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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

防衛白書トップ > 第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組 > 第1章 統合機動防衛力の構築に向けて > 第1節 実効的な抑止および対処 > 1 周辺海空域における安全確保

第1章 統合機動防衛力の構築に向けて

防衛大綱においては、幅広い後方支援基盤の確立に配意しつつ、高度な技術力と情報・指揮通信能力に支えられ、ハード及びソフト両面における即応性、持続性、強靭性及び連接性も重視した統合機動防衛力を構築することとされている。防衛大綱および中期防衛力整備計画で示された各種施策などの進捗状況を適切に管理しつつ、統合機動防衛力の構築を積極的に推進することが必要である。

防衛省・自衛隊は、平素からの情報収集および警戒監視、グレーゾーンの事態や各種事態が連続的または同時並行的に発生する複合事態にシームレスかつ機動的に対応できるよう、防衛力整備を含めた統合機動防衛力の構築に向けて取り組んでいる。

防衛省においては、13(平成25)年12月の防衛大臣指示に基づき、防衛副大臣を委員長とする「統合機動防衛力構築委員会」を設置し、検討を行っている。

「統合機動防衛力構築委員会」は、防衛大臣の指示のもと、防衛大綱および中期防で示された各種施策などの進捗状況を評価・検証しつつ、統合機動防衛力の構築を積極的に推進するため、所要の取組を行っている。また、防衛省内に設置された既存の「サイバー政策検討委員会」、「総合取得改革推進委員会」、「防衛省改革検討委員会」などの各種枠組みと密接に連携して行うこととしている。

参照図表III-1-1-1(委員会の構成)

図表III-1-1-1 委員会の構成

左藤防衛副大臣の画像

「統合機動防衛力構築委員会」を主催する左藤防衛副大臣

第1節 実効的な抑止および対処

各種事態に適時・適切に対応し、国民の生命・財産と領土・領海・領空を確実に守り抜くためには、総合的な防衛体制を構築して各種事態の抑止に努めるとともに、事態の発生に際しては、その推移に応じてシームレスに対応する必要がある。

このため、わが国周辺を広域にわたり、常時継続的に監視することで、情報優越1を確保するとともに、各種事態が発生した場合には、適切な時期および海空域で海上優勢2および航空優勢3を確保して実効的に対処し、被害を最小化することが重要である。

沿岸監視隊員の画像

任務に従事する沿岸監視隊員

P-3Cの画像

尖閣諸島周辺を警戒監視するP-3C

E-767早期警戒管制機の画像

E-767早期警戒管制機

1 周辺海空域における安全確保

わが国は、6,800あまりの島々で構成され、世界第6位の排他的経済水域(EEZ:Economic Exclusive Zone)を有するなど広大な海域に囲まれており、自衛隊は、平素から領海・領空とその周辺の海空域において常時継続的な情報収集および警戒監視を行っている。

1 周辺海空域における警戒監視
(1)基本的考え方

各種事態に際し、自衛隊が迅速かつシームレスに対応するため、自衛隊は、平素から常時継続的にわが国周辺海空域の警戒監視を行っている。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、平素からP-3C哨戒機などにより、北海道周辺や日本海、東シナ海を航行する船舶などの状況を監視している。空自は、全国28か所のレーダーサイトとE-2C早期警戒機、E-767早期警戒管制機などにより、わが国とその周辺の上空を24時間態勢で監視している。また、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが24時間態勢で警戒監視を行っている。さらに、必要に応じ、護衛艦・航空機を柔軟に運用して警戒監視を行い、わが国周辺における事態に即応できる態勢を維持している。

参照図表III-1-1-2(わが国周辺海空域での警戒監視のイメージ)

図表III-1-1-2 わが国周辺海空域での警戒監視のイメージ

なお、14(平成26)年には、南西諸島の通過をともなう中国海軍艦艇の活動が合計7回、沖縄南方海域での活動が1回確認されており、今後も活動領域をより一層拡大するとともに、活動の活発化をさらに進めていくものと見られる。

また、12(同24)年9月のわが国政府による尖閣諸島の所有権の取得以降、中国公船が尖閣諸島周辺のわが国領海へ断続的に侵入するなど、近年、わが国周辺海域においても、中国の海軍艦艇や公船などの活動が急速に拡大・活発化している。

防衛省・自衛隊は、このような情勢を受け、海上保安庁と平素から現場を含めて警戒監視活動により得られた情報を共有するなど、関係省庁との連携の強化を図っている。

参照図表III-1-1-3(中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数)

図表III-1-1-3 中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数

2 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)
(1)基本的考え方

国際法上、国家はその領空に対して完全かつ排他的な主権を有している。対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行うものであり、陸上や海上とは異なり、この措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条に基づき、第一義的に空自が対処する。

