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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

3 弾道ミサイル攻撃などへの対応

わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、平成16年度から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの整備を開始した。05(平成17)年には、自衛隊法の所要の改正を行い、同年、安全保障会議と閣議において、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。現在までに、イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオット(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3)10の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の多層防衛体制の整備を着実に進めている。北朝鮮が弾道ミサイル開発全体を一層進展させていることを踏まえ、引き続き、米国の先進的な取組や装備品などを研究しつつ、防衛大綱などで示された、わが国の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上についての取組及び検討を加速していく。

参照資料44(わが国のBMD整備への取組の変遷)

1 わが国の弾道ミサイル防衛
(1)基本的考え方

わが国の弾道ミサイル防衛は、イージス艦による上層での迎撃とペトリオットPAC-3による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)11により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。

わが国に武力攻撃として弾道ミサイルなど12が飛来した場合には、武力攻撃事態における防衛出動により対処する。一方、わが国に弾道ミサイルなどが飛来する場合に、武力攻撃事態が認定されていないときには、迅速かつ適切な対処を行うこと及び文民統制を確保することを十分考慮し、防衛大臣は、弾道ミサイルなどを破壊する措置をとることを命ずることができる。

弾道ミサイルなどへの対処に当たっては、空自航空総隊司令官を指揮官とする「BMD統合任務部隊」を組織し、JADGEなどを通じた一元的な指揮のもと、効果的に対処するための各種態勢をとる。また、弾道ミサイルの弾着などによる被害には、陸自が中心となって対処する。

参照図表III-1-2-7(BMD整備構想・運用構想(イメージ図))

図表III-1-2-7 BMD整備構想・運用構想(イメージ図)

(2)防衛省・自衛隊の対応

09(平成21)年3月、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)から、北朝鮮当局からの「試験通信衛星」打ち上げの事前通報があった旨の連絡を受け、防衛大臣が自衛隊法第82条の3第3項に基づく「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の実施に関する自衛隊行動命令」を発出し、SM-3搭載護衛艦を日本海へ、PAC-3部隊を東北地方及び首都圏へ展開させた。また、12(同24)年3月、12月においても、IMOから、北朝鮮当局からの「人工衛星」打ち上げの事前通報があった旨の連絡を受け、防衛大臣が同法第82条の3第3項に基づく「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の実施に関する自衛隊行動命令」を発出し、SM-3搭載護衛艦を日本海及び東シナ海へ、PAC-3部隊を沖縄県や首都圏にそれぞれ展開させるとともに、万一の落下に備え、陸自部隊を南西諸島に派遣した。

SM-3ミサイルの発射訓練を行う海自イージス艦の画像

SM-3ミサイルの発射訓練を行う海自イージス艦

16(同28)年2月2日、IMO及び国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aeronautics Organization)から、北朝鮮当局から「地球観測衛星」打ち上げの事前通報があった旨の連絡を受け、同月3日、不測の事態に備え、「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の実施に関する自衛隊行動命令」を発出し、SM-3搭載護衛艦を日本海及び東シナ海に、PAC-3部隊を、石垣島、宮古島や首都圏にそれぞれ展開させるとともに、沖縄本島に所在するPAC-3部隊がそれぞれの基地において態勢を維持した。また、万一の落下に備え、被害情報の収集や被害局限措置のため、陸自部隊を南西諸島に派遣するなどの万全の対応をとった。同月7日の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射に関し、防衛省・自衛隊は、早期警戒情報(SEW(Shared Early Warning))13や自衛隊の各種レーダーなどにより得た情報を官邸などへ迅速に伝達するとともに、被害の有無を確認するための情報収集を実施した。同月8日、防衛大臣が「弾道ミサイル等に対する破壊措置等の終結に関する自衛隊行動命令」を発出し、速やかに部隊を撤収させた。北朝鮮は、同年3月以降も弾道ミサイルの発射を繰り返しているが、防衛省・自衛隊は、引き続き、米国や韓国とも緊密に連携しつつ、いかなる事態にも対応できるよう、緊張感をもって、情報収集や警戒監視等に万全を期している。

