Contents

第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

3 軍備管理・軍縮・不拡散への取組

北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射や核実験実施は、わが国のみならず、世界の国々に不安を与えるとともに、大量破壊兵器やその運搬手段であるミサイルなどの拡散が依然として国際社会の平和と安定に差し迫った課題であることを示した。

また、特定の通常兵器の規制についても、人道上の観点と防衛上の必要性とのバランスを考慮しつつ、各国が取り組んでいる。

これらの課題に対する取組として、軍備管理・軍縮・不拡散にかかわる国際的な体制が整備されており、わが国も積極的な役割を果たしている。

参照図表III-3-2-10(通常兵器、大量破壊兵器、ミサイルおよび関連物資などの軍備管理・軍縮・不拡散体制)

図表III-3-2-10 通常兵器、大量破壊兵器、ミサイルおよび関連物資などの軍備管理・軍縮・不拡散体制

1 軍備管理・軍縮・不拡散関連条約などへの取組

わが国は、核兵器、化学兵器および生物兵器といった大量破壊兵器や、その運搬手段であるミサイル、関連技術・物資などに関する軍備管理・軍縮・不拡散のための国際的な取組に積極的に参画している。

化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)については、条約交渉の段階から化学防護の知見を提供し、条約成立後も検証措置などを行うために設立された化学兵器禁止機関(OPCW:Organization for the Prohibition of Chemical Weapons)に化学防護の専門家である陸上自衛官を派遣するなど人的貢献を行ってきた。さらに、陸自化学学校(さいたま市)で条約の規制対象である化学物質を防護研究のために少量合成していることから、条約の規定に従い、同機関設立当初から計9回の査察を受け入れている。

また、わが国はCWCに従い中国遺棄化学兵器処理事業に政府全体として取り組んでおり、同事業を担当する内閣府に陸上自衛官を含む職員9名を出向させている。00(平成12)年以降、計14回の発掘・回収事業に、化学・弾薬を専門とする陸上自衛官を毎年現地に派遣している。14(同26)年は、8月から9月にかけて、内閣府が行う中国吉林省敦化(とんか)市での発掘・回収事業に陸上自衛官7名が参加した。その他、生物兵器禁止条約(BWC:Biological Weapons Convention)、国際輸出管理レジームであるオーストラリア・グループ(AG:Australia Group)やミサイル技術管理レジーム(MTCR:Missile Technology Control Regime)などの主要な会合に職員を派遣するなど、規制や取決めの実効性を高めるため協力している。また、11(同23)年から12(同24)年までの間、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)本部に初めて陸上自衛官を1名派遣した。

参照資料71(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

通常兵器の規制に関しては、人道的な観点と安全保障上の必要性を踏まえつつ、特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)22など、わが国は各種条約を締結している。また、わが国は、CCWの枠組み外で採択されたクラスター弾に関する条約(オスロ条約)23も締結している。同条約が10(同22)年8月に発効したのに基づき、自衛隊が保有するすべてのクラスター弾の使用などが直ちに禁止された。条約発効後原則8年以内に、保有するクラスター弾を廃棄することが規定されていたが、自衛隊が保有するクラスター弾の廃棄は、15(同27)年2月9日に完了した。さらに、対人地雷の規制に関連し、防衛省は、例外保有などに関する年次報告を国連に対して行うなど、国際社会の対人地雷問題への取組に積極的に協力してきた24

このほか、防衛省・自衛隊は、軍備や軍事支出の透明性向上などをねらいとした国連の各種制度(国連軍備登録制度、国連軍事支出報告制度)にも参画し、必要な報告を行うとともに、制度の見直し・改善のための政府専門家会合などに随時職員を派遣している。

石川防衛大臣政務官の画像

化学兵器禁止機関(OPCW)事務局長ウズムジュ大使と会見する
石川防衛大臣政務官

陸自隊員の画像

中国吉林省において遺棄化学兵器の発掘・回収作業を行う陸自隊員

2 大量破壊兵器の不拡散などのための国際的な取組
(1)拡散に対する安全保障構想

北朝鮮やイランなどが大量破壊兵器・ミサイル開発を行っているとして強く懸念した米国は、03(同15)年5月、「拡散に対する安全保障構想(PSI:Proliferation Security Initiative)25」を発表し、各国に同取組への参加を求めた。同構想に基づき、大量破壊兵器などの拡散阻止能力の向上のためのPSI阻止訓練などをはじめ、政策上、法制上の課題の検討のための会合を開催するなどの取組が行われている。

防衛省・自衛隊は、関係機関・関係国と連携し、第3回のパリ総会(03(同15)年9月)以降、各種会合に自衛官を含む防衛省職員を派遣するとともに、04(同16)年からは、継続的に訓練に参加してきた。

現在まで、外務省、警察庁、財務省、海上保安庁など各関係機関と連携しつつ、わが国主催のPSI海上阻止訓練を2回行うとともに、12(同24)年7月にはわが国として初の主催となるPSI航空阻止訓練を行った。また、14(同26)年8月に行われた米国主催のPSI海上阻止訓練には、統幕の要員や海自の艦艇、航空機のほか、外務省、警察庁、財務省および海上保安庁の要員が参加した。防衛省としては、わが国周辺における拡散事例などを踏まえ、平素からの大量破壊兵器などの拡散防止や、自衛隊の対処能力の向上などの観点から、各種訓練や会合への参加や主催のほか、PSIを含む不拡散体制の強化のための活動に努めていく。

参照図表III-3-2-11(PSI阻止訓練への防衛省・自衛隊の参加実績(平成24年度以降))

図表III-3-2-11 PSI阻止訓練への防衛省・自衛隊の参加実績(平成24年度以降)

(2)大量破壊兵器の不拡散に関する国連安保理決議第1540号

04(同16)年4月、国連安保理において、非国家主体が大量破壊兵器などを取得、開発、使用、拡散することに、国際社会が対応する基盤を提供することなどを内容とした大量破壊兵器の不拡散に関する国連安保理決議第1540号が全会一致で採択された。わが国としては、この決議の採択を支持するとともに、すべての国連加盟国がこの決議を遵守することを期待している。

22 CCW:Convention on Prohibitions or Restrictions on the Use of Certain Conventional Weapons Which May Be Deemed to be Excessively Injurious or to have Indiscriminate Effects

23 クラスター弾の主要な生産国および保有国である米国、中国、ロシアなどはオスロ条約には署名していない。

24 防衛省は、カンボジアにおける対人地雷除去活動への支援のため、99(平成11)年から06(同18)年12月までの間、退職自衛官を国際協力機構(JICA)に推薦し、この退職自衛官はJICAの長期派遣専門家の枠組みで、カンボジア地雷対策センター(CMAC:Cambodia Mine Action Center)の整備・輸送アドバイザーとして派遣されていた。

25 大量破壊兵器およびその関連物資などの拡散を防止するため、既存の国際法、国内法に従いつつ、参加国が共同してとりうる措置を検討し、また、同時に各国が可能な範囲で関連する国内法の強化にも努めようとする構想