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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第8節 欧州

1 全般

冷戦終結以降、欧州の多くの国では、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識される一方で、欧州域内やその周辺における地域紛争の発生、国際テロリズムの台頭、大量破壊兵器の拡散、サイバー空間における脅威の増大といった多様な安全保障課題が生起してきた。特に、国際テロリズムに関しては、各国国内における「ホーム・グロウン型」あるいは「ローン・ウルフ型」のテロとみられる事案の発生を受け、その対応が急務となっている1。また、近年においては、厳しさを増す財政状況が、各国の安全保障・防衛政策に大きな影響を及ぼしてきた中、ウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更の試みや、いわゆる「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。こうした課題・状況に対処するため、欧州では、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)や欧州連合(EU:European Union)といった多国間の枠組みを更に強化・拡大2しつつ、欧州域外の活動にも積極的に取り組むなど、国際社会の安全・安定のために貢献している。また、各国レベルでも、安全保障・防衛戦略の見直しや国防改革、二国間3・多国間4での防衛・安全保障協力強化を進めている。

参照図表I-1-8-1(NATO・EU加盟国の拡大状況)

図表I-1-8-1 NATO・EU加盟国の拡大状況

1 たとえば、ベルギーやフランス、デンマークなどではテロ事件やテロ未遂事件が発生し、各国は警備体制の見直しや入国管理の強化などの対策を行っている。I部2章1節参照

2 NATOは、欧州・大西洋地域全体の安定を目的として、中・東欧地域への拡大を継続してきた。現在、マケドニア、モンテネグロおよびボスニア・ヘルツェゴビナの3か国が、将来的に加盟国となる準備を支援するプログラムである「加盟の為の行動計画」(MAP:Membership Action Plan)への参加(ボスニア・ヘルツェゴビナは条件付で)を認められている。ウクライナ、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタンおよびモルドバの6か国については、NATOとの政治的な協力関係を深めようとする国に対し提供されるプログラムである「個別のパートナーシップ行動計画」(IPAP:Individual Partnership Action Plan)などの枠組みにおいて、欧州・大西洋地域への統合の取組を支援しており、MAPへの参加は現在のところ未定である。

3 たとえば、英国とフランスは10(平成22)年11月の首脳会議において、二国間の防衛・安全保障協力に関する条約と、核施設の共用などに関する条約に署名した。また、14(同26)年1月に開かれた英仏首脳会談では、「安全保障・防衛に関する宣言文書」が採択され、対艦ミサイルの共同開発や無人攻撃機の共同研究、16(同28)年までに共同統合派遣部隊の運用開始を目指すことなどで合意した。このうち、無人攻撃機に関しては14(同26)年11月、英仏政府が無人戦闘航空システムの開発にかかる契約に合意している。

4 たとえば、10(平成22)年9月に、フランス、ドイツ、オランダおよびベルギーの欧州4か国が、C-130やA-310といった各国の輸送機および空中給油機約150機を共同で運用する欧州航空輸送司令部(EATC:European Air Transport Command)を創設した。12(同24)年にはルクセンブルク、14(同26)年7月にはスペイン、12月にはイタリアが新たに参加している。