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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 対外関係

1 全般

ロシアは、多極化のすう勢の中で、影響力のある一つの極としてロシアの国際的地位が強化されているとの認識のもと、国益を実現していくことを対外政策の基本方針としている43。また、外交は自国民の利益にかなう国家安全保障に基づき行うとしており、自国経済の近代化へ向けた課題の解決に資する実利的な外交を目指している44

このため、ロシアは、独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)諸国との間で経済的な連携の強化を図っている45。また、自国の近代化の観点からアジア太平洋諸国とも関係を強化すべきとしている46

一方、欧米諸国との間での近代化に向けた協力関係の強化のための取組については、一連のウクライナ情勢の緊迫化を受け、試練に直面している。

今後ロシアが、自国の近代化実現という経済面を中心とした実利を重視した対外姿勢と、安全保障面を含む政治・外交的側面をどのようにバランスし、各国との関係をどう進展させていくか、注目される。

2 アジア諸国との関係

ロシアは、多方面にわたる対外政策の中で、アジア太平洋地域の意義が増大していると認識し、シベリアおよび極東の経済開発47や対テロ、安全保障の観点からもアジア諸国との関係が重要としている48。プーチン大統領は12(平成24)年5月の外交に関する大統領令で、東シベリアおよび極東の社会経済的発展を加速するため、アジア太平洋地域の統合プロセスに参加していく方針を掲げ、中国49、インド、ベトナムのほか、わが国や韓国などとの関係発展に努めていくとしている50

このような方針の下、ロシアは、各種のアジア太平洋地域の枠組みに参加している51。なお、12(同24)年9月には、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)首脳会議がウラジオストクで開催されている。

これらのうち、インドとの関係では、戦略的パートナーシップのもと、首脳が相互訪問するなど緊密な関係を維持している。13(同25)年10月には、プーチン大統領が訪露したシン首相(当時)と会談し、武器輸出を含む軍事分野での協力の拡大などについて合意した。14(同26)年12月には、訪印したプーチン大統領がモディ首相と会談し、ロシア製原子力発電所を新たに建設することなどで合意した。15(同27)年1月には、訪印したショイグ国防相がバリカル国防相と会談し、両国の軍事・軍事技術協力について協議した。両国は、第5世代戦闘機「PAK FA」や超音速巡航ミサイル「ブラモス」の共同開発を行うなど、軍事技術協力も強化しているほか、03(同15)年以降、両国の陸軍および海軍による対テロ演習「インドラ」を行っている。また、わが国との関係では、互恵的協力を発展させるとしており、近年、政治、経済、安全保障など、多方面において働きかけを強めている。

3 ウクライナをめぐる情勢

ウクライナでは、14(同26)年2月の政変により、ヤヌコーヴィチ政権が崩壊し、野党主導の暫定政権が発足した。これと同時に、ウクライナ南部のクリミア自治共和国では、ロシア軍とみられる武装勢力が、同共和国の地方政府庁舎と議会の建物を占拠するとともに、空港やウクライナ本土に通じる幹線道路、主要なウクライナ軍の施設などを制圧した。クリミア自治共和国を事実上の支配下に置いたロシアは同年3月、ロシアへの「編入」の賛否を問う、同共和国における「住民投票」の結果を受けてクリミアを「編入」した52。一方、同年4月には、ウクライナ東部や南部において、ロシア系住民とみられる分離派武装勢力などによるウクライナ暫定政権への抗議活動や攻撃が活発化し、地方政府庁舎などの建物が占拠された。これに対し、ウクライナ暫定政権は、このような事態にロシアが関与しているとして非難するとともに、軍などを投入して占拠している勢力の排除を試みたが事態の解決には至らず、同年5月には、ウクライナ東部のドネツクおよびルハンスク州の一部において、分離派武装勢力の管理下で自治権拡大の賛否を問う「住民投票」が行われた53。ウクライナにおける大統領選挙を経て、同年6月に大統領に就任したポロシェンコ大統領は、分離派武装勢力との一時的停戦を発表し、平和計画を公表したが54、分離派武装勢力との交渉が整わず、ウクライナ軍は同年7月、分離派武装勢力に対する掃討作戦を再開した。これを受け分離派武装勢力は、ウクライナ軍の攻勢により支配地域の分断・縮小など、危機的状況に陥ったが、同年8月以降、ロシアによる直接的な介入と見られる各種支援などを受け55、失地を回復し、引き続きウクライナ軍と対峙できる勢力基盤を獲得した。

