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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

5 現行の関連する安全保障法制

1 武力攻撃事態等における対応の枠組み

わが国に対する武力攻撃など、国や国民の平和と安全にとって最も重大な事態についてのわが国の対応の枠組み8は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態9および武力攻撃予測事態10)における実効的な対応を可能とし、わが国に対する武力攻撃などの抑止にもつながるものである。

参照図表II-1-3-14(有事法制の全体像)

図表II-1-3-14 有事法制の全体像

(1)武力攻撃事態等への対処

武力攻撃事態対処法は、武力攻撃事態等への対処に関する基本理念、基本的な方針(対処基本方針)として定めるべき事項、国・地方公共団体の責務などについて規定している。また、武力攻撃事態等が発生した場合、関係機関(指定行政機関、地方公共団体および指定公共機関11)が国民保護法などに基づいて行う対処措置を連携協力して行い、国全体として武力攻撃事態等への対処に万全の措置を講ずるための枠組みを整えている。

参照図表II-1-3-15(武力攻撃事態等への対処のための手続)、資料11(自衛隊の主な行動)資料12(自衛官または自衛隊の部隊に認められた武力行使および武器使用に関する規定)

図表II-1-3-15 武力攻撃事態等への対処のための手続

ア 対処基本方針など

武力攻撃事態等に至ったときは、次の事項を定めた対処基本方針を閣議決定し、国会の承認を求める。また、対処基本方針が定められたときは、臨時に内閣に武力攻撃事態等対策本部(対策本部)を設置して、対処措置の実施を推進する。

① 武力攻撃事態であること又は武力攻撃予測事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実

② 当該武力攻撃事態等への対処に関する全般的な方針

③ 対処措置に関する重要事項

イ 対処措置

武力攻撃事態等への対処にあたり、対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体または指定公共機関が、法律の規定に基づいて所要の措置を行う。

参照図表II-1-3-16(指定行政機関などが実施する措置)

図表II-1-3-16 指定行政機関などが実施する措置

ウ 国、地方公共団体などの責務

武力攻撃事態対処法に定める国、地方公共団体などの責務は、参照のとおりである。

参照図表II-1-3-17(国、地方公共団体などの責務)

図表II-1-3-17 国、地方公共団体などの責務

エ 内閣総理大臣の対処措置における権限

対処基本方針が定められたときは、内閣に、内閣総理大臣を対策本部長、国務大臣を対策副本部長または対策本部員とする対策本部が設置される。

内閣総理大臣は、国民の生命、身体もしくは財産の保護または武力攻撃の排除に支障があり、特に必要があると認める場合であって、総合調整に基づく所要の対処措置が行われないときは、関係する地方公共団体の長などに対し、その対処措置を行うべきことを指示することができる。また、内閣総理大臣は、指示に基づく所要の対処措置が行われないときや、国民の生命、身体、財産の保護や武力攻撃の排除に支障があり、事態に照らし緊急を要する場合は、関係する地方公共団体の長などに通知したうえで、自らまたはその対処措置にかかわる事務を所掌する大臣を指揮し、その地方公共団体または指定公共機関が行うべき対処措置を行い、または行わせることができる。

オ 国際連合(国連)安全保障理事会への報告

政府は、国連憲章第51条などに従って、武力攻撃の排除にあたってわが国が講じた措置について、直ちに国連安保理に報告する。

(2)武力攻撃事態等以外の緊急事態への対処

武力攻撃事態対処法においては、政府は、わが国の平和と独立ならびに国および国民の安全を確保するため、武力攻撃事態等以外の緊急事態12にも、的確かつ迅速に対処する旨規定されている。

(3)国民の保護に関する取組

ア 国民の保護に関する基本指針および防衛省・自衛隊の役割

05(平成17)年3月、政府は国民保護法第32条に基づき基本指針を策定した。この基本指針においては、武力攻撃事態の想定を着上陸侵攻、ゲリラや特殊部隊による攻撃、弾道ミサイル攻撃、航空攻撃の四つの類型に整理し、その類型に応じた国民保護措置の実施にあたっての留意事項を定めている。

防衛省・自衛隊は、国民保護法および基本指針に基づき国民保護計画を策定している。この中で自衛隊は、武力攻撃事態においては、主たる任務である武力攻撃の排除を全力で実施するとともに、国民保護措置については、これに支障のない範囲で住民の避難・救難の支援や武力攻撃災害への対処を可能な限り実施するとしている。

なお、武力攻撃事態等および緊急対処事態において、自衛隊は国民保護等派遣等に基づく国民保護措置および緊急対処保護措置として、住民の避難支援、避難住民などの救援、応急の復旧などを行うことができる。

参照図表II-1-3-18(国民保護等派遣のしくみ)

図表II-1-3-18 国民保護等派遣のしくみ

イ 国民保護措置を円滑に行うための防衛省・自衛隊の取組

(ア)国民保護訓練

武力攻撃事態等において国民保護措置を的確かつ迅速に実施するためには、国民保護措置の実施にかかわる連携要領について、平素から各省庁や地方公共団体などとの間で訓練を実施しておくことが重要である。

このような観点から、防衛省・自衛隊は、関係省庁の協力のもと、地方公共団体などの参加を得て、国民保護訓練を主催しているほか、関係省庁や地方公共団体などが実施する国民保護訓練などに積極的に参加・協力している。

参照資料13(国民保護にかかる国と地方公共団体との共同訓練参加状況)

(イ)地方公共団体などとの平素からの連携

防衛省・自衛隊では、地方公共団体などと平素から緊密な連携を確保し、国民保護措置などを実効的なものとするため、陸自方面総監部および自衛隊地方協力本部に連絡調整を担当する部署を配置している。

