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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 パキスタン

1 全般

パキスタンは、南アジア地域の大国であるインドと、情勢が不安定なアフガニスタンに挟まれ、中国およびイランとも国境を接するという地政学的に重要かつ複雑な環境に位置している。特に、アフガニスタンとの国境地域ではイスラム過激派が国境を超えて活動を行っており、テロとの闘いにおけるパキスタンの動向には国際的な関心が高い。

パキスタン政府は、アフガニスタンにおける米国の活動に協力しているが、これに対する国内の反米感情の高まりやイスラム過激派による報復テロの発生により、国内治安情勢が悪化するなど、困難な政権運営を余儀なくされている。13(平成25)年5月に行われた下院総選挙の結果、首相に就任したナワズ・シャリフ氏は、武装勢力との対話方針を掲げ、14(同26)年2月、武装勢力と初の和平協議を行ったが、その後、同勢力などによるテロが相次いで発生し、同年6月、パキスタン軍は同勢力に対する軍事作戦を実施した。さらに、同年12月、イスラム武装勢力による北西部ペシャワールでの学校襲撃事件11発生を受け、シャリフ首相は同勢力を強く非難するとともに、憲法改正を行った上で、テロ容疑者を裁くための特別軍事法廷設置を含む国家行動計画を策定し、軍による掃討作戦の継続・強化を表明した。

2 軍事

パキスタンは、インドの核に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとしており、過去にはいわゆるカーン・ネットワークが核関連物資や技術の拡散に関与していた12

パキスタンは、核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルおよび巡航ミサイルの開発も進めており、近年、試験発射を行っている。14(同26)年および15(同27)年には、弾道ミサイル「ガズナビ」、「シャヒーン3」および「ガウリ」や巡航ミサイル「ラード」の試験発射を行っており、弾道ミサイルおよび巡航ミサイルの戦力化を着実に進めているとみられる13

パキスタンは世界第5位の兵器輸入国であり、その大部分を中国および米国からの輸入が占めると指摘されている14。中国とは、スウォード級フリゲート4隻の購入契約を締結し、全て納入が完了しているほか、JF-17戦闘機の共同開発を行い、自国生産により49機導入している。米国からは、11(同23)年までにF-16C/D戦闘機計18機を導入している。

3 対外関係
(1)インドとの関係

参照I部1章7節1項3((1)パキスタンとの関係)

(2)米国との関係

パキスタンは、アフガニスタンにおける米軍の活動を支援するほか、アフガニスタンとの国境地域においてイスラム過激派の掃討作戦を行うなど、テロとの闘いに協力している。これを評価し、04(同16)年、米国はパキスタンを「主要な非NATO同盟国」に指定した。

10(同22)年以降、両国が行っていた戦略対話や米国による対パキスタン軍事支援は、11(同23)年5月の米軍によるパキスタン領内におけるウサマ・ビン・ラーディン掃討作戦をめぐる米パ関係の悪化により中断していたが、13(同25)年10月、オバマ米大統領とシャリフ首相による首脳会談などにおいてそれらの再開が確認され、14(同26)年1月、ケリー米国務長官とアジズ首相顧問の間で3年ぶりに戦略対話が実施された。さらに、15(同27)年1月にも同対話が実施され、パキスタンを訪問したケリー米国務長官は、パキスタン軍による武装勢力の掃討作戦を歓迎するとともに、一時避難民への支援として、約2億5,000万ドルを供与することを表明した。一方で、パキスタンは米国に対し、国内でのイスラム過激派に対する無人機攻撃の即時停止などを求めており、パキスタン政府がたびたび抗議を行って15いるほか、13(同25)年9月に開催された与野党党首による全党会議において、米国による無人機攻撃が明確な国際法違反であると非難する決議を採択した。これに対し米国は、パキスタンがアフガニスタンで活動するイスラム過激派の安全地帯を容認していることが、米国への脅威となっているとして、パキスタンを非難している。このようなテロとの闘いに関する両国の立場を含め、両国関係の今後の動向が注目される。

(3)中国との関係

参照I部1章3節3項5((3)南アジア諸国との関係)

11 14(平成26)年12月、パキスタン・タリバーン運動(TTP)の武装戦闘員が、パキスタン北西部のペシャワール市内にある軍運営の学校へ侵入し、無差別銃撃および爆発物による攻撃を行い、生徒を含む計148人が死亡、120人以上が負傷したと伝えられている。

12 パキスタンは、70(昭和45)年代から核開発を開始したとみられており、98(平成10)年、バルチスタン州チャガイ近郊において同国初の核実験を行った。また、パキスタンの核開発を主導していたカーン博士らにより、北朝鮮、イラン、リビアに主にウラン濃縮技術を中心とするパキスタンの核関連技術が移転されていたことが、04(同16)年に明らかになった。

13 パキスタンの各種ミサイルについては、以下のように指摘されている。
「ナスル」(ハトフ9):射程約60km、移動型で1段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「ガズナビ」(ハトフ3):射程約290km、移動型で1段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「シャヒーン1」(ハトフ4):射程約750km、移動型で1段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「ガウリ」(ハトフ5):射程約1,300km、移動型で1段式液体燃料推進方式の弾道ミサイル
「シャヒーン3」(ハトフ6):射程約2,750km、移動型で2段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「ラード」(ハトフ8):射程約350kmの巡航ミサイル
「バーブル」(ハトフ7):射程約750kmの巡航ミサイル

14 SIPRI「国際的な兵器移転の傾向2014」(15(平成27)年3月)

15 11(平成23)年11月、NATO軍によるパキスタン国境哨所の空爆によってパキスタン軍兵士が死傷する事件が発生し、これに強く反発したパキスタンは、同国内のアフガニスタンへの国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)の補給路を封鎖するなどの措置をとった。12(同24)年6月、クリントン米国務長官(当時)がパキスタン国境哨所の空爆について謝罪したことを受け、パキスタンは補給路の再開を決定した。