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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

2 国家安全保障戦略

1 わが国の国家安全保障政策の体系

13(平成25)年12月に国家安全保障会議と閣議において決定された「戦略」は、外交政策及び防衛政策を中心とした国家安全保障の基本方針として、わが国として初めて策定したものであり、長期的視点から国益を見定めたうえで、今後どのように対応していくべきか、わが国がとるべきアプローチを導き出している。これは、それまでのわが国の防衛政策の基礎として置かれていた「国防の基本方針」に代わるものである。さらに、「戦略」を踏まえて策定された「防衛計画の大綱」(防衛大綱)は、今後のわが国の防衛の基本方針、防衛力の役割、自衛隊の具体的な体制の目標水準などを示している。各種防衛装備品の取得や部隊の運用体制の確立などの防衛力整備は一朝一夕にはできず、長い年月を要することから、防衛大綱は中長期的見通しに立ち策定されている。「戦略」と防衛大綱はともにおおむね10年程度の期間を念頭に置いている。「中期防衛力整備計画」(中期防)は、防衛大綱で示された防衛力の目標水準の達成のために、5か年の経費の総額の限度と主要装備の整備数量を明示したものである。年度予算は中期防を事業として具体化したものであり、情勢などを踏まえて、年度毎に必要な経費を計上するものである。

なお、これまでは防衛大綱において防衛政策を中心にわが国の安全保障に関する基本方針をある程度記述してきたが、「戦略」において外交政策及び防衛政策を中心とした国家安全保障に関する基本方針を示したことに大きな意義がある。

参照図表II-1-3-2(「戦略」、「防衛大綱」、「中期防」及び年度予算の関係)

図表II-1-3-2 「戦略」、「防衛大綱」、「中期防」及び年度予算の関係

2 国家安全保障戦略の概要
(1)国家安全保障の基本理念

ア わが国が掲げる理念―国際協調主義に基づく積極的平和主義―

わが国は、これまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、わが国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に、これまで以上に積極的に寄与していく。

イ わが国の国益と国家安全保障の目標

以上の基本理念を具体的政策として実現するにあたって明確にすべきわが国の国益は以下のとおりである。

○ わが国自身の主権・独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保し、豊かな文化と伝統を継承しつつ、わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うすること

○ 経済発展を通じてわが国と国民のさらなる繁栄を実現し、わが国の平和と安全をより強固なものとすること

○ 自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序を維持・擁護すること

これらの国益を守り、国際社会においてわが国に見合った責任を果たすため、以下の国家安全保障の目標の達成を図る。

○ わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために、必要な抑止力を強化し、わが国に直接脅威が及ぶことを防止するとともに、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除し、かつ被害を最小化すること

○ 日米同盟の強化、域内外のパートナーとの信頼・協力関係の強化、実際的な安全保障協力の推進により、アジア太平洋地域の安全保障環境を改善し、わが国に対する直接的な脅威の発生を予防し、削減すること

○ 普遍的価値やルールに基づく国際秩序の強化や紛争の解決に主導的な役割を果たし、グローバルな安全保障環境を改善し、平和で安定し、繁栄する国際社会を構築すること

(2)わが国を取り巻く安全保障環境と国家安全保障上の課題

ア グローバルな安全保障環境と課題

中国・インドなどの新興国が台頭する一方、米国は政策上の重点をアジア太平洋地域へシフトさせる方針を明らかにしており、国家間のパワーバランスが変化している。また、グローバル化や技術革新の急速な進展により、非国家主体の相対的影響力が増大し、それらによるテロや犯罪の脅威が拡大しつつある。

さらに、北朝鮮やイラン1をはじめとした国・地域による大量破壊兵器の拡散などにかかる問題は、わが国や国際社会にとっての大きな脅威である。

また、邦人やわが国の権益が被害を受けるテロが発生しており、わが国・国民は国内外において国際テロの脅威に直面している。

海洋における力を背景とした一方的な現状変更を図る動き、対衛星兵器の開発の動き、サイバー攻撃など、海洋、宇宙空間、サイバー空間といった国際公共財(グローバル・コモンズ)に対する自由なアクセス及び活用を妨げるリスクが深刻化している。

貧困や人道上の危機など、一国のみでは対処できない地球規模の問題が、人間の安全保障上の重要かつ緊急な課題となっている。また、一国の経済危機が世界経済全体に伝播(でんぱ)するリスクが高まっている。

イ アジア太平洋地域における安全保障環境と課題

様々な政治体制の存在、核兵器国を含む大規模な軍事力を有する国家などの集中、安全保障面の地域協力枠組みが十分に制度化されていないといった背景のもと、領域主権や権益などをめぐり、純然たる平時でも有事でもない事態、いわばグレーゾーンの事態が生じやすく、さらに重大な事態に転じかねないリスクがある。

北朝鮮は、核兵器をはじめとする大量破壊兵器や弾道ミサイルの能力を増強するとともに、軍事的な挑発行為を繰り返し、地域の緊張を高めている。

中国は、国際的な規範の共有・遵守、地域やグローバルな課題へのより積極的かつ協調的な役割が期待される一方、十分な透明性を欠いた広範かつ急速な軍事力の強化、東シナ海・南シナ海などにおける力による現状変更の試みとみられる対応、海空域における活動の急速な拡大・活発化などを見せている。また、台湾海峡を挟んだ両岸関係は安定化の動きと潜在的な不安定性が併存している。

(3)わが国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ

外交政策及び防衛政策を中心としたわが国がとるべき戦略的アプローチは参照のとおり。

参照図表II-1-3-3(わが国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチの概要)

図表II-1-3-3 わが国が取るべき国家安全保障上の戦略的アプローチの概要

1 I部3章2節参照