また、広く住民の意見を求めるための機関として、都道府県や市町村に国民保護協議会が設置され、陸・海・空自に所属する者が委員に任命されている。さらに、指定地方行政機関である地方防衛局においても、関係職員が委員に任命されている。加えて、地方公共団体が、退職した自衛官を危機管理監などとして採用し、防衛省・自衛隊との連携や対処計画・訓練の企画・実施などに活用している。

2 周辺事態安全確保法と船舶検査活動法の概要

周辺事態安全確保法は、周辺事態に対応してわが国が行う措置(対応措置)13やその実施の手続などを定めている。また、船舶検査活動法は、周辺事態に対応してわが国が行う船舶検査活動に関して、その実施の態様や手続などを定めている。

○ 内閣総理大臣は、周辺事態に際して、自衛隊が行う後方地域支援14、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動などを行う必要があると認めるときは、こうした措置を行うことと対応措置に関する基本計画の案について、閣議決定を求めなければならない。また、対応措置の実施については、国会の事前承認(緊急時は事後承認)を得なければならない。さらに、基本計画の決定・変更や対応措置の終了に際しては、遅滞なく、国会に報告する。

○ 防衛大臣は、基本計画に従い、実施要項(実施区域の指定など)を定め、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊などに、後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動の実施を命ずる。

○ 関係行政機関の長は、法令と基本計画に従い、対応措置を実施するとともに、地方公共団体の長に対し、その権限の行使について必要な協力を求め、また、法令と基本計画に従い、国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる15

(1)後方地域支援

後方地域支援とは、周辺事態に際して日米安保条約の目的達成に寄与する活動を行っている米軍に対し、後方地域においてわが国が行う物品役務の提供、便宜の供与などの支援措置である。このうち、自衛隊が行う後方地域支援で提供の対象となる物品役務の種類は、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務および基地業務である。

(2)後方地域捜索救助活動

後方地域捜索救助活動とは、周辺事態において行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、後方地域で自衛隊が行う捜索救助活動(救助した者の輸送を含む。)である16。その際、戦闘参加者以外の遭難者がいる場合はあわせて救助を行う。また、実施区域に隣接する外国の領海に遭難者がいる場合は、その外国の同意を得て、遭難者の救助を行うことができる。ただし、その領海において現に戦闘行為が行われておらず、かつ、活動期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる場合に限る。

(3)船舶検査活動

船舶検査活動とは、周辺事態に際し、わが国が参加する貿易その他の経済活動にかかわる規制措置の厳格な実施を確保する目的で、船舶(軍艦など17を除く。)の積荷・目的地を検査・確認する活動や必要に応じ船舶の航路・目的港・目的地の変更を要請する活動である。こうした活動は、国連安全保障理事会(国連安保理)決議に基づいて、または旗国18の同意を得て、わが国領海やわが国周辺の公海(排他的経済水域19を含む。)において行われる20

3 国際平和協力法の概要など

92(同4)年に成立した「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(国際平和協力法)は、①国際連合平和維持活動21、②人道的な国際救援活動22、③国際的な選挙監視活動の三つの活動に対し適切かつ迅速な協力を行うための体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置等を講じ、もってわが国が国連を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与することを目的としている。

また、同法では、国連平和維持隊への参加にあたっての基本方針(いわゆる参加5原則)が規定されている。

参照図表II-1-3-19(国連平和維持隊への参加にあたっての基本方針(参加5原則))

図表II-1-3-19 国連平和維持隊への参加にあたっての基本方針(参加5原則)

8 03(平成15)年に事態対処関連3法が成立し、翌04(同16)年に事態対処法制関連7法が成立したほか、関連3条約の締結が承認され、有事法制の基盤が整えられた。これらの法制整備には、防衛庁(当時)が77(昭和52)年から進めていた、いわゆる「有事法制の研究」の成果が多く反映されている。なお、「有事法制」については、必ずしも概念として定まったものがあるわけではなく、本白書では、有事法制と用いる場合、03(平成15)年以降に整備された事態対処関連法制を指す。

9 わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

10 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態

11 独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関と電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの

12 緊急対処事態(武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態または当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態で、国家として緊急に対処することが必要なもの)を含む、武力攻撃事態等以外の国および国民の安全に重大な影響を及ぼす事態

13 後方地域支援、後方地域捜索救助活動、周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律に規定する船舶検査活動その他の周辺事態に対応するため必要な措置(周辺事態安全確保法第2条)

14 後方地域とは、わが国の領域ならびに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで行われる活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められるわが国周辺の公海(領海の基線から200海里(約370km)までの水域である排他的経済水域を含む。)およびその上空の範囲をいう。

15 政府は、協力を求められまたは協力を依頼された国以外の者が、その協力により損失を受けた場合には、その損失に関し、必要な財政上の措置を講ずる。

16 周辺事態安全確保法第3条第1項第2号

17 軍艦および各国政府が所有しまたは運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの

18 海洋法に関する国際連合条約第91条に規定するその旗を掲げる権利を有する国

19 排他的経済水域及び大陸棚に関する法律第1条参照

20 船舶検査活動法第2条

21 国連決議に基づき、武力紛争の当事者間の武力紛争の再発の防止に関する合意の遵守の確保、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立の援助その他紛争に対処して国際の平和と安全を維持するために国連の統括のもとに行われる活動

22 国連決議または国連などの国際機関が行う要請に基づき、紛争による被災民の救援や被害の復旧のために、人道的精神に基づいて行われる活動