同年9月には、プーチン大統領の働きかけもあり56、ウクライナ政府は分離派武装勢力との間で停戦に合意し、和平実現に向けた12項目の文書に調印した57。しかし、その後も停戦ラインなどが定まらず、小規模な衝突が継続し、15年(同27)年に入り、再びウクライナ軍と分離派武装勢力の間で戦闘が激化したことを受けて、同年2月にドイツ、フランス、ロシアおよびウクライナの首脳が会談し、停戦を含む13項目について合意した58

こうした一連のウクライナ危機を通じて、欧米諸国などは、ロシアによる直接的な軍事介入の存在を明確に指摘59しつつ、今般のロシアによる直接的または間接的介入を、破壊工作、情報操作など多様な非軍事手段や秘密裏に用いられる軍事的手段を組み合わせ、外形上「武力攻撃」と明確には認定しがたい方法で侵害行為を行う、いわゆる「ハイブリッド戦」であったとし、強く非難60するとともに、厳しい制裁措置をロシアに対し発動した61。しかしながら、国際社会による強い非難や制裁措置によっても、ロシアによる力を背景とした現状変更の試みを阻止することはできず、いわゆる「ハイブリッド戦」への対応が国際社会の課題となっている。

4 その他の独立国家共同体との関係

ロシアは、CISとの二国間・多国間協力の発展を外交政策の最優先事項としている。また、自国の死活的利益がCISの領内に集中しているとし62、ウクライナ(クリミア)、モルドバ(沿ドニエストル63)、アルメニア、タジキスタンおよびキルギスのほか、09(同21)年8月にCISを脱退したジョージア(南オセチア、アブハジア)64にロシア軍を駐留させ、14(同26)年11月には、アブハジアと同盟および戦略的パートナーシップに関する条約を締結するなど65、軍事的影響力の確保に努めている66

中央アジア・コーカサス地域においては、イスラム武装勢力の活動の活発化にともない、テロ対策を中心とした軍事協力を進め、01(同13)年5月、CISの集団安全保障条約機構(CSTO:Collective Security Treaty Organization)67の枠組みにおいて合同緊急展開部隊を創設した。また、09(同21)年6月には、CISの合同緊急展開部隊の機能を強化した常設の合同作戦対応部隊を創設している68

このほか、ロシアおよび中央アジア各国は、アフガニスタンの治安悪化が中央アジア地域の不安定化を招くことを懸念して、アフガニスタン支援を行うとともに、アフガニスタン国境の警備強化について対策を検討している69

5 米国との関係

プーチン大統領は、米国との経済面での協力関係の強化を目指しつつ、一方で、ロシアが「米国によるロシアの戦略的利益侵害の試み」と認識するものに対しては、米国に対抗してきた。一方、オバマ政権は、昨今のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによるウクライナの主権および領土の一体性の侵害を強く非難し、ロシアに厳しい経済制裁を科すなど70、オバマ政権発足時と比較して米露関係は悪化している。

ロシアは、米国のMD欧州配備計画は自国の核抑止能力に否定的影響を与える可能性があるとして強く反発していたが、09(同21)年9月、米国はMDシステムの欧州配備計画の見直しを発表し71、これに対してロシアは一定の評価を与えた。

しかしながら、ロシアは、米国がMDにかかわる能力を量的または質的に発展させ、その戦略核戦力の潜在能力を脅かす場合には、11(同23)年2月に発効した新戦略兵器削減条約は効力を有しなくなると解しており72、最近の欧州における米国のMD計画の進展に対し、ロシアは同条約からの脱退を示唆するなどけん制を図っている73

米国との軍事交流について、ロシアは、12(同24)年7月にハワイ周辺海域で行われたリムパックに艦艇を初参加させるなど一定の協力関係の構築を指向しているものとみられていたが、ウクライナ情勢をめぐるロシアの動きを受けて、米国は14(同26)年3月、ロシアとの軍事交流の中断を発表し74、ミサイル駆逐艦を黒海に派遣するほか、ウクライナ政府に対し非殺傷兵器など提供を行った75。さらに、米国は、緊張が継続するウクライナ東部情勢を踏まえ、15(同27)年2月、ウクライナ政府への殺傷兵器の供与を示唆するなど、ロシアをけん制する動きを強化している。

