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ダイジェスト 第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

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実効的な抑止および対処

周辺海空域における安全確保

●各種事態に際し、迅速かつシームレスに対応するため、自衛隊は、平素から常時継続的にわが国周辺海空域の警戒監視を行う。

●平成26年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は943回であり、前年度と比べて133回の大幅な増加となり、昭和33年に航空自衛隊が対領空侵犯措置を開始して以来、過去2番目に多い回数となった。

●14(平成26)年には、南西諸島の通過をともなう中国海軍艦艇の活動が合計7回、沖縄南方海域での活動が1回確認されている。

●12(同24)年12月には、中国国家海洋局所属固定翼機(Y-12)が尖閣諸島魚釣島付近において領空を侵犯した。また、13(同25)年8月には、ロシア空軍のTU-95爆撃機が福岡県沖ノ島付近において領空を侵犯し、同年9月9日には、国籍不明の無人機(推定)が東シナ海を飛行する事案が生起した。これらの事案に対し、空自は戦闘機を緊急発進させて対応した。

●13(同25)年11月の中国による「東シナ海防空識別区」設定後も、防衛省・自衛隊は従前どおりの警戒監視などを実施するとともに、引き続き厳正な対領空侵犯措置を行うこととしている。

冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳

島嶼(とうしょ)防衛

●島嶼部に対する攻撃に対応するため、部隊などを配置するとともに、平素からの情報収集および警戒監視などにより、兆候を早期に察知し、陸・海・空が一体となった統合運用により、部隊を機動的に展開・集中し、敵の侵攻を阻止・排除する。事前に兆候が得られず万一島嶼を占領された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど島嶼奪回のための作戦を行う。

●与那国島への沿岸監視部隊の新編や水陸両用作戦機能を備えた水陸機動団(仮称)の新編、那覇基地に第9航空団を新編するなど、平素からの防衛基盤を強化する。

●常時継続的な情報収集・警戒監視態勢や迅速な対処が可能な体制を整備するため、固定翼哨戒機(P-1)の取得、イージス・システム搭載護衛艦(DDG)の調達などを実施する。

●迅速かつ大規模な輸送・展開能力を確保するため、おおすみ型輸送艦の改修、多機能艦艇の在り方の検討のための海外調査を行うとともに、機動展開能力向上のためのオスプレイ(V-22)の導入などを行う。

●15(同27)年1月から3月にかけて、米国における海兵隊との実動訓練(アイアン・フィスト)をカリフォルニアで実施し、水陸両用作戦機能の強化に努めている。

島嶼防衛のイメージ図

アイアン・フィスト15において上陸を行う陸自隊員の画像

アイアン・フィスト15において上陸を行う陸自隊員

LCACの画像

「しもきた」に進入するLCAC

弾道ミサイル攻撃などへの対応

●わが国の弾道ミサイル防衛は、イージス艦やペトリオットPAC-3を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。

●14(同26)年12月には、米軍経ヶ岬通信所に2基目のTPY-2レーダーが配備された。

●北朝鮮は、14(同26)年および15(同27)年も、ミサイル発射の示唆を含む挑発的な行動を繰り返し行ったが、防衛省・自衛隊は、必要な対応に万全の態勢を継続している。

PAC-3の画像

PAC-3発射試験

海洋安全保障の確保に向けた取組

●海上交通の安全を確保するため、海賊対処行動を実施するほか、同盟国などとより緊密に協力し、沿岸国自身の能力向上を支援するとともに、様々な機会を利用した共同訓練・演習の充実などの各種取組を推進している。

宇宙空間における対応

●宇宙分野における日米防衛当局間の協力を一層促進する観点から、15(同27)年4月の日米防衛相会談における指示に基づき、「宇宙協力ワーキンググループ」(SCWG:Space Cooperation Working Group)を設立した。本ワーキンググループを活用して、①宇宙に関する政策的な協議の推進、②情報共有の緊密化、③専門家の育成・確保のための協力、④机上演習の実施など、幅広い分野での検討を一層推進していく。

サイバー空間における対応

●14(同26)年3月には、「自衛隊指揮通信システム隊」の下に「サイバー防衛隊」を新編した。

●防衛当局間の枠組みとして「日米サイバー防衛政策ワーキンググループ」(CDPWG:Cyber Defense Policy Working Group)を設置し、日米の情報共有のあり方や人材育成における交流など協力分野に関する専門的な意見交換を実施している。15(同27)年5月には、今後の具体的な協力の方向性を示した共同声明を発表した。

●防衛産業10社程度をコアメンバーとする「サイバーディフェンス連携協議会」(CDC:Cyber Defense Council)を設置し、共同訓練などを通じて、サイバー攻撃対処能力向上に取り組んでいる。

