

●中国は北朝鮮にとってきわめて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。一方、核・弾道ミサイル問題をめぐり北朝鮮が必ずしも中国の立場と一致した行動を取っていないことや高官の往来などが減少していることから、中国と北朝鮮の関係が政治・外交面においては冷却化している可能性も考えられ、両国の関係については、今後とも注目される。

●一方、14(同26)年には、北朝鮮は対ロシア外交を活発化させ、多くの高官の往来や経済協力における進展がみられた。

中国

全般

●中国は、国際社会における自らの責任を認識し、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが強く期待されている。

●中国は、「平和的発展」を唱える一方で、特に海洋における利害が対立する問題をめぐって、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させ、自らの一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢を示しており、その中には不測の事態を招きかねない危険な行為もみられるなど、今後の方向性について懸念を抱かせる面もある。

●中国は、アジア信頼醸成措置会議(CICA:Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia)において軍事同盟を批判し、「アジア人によるアジアの安全保障」を提唱するなど、安全保障の分野で独自のイニシアティブを発揮しようとしている。また、国際金融の分野でも、新開発銀行(BRICS(Brazil, Russia, India, China and South Africa)開発銀行)を設立したほか、アジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)の設立準備などを進めている。

●また、中国では、「虎もハエも叩く」という方針の下、党・軍の最高指導部経験者も含め「腐敗」が厳しく摘発されている。14(平成26)年10月に開催された中国共産党第18期四中全会において、共産党の指導に基づく「法治」の推進に言及した決定が採択されたことを受け、党・軍内部の腐敗問題への対応は今後一層進む可能性がある。

●中国は周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力(いわゆる「アクセス(接近)阻止/エリア(領域)拒否」(「A2/AD(Anti-Access / Area-Denial)」)能力)の強化に取り組んでいるとみられる。

軍事

●中国は軍事力を広範かつ急速に強化し、さらに、東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域などにおいて活動を急速に拡大・活発化させている。このような中国の軍事動向などは、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国として強く懸念しており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。また、地域・国際社会の安全保障上においても懸念されるところとなっている。

●中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。

●中国の公表国防費は、引き続き速いペースで増加しており、1989年度から現在まで毎年ほぼ一貫して二桁の伸び率を記録している。公表国防費の名目上の規模は、1988年度から27年間で約41倍、2005年度から10年間で約3.6倍となっている。

●中国は、ミサイル防衛網の突破が可能となる打撃力の獲得のため、弾道ミサイルに搭載して打上げる極超音速滑空兵器の開発を推進しているとみられる。また、中国初の国産空母の建造を進めている可能性があるとの指摘もある。さらに、次世代戦闘機との指摘もあるJ-20およびJ-31の開発も進めている。

●中国は、海空軍などを統合運用するための「東シナ海統合作戦指揮センター」を新設したとされているほか、中国共産党が最高戦略レベルにおける意思決定を行うための「中央軍事委員会統合作戦指揮センター」が設立されたとの指摘もある。また、近年中国は、統合運用体制構築を目指した訓練の実施も進めている。

中国の公表国防費の推移

わが国周辺海空域における活動状況

●近年、中国は、より遠方の海空域における作戦遂行能力の構築を目指していると考えられ、その海上戦力および航空戦力による海洋における活動を質・量ともに急速に拡大させている。このような中国の活動には、不測の事態を招きかねない危険な行為をともなうものもみられ、きわめて遺憾であり、中国は「法の支配」の原則に基づき行動することが求められる。

●中国政府は、尖閣諸島をあたかも「中国の領土」であるかのような形で含む「東シナ海防空識別区」を設定し、中国国防部の定める関連の規則に従わない場合は中国軍による「防御的緊急措置」をとる旨発表した。こうした措置は、国際法上の一般原則である公海上空における飛行の自由の原則を不当に侵害するものであり、わが国は中国側に対し、公海上空における飛行の自由を妨げるような一切の措置の撤回を求めている。

●中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出回数が近年増加傾向にあり、現在では当該進出が常態化していることなどから、外洋への展開能力の向上を図っているものと考えられる。

●中国公船の動向としては、13(同25)年10月以降は、尖閣諸島周辺海域における公船の運用状況からルーチン化の傾向が見られており、運用要領などの基準が定まった可能性も考えられる。また、公船は大型化が図られており、世界最大級となる1万トン級の巡視船の建造も進めている。

