Contents

第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

第4節 在日米軍の駐留

在日米軍の再編などは、米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するためのきわめて重要な取組である。防衛省としては、在日米軍施設・区域を抱える地元の理解と協力を得る努力を続けつつ、米軍再編事業などを進めていく方針である。

1 在日米軍の駐留

1 在日米軍の駐留の意義

日米安保体制に基づく日米同盟が、わが国の防衛やアジア太平洋地域の平和と安定に寄与する抑止力として十分に機能するためには、在日米軍のプレゼンスが確保されていることや、在日米軍が緊急事態に迅速かつ機動的に対応できる態勢が、平時からわが国とその周辺でとられていることなどが必要である。

このため、わが国は、日米安保条約に基づいて米軍の駐留を認めており、在日米軍の駐留は、日米安保体制の中核的要素となっている。

参照図表II-3-4-1(在日米軍の日本における配置図)

図表II-3-4-1 在日米軍の日本における配置図

II部3章1節1項で述べたとおり、これがわが国への侵略に対する抑止力になっている。また、安定的な在日米軍の駐留を実現することは、わが国に対する武力攻撃に対して、日米安保条約第5条に基づく日米の共同対処を迅速に行うために必要である。さらに、わが国防衛のための米軍の行動は、在日米軍のみならず、適時の兵力の来援によってもなされるが、在日米軍は、そのような来援のための基盤ともなる。

在日米軍がこのような役割を果たすためには、在日米軍を含む米軍の各兵種が機能的に統合されている必要がある。たとえば、日米両国が協力してわが国に対する武力攻撃などに対処するにあたっては、米軍は主としていわゆる「矛」としての打撃力の役割を担っているが、このような打撃力として米軍が機能する際には、わが国に駐留する米海軍、米空軍、米海兵隊などが一体となって十分な機能を発揮するものと考えられる。

なお、日米安保条約は、第5条で米国の日本防衛義務を規定する一方、第6条でわが国の安全と極東における国際の平和と安全の維持のため、わが国の施設・区域の使用を米国に認めており、総合的に日米双方の義務のバランスを取っている。

参照II部3章1節1項 (わが国の平和と安全の確保)

2 在日米軍の駐留に関する枠組み

在日米軍施設・区域および在日米軍の地位にかかわることは日米地位協定1(地位協定)により規定されており、この中には、在日米軍の使用に供するための施設・区域(在日米軍施設・区域)の提供に関すること、在日米軍が必要とする労務の需要の充足に関することなどの定めがある。

(1)在日米軍施設・区域の提供

在日米軍施設・区域について、わが国は、地位協定の定めるところにより、日米合同委員会を通じた日米両国政府間の合意に従い提供している。

わが国は、在日米軍施設・区域の安定的な使用を確保するため、民有地や公有地については、所有者との合意のもと、賃貸借契約などを結んでいる。しかし、このような合意が得られない場合には、駐留軍用地特措法2に基づき、土地の所有者に対する損失の補償を行ったうえで、使用権原3を取得することとしている。

(2)米軍が必要とする労務の需要の充足

在日米軍は、同軍を維持するために労働力(労務)を必要としており、その需要は、地位協定により、わが国の援助を得て充足されることになっている。

全国の在日米軍施設・区域においては、平成26年度末現在、約25,200人の駐留軍等労働者(従業員)が、司令部の事務職、整備・補給施設の技術者、基地警備部隊および消防組織の要員、福利厚生施設の販売員などとして勤務しており、在日米軍の円滑な運用に欠くことのできない存在として、その活動を支えている。

こうした従業員は、地位協定の規定により、わが国政府が雇用している。防衛省は、その人事管理、給与支払、衛生管理、福利厚生などに関する業務を行うことにより、在日米軍の駐留を支援している。

3 在日米軍駐留経費負担

日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保するうえで、在日米軍駐留経費負担は重要な役割を果たしている。1970年代半ばからのわが国における物価・賃金の高騰や国際経済情勢の変動などにより、昭和53年度に福利費などの労務費、昭和54年度からは、提供施設整備費の負担を、それぞれ開始した。

