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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第2節 朝鮮半島

朝鮮半島では、半世紀以上にわたり同一民族の南北分断状態が続いている。現在も、非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで、150万人程度の地上軍が厳しく対峙している。

このような状況にある朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジア全域の平和と安定にとって極めて重要な課題である。

参照図表I-2-2-1(朝鮮半島における軍事力の対峙)

図表I-2-2-1 朝鮮半島における軍事力の対峙

1 北朝鮮

1 全般

北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野における社会主義的強国の建設を基本政策として標榜し1、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。これは、「軍事先行の原則で軍事を全ての事業に優先させ、人民軍隊を核心、主力として革命の主体を強化し、それに依拠して社会主義偉業を勝利のうちに前進させていく社会主義基本政治方式」と説明されている2。実際に、指導者の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長3は軍を掌握する立場にあり、16(平成28)年1月の「新年の辞」4において、「全軍を確固たる党の軍隊としてさらに強化、発展させる」とともに、「敵を完全に制圧することができる我々式の多様な軍事的打撃手段をさらに多く開発、生産すべき」と述べるとともに、同年5月に開催された第7回朝鮮労働党大会の党中央委員会事業総括報告においても、「先軍革命路線を恒久的な戦略的路線として堅持し、軍事強国の威力を各方面から強化すべき」と述べるなど軍事力の重要性に言及しているほか、軍組織の視察などを多く行っている。これらのことなどから、軍事を重視し、かつ、軍事に依存する状況は、今後も継続すると考えられる。

北朝鮮は、現在も深刻な経済困難に直面し、食糧などを国際社会の支援に依存しているにもかかわらず、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる。また、その軍事力の多くはDMZ付近に展開している。なお、同年4月の最高人民会議における北朝鮮の公式発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は、15.8%となっているが、これは、実際の国防費の一部にすぎないとみられている。

さらに、北朝鮮は、16(同28)年1月に4回目となる核実験を実施したほか、2月以降も弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発などを引き続き推進するとともに、大規模な特殊部隊を保持するなど、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられる。加えて、北朝鮮は、わが国を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返し、特に13(同25)年3月から4月にかけては、米国などに対する核先制攻撃の権利行使やわが国の具体的な都市名をあげて弾道ミサイルの打撃圏内にあることなどを強調した5。また、14(同26)年11月には、国連総会第3委員会において北朝鮮の人権状況決議が採択されたことに反発し、米国や韓国と並んで日本に対しても焦土化し水葬するとの国防委員会声明を発表した6。さらに、16(同28)年2月に発表された軍最高司令部重大声明の中で、第1攻撃対象に韓国大統領府、第2攻撃対象にアジア太平洋地域の米軍基地と米国本土を挙げたほか、同年3月にはわが国に対しても、日本にある米軍施設・区域が打撃手段の射程圏内にあり、北朝鮮はその気になれば一瞬で日本を壊滅させるなどの挑発的言動を繰り返している7

北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国はもとより、地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、弾道ミサイルの開発・配備の動きや朝鮮半島における軍事的対峙、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の動きなどにも注目する必要がある。

北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることなどから、北朝鮮の動向の詳細や意図を明確に把握することは困難であるが、わが国として強い関心を持って注視していく必要がある。

2 軍事態勢
(1)全般

北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線8に基づいて軍事力を増強してきた。

北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約119万人である。北朝鮮軍は、現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられるものの、その装備の多くは旧式である。

一方、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊などを保有している。また、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。

(2)軍事力

陸上戦力は、約102万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。また、北朝鮮は、現在も限られた資源の中で選択的に通常戦力の増強を図っており、主力戦車や多連装ロケットなどを改良しているとみられる9

海上戦力は、約780隻、約10.4万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、旧式のロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約70隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。

航空戦力は、約560機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn-2輸送機を多数保有している。

また、北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力として、約10万人に達するとみられる特殊部隊10を保有しているほか、近年はサイバー部隊を重視し強化を図っているとみられている11

