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平成27年版防衛白書の刊行に寄せて

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常に変化していく安全保障環境に対して、防衛政策に思考停止があってはなりません。そしてまさに今、わが国の防衛政策は大きな時代の節目にあると言えましょう。

わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しいものになってきています。中国は、国防費を5年連続で10%以上増加させ、軍事力の広範かつ急速な強化を進めています。また、公船によるわが国領海への断続的な侵入を行っているほか、戦闘機による自衛隊機への異常な接近といった、不測の事態を招きかねない極めて危険な行為に及んでいます。そして、国防費の増加を含め、同国の軍事や安全保障に関しては、不透明な点が多いと言わざるをえません。北朝鮮は、弾道ミサイルの発射を繰り返しており、核開発の進行や弾道ミサイル能力の増強は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっています。世界に目を転ずれば、ロシアが隣国ウクライナに対し直接的あるいは間接的介入を行ったとみられ、また、シリア・イラクにおいては国際テロ集団であるISILが台頭しています。そして、大変痛ましいことに、卑劣なテロ行為により国外で邦人が死傷する事件も起きました。国内においても、広島県における土砂災害や御嶽山の噴火により、多くの尊い命が失われました。また、ネパールでは非常に大きな地震が発生し、甚大な被害を生じました。

防衛省・自衛隊はいかなる事態においてもわが国の領土、領海、領空を守り抜く最後の砦であり、不断の努力と着実な対処能力を備えることが極めて重要です。現在、国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする平和安全法制を国会においてご審議いただいています。また、幅広い分野における日米の防衛協力を一層強化するため、18年振りに日米防衛協力のための指針の見直しを行いました。さらに、統合運用機能の強化や防衛装備庁の新設などの防衛省改革に取り組んでいます。加えて、国際協調主義に基づく積極的平和主義の理念の下、国連平和維持活動や海賊対処活動、さらにアジア太平洋地域を中心とした国々との防衛協力を推進しています。そして、各種事態における実効的な抑止と対処を実現するために必要な「統合機動防衛力」の構築を引き続き進めているところです。

このような防衛政策の見直しが進む一方で、自衛隊員達は全国、世界各地の過酷な現場において、警戒監視や訓練、国連平和維持活動、災害派遣、そしてこれらを支える後方支援など、多様な任務に日々、黙々と励んでいます。かつて自衛隊員として現場にあった私にとって、現場とはまさに「原点」であり、陸海空各部隊、さらには南スーダン、ジブチの現場を訪れ、隊員を激励してまいりました。そこで目にしましたのは、時代の変化に対応しながら任務が多様化していく中、それでもなお変わることなく、国民の皆様と国際社会の信頼に応えようとひたむきに取り組む隊員の姿でした。

わが国の防衛には、国民の皆様のご理解とご支援が不可欠です。また、わが国の防衛政策の高い透明性を維持することは、諸外国の理解と信頼を高める上でも大きな意義があります。喜ばしいことに、内閣府が行った平成26年度「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」では、平成24年の前回調査に引き続き、防衛問題に対する国民の皆様のご関心や、自衛隊に対する肯定的な印象が全般として高いレベルで維持されていました。防衛白書もまたその一助となったことでしょう。戦後70年に当たる今年、奇しくも先に述べた重要かつ広範な防衛政策の見直しが進められています。これらをご紹介する本年の防衛白書は、例年にも増して重要なものであると考えています。是非、一人でも多くの方に本年も防衛白書を読んでいただき、防衛省・自衛隊に対するご理解をさらに深めていただけることを心より願ってやみません。

大臣視察の画像

倒壊家屋への対応の訓練を視察する中谷防衛大臣(陸上自衛隊練馬駐屯地)