大規模災害などへの対応

●自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

●14(同26)年8月、広島県広島市において、大雨の影響によって土砂災害が発生し、人員のべ約14,970名をもって人命救助や行方不明者捜索を実施した。また、同年9月、御嶽山で噴火が発生し、自治体・警察・消防などと連携しながら、人命救助や行方不明者捜索を実施するため、人員のべ約7,150名による災害派遣活動を行った。

御嶽山噴火にかかる災害派遣に従事する陸自隊員の画像

御嶽山噴火にかかる災害派遣に従事する陸自隊員

在外邦人等の輸送への対応

●自衛隊は、派遣先国において輸送の対象となる在外邦人等を防護し、航空機・船舶・車両まで安全に誘導・輸送する。陸自ではヘリコプター隊と誘導輸送隊の要員を、海自は輸送艦などの艦艇(搭載航空機を含む)を、空自では輸送機部隊と派遣要員をそれぞれ指定するなど待機態勢を維持している。

●15(同27)年2月、多国間共同訓練(コブラ・ゴールド)における在外邦人等の輸送訓練で、海外における初めての陸上輸送訓練を実施した。

平成27年度の防衛力整備

●平成27年度は、防衛大綱および中期防に基づき、その2年目として、統合機動防衛力の構築に向け、防衛力整備を着実に実施

●各種事態における実効的な抑止および対処、アジア太平洋地域の安定化およびグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、防衛力を整備する。

防衛関係費

●平成27年度においては、一層厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、国民の生命・財産とわが国の領土・領海・領空を守る態勢を強化するため、防衛関係費を平成26年度に引き続き増額

過去15年間の防衛関係費の推移

防衛力を支える人的基盤

●防衛省・自衛隊が、その防衛力を最大限効果的に機能させるためには、これを下支えする人的基盤を充実・強化させることがきわめて重要である。また、防衛省・自衛隊の様々な活動は、国民一人ひとり、そして、地方公共団体などの理解と協力があってはじめて可能となるものであり、地域社会・国民と自衛隊相互の信頼をより一層深めていく必要がある。

●15(平成27)年1月には、女性職員の採用・登用のさらなる拡大を図るとともに、職員の仕事と生活の調和(ワークライフバランス)を一体的に推進するため、「働き方改革」「育児・介護等と両立して活躍できるための改革」および「女性職員の活躍推進のための改革」の3つの改革を盛り込んだ「防衛省における女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」を策定した。

防衛装備品に関する諸施策

防衛生産・技術基盤の現状と防衛生産技術基盤戦略

●防衛省は、昨今の厳しい財政事情、欧米企業の再編や国際共同開発の進展などを踏まえ、14(平成26)年6月、「防衛生産・技術基盤戦略」を策定し、防衛生産・技術基盤の維持・強化のための諸施策ならびに各防衛装備品分野の現状と今後の方向性などを示した。

契約制度などの改善

●防衛省は、「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法」の成立を受け、「長期契約」の導入による装備品や役務の調達コストの縮減と、安定的な調達を実現する。

●主要な防衛装備品の取得について、プロジェクト・マネージャーのもと、組織横断的な統合プロジェクトチームを設置し、構想から廃棄までのプロジェクト管理を一元的に実施する体制の整備を進めている。

研究開発

●防衛装備品への適用面から、大学・独立行政法人の研究機関や企業などにおける独創的な研究を発掘し、将来有望である芽出し研究を育成するため、防衛省独自のファンディング制度(安全保障技術研究推進制度(競争的資金))を新設

防衛装備・技術協力

●わが国は、防衛生産・技術基盤の維持・強化および平和貢献・国際協力の推進に資するよう、防衛装備移転三原則に基づき、諸外国との防衛装備・技術協力を推進している。

●米国との間では、92(同4)年以降、19件の共同研究および1件の共同開発を実施しているほか、F-35A生産への国内企業の製造参画および整備拠点の設置に向けた取組などを行っている。

●英国との間では、13(同25)年7月、米国以外の国とは初めてとなる共同研究を開始

●フランスとの間では、15(同27)年3月、日仏防衛装備品・技術移転協定に署名した。

●オーストラリアとの間では、15(同27)年5月、オーストラリアの将来潜水艦プログラムに関し、わが国としていかなる協力が可能か検討するため、民間企業の参画を得て、協議を開始することとした。

●インドとの間では、US-2救難飛行艇にかかる二国間協力に向けた合同作業部会を、計3回、開催

●ASEAN諸国との間では、非伝統的安全保障分野における防衛装備・技術協力について意見交換を実施

US-2救難飛行艇の画像

インドとの間で協力のあり方について協議を行っているUS-2救難飛行艇

各国等との防衛協力・交流

今日の国際社会においては、一国のみで対応することがきわめて困難な課題が増加している。このため、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、二国間・多国間の安全保障協力を強化するとともに、国際平和協力活動などに積極的に取り組むことが重要である。