6 欧州・NATOとの関係

NATOとの関係については、これまでNATO・ロシア理事会(NRC:NATO-Russia Council)の枠組みを通じ、ロシアは、一定の意思決定に参加するなど、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動してきたが、昨今のウクライナ情勢の緊迫化を受けて、NATOや欧州各国は、NRCの大使級会合を除き、軍事面を含むロシアとの実務協力を停止するとともに76、ウクライナ政府と連携しながら、ロシアに対し厳しい外交姿勢を継続している。

10(同22)年11月、リスボンで開催されたNRC首脳会合は、ロシアとNATOは真の現代化された戦略的パートナーシップの構築に向けて協力を進めていくとし、現在、両者の間で、ミサイル防衛(MD)、アフガニスタン、対テロ協力、海賊対策といった分野で対話や協力の模索が続けられてきた。しかし、MD協力については、11(同23)年6月のNRC国防相会合における協議の中で、NATOとロシアがそれぞれ保有する独立した二つのシステムのもと、情報・データの交換のみを内容とするMD協力を主張するNATOと、ロシアとNATOによる統一的なシステムのもと、各国の担当空域を設定して一体的運用を行う「セクターMD」を目指すロシアの立場の違いが浮き彫りとなるなど、両者の協力には進展がみられなかった。

また、ロシアとNATOとの間では、欧州通常戦力(CFE:Conventional Armed Forces in Europe)適合条約をめぐる問題も未解決である77

さらに、ウクライナ情勢の緊迫化により、冷戦後初めて、NATOの東部国境に脅威が存在する状況となり、東欧およびバルト諸国のNATO加盟国の一部が自国の安全に懸念を覚えていることもあり、NATOは、集団防衛の実効性の確保に向けた取組などを続けている78

一方、ロシアは、欧州、特にバルト諸国周辺において、挑発的ともとられる航空活動を活発に行っている79

7 武器輸出

ロシアは、軍事産業基盤の維持、経済的利益のほかに、外交政策への寄与といった観点から武器輸出を積極的に推進しているとみられ、輸出額も近年増加傾向にある80。また、07(同19)年1月、武器輸出権限を国営企業「ロスオボロンエクスポルト」に独占的に付与し、引き続き、輸出体制の整備に努めている。さらにロシアは、軍事産業を国家の軍事組織の一部と位置づけ、スホーイ、ミグ、ツポレフといった航空機企業の統合を図るなど、その充実・発展に取り組んでいる。

ロシアは、インド、ASEAN諸国、中国、アルジェリア、ベネズエラなどに戦闘機や艦艇などを輸出している81

43 「ロシア連邦対外政策構想」(08(平成20)年7月)

44 メドヴェージェフ大統領(当時)によるロシア大使・外交機関常駐代表会議における演説(10(平成22)年7月)および年次教書演説(09(同21)年11月、10(同22)年11月および11(同23)年12月)。なお、プーチン首相(当時)は12(同24)年2月に発表した外交政策に関する選挙綱領的論文で、外国との互恵的な協力関係を構築しつつ、自国の安全保障と国益を確保していく姿勢を示している。

45 11(平成23)年10月、CIS8か国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウクライナ、モルドバおよびアルメニア)がCIS自由貿易圏創設条約に調印した。

46 メドヴェージェフ大統領(当時)によるロシア大使・外交機関常駐代表会議における演説(10(平成22)年7月)および年次教書演説(同年11月)

47 ロシアは現在、シベリアやサハリンの資源開発などを進めている。

48 「ロシア連邦対外政策動向」(08(平成20)年7月発表)。なお、プーチン首相(当時)は12(同24)年2月に発表した外交政策に関する選挙綱領的論文で、アジア太平洋地域全体の重要性が高まっているとの認識を示している。

49 中国との関係については、I部1章3節3参照

50 13(平成25)年11月、プーチン大統領はベトナムと韓国を公式訪問している。

51 アジア太平洋経済協力(APEC)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)、11(平成23)年からは東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)などの地域的な枠組みへ参加してきている。

