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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

4 人的資源の効果的な活用に向けた施策など

1 人事制度改革及び隊員の処遇の充実に関する施策

自衛隊の人的構成は、これまで全体の定数が削減されてきた一方、装備品の高度化、任務の多様化・国際化などへの対応のため、より一層熟練した者、専門性を有する者が必要となっている。

このような状況を踏まえ、防衛大綱などでは、自衛隊の精強性を確保し、厳しい財政事情のもとで人材を有効に活用する観点から、人事制度改革に関する施策を行うこととしている。具体的には、各自衛隊の任務や特性を踏まえつつ、適正な年齢構成を確保するため、60歳定年職域の定年のあり方の見直しや中途退職制度の積極的な活用、より適切な士の人事管理などの施策を講ずるほか、自衛隊操縦士の民間航空会社などへの割愛を実施することとしている。また、幹部や准曹の最終昇任率を見直すほか、精強性を維持するため、体力的要素にも配慮した適切な人事管理を行うこととしている。

また、自衛官は厳しい環境下での職務遂行となるため、隊員が誇りを持ち安心して職務に専念できるよう、職務の特殊性を考慮した俸給と諸手当の支給、福利厚生などの充実を図り、防衛功労章の拡充をはじめ、栄典・礼遇に関する施策を推進している。

2 家族支援への取組

平素からの取組として、部隊と隊員家族の交流や隊員家族同士の交流などを推進している。また、メールやテレビ電話など、海外に派遣される隊員と家族が直接連絡できる手段の確保や、家族からの慰問品の追送支援などを行っている。また、家族説明会を開催して様々な情報を提供するとともに、家族支援センターなどを設置して各種相談に応じる態勢をとっている。

3 厳正な服務規律の保持のための取組

防衛省・自衛隊では、高い規律を保持した隊員を育成するため、「薬物乱用防止月間」、「自衛隊員等倫理週間」、「防衛省職員セクシュアル・ハラスメント防止週間」の期間を設けて、遵法意識の啓発に努めている。

なかでも、パワー・ハラスメントの防止については、隊員がその能力を十分に発揮できるような健全な職場環境の確保及び隊員の人格・尊厳の保護を目的として、16(平成28)年4月に訓令を制定し、職員の教育、全国の部隊や機関における相談員の配置、内部部局及び陸・海・空幕へのホットラインの設置などにより、パワー・ハラスメントの防止に努めている。

4 自衛隊員の自殺防止への取組

自衛隊員の自殺者は平成17年度に101人と過去最多となったが、その後減少しており、平成27年度は73人となっている。自衛隊員の自殺は、隊員本人や残された御家族にとって極めて不幸なことである。防衛省・自衛隊としても有為な隊員を失うことは極めて残念なことであり、自殺防止のため、①カウンセリング態勢の拡充(部内外カウンセラー、24時間電話相談窓口、駐屯地・基地などへの臨床心理士の配置など)、②指揮官や一般隊員へのメンタルヘルスに関する教育などの啓発教育の強化、③メンタルヘルス強化期間の設定、異動など環境の変化を伴う部下隊員に対する心情把握の徹底、各種参考資料の配布などの施策を継続して行っている。

5 殉職隊員への追悼など

1950(昭和25)年に警察予備隊が創設され、保安隊・警備隊を経て今日の自衛隊に至るまで、自衛隊員は、国民の期待と信頼に応えるべく日夜精励し、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めてきた。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員は1,870人を超えている。

防衛省・自衛隊では、殉職隊員が所属した各部隊において、殉職隊員への哀悼の意を表するため、葬送式を行うとともに、殉職隊員の功績を永久に顕彰し、深甚(しんじん)なる敬意と哀悼の意を捧げるため、内閣総理大臣参加のもと行われる自衛隊殉職隊員追悼式など様々な形で追悼を行っている7

平成27年度自衛隊殉職隊員追悼式の様子の画像

平成27年度自衛隊殉職隊員追悼式の様子

6 隊員の退職と再就職のための取組

自衛隊の精強性を保つため、多くの自衛官は、50歳代半ば(若年定年制自衛官)又は20歳代(大半の任期制自衛官)で退職することから、その多くは、退職後の生活基盤の確保のために再就職が必要である。

再就職の支援は、雇用主たる国(防衛省)の責務であり、自衛官の将来への不安の解消や優秀な人材確保のためにも極めて重要であることから、再就職に有効な職業訓練などの援護施策を行っている。また、再就職のための取組は、社会に退職自衛官が持つ様々な技能を還元し、人的インフラを強化する観点からも重要である。

防衛省は自ら職業紹介を行う権限を有していないため、一般財団法人自衛隊援護協会が、厚生労働大臣と国土交通大臣の許可を得て、無料職業紹介事業を行っている。

退職自衛官は、職務遂行と教育訓練によって培われた、優れた企画力・指導力・実行力・協調性・責任感などのほか、職務や職業訓練などにより取得した各種の資格・免許も保有している。このため、地方公共団体の防災や危機管理の分野をはじめ、金融・保険・不動産業や建設業のほか、製造業、サービス業など幅広い分野で活躍している。防衛大綱を踏まえ、今後、退職自衛官の雇用企業などに対するインセンティブを高めるための施策の検討や公的部門における退職自衛官のさらなる活用などを進め、再就職環境の改善を図っていく。

また、自衛官が安心して職務に専念できる環境を確保するため、自衛官の再任用では、60歳前においては3年以内の任期(事務官などは1年以内)を可能としている。なお、中期防では、高度な知識・技能・経験を有する隊員について、精強性の向上に資すると認められる場合には、積極的に再任用を行うこととしている。

参照資料21(再就職援護のための主な施策)

一方、自衛隊員の再就職については、従来の事前承認制に替わって、15(平成27)年10月から新たな再就職等規制が導入され、一般職の国家公務員と同様に、公務の公正性に対する国民からの信頼を確保するため、3つの規制(①他の隊員・OBの再就職依頼・情報提供等の規制、②在職中の利害関係企業等への求職の規制、③再就職者による依頼等(働きかけ)の規制)8が設けられた。これらの規制の遵守状況については、隊員としての前歴を有しない学識経験者から構成される監視機関(防衛人事審議会再就職等監視分科会、内閣府再就職等監視委員会)において監視するとともに、不正な行為には罰則を科すことで厳格に対応することとしている。併せて、再就職情報の届出・公表について制度化し、再就職情報の一元管理・情報公開を的確に実施することとしている。

7 自衛隊殉職者慰霊碑は、1962(昭和37)年に市ヶ谷に建てられ、1998(平成10)年、同地区に点在していた記念碑などを移設し、「メモリアルゾーン」として整理された。防衛省では毎年、殉職隊員の御遺族をはじめ、内閣総理大臣と防衛大臣以下の防衛省・自衛隊高級幹部のほか、歴代の防衛大臣などの参列のもと、自衛隊殉職隊員追悼式を行っている。また、メモリアルゾーンにある自衛隊殉職者慰霊碑には、殉職した隊員の氏名などを記した銘版が納められており、国防大臣などの外国要人が防衛省を訪問した際、献花が行われ、殉職隊員に対して敬意と哀悼の意が表されている。このほか、自衛隊の各駐屯地及び基地において、それぞれ追悼式などを行っている。

8 自衛隊法第65条の2、第65条の3及び第65条の4に規定