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<解説>ISILの統治の実態とこれまでのテロ組織との違い

中東・北アフリカを中心に活発な活動を続けるISILは、「カリフ国」を自称し、イラク・シリアにまたがる広大な地域を「アメとムチ」を使い分け、イラクの中央政府やシーア派に対する反発を利用するなど巧妙に支配している。ISILの支配下では、破壊された道路の補修のほか、これまで十分に行き届いていなかった電力供給や食料配給などの住民サービスが実施されていると伝えられている。一方、宗教警察による巡回取り締まりに加え、飲酒や喫煙などの反宗教行為を行った者を銃殺や斬首など残虐な方法で公開処刑にするなど、住民を厳しい統制下に置いているとも伝えられている1。イラク北部の少数民族に対する奴隷制の復活を含め、ISILによる前近代的な残虐行為については同じイスラム教徒である多くのイスラム法学者や宗教的権威からも強く非難されている。

また、ISILによるインターネットを活用した情報発信力は国際社会から大きな脅威として認識されている。AQAP2は機関誌で爆弾の製造方法を公開し、欧米各国などでのテロの実施を呼びかけてきたが、ISILはソーシャル・メディア上でハッシュタグなどを活用したメッセージの発信や、デジタル技術・音楽を活用した完成度の高い動画配信を通じ、組織の宣伝や戦闘員の勧誘、テロの呼びかけなどを巧みに行い、成果を上げているとみられる。加えて、多言語に翻訳した、機関誌(DABIQ)をオンライン上で配信し世界的な宣伝活動を推し進めている。

さらに、テロの手法についても特徴が見られる。これまでのテロ組織は、自爆テロや簡易爆弾などによりショッピングセンターなど警備が薄く民間人の集まる施設を攻撃するといった手法が主流であった。しかし、ISILには旧フセイン政権の軍関係者が多く参加し、イラク軍などから奪取した戦車などの重装備を使用した組織的戦闘が可能となったと指摘されている。ISILはこれまでの国際テロ組織とは異なり、強力な軍事力、豊富な資金力、巧みな統治能力・メディア発信力などを武器に、広大な地域を支配下に置くとともに、多数の外国人戦闘員を惹きつけるなど、新しいタイプの国際テロ組織といえる。

1 サッカーのアジアカップを観戦した若者がイスラム法に反するとしてISILによって公開銃殺処刑されたと報じられている。

2 AQAP:Al-Qaida in the Arabian Peninsula(アラビア半島のアルカイダ)