さらに、日米両国を取り巻く経済情勢の変化により、労務費が急激に増加し、従業員の雇用の安定が損なわれ、ひいては在日米軍の活動にも影響を及ぼすおそれが生じた。このため、87(昭和62)年、日米両国政府は、地位協定の経費負担原則の特例的な暫定措置として、地位協定第24条についての特別な措置を定める協定(特別協定)4を締結した。

これに基づき、わが国は調整手当(現地域手当)など8項目の労務費を負担するようになった。その後の特別協定により、平成3年度からは、基本給などの労務費と光熱水料等を、平成8年度からは、それらに加え訓練移転費をわが国が負担するようになった。

なお、こうした在日米軍駐留経費負担については、わが国の厳しい財政事情にも十分配慮しつつ見直しを行ってきており、平成11年度予算(歳出ベース)をピークに減少に転じている。

10(平成22)年に行った包括的な見直しにおいて、日米両政府は、在日米軍駐留経費負担全体の水準について、特別協定の有効期間中(平成23年度~平成27年度の5年間)、平成22年度予算額(1,881億円が目安)の水準を維持することとした。

4 特別協定の内容

11(同23)年4月に発効した特別協定のポイントは、次のとおりである。

(1)対象期間:5年間

(2)経費負担:日本側が労務費、光熱水料等および訓練移転費の全部または一部を負担。なお、訓練移転費につき、国内への移転にともない追加的に必要となる経費に加え、グアムなど米国の施政下の領域への訓練移転に係るものも負担対象に追加

・運用方針(特別協定に関する往復書簡に記載)

労務費:日本側が負担する上限労働者数を、協定の期間中に、現在の23,055人から22,625人に段階的に削減5

光熱水料等:249億円を各年度の負担の上限としつつ、協定の期間中に、日本側の負担割合を現在の約76%から72%に段階的に削減

(3)節約努力:これらの経費につき、米側による一層の節約努力を明記6

参照資料26(在日米軍駐留経費負担の概要)

5 在日米軍関係経費

在日米軍関係経費は、在日米軍駐留経費負担に加え、沖縄県民の負担を軽減するためにSACO最終報告の内容を実施するための経費、米軍再編事業のうち地元の負担軽減などに資する措置にかかる経費などがある。

参照II部3章4節3項1(沖縄の在日米軍施設・区域の整理・統合・縮小への取組)

参照図表II-3-4-2(在日米軍関係経費(平成27年度予算))

図表II-3-4-2 在日米軍関係経費(平成27年度予算)

6 在日米軍施設・区域と地域社会

在日米軍施設・区域がその機能を十分に発揮するためには、これを抱える地元の理解と協力が欠かせない。一方で、在日米軍施設・区域の周辺では、過去数十年の間に市街化が進むなど、社会環境は大きく変化している。在日米軍施設・区域が十分に機能を発揮するとともに、真に国民に受け入れられ、支持されるものであるためには、こうした変化を踏まえ、在日米軍施設・区域による影響をできる限り軽減する必要がある。わが国の国土は狭隘(きょうあい)でかつ平野部が少なく、在日米軍施設・区域と、都市部や産業地区とが隣接している例も多い。このような地域においては、在日米軍施設・区域の設置や航空機の離発着などにより、住民の生活環境や地域の振興に大きな影響を与えることから、各地域の実情に合った負担軽減の努力が必要である。

1 正式名称:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定

2 正式名称:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法

3 「権原」とは、ある行為を正当化する法律上の原因をいう。

4 正式名称:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二十四条についての特別の措置に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定

5 「2+2」共同発表(11(平成23)年6月21日)「労務費を削減しつつも、駐留軍等労働者の安定的な雇用を維持するために引き続き最大限努力することで一致した。」

6 上記の措置により生じる労務費および光熱水料等の減額分が、提供施設整備費への増額分として充当される。