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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

第2節 国際社会の課題への取組

1 海洋安全保障の確保

海洋国家であるわが国にとって、法の支配、航行の自由などの基本的ルールに基づく秩序を強化し、海上交通の安全を確保することは、平和と繁栄の基礎であり、関係国と協力して海賊に対応するとともに、この分野における沿岸国自身の能力向上の支援、わが国周辺以外の海域における様々な機会を利用した共同訓練・演習の充実など、各種取組を推進する。

参照III部1章1節4項(海洋安全保障の確保に向けた取組)

1 海賊対処への取組

海賊行為は、海上における公共の安全と秩序の維持に対する重大な脅威である。特に、海洋国家として国家の生存と繁栄の基盤である資源や食料の多くを海上輸送に依存しているわが国にとっては看過できない問題である。

(1)基本的考え方

海賊行為には、第一義的には警察機関である海上保安庁が対処する。海上保安庁では対処できないまたは著しく困難と認められる場合には、自衛隊が対処することになる。

(2)海賊行為の発生状況と国際社会の取組

ソマリア沖・アデン湾の海域においては、人質の抑留による身代金の獲得などを目的として、機関銃やロケット・ランチャーなどで武装した海賊による事案が継続して生起している。

参照図表III-3-2-1(ソマリア沖・アデン湾における海賊等事案の発生状況(東南アジア発生件数との比較))

図表III-3-2-1 ソマリア沖・アデン湾における海賊等事案の発生状況(東南アジア発生件数との比較)

08(平成20)年6月に採択された国連安保理決議第1816号をはじめとする決議1において、各国は、ソマリア沖・アデン湾における海賊行為を抑止するための行動、特に軍艦および軍用機の派遣を要請されている。

これまでに、米国など約30か国がソマリア沖・アデン湾に軍艦などを派遣している。また、海賊対処のための取組として、09(同21)年1月に設置された第151連合任務部隊(CTF:Combined Task Force1512)による活動のほか、欧州連合(EU)は同年12月からアタランタ作戦を、NATOも09(同21)年8月からオーシャン・シールド作戦を行っている。各国は、現在も引き続きソマリア沖・アデン湾の海賊に対して重大な関心を持って対応している。

ソマリア沖・アデン湾における海賊事案の発生件数は、近年大幅に減少したものの、海賊を生み出す根本的な原因となるソマリア国内の貧困などは解決しておらず、また、ソマリア自身の海賊取り締まり能力もいまだ不十分である現状を踏まえれば、国際社会がこれまでの取組を弱めた場合、状況は容易に逆転するおそれがある。また、一般社団法人日本船主協会などからも、継続的に要請を受けている。このように、わが国が海賊対処を行っていかなければならない状況に大きな変化はない。

(3)わが国の取組

ア 海賊対処行動のための法整備

09(同21)年3月、ソマリア沖・アデン湾においてわが国関係船舶を海賊行為から防護するため、海上警備行動が発令されたことを受け、護衛艦2隻がわが国関係船舶の護衛を開始し、P-3C哨戒機も同年6月より警戒監視などを開始した。

その後、国連海洋法条約の趣旨を踏まえ、海賊行為に適切かつ効果的に対応するため、海賊対処法3が同年7月から施行されたことにより、船籍を問わず、すべての国の船舶を海賊行為から防護することが可能となり、また、民間船舶に接近するなどの海賊行為を行っている船舶の進行を停止するために他の手段がない場合、合理的に必要な限度において武器の使用が可能となった。

さらに、13(同25)年11月、「海賊多発地域における日本船舶の警備に関する特別措置法」の施行により、一定の要件を満たした場合に限り、警備員が日本船舶に乗船し、小銃を所持した警備が可能となった。

参照資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)資料68(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の概要)