石垣島に展開したPAC-3部隊の画像

石垣島に展開したPAC-3部隊

BMDシステムの効率的・効果的な運用のためには、在日米軍をはじめとする米国とのさらなる協力が必要である。このため、これまでの日米安全保障協議委員会(「2+2」会合)において、BMD運用情報及び関連情報の常時リアルタイムでの共有をはじめとする関連措置や協力の拡大について決定してきた。

また、わが国は従来から、弾道ミサイルの対処にあたり、早期警戒情報(SEW)を米軍から受領するとともに、米軍がわが国に配備しているBMD用移動式レーダー(TPY-2レーダー)やイージス艦などを用いて収集した情報について情報共有を行うなど、緊密に協力している。なお、訓練などによる日米対処能力の維持・向上、検証なども積極的に行われており、10(同22)年度以降、日米艦艇をネットワークで連接して、弾道ミサイル対処のシミュレーションを行うBMD特別訓練を行い、戦術技量の向上と連携の強化を図っているほか、16(同28)年6月には、ハワイ周辺海域において、日米韓ミサイル警戒演習(PACIFIC DRAGON 2016)を実施した。

参照I部2章2節1項(北朝鮮)

2 米国のミサイル防衛と日米BMD技術協力
(1)米国のミサイル防衛

米国は、弾道ミサイルの飛翔経路上の①ブースト段階、②ミッドコース段階、③ターミナル段階の各段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に段階的に配備されている。具体的には、06(平成18)年、米軍車力通信所にTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が配備され、BMD能力搭載イージス艦が、わが国及びその周辺に前方展開している。また、同年10月には沖縄県にペトリオットPAC-3を、07(同19)年10月には青森県に統合戦術地上ステーション(JTAGS:Joint Tactical Ground Station)14を配備した。さらに、14(同26)年12月には、米軍経ヶ岬通信所に2基目のTPY-2レーダーを配備した。

(2)日米BMD技術協力など

平成11年度から、海上配備型上層システムの日米共同技術研究に着手した結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たことから、05(平成17)年12月の安全保障会議及び閣議において、この成果を技術的基盤として活用し、BMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。同共同開発は、防護範囲を拡大し、より高性能化・多様化する将来脅威に対処することを目的として06(同18)年6月から開始されており、17(同29)年頃の完了を目標としている。

これらの日米共同開発に関しては、わが国から米国に対して、BMDにかかわる武器を輸出する必要性が生じる。これについて、04(同16)年12月の内閣官房長官談話において、BMDシステムに関する案件は、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則などによらないとされた。このような経緯を踏まえ、SM-3ブロックIIAの第三国移転は、一定の条件のもと15、事前同意を付与できるとわが国として判断し、11(同23)年6月の日米安全保障協議委員会(「2+2」会合)の共同発表においてその旨を発表した。

なお、14(同26)年4月、防衛装備移転三原則(移転三原則)が閣議決定されたが、同決定以前の例外化措置については、引き続き移転三原則のもとで海外移転を認め得るものと整理されている。

参照資料68(防衛装備移転三原則)

10 ペトリオットPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの一つであり、主として航空機を迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステム

11 自動警戒管制システムは、全国各地のレーダーが捉えた航空機等の情報を一元的に処理し、対領空侵犯措置や防空戦闘に必要な指示を戦闘機などに提供するほか、弾道ミサイル対処においてペトリオットやレーダー等を統制し、指揮統制及び通信機能の中核となるシステム

12 弾道ミサイルその他その落下により、人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であって、航空機以外のものをいう。

13 わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関する発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などのデータを、発射直後、短時間のうちに米軍が解析して自衛隊に伝達する情報(96(平成8)年4月から受領開始)

14 米国の弾道ミサイル情報処理システムの一つ

15 わが国の安全保障や国際の平和及び安定に資する場合であって、かつ当該第三国がSM-3ブロックIIAのさらなる移転を防ぐための十分な政策を有しているとき