52 これに対し、欧米諸国やわが国は、ウクライナの主権および領土の一体性、ならびに、国連憲章などの国際法に違反するものとして非難し、クリミアの「編入」を承認しておらず、このようなロシアによる力を背景とした現状変更は、アジアを含めた国際社会全体に影響を及ぼすグローバルな問題であるとの認識を示している。

53 プーチン大統領は、ドネツクおよびルハンスク州の分離派武装勢力に対し、住民投票の延期を呼び掛けていた。同選挙では、9割前後の住民が賛成票を投じたとされているが、多くの不正行為が目撃されたと伝えられている。

54 プーチン大統領は、ウクライナ南東部の停戦に関するポロシェンコ大統領の決定を支持するとともに、ポロシェンコ大統領が和平に向けて一連の具体的措置をとる意向を表明したことへの支持を表明している。

55 ウクライナ危機においてロシアは、ウクライナ国内のロシア系住民とロシア特殊部隊などが、ほぼ一体化した分離派武装勢力を展開させ、メディアを利用した宣伝戦を繰り広げながら、コサックなどの法的地位の曖昧な民兵勢力などを逐次に投入し、最終的には正規軍を侵入させたものとみられている。14(平成26)年8月以降、ロシアの人道支援物資トラックのウクライナ領内への侵入のほか、ロシア軍とみられる空挺部隊やT-72戦車、自走砲などの部隊のウクライナ領内における活動が伝えられている。一方、ロシアは、ウクライナにロシア軍は存在しないとの立場を貫いている。

56 14(平成26)年8月29日、プーチン大統領は声明を発表、分離派武装勢力が大きな成果を上げたと述べるとともに、ウクライナ政府に対し、軍事行動を停止し「東部の代表者」との交渉につくよう要求した。

57 合意文書の項目は次の項目からなる。①双方による武器の即時使用停止、②武器の使用停止を欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Cooperation in Europe)が監視、③ドネツクおよびルハンスク州の特別な地位に関する法律を採択、④ウクライナとロシアの間に安全地帯を設置し、OSCEが監視、⑤全捕虜の即時解放、⑥ドネツクおよびルハンスク州事案に関連する起訴・科刑を禁止、⑦包括的な全国民的対話の継続、⑧ドンパス(ウクライナ東部)における人道状況改善施策の実施、⑨ドネツクおよびルハンスク州の前倒し選挙の実施、⑩ウクライナ領内の不法武装勢力・戦闘員・傭兵の撤退、⑪ドンパスの経済復興および社会生活再建の計画立案、⑫本協議参加者の個人の安全を保証。

58 合意文書の項目は次の項目からなる。①15(同27)年2月15日午前0時(現地時間)から停戦開始、②重火器を撤去し、幅50~140キロメートルの安全地帯設置、③OSCEによる停戦監視、④分離派武装勢力の支配地域に自治権を付与する対話の開始、⑤拘束者への恩赦、⑥全捕虜の解放、⑦人道支援の実施、⑧年金や生活補助など東部の社会経済体制の回復、⑨紛争地域の対露国境をウクライナ政府が管理、⑩外国武装部隊、兵器、傭兵のウクライナからの撤収、⑪15(同27)年末までに地方に自治権を拡大する新憲法を発効、⑫分離派武装勢力の支配地域での地方選に関し協議、⑬ウクライナとロシアおよびOSCEとの協力の強化。

59 14(平成26)年8月、NATOはウクライナ領内で軍事作戦に従事するロシア軍の戦闘部隊の様子を示すとされる衛星画像を公表した。

60 14(平成26)年8月にNATO作戦連合軍ホームページに掲載されたラスムセンNATO事務総長とブリードラブ作戦連合軍最高司令官の連名寄稿記事には、ロシアはウクライナから部隊を撤退させ、ハイブリッド戦を中止するとともに、危機の政治的解決を見出すべく、国際社会およびウクライナ政府と連携すべきである旨記している。

61 欧米諸国は、ロシア政府高官の資産凍結や自国への渡航禁止などの制裁を実施しており、ウクライナ危機の推移にともない、段階的に制裁対象の人物・組織などを追加している。

62 メドヴェージェフ大統領(当時)は、ジョージア紛争後の08(平成20)年8月、外交の5原則の一つとして、ロシアには特権的利害を有する地域があるとの認識を示した。

