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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第4節 ロシア

1 全般

12(平成24)年5月に再就任したプーチン大統領の下、ロシアは、これまでに復活・強化の段階を終了したとし、豊かなロシアの建設を現在の課題としつつ、新たな経済力・文明力・軍事力の配置を背景に、影響力ある大国になることを重視している1

「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的悲劇だった」2とするプーチン大統領は、旧ソ連地域を包含したユーラシア同盟構想3の実現を目指すとともに、ウクライナ危機の責任は欧米にあり、自らの勢力圏と見なす旧ソ連諸国に対し、欧米が直接あるいは間接的に影響力を行使しているとして、対決姿勢を明確にしている4

なお、14(同26)年2月以降に緊迫化したウクライナ情勢をめぐって、プーチン大統領は、クリミアに所在するロシア軍施設の警備などを名目に軍を投入する指示を出す一方、同年3月のクリミア「編入」は「住民投票」を通じたクリミア自治共和国による決定であり「完全に合法的」と述べるなど、ロシアの立場の正当性を主張している5。このようなロシアによる一方的な行動は、同大統領の支持率を大幅に引き上げる結果となっている。また、同年4月以降、ウクライナ軍と分離派武装勢力との間で衝突が続くウクライナ東部の情勢をめぐっては、欧米諸国などから明確なロシア軍による直接的介入があったとの指摘がなされる一方、ロシアは一貫してウクライナ東部におけるロシア軍の存在を否定している。

一方、ロシアは、主要輸出産品である原油価格の下落や通貨ルーブルの下落、ウクライナ情勢をめぐる欧米などによる経済制裁などの影響により、厳しい経済状況に直面している。また、ウクライナは、ソ連崩壊後もロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)の整備などに協力してきたとされており、両国関係の悪化を受けたウクライナからの技術支援の停止により、ウクライナへの依存度が高いロシアの装備に関しては、その運用に支障が出る可能性が指摘されている。

こうした中、プーチン大統領が権力基盤を維持しつつ、外交的孤立状態や経済的苦況に対処し、いかに経済構造改革や軍事力の近代化に向けた取組など6を推進していくか注目されている。

1 プーチン大統領による年次教書演説(12(平成24)年12月)

2 プーチン大統領による年次教書演説(05(平成17)年4月)

3 プーチン首相(当時)は、11(平成23)年10月4日付イズベスチヤ紙において、関税同盟および統一経済圏を土台に域内の経済的連携を強化する「ユーラシア同盟」の創設を提唱している。

4 プーチン大統領による年次教書演説(14(平成26)年12月)

5 プーチン大統領による年次教書演説(14(平成26)年12月)。また、プーチン大統領は15(同27)年3月にロシア・メディアのインタビューに答え、クリミアに所在するロシアの軍事施設の警備強化を名目に、同地の特殊部隊、海軍歩兵および空挺部隊を投入するよう国防省に指示した旨述べている。

6 プーチン首相(当時)は、12(平成24)年1月以降に発表した選挙綱領的論文の中で自らの政策として、国民の政治参加の拡大や汚職防止、エネルギー資源に依存した経済を脱却して国内産業の強化を図り、経済の近代化を進めていくこと、中産階級が社会の主導役となるべきことなどをあげている。