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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

10 侵略事態への備え

防衛大綱は、主に冷戦期に想定されていた大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては、必要な範囲に限り保持することとしている。

このような事態への対応は、①防空のための作戦、②周辺海域の防衛のための作戦、③陸上の防衛のための作戦、④海上交通の安全確保のための作戦などに区分される。なお、これらの作戦の遂行に際し、米軍は「日米防衛協力のための指針」にあるとおり、自衛隊が行う作戦を支援するとともに、打撃力の使用をともなうような作戦を含め、自衛隊の能力を補完するための作戦を行う。

参照 II部1章3節5(現行の関連する安全保障法制)資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

1 防空のための作戦

周囲を海に囲まれたわが国の地理的な特性や現代戦の様相31から、わが国に対する本格的な侵略が行われる場合には、まず航空機やミサイルによる急襲的な航空攻撃が行われ、また、こうした航空攻撃は幾度となく反復されると考えられる。防空のための作戦32は、空自が主体となって行う全般的な防空と、陸・海・空自が基地や部隊などを守るために行う個別的な防空に区分できる。全般的な防空においては、敵の航空攻撃に即応して国土からできる限り遠方の空域で迎え撃ち、敵に航空優勢を獲得させず、国民と国土の被害を防ぐとともに、敵に大きな損害を与え、敵の航空攻撃の継続を困難にするよう努める。

参照図表III-1-1-14(防空のための作戦の一例)

図表III-1-1-14 防空のための作戦の一例

2 周辺海域の防衛のための作戦

島国であるわが国に対する武力攻撃が行われる場合には、航空攻撃に加えて、艦船などによるわが国船舶への攻撃やわが国領土への攻撃などが考えられる。また、大規模な陸上部隊をわが国領土に上陸させるため、輸送艦などの活動も予想される。

周辺海域の防衛のための作戦は、洋上における対処、沿岸海域における対処、主要な海峡における対処および周辺海域の防空からなる。これら各種の作戦の成果を積み重ねて敵の侵攻を阻止し、その戦力を撃破、消耗させることにより周辺海域を防衛する。

参照図表III-1-1-15(周辺海域の防衛のための作戦の一例)

図表III-1-1-15 周辺海域の防衛のための作戦の一例

3 陸上の防衛のための作戦

島国であるわが国を占領するには、侵攻国は海上・航空優勢を得て、海から地上部隊を上陸、空から空挺部隊などを降着陸させることとなる。

侵攻する地上部隊や空挺部隊は、艦船や航空機で移動している間や着上陸前後は、組織的な戦闘力を発揮するのが難しいという弱点がある。陸上の防衛のための作戦では、この弱点を捉え、できる限り沿岸海域と海岸地域の間や着陸地点で対処し、これを早期に撃破することが必要である。

参照図表III-1-1-16(陸上の防衛のための作戦の一例)

図表III-1-1-16 陸上の防衛のための作戦の一例

4 海上交通の安全確保のための作戦

わが国は、資源や食料の多くを海外に依存しており、海上交通路はわが国の生存と繁栄の基盤を確保するための生命線である。また、わが国に対する武力攻撃事態があった場合、海上交通路は継戦能力の維持や米軍が来援する際の基盤となる。このため、海上交通の安全確保のための作戦は重要である。海上交通の安全確保のための作戦は、わが国の周辺海域において行う場合と航路帯33を設ける場合がある。

わが国の周辺海域において作戦を行う場合には、対水上戦、対潜戦、対空戦、対機雷戦などの各種の作戦を組み合わせて、哨戒34、船舶の護衛、海峡・港湾の防備などを行う。航路帯を設けて作戦を行う場合には、設定した航路を継続的に哨戒し、敵の水上艦艇、潜水艦などによる妨害を早期に発見してこれに対処するほか、状況により、わが国の船舶などを直接護衛する。なお、海上交通路でのわが国の船舶などに対する防空(対空戦)は護衛艦が行い、状況により、戦闘機などの支援を受ける。

31 現代戦においては、航空作戦は戦いの勝敗を左右する重要な要素となっており、陸上・海上作戦に先行または並行して航空優勢を獲得することが必要である。

32 防空のための作戦は、初動対応の適否が作戦全般に及ぼす影響が大きいなどの特性を有する。このため、平素から即応態勢を保持し、継続的な情報の入手に努めるとともに、作戦の当初から戦闘力を迅速かつ総合的に発揮することなどが必要である。

33 船舶を通航させるために設けられる比較的安全な海域。航路帯の海域、幅などは脅威の様相に応じて変化する。

34 敵の奇襲を防ぐ、情報を収集するなどの目的をもって、ある特定地域を計画的に見回ること