63 ドニエストル川の東岸地域の沿ドニエストルでは、90(平成2)年、ロシア系住民がモルドバからの分離・独立を宣言したが、国際社会はこれを承認していない。ロシアによるクリミア編入を受けて14(同26)年3月、沿ドニエストル議会は、沿ドニエストルの編入を認めるようロシアに要請した。また、プーチン大統領は同年3月、オバマ大統領との電話会談で沿ドニエストルが封鎖状態にあると非難している。なお、沿ドニエストルには約1,500人のロシア軍部隊が駐留している。

64 ジョージアは08(平成20)年8月のジョージア紛争を経て、09(同21)年8月、CISから脱退したが、ロシアはジョージア領内の南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認したほか、これらの地域に引き続き軍を駐留させている。なお、12(同24)年10月のジョージア議会選挙で対露関係の改善を公約とした野党連合「ジョージアの夢」が反露的な政策を採る与党「統一国民運動」に勝利し、13(同25)年10月の大統領選挙では「ジョージアの夢」が擁立したマルグヴェラシヴィリ氏が当選し、同年11月に大統領に就任した。なお、マルグヴェラシヴィリ大統領は、就任式での演説でロシアとの対話を深化させる用意があると述べ、ロシアとの関係改善を図る一方で親欧米路線も継続していくとの考えを示している。

65 14(平成26)年12月に改訂された「軍事ドクトリン」には、共通の防衛および安全保障を目的とするアブハジア共和国および南オセチア共和国との協力を促進すると記されている。

66 CIS諸国の中には、ベラルーシやカザフスタンなどロシアとの関係を重視する国がある一方、ロシアとの関係に距離を置こうとする動きもみられ、ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバなどの国々は、安全保障や経済面でロシアへの依存度低下を目指し、おおむね欧米志向の政策をとってきた。なお、12(平成24)年9月、キルギスとロシアは、17(同29)年に期限を迎えるキルギス国内のロシア軍基地の使用期間を、さらに15年間延長することに合意している。12(同24)年10月、タジキスタンとロシアは、タジキスタン国内の第201ロシア軍基地の使用期限を42(同54)年まで延長することに合意した。13(同25)年12月には、ベラルーシにロシア空軍のSu-27戦闘機が初めて配備された。

67 92(平成4)年5月にウズベキスタンのタシケントにおいてアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの6か国首脳が集団安全保障条約(CST:Collective Security Treaty)に署名した。93(同5)年にはアゼルバイジャン、ジョージア、ベラルーシの3か国が加わり、同条約は94(同6)年4月に発効した。しかし、99(同11)年にアゼルバイジャン、ジョージア、ウズベキスタンは同条約を更新することなく脱退した。02(同14)年5月にCSTは集団安全保障条約機構に改編された。なお、06(同18)年8月にウズベキスタンはCSTOに復帰したが、12(同24)年6月にCSTOへの参加停止を通告、事実上、同機構を脱退した。

68 CSTOは、10(平成22)年6月のキルギス南部における民族衝突に際してキルギスからの平和維持の要請に十分に対応できなかったことを教訓として、危機対応の体制の効率化について議論している。また、11(同23)年12月のCSTO首脳会議は、加盟国が自国に第三国の基地を設置する場合、すべての加盟国の了承を要するとして、外国軍隊の加盟国への駐留を牽制した。なお、CSTO共同演習「ヴザイモディストヴィエ(協同作戦)」が09(同21)年10月および10(同22)年10月にカザフスタン、12(同24)年9月にアルメニア、13(同25)年9月にベラルーシで実施されている。

69 13(平成25)年12月のロシア国防省評議会拡大会合において、プーチン大統領は、14(同26)年に国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)がアフガニスタンから撤収することは、同国のみならず中央アジアの不安定要素であり、ロシアの国益および安全保障にとって脅威となる可能性があると述べている。

70 米国は、資産凍結や入国禁止の対象となるロシアの個人および企業を段階的に拡大するとともに、融資の停止や資産凍結の対象を、金融、エネルギー企業、国有銀行、国有防衛技術企業などの主要産業部門にも拡大している。

71 米国のMD欧州配備計画については、I部1章1節2参照

72 ミサイル防衛に関するロシア連邦の声明(10(平成22)年4月8日)

