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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

4 エボラ出血熱の流行に対する国際社会の取組

76(昭和51)年にスーダンとコンゴ民主共和国において初めてエボラウイルスが発見されて以来、主に中部アフリカにおいて、数十人から数百人規模の死者が出るエボラ出血熱の流行が複数回発生してきた。

14年(平成26)年3月、ギニアにおいて西アフリカで初めて複数のエボラ出血熱の感染者が確認され、感染は隣国のシエラレオネ、リベリアにも拡大した。流行国の貧弱な保健衛生システムや人々の衛生に関する知識不足99に加え、埋葬に関する習慣や都市部への感染者流入などが原因で死者数が増加し100、世界保健機関(WHO:World Health Organization)は同年8月、緊急事態宣言を発出した。こうした感染の拡大は、主要な流行国であるリベリア、シエラレオネ、ギニアにおいて、国の経済と社会に悪影響を与えている。また、航空便などによる人の移動によって、ナイジェリア、セネガル、マリといったアフリカ諸国だけでなく、同年9月には米国、10月にはスペイン、12月には英国で感染者が確認されるなど拡大傾向を見せた。こうした前例のないエボラ出血熱の流行は、一国のみでは対応できない、国際社会にとって喫緊の課題となっている。

こうした中、国連安保理は同年9月に、決議第2177号を採択し、加盟国に対してエボラ出血熱の封じ込めのため、流行国に対して援助を行うよう要請した。また、同月には国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER:United Nations Mission for Ebola Emergency Response)が設立され、現地において活動を開始した。

また、各国軍による支援の動きも見られた。同年9月、オバマ大統領は、エボラ出血熱の封じ込めのため、リベリアを中心とする西アフリカに米軍を派遣することを表明し、同年12月において派遣部隊は約2,900人に達した。米軍はリベリアにおいて、主に治療施設の建設や医療従事者の訓練施設設置、輸送などに従事している。英国も同年10月、主にシエラレオネに部隊を派遣する意向を表明し、同年12月において派遣部隊は約800人に達した。英軍は治療施設の建設、医療従事者の訓練支援や、ヘリコプターによる人員の輸送などに従事している。このほか、フランス、ドイツ、中国などが軍の要員を、エボラ封じ込めのために派遣した。これらの軍は、現地の封じ込めを効果的に支援する目的で、主に医療活動、医療物資の輸送、現地の衛生要員への教育訓練などを行っている。WHOは、15(同27)年5月にはリベリアで終息宣言を発出したものの、国際社会のこのような取組は、現在も続けられている。

医療従事者への訓練の画像

米軍による医療従事者への訓練【米陸軍HP】

99 WHOのレポートは、内戦によって保健システムが破壊されたことや、教育を受けていない若者たちが社会にあふれたことを背景要因として指摘している。

100 14(平成26)年8月には死者数が1千人を突破し、15(同27)年5月29日現在、その数は11,000人を超えている。