参照 資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

(2)防衛省・自衛隊の対応

空自は、わが国周辺を飛行する航空機を警戒管制レーダーやE-767早期警戒管制機、E-2C早期警戒機などにより探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、その航空機の状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。実際に領空侵犯が発生した場合には、退去の警告などを行う。

12(同24)年12月13日には、中国国家海洋局所属固定翼機(Y-12)が尖閣諸島魚釣島付近において領空を侵犯した。また、13(同25)年8月22日には、ロシア空軍のTU-95爆撃機が福岡県沖ノ島付近において領空を侵犯し、同年9月9日には、国籍不明の無人機(推定)が東シナ海を飛行する事案が生起した。これらの事案に対し、空自は戦闘機を緊急発進させて対応した。

平成26年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は、前年度と比べて133回の大幅な増加となる943回であり4、昭和33年に航空自衛隊が対領空侵犯措置を開始して以来、過去2番目に多い回数となった。

参照図表III-1-1-4(冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳)

図表III-1-1-4 冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳

参照図表III-1-1-5(緊急発進の対象となった中国機の飛行パターン例)

図表III-1-1-5 緊急発進の対象となった中国機の飛行パターン例

参照図表III-1-1-6(緊急発進の対象となったロシア機の飛行パターン例)

図表III-1-1-6 緊急発進の対象となったロシア機の飛行パターン例

F-15戦闘機の画像

緊急発進するF-15戦闘機

なお、同年11月の、中国による「東シナ海防空識別区」設定後も、防衛省・自衛隊は、当該区域を含む東シナ海において、従前どおりの警戒監視などを実施しており、引き続き、わが国周辺海空域における警戒監視に万全を期すとともに、国際法および自衛隊法に従い、厳正な対領空侵犯措置を実施することとしている。

参照図表III-1-1-7(わが国および周辺国の防空識別圏(ADIZ))

図表III-1-1-7 わが国および周辺国の防空識別圏(ADIZ)

参照 I部1章3節(中国)

参照 資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

3 領海および内水内潜没潜水艦への対処など
(1)基本的考え方

わが国の領水5内で潜没航行する外国潜水艦に対しては、速やかに海上警備行動を発令して対処する。こうした潜水艦に対しては、国際法に基づき海面上を航行し、かつ、その旗を揚げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求する。

参照 資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、わが国の領水内を潜没航行する外国潜水艦を探知・識別・追尾し、こうした国際法に違反する航行を認めないとの意思表示を行う能力および浅海域における対処能力の維持・向上を図っている。04(同16)年11月、先島群島周辺のわが国領海内を潜没航行する中国原子力潜水艦に対し、海上警備行動を発令し、海自の艦艇および航空機により潜水艦が公海上に至るまで継続して追尾した。

また、13(同25)年5月および14(同26)年3月には、領海への侵入はなかったものの、接続水域内を航行する潜没潜水艦を海自P-3C哨戒機が確認した。国際法上、外国の潜水艦が沿岸国の接続水域内を潜没航行することは禁じられているわけではないが、このような活動に対して、わが国は適切に対応する態勢を維持している。

4 武装工作船などへの対処
(1)基本的考え方

武装工作船と疑われる船(不審船)には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処できない、または著しく困難と認められる場合には、迅速に海上警備行動を発令し、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処する。

参照 資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

防衛省・自衛隊は99(同11)年の能登半島沖での不審船事案や01(同13)年の九州南西海域での不審船事案などの教訓を踏まえ、関係省庁との連携を強化し、政府として万全を期すべく必要な措置を講じている。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、①ミサイル艇の配備、②「特別警備隊」6の編成、③護衛艦などへの機関銃の装備、④強制停船措置用装備品(平頭弾)7の装備、⑤艦艇要員の充足率の向上、⑥立入検査隊に対する装備の充実などを行っている。

また、防衛省と海上保安庁は、定期的に共同訓練などを行っている。海自は、99(同11)年防衛庁(当時)と海上保安庁が策定した「不審船に係る共同対処マニュアル」に基づき、連携の強化を図っている。

1 情報の認知、収集、処理、伝達を迅速かつ的確に行うことについて相手方に優ること

2 海域において相手の海上戦力より優勢であり、相手方から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

3 我が航空部隊が敵から大なる妨害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

4 緊急発進(スクランブル)回数の対象別の割合(推定含む。)はロシア約50%、中国約49%、その他約1%

5 領海および内水

6 01(平成13)年3月、海上警備行動下において不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。

7 護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸薬の砲弾で、先端部を平坦にして跳弾の防止が図られている。