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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

4 台湾の軍事力など

1 対中関係

台湾は、馬英九総統の下、「不統、不独、不武(統一せず、独立せず、武力行使せず)」を基本方針とし、独立を掲げないことを明確にして、中国に対して協調的姿勢を採っており、特に経済関係において深化がみられる。しかし、14(平成26)年3月から4月にかけて、台湾・中国間の「サービス貿易協定」の承認に反対する学生たちが立法院を占拠した「ひまわり学生運動」が起こるなど、政権に対する不満が高まり、同年11月に実施された統一地方選挙では与党国民党が民進党に大敗を喫した。16(同28)年に次期総統選挙を控える中で、今後の対中関係の行方が注目される。

2 台湾の軍事力

台湾は、馬英九総統が提唱する「固若磐石(こじゃくばんじゃく)(磐石のように堅固)」の国防建設の方針のもと、戦争の予防、国土の防衛、緊急事態への対応、衝突の防止および地域の安定を戦略目標とし、「防衛固守、有効抑止」を内容とする軍事戦略を採っている。

台湾は、兵士の専門性を高めることなどを目的として、総兵力を27万5,000人から21万5,000人まで削減しつつ、14(同26)年末までに徴兵および志願兵から構成されている台湾軍を完全志願制に移行させることを目指していたが、国防部が完全志願制への移行は16(同28)年まで達成不可能と述べたと報じられた。また、台湾軍は、先進科学技術の導入や統合作戦能力の整備を重視しているほか、09(同21)年8月の台風により深刻な被害が発生したことを踏まえ、防災・災害救助能力を軍の主要任務の一つとしている。

台湾軍の勢力は、現在、海軍陸戦隊を含めた陸上戦力が約21万5,000人であり、このほか、有事には陸・海・空軍合わせて約166万人の予備役兵力を投入可能とみられている。海上戦力については、米国から導入されたキッド級駆逐艦のほか、比較的近代的なフリゲートなどを保有している。航空戦力については、F-16A/B戦闘機、ミラージュ2000戦闘機、経国戦闘機などを保有している。

3 中台軍事バランス

中国が継続的に高い水準で国防費を増加させる一方、台湾の国防費は約20年間でほぼ横ばいであり、14(同26)年時点の中国の公表国防費は台湾の約13倍となっている93

人民解放軍がミサイル戦力や海・空軍力の拡充を進める中で、台湾軍は、装備の近代化が依然として課題であると考えている。米国防省はこれまで台湾関係法に基づき台湾への武器売却を決定してきている94が、台湾側はF-16C/D戦闘機や通常動力型潜水艦などの購入も希望しており、今後の動向が注目される。一方、台湾は、独自の装備開発も進めており、地対空ミサイル天弓IIや対艦ミサイル雄風IIを配備しているほか、長距離攻撃能力の獲得のため、巡航ミサイル雄風IIEの開発や、弾道ミサイル対処能力の獲得のため、地対空ミサイル天弓IIIの開発などを進めているとみられている。また、空母を含めた大型艦に対抗するため、超音速対艦ミサイル雄風IIIを搭載した新型の国産ステルス高速ミサイル艇の導入も進めている。

中台の軍事力の一般的な特徴については次のように考えられる。

① 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。しかしながら、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力の向上に努力している。

② 海・空軍力については、中国が量的に圧倒するのみならず、台湾が優位であった質的な面においても、近年、中国の海・空軍力が着実に強化されている95

③ ミサイル攻撃力については、台湾は、PAC-2のPAC-3への改修およびPAC-3の新規導入を進めるなど、弾道ミサイル防衛を強化中であるが、中国は、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルなどを多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しいとみられる。

軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであるが、中国は軍事力の強化を急速に進め、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化しており、今後の中台の軍事力の強化や、米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。

参照図表I-1-3-7(台湾の防衛費の推移)、図表I-1-3-8(中台の近代的戦闘機の推移)

図表I-1-3-7 台湾の防衛費の推移

図表I-1-3-8 中台の近代的戦闘機の推移

93 2014年度の中国の公表国防費約8,082億元および台湾の公表国防費約3,111億台湾ドルを、台湾中央銀行が発表した同年度の為替レート「1米ドル=6.1434元=30.368台湾ドル」で米ドル換算して比較した数値。なお、中国の実際の国防費は公表額よりも大きいことが指摘されており、中台国防費の実際の差はさらに大きい可能性もある。

94 最近では、08(平成20)年10月に地対空ミサイル・ペトリオットPAC-3、AH-64D攻撃ヘリコプターなどの売却を、10(同22)年1月にPAC-3、UH-60ヘリコプター、オスプレイ級掃海艇などの売却を、11(同23)年9月にF-16A/B戦闘機の改良に必要とされる機器などを含む武器売却を、さらに14(同26)年12月にオリバー・ハザード・ペリー級ミサイル・フリゲート4隻の売却をそれぞれ決定している。

95 第4世代戦闘機の数は、中国731機に対し、台湾329機となっている。また、駆逐艦・フリゲート、潜水艦の数は、中国約70隻、約60隻に対し、台湾約30隻、4隻となっており、さらに中国は12(平成24)年9月に空母「遼寧」を就役させている。