多国間安全保障枠組み・対話における取組

●13(平成25)年12月の日ASEAN特別首脳会議における安倍内閣総理大臣の提案に基づき、14(同26)年11月、ミャンマーにおいて、日ASEAN防衛担当大臣ラウンドテーブルを初開催した。また、15(同27)年5月に開催されたシャングリラ会合では、中谷防衛大臣が、第2全体セッションにおいて、スピーチを行った。

●防衛省は、地域の安定を積極的・能動的に創出し、グローバルな安全保障環境を改善するため、能力構築支援に積極的に取り組んでいる。

日ASEANラウンドテーブルの画像

日ASEANラウンドテーブル(初開催)

各国との防衛協力・交流

●オーストラリア:14(同26)年7月の日豪首脳会談において、両国の関係を「21世紀のための特別な戦略的パートナーシップ」と位置づけ、日豪防衛装備品・技術移転協定に署名

●韓国:14(同26)年12月、「日米韓情報共有に関する防衛当局間取決め」に署名し、北朝鮮の核およびミサイルの脅威に関する秘密情報の共有が可能となった。

●インド:14(同26)年9月、日印防衛協力及び交流の覚書に署名し、ハイレベル交流、二国間海上訓練、幕僚協議などの軍種間交流、非伝統的安全保障分野における協力について合意

●中国:防衛当局間の「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けた協議を再開

●ロシア:ウクライナ情勢を踏まえ、G7との連携を重視しつつ、交流について適切に対応

●東南アジア諸国:15(同27年)1月にはフィリピンと、同年3月にはインドネシアと防衛協力・交流に関する覚書に署名するとともに、能力構築支援などを通じ、東南アジア諸国とのさらなる関係の強化・深化を図っている。

日インドネシア首脳会談の画像

日インドネシア首脳会談【内閣広報室】

●英国:15(同27)年1月、初の外務・防衛閣僚会合を実施。グローバルな安全保障上の課題への協力の強化などについて意見交換

日英外務・防衛閣僚会合の画像

日英外務・防衛閣僚会合(「2+2」)

●フランス:14(同26)年7月、防衛協力・交流に関する意図表明文書に署名。15(同27)年3月、2回目の外務・防衛閣僚会合を実施

国際社会の課題への取組

海洋安全保障の確保

●海洋国家であるわが国にとって、法の支配、航行の自由などの基本的ルールに基づく秩序を強化し、海上交通の安全を確保することは、平和と繁栄の基礎である。このため、関係国と協力して海賊に対応するとともに、この分野における沿岸国自身の能力向上の支援、米国主催の国際掃海訓練への参加といったわが国周辺以外の海域における様々な機会を利用した共同訓練・演習の充実など、各種取組を推進する。

●海賊対処について、13(平成25)年から、より柔軟かつ効果的な部隊運用を行うため、水上部隊はこれまでの直接護衛に加え、CTF(Combined Task Force)151に参加してゾーンディフェンスを行っている。また、14(同26)年2月からは航空隊もCTF151に参加、15(同27)年5月には、自衛隊初の多国籍部隊司令官となるCTF151司令官を派遣した。

自衛隊による海賊対処行動

国際平和協力活動への取組

●国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)

派遣施設隊(約350名)および司令部要員(4名)が南スーダン共和国において各種活動を実施中

側溝の整備を行う陸自隊員の画像

南スーダンで側溝の整備を行う陸自隊員

●西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に対する国際緊急援助活動

国連エボラ緊急対応ミッションからの要請を受け、KC-767空中給油・輸送機により、個人防護具約2万着を空輸

防護具を空輸した空自隊員の画像

防護具を空輸した空自隊員

●エア・アジア航空機消息不明事案に対する国際緊急援助活動

海賊対処活動を終え帰国途中であった派遣海賊対処行動水上帰投部隊を派遣し、約1週間の捜索救助活動を実施

エア・アジア機の捜索を行う海自隊員の画像

エア・アジア機の捜索を行う海自隊員

●ネパールでの地震に対する国際緊急援助活動

ネパール政府の要請を受け、医療援助隊を速やかに派遣し、約3週間にわたり、医療活動を実施

ネパールで医療活動を行う陸自隊員の画像

ネパールで医療活動を行う陸自隊員

地域コミュニティーとの連携

●防衛省・自衛隊は、民生支援として様々な協力活動を行い、地域社会・国民と自衛隊相互の信頼をより一層深めるとともに、地域コミュニティーの維持・活性化に大きく貢献している。

●防衛省・自衛隊は、自衛隊の現状を広く国民に紹介する活動を行っている。たとえば、自衛隊記念日行事の一環として、自衛隊音楽まつりを日本武道館で毎年開催しているほか、平成26年度は、百里基地において防衛省・自衛隊60周年記念航空観閲式を行った。

平成26年度自衛隊音楽まつりの画像

日本武道館において行われた平成26年度自衛隊音楽まつりの様子

防衛省・自衛隊60周年記念航空観閲式の画像

防衛省・自衛隊60周年記念航空観閲式の様子