イ 自衛隊の活動

(ア)第151連合任務部隊(CTF151)への参加

近年、海賊発生海域がオマーン沖やアラビア海まで拡散してきたことにより、特定の海域の警戒監視(ゾーンディフェンス)を実施しているCTF151などの活動範囲が広がる傾向にあり、また、水上部隊が行う直接護衛(船団の前後を守り船舶を護衛する方式)の1回当たりの護衛隻数が徐々に減少していた。これらの状況を踏まえ、13(同25)年7月、海賊対処を行う諸外国の部隊と協調して、より柔軟かつ効果的な運用を行うため、これまでの直接護衛に加え、CTF151に参加してゾーンディフェンスを実施することを決定した。これを受け、水上部隊は、同年12月から、CTF151に参加してゾーンディフェンスを実施している。航空隊も、14(同26)年2月からCTF151に参加し、これまで接することができなかった情報を入手することが可能となった。また、必要に応じ、海賊事案が発生する可能性の高い区域も飛行するなど、柔軟な警戒監視が可能となり、各国の部隊との連携が強化された。

さらに、同年7月18日には、自衛隊からCTF151司令官と同司令部要員を派遣する方針を決定した。自衛官がCTF151司令官や同司令部要員を務めることで、各国部隊との間における連携要領などを実践することや、ソマリア沖・アデン湾における諸外国の海賊対処活動にかかる情報をより広範に獲得することが可能となる。これにより、海賊対処を行う各国部隊との連携の強化を通じて自衛隊の海賊対処行動の実効性が向上することとなる。同年8月から司令部要員を派遣しているほか、15(同27)年5月にはCTF151司令官および約10名の司令部要員を派遣した。自衛官がこのような多国籍部隊の司令官を務めるのは自衛隊創設以来初めてであり、これにより、わが国として国際社会の平和と安定に一層貢献していくことができるものと考えている。

参照図表III-3-2-2(日本が司令官を担当するCTF151司令部の編成)

図表III-3-2-2 日本が司令官を担当するCTF151司令部の編成

(イ)活動実績

現在、2隻の護衛艦が派遣されており、基本的に1隻がアデン湾を往復しながら直接護衛を行い、もう1隻がアデン湾内の特定の海域でゾーンディフェンスを行っている。

直接護衛では、まずアデン湾の東西に一か所ずつ定められた地点に、護衛艦と護衛対象の民間船舶が集合する。護衛の際には、護衛艦搭載の哨戒ヘリコプターも上空から監視にあたる。昼夜を問わず船団の安全確保に万全を期しつつ、約900km4を2日ほどかけて通過していく。また、護衛艦には海上保安官も同乗5している。一方、ゾーンディフェンスでは、護衛艦が、CTF151司令部との調整に基づき割り振られた海域にとどまって警戒監視を行い、船舶の安全確保に努めている。

15(同27)年4月30日現在で3,671隻の船舶が、自衛隊による護衛のもとで、1隻も海賊の被害を受けることなく、安全にアデン湾を通過している。

参照図表III-3-2-3(自衛隊による海賊対処のための活動)

図表III-3-2-3 自衛隊による海賊対処のための活動

P-3C哨戒機も、CTF151司令部との調整により決定された飛行区域において警戒監視を行い、不審な船舶の確認と同時に、護衛艦、他国艦艇および民間船舶に情報を提供し、求めがあればただちに周囲の安全を確認するなどの対応をとっている。収集した情報は、常時CTF151や関係機関などと共有され、海賊行為の抑止や、海賊船と疑われる船舶の武装解除といった成果に大きく寄与している。

原田防衛大臣政務官の画像

派遣海賊対処行動水上部隊の帰国行事(横須賀)において訓示を行う
原田防衛大臣政務官

09(同21)年6月に任務を開始して以来、15(同27)年4月30日現在で飛行回数1,319回、のべ飛行時間約10,160時間、識別作業を行った船舶約108,300隻、船舶や海賊対処に取り組む諸外国への情報提供約10,720回である。各国も哨戒機を派遣している中、2機の海自P-3C哨戒機による活動は、アデン湾における警戒監視の約6割を占めている。