73 ロシアは、米国のMD計画がロシアに向けられたものではないことの法的な保証を求めているほか、米国はロシアの懸念を考慮していないとして11(平成23)年11月、早期警戒レーダーを実戦配備するなどの対抗措置や新戦略兵器削減条約から脱退する可能性について言及した大統領声明を発表した。また、13(同25)年11月にラヴロフ外相は、イランの核問題をめぐるジュネーブでの合意が履行されれば、米国の欧州MDシステムは不要になると述べている。

74 14(平成26)年3月、米国防省のカービー報道官(当時)は、ロシアによるクリミア半島占拠を受け、ロシア軍との合同演習や当局者協議、軍艦の寄港など、一切の軍事交流を中断すると発表した。

75 米国はウクライナに、防弾チョッキ、ヘルメット、車両、暗視・熱源監視装置、重工兵資材、高性能ラジオ、巡視艇、食料、テント、対迫撃砲レーダー、制服、救急処置装置などを提供している。

76 ウクライナ情勢をめぐり、NATOは非難声明を発出し、東欧・バルト諸国に軍事力を追加的に展開しているが、加盟国内部ではロシアへの対応に温度差がある。英国は、ロシアとの軍事協力の停止に加えて、装備品輸出の停止やバルト諸国の領空警備強化のために戦闘機を派遣する意向を表明している。ドイツは、ロシアへの装備品輸出の停止を表明している。

77 99(平成11)年の欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)イスタンブール首脳会議において、従来のブロック別保有上限の国別・領域別保有制限への変更、CFE適合条約発効までの現行CFE条約の遵守などが合意された。ロシアは、自国がCFE適合条約に批准したにもかかわらず、NATO諸国がジョージアとモルドバからロシア軍が撤退しないことなどを理由としてCFE適合条約を批准しないことを不満とし、07(同19)年12月、CFE条約の履行停止を行い、同条約に基づく査察などが停止された。現時点では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの4か国のみが批准しており、CFE適合条約は未発効である。このほか、ロシアは、NATOを中心とする既存の安全保障の枠組みを脱却し、新たな欧州・大西洋地域における安全保障の基本原則を定める新たな欧州安全保障条約を提案している。

78 14(平成26)年9月のNATOウェールズ首脳会合では、集団防衛の強化策として、「即応性行動計画」が採択されている。同行動計画では、NATO即応部隊(NRF:NATO Response Force)内の初動対処部隊として高度即応任務部隊(VJTF:Very High Readiness Joint Task Force)の創設、迅速な増派のための東方加盟国内への指揮統制部門の設置、受入施設の整備、装備・物資の事前配置、さらに集団防衛に焦点を当てた演習計画の強化を含んでいる。なお、ブルガリア、バルト諸国、ポーランド、ルーマニアが施設提供の意思を表明している。

79 NATOは14(平成26)年10月、ロシア空軍が同月28日および29日の両日、バルト海や北海、大西洋、黒海で大規模な軍事活動を行ったと発表した。また、同航空活動は、欧州の空域におけるものとしては異例な規模であったとNATOは批判している。

80 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)によれば、10(平成22)年から14(同26)年の間のロシアの武器輸出は、05(同17)年から09(同21)年の間に比べて37%増加している。

81 インドネシアとの間ではSu-27およびSu-30戦闘機の売却契約が03(平成15)年と07(同19)年に、マレーシアおよびベトナムとの間ではSu-30戦闘機の売却契約が03(同15)年に行われ、これらの国に引き渡されている。ベトナムについては、09(同21)年にSu-30戦闘機およびキロ級潜水艦の売却契約が行われたと伝えられており、14(同26)年1月には同潜水艦の1番艦「ハノイ」がベトナムに到着している。インドについては、13(同25)年11月、ロシア北部のセヴェロドヴィンスクで改修を終えた空母「アドミラル・ゴルシコフ」がインド側に引き渡され、「ヴィクラマディチャ」と改称された。なお、同艦は14(同26)年1月にインドに到着している。また、06(同18)年にはアルジェリアとベネズエラとの間でSu-30戦闘機などの売却契約が結ばれ、一部は引き渡されている。中国については、Su-27戦闘機、Su-30戦闘機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦などが輸出されているが、中国の武器国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとの指摘もあるものの、補修用の航空機エンジンなどの輸出は継続しており、Su-35戦闘機や地対空ミサイル・システム「S-400」の輸出に向けた交渉が進められているとも伝えられている。