●中国が独自に領有権を主張している島嶼の周辺海空域において、各種の監視活動や実力行使などにより、他国の支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることが、中国の海洋における活動の目標の一つであると考えられる。

●近年、中国は、海洋における不測の事態を回避・防止するための取組にも関心を示しており、14(同26)年4月、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES:Code for Unplanned Encounters at Sea)」に日米などとともに合意した。また、日中防衛当局は、「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けた協議を15(同27)年1月に再開したほか、14(同26)年11月には、米中間で二つの信頼醸成措置についての合意を発表した。

南シナ海およびインド洋における活動の状況

●14(同26)年8月には、南シナ海において、中国軍の戦闘機が米海軍機への異常な接近・妨害を行ったとされる事案が発生している。

●中国は、南沙諸島にある7つの岩礁において、急速かつ大規模な埋め立て活動を強行しているほか、一部の岩礁では滑走路や港湾を含むインフラ整備を推進しているとみられ、米国をはじめ国際社会から懸念が示されている。

●14(同26)年9月から10月にかけてソン級潜水艦がインド洋で活動を行ったほか、同年、スリランカ・コロンボに2度寄港したとされているなど、中国海軍は、インド洋などの、より遠方の海域で作戦を遂行する能力を向上させている。

わが国周辺空域における最近の中国の活動(航跡はイメージ)

●中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘およびそのための施設建設や探査を行っているが、13(同25)年6月以降には、東シナ海の日中中間線の中国側において、既存のものに加え、新たな海洋プラットフォームの建設作業などを進めていることが確認されており、中国側が一方的な開発を進めていることに対して、わが国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止などを求めている。

ロシア

●昨今ロシアは、自らの勢力圏とみなすウクライナをめぐり欧米諸国などとの間で対決姿勢を明確にしている。一方、ロシアは厳しい経済状況に直面する中においても、引き続き国防費を増大させて、軍の近代化を継続しているほか、最近では、アジア太平洋地域のみならず、北極圏、欧州、米本土周辺などにおいても軍の活動を活発化させ、その活動領域を拡大する傾向が見られる。

●極東を含む東部軍管区においては、14(平成26)年9月、兵員15.5万人以上が参加する大規模演習「ヴォストーク2014」が行われ、部隊の戦闘即応態勢の検証が行われたほか、北方領土を含む「クリル」諸島においても演習が行われている。

●ロシアは、ウクライナ領内において、外形上「武力攻撃」と明確には認定しがたい方法で侵害行為を行う「ハイブリッド戦」を展開し、力を背景とする現状変更を試みており、アジアを含めた国際社会全体に影響を及ぼし得るグローバルな問題と認識されている。

東南アジア

●南シナ海においては、領有権などをめぐって中国との間で主張が対立しており、近年、中国との摩擦が表面化している。14(平成26)年5月以降、中国が南沙諸島の岩礁で埋め立てや滑走路建設などを行っているとして、フィリピン及びベトナムが抗議をした。

●東南アジア各国は、近年、経済成長などを背景として国防費を増額させ、第4世代の近代的戦闘機や潜水艦など、海・空軍力の主要装備品の導入を中心とした軍の近代化を進めている。

埋め立て工事の状況の画像

中国による南沙諸島での埋め立て工事の状況。上段は左から順にジョンソン南礁の埋め立て前後および埋め立て部分の拡大の様子(12(平成24)年1月および15(同27)年3月撮影)、下段はスビ礁の様子(15(同27)年1月および同年3月)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe】

地域紛争・国際テロリズムなどの動向

●近年世界各地で発生している紛争は、民族、宗教、領土、資源などの様々な問題に起因して発生している。また、内戦や地域紛争を受けて発生・拡大した国家統治の空白地域が、テロ組織の活動の温床となる例も多く見られるほか、テロ組織の中には国境や地域を越えて活動するものもあり、引き続き国際社会にとって差し迫った安全保障上の課題となっている。さらに、統治能力のぜい弱な国家の存在は、感染症の爆発的な流行・拡散などのリスクへの対処を難しくしている。