また、防衛省・自衛隊は、派遣海賊対処行動航空隊を効率的かつ効果的に運用するため、ジブチ国際空港北西地区に活動拠点を整備し、11(同23)年6月から運用している。さらに、派遣海賊対処行動支援隊には陸上自衛官も所属し、活動拠点における警備のほか、同隊の司令部にも勤務している。空自も、本活動を支援するため、空輸隊を編成し輸送任務を行っているほか、14(同26)年12月には初めて支援隊に空自医官を派遣した。

参照図表III-3-2-4(派遣部隊の編成)

図表III-3-2-4 派遣部隊の編成

(4)わが国の取組への評価

わが国自衛隊による海賊対処行動は、各国首脳などから感謝の意が表されるなど、国際社会から高く評価されている。また、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に従事する海自に対し、護衛を受けた船舶の船長や船主の方々から、安心してアデン湾を航行できた旨の感謝や、引き続き護衛をお願いしたい旨のメッセージが多数寄せられている。寄せられたメッセージの数は、1次隊から19次隊まで合計2,900通にも上っている。

2 訓練を通じた海洋における公共の安全と秩序の維持への貢献
(1)アデン湾における自衛隊と各国等の海賊対処部隊の訓練

14(同26)年9月25日、同年5月の安倍内閣総理大臣とラスムセンNATO事務総長との会談における合意に基づき、派遣部隊およびNATOの海賊対処部隊は連携の強化および海賊対処に係る戦術技量の向上を図ることを目的とし、アデン湾において初めての共同訓練を実施し、同年11月26日には第2回の訓練も実施した6。また、同年10月16日にはEU海上部隊と初めての共同訓練を実施し、同年11月5日に第2回、同年11月22日に第3回、15(同27)年3月6日に第4回の訓練も実施している7。さらに、14(同26)年11月8日にはトルコ海軍の海賊対処部隊との共同訓練を8、15(同27)年3月22日にはパキスタンの海賊対処部隊との共同訓練を実施した9

アデン湾において実施されるこうした訓練は、自衛隊と各国等の海賊対処部隊の連携を強化し、海上における公共の安全と秩序の維持に資するものであり、大変大きな意義があった。

(2)米国主催国際掃海訓練への参加

14(同26)年10月27日から11月13日の間、海自は、アラビア半島周辺海域において米海軍が主催する多国間掃海訓練(第3回国際掃海訓練)に参加した10。本訓練は、12(同24)年から毎年実施されており、わが国は毎回参加している。本訓練への参加は、海自の戦術技量の向上や参加国間の信頼関係の強化に資するものであり、また、海洋安全保障の維持にも寄与するものであり、グローバルな安全保障環境の改善に資する側面もある。

参照資料59(多国間共同訓練の参加など(最近3年間))

各国の艦艇の画像

国際掃海訓練に参加した各国の艦艇【米海軍HP】

(3)日比共同訓練を通じた海洋安全保障分野における協力関係の強化

15(同27)年5月12日、海自は、マニラ西方海域において、戦術技量の向上および海洋安全保障分野における協力関係の強化を目的とし、フィリピン海軍との共同訓練を実施した11。本訓練は、同年1月の日比防衛相会談における合意に基づいて実施したものであり、「CUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)」12を用いた通信訓練、戦術運動などを実施した。本訓練は、「CUES」の着実な適用とさらなる発展、ひいては日比両国間の海洋安全保障協力の強化に資する、大変意義が大きい訓練であった。

3 能力構築支援の取組など

国家安全保障戦略や防衛大綱では、各国との海洋安全保障協力を含め、「開かれ安定した海洋」の維持・発展に向けた主導的な役割を発揮することとしている。

前述のとおり、防衛省・自衛隊は、インドネシア、ベトナムおよびミャンマーに対し、海洋安全保障に関する能力構築支援の取組を行っている。これにより、シーレーン沿岸国などの能力の向上を支援するとともに、わが国と戦略的利害を共有するパートナーとの協力関係を強化している。