●国境を越えて活動する各種のテロ組織は、一般的な傾向として、グローバル化の進展により組織内外における情報共有・連携を進めるとともに、武器や資金、戦闘員の獲得に当たり、ソーシャル・メディアなどのサイバー空間を活用し、巧みな広報戦略によって組織のプロパガンダを行っている。シリア・イラクにおける混迷に乗じて勢力を拡大してきたISILは、並外れて潤沢な資金源や国家に対峙しうる強力な軍事力を有し、一定の領域を事実上支配するなどの点で、特に際立った存在となっている。このような中、ISILに忠誠を誓う組織が世界各地にあらわれている。

●欧米などの先進国においても、社会からの疎外感、差別、貧困、格差などの不満を背景として、ISILをはじめとする国際テロ組織の過激思想に共感を抱く若者が増えており、それらが戦闘員などとして国際テロ組織の活動に参加しているほか、自国においていわゆる「ホーム・グロウン型」、「ローン・ウルフ型」のテロ活動を行う事例が増えるなど、先進国においてもテロ発生のリスクが増大しており、わが国も無縁とは決して言えない状況が起きている。

●このような国際テロの脅威は拡散傾向に拍車がかかっており、その実行主体も多様化し、地域紛争の複雑化とあいまってその防止がますます困難になっていることから、国際テロ対策に関する国際的な協力の重要性がさらに高まっており、現在、軍事的な手段のほか、テロ組織の資金源の遮断やテロ戦闘員の国際的移動の防止など国際社会全体として各種の取組が行われている。

●このほか、西アフリカで発生しているエボラ出血熱の急速かつ広範な流行は、統治体制がぜい弱であり危機管理能力に乏しい流行国の安定を脅かすとともに、感染が欧米の各国にも拡大するなど、感染症の拡大リスクを浮き彫りにした。

海洋をめぐる動向

●東シナ海・南シナ海においては、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、自国の権利を一方的に主張し、または行動する事例が多く見られるようになっており、「公海における航行の自由」および「公海上空における飛行の自由」の原則が不当に侵害されるような状況が生じている。

●北極海沿岸諸国は資源開発や航路利用などの権益確保に向けた動きを活発化させており、北極圏の戦略的重要性が高まっている。

●「開かれ安定した海洋」は、世界の平和と繁栄の基盤であり、各国は、自らまたは協力して、海賊、不審船、不法投棄、密輸・密入国、海上災害への対処や危険物の除去といった様々な課題に取り組み、シーレーンの安定を図っている。

宇宙空間と安全保障

●主要国は、C4ISR機能(注)の強化などを目的として、軍事施設・目標偵察用の画像偵察衛星、軍事通信・電波収集用の電波情報収集衛星、軍事通信用の通信衛星、艦艇・航空機の航法や武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打上げに努めている。

●一方、中国による衛星破壊実験に見られるように、衛星攻撃兵器の開発やスペースデブリの飛散などは、各国の人工衛星などの宇宙資産に対する脅威として注目されており、宇宙空間の安定的利用に対するリスクが、各国にとって安全保障上の重要な課題の一つとなっている。

(注) C4ISR:Command(指揮),Control(統制),Communication(通信),Computer(コンピューター),Intelligence(情報),Surveillance(監視), and Reconnaissance(偵察)の略

サイバー空間をめぐる動向

●軍隊にとって情報通信は、指揮中枢から末端部隊に至る指揮統制のための基盤であり、情報通信技術(ICT:Information and Communications Technology)の発展によって情報通信ネットワークへの軍隊の依存度が一層増大している。

●そのため、サイバー攻撃は敵の軍隊の弱点につけこんで、敵の強みを低減できる非対称的な戦略として位置づけられつつあり、多くの外国軍隊がサイバー空間における攻撃能力を開発しているとされている。

●諸外国の政府機関や軍隊などの情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃が多発しており、中国、ロシア、北朝鮮などの政府機関などの関与が指摘されているほか、サイバー攻撃も日に日に高度化・複雑化しており、今やサイバーセキュリティは、各国にとっての安全保障上の重要な課題の一つとなっている。

●サイバー空間における行動規範の策定を目指す動きがあるが、米国や欧州、わが国などは、自由なサイバー空間の維持を訴え、ロシアや中国、新興国などの多くは、サイバー空間の国家管理の強化を訴えているなど、各国の主張には対立が存在しているとの指摘もある。