また、13(同25)年4月に閣議決定された海洋基本計画では、海洋の秩序の形成・発展に貢献するため、国際的な連携の確保および国際協力の推進として、多国間および二国間の海洋協議などの場を活用して国際的なルールやコンセンサス作りに貢献することとされている。これを受け防衛省は、拡大ASEAN国防相会議(ADMM(ASEAN Defense Ministers’Meeting)プラス)や海洋安全保障分野におけるARF会期間会合(ISM-MS:Inter-Sessional Meeting on Maritime Security)といった地域の安全保障対話の枠組みにおいて、海洋安全保障のための協力に取り組んでいる。

参照III部3章1節3項(能力構築支援をはじめとする実践的な多国間安全保障協力の推進)

参照III部3章1節2項(多国間安全保障枠組み・対話における取組)

1 ほかに、国連安保理が海賊抑止のための協力を呼びかけている決議としては、決議第1838号、1846号、1851号(以上08(平成20)年採択)、決議第1897号(09(同21)年採択)、決議第1918号、1950号(以上10(同22)年採択)、決議第1976号および2020号(以上11(同23)年採択)、決議第2077号(12(同24)年採択)、決議第2125号(13(同25)年採択)、決議第2184号(14(同26)年採択)がある。

2 バーレーンに本部を置く連合海上部隊(CMF:Combined Maritime Force)が、海賊対処のための多国籍の連合任務部隊として、09(平成21)年1月に設置を発表した。

3 正式名称:「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」

4 なお、風浪が小さく海賊の活動海域が拡大する非モンスーン期(3月~5月、9月~11月)は、護衛航路を東方へ約200km延長して護衛活動を行っている。

5 8名が同乗し、必要に応じて海賊の逮捕、取調べなどの司法警察活動を行う。

6 9月25日に、護衛艦「たかなみ」およびP-3C 1機が、オーシャン・シールド作戦部隊のデンマーク海軍戦闘支援艦「エスベアン・スナーレ」と通信訓練、戦術運動、立入検査などを、11月26日に、護衛艦「たかなみ」が、同部隊のデンマーク海軍戦闘支援艦「エスベアン・スナーレ」と通信訓練、戦術運動、立入検査、射撃、ヘリ発着艦などを実施した。

7 護衛艦「たかなみ」が、10月16日にアタランタ作戦部隊のイタリア海軍 駆逐艦「アンドレア・ドリア」と通信訓練、戦術運動、立入検査などを、11月5日に同部隊のドイツ海軍のフリゲート「リューベック」と通信訓練、ヘリ発着艦、近接運動などを、11月22日に同部隊のオランダ海軍フリゲート「ファン・スペイク」と通信訓練、近接運動、ヘリ発着艦などを実施した。15(平成27)年3月6日には、護衛艦「はるさめ」が、同部隊のドイツ海軍駆逐艦「バイエルン」と信号訓練、戦術運動、ヘリ発着艦などを実施した。

8 護衛艦「たかなみ」が、CTF151のトルコ海軍フリゲート「ゲムリック」と通信訓練、ヘリ発着艦、近接運動などを実施した。

9 護衛艦「はるさめ」が、CTF151のパキスタン海軍駆逐艦「タリク」と通信訓練、戦術運動などを実施した。

10 掃海母艦「ぶんご」および掃海艦「やえやま」が、掃海訓練、潜水訓練などを実施した。

11 海自は、派遣海賊対処行動水上部隊第20次隊の護衛艦「はるさめ」および「あまぎり」が、フィリピン海軍は、フリゲート「ラモン・アルカラス」が参加した。

12 「CUES」については、III部1章1節4項 脚注18参照。