3 大量破壊兵器・弾道ミサイル

北朝鮮は、依然として大規模な軍事力を維持している一方、冷戦構造の崩壊による旧ソ連圏からの軍事援助の減少や経済の不調による国防支出の限界、韓国の防衛力の急速な近代化といった要因により、韓国及び在韓米軍に対して通常戦力において著しく劣勢に陥っている。このため北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの増強に集中的に取り組むことにより劣勢を補おうとしていると考えられる。

こうした北朝鮮の大量破壊兵器・ミサイル開発は、4回目の核実験の強行や度重なる弾道ミサイル発射を通じ一層進展しつつあると考えられ、わが国に対するミサイル攻撃の示唆などの挑発的言動とあいまって、わが国を含む地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。

(1)核兵器

ア 北朝鮮の核開発問題をめぐる最近の主な動き

北朝鮮による核開発問題については、平和的な方法による朝鮮半島の検証可能な非核化を目標として、03(同15)年8月以降、6回にわたって六者会合が開催されている。05(同17)年の第4回六者会合では、北朝鮮による「すべての核兵器及び既存の核計画」の放棄を柱とする共同声明が採択された。06(同18)年には、北朝鮮による7発の弾道ミサイルの発射や核実験実施12、それらに対する国連安保理決議第1695号及び第1718号の採択などもあり、協議は一時中断していたが、北朝鮮はその後第5回六者会合に復帰し、07(同19)年9月の第6回六者会合では、北朝鮮が同年末までに寧辺(ヨンビョン)の核施設の無能力化を完了し、「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を行うことなどが合意された。しかしながら、その合意内容の履行は完了しておらず、六者会合は08(同20)年12月以降、中断している。

その後、09(同21)年の北朝鮮による弾道ミサイル発射や核実験13の実施を受け、同年6月に国連安保理決議第1874号が、12(同24)年12月の北朝鮮による「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射を受け、13(同25)年1月に国連安保理決議第2087号が、また、同年2月の北朝鮮による核実験実施を受け、同年3月には、国連安保理決議第2094号がそれぞれ採択され、北朝鮮に対する制裁が拡充・強化されてきた。さらに、16(同28)年1月の北朝鮮による核実験実施及び同年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射を受け、同年3月、航空燃料の北朝鮮への輸出・供給の禁止や、石炭や鉄鉱石の北朝鮮からの輸入の禁止など、対北朝鮮制裁の更なる追加・強化を含む国連安保理決議第2270号が採択された。

北朝鮮は、05(同17)年に核兵器製造を公言し、12(同24)年に改正された憲法において自らを「核保有国」である旨明記したが、13(同25)年中も「核保有国」としての地位を国際社会に認知させるための動きを見せた。同年3月に、核抑止力さえしっかりしていれば国防費を増やさなくても戦争抑止力と防衛力の効果を高めることで、安心して経済建設と人民生活向上に集中できるとして、経済建設と核武力建設を並行して進めていく、いわゆる「並進路線」を決定し、核兵器は政治的駆け引きや経済的取引の対象ではないとあらためて主張した。また、同年4月には、「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについての法」14を定めた。さらに、16(同28)年3月には、新たな国連安保理決議を受け、「今後も、並進路線の旗を力強く握り締めて自衛的核抑止力を一層強化していく」との声明を発出した15ほか、同年5月に開催された第7回朝鮮労働党大会において、金正恩党委員長は党中央委員会事業総括報告の中で、自国を「核保有国」と位置づけた上で、「並進の戦略的路線を恒久的に堅持し、自衛的な核武力を質・量的にさらに強化していく」旨述べている。

北朝鮮による核開発の目的については、北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると指摘16されていること、北朝鮮は米国の核の脅威に対抗する独自の核抑止力が必要と考えており17、かつ、北朝鮮が米国及び韓国に対する通常戦力における劣勢を覆すことは少なくとも短期的には極めて難しい状況にあること、北朝鮮がイラクやリビアでの体制崩壊は核抑止力を保有しなかったために引き起こされた事態であると主張していること18、そして核兵器は交渉における取引の対象ではないと繰り返し主張していることなどを踏まえれば、北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。

イ 核兵器計画の現状

北朝鮮の核兵器計画の現状は、北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、その詳細について不明な点が多い。しかしながら、過去の核開発の状況が解明されていないことや、16(同28)年1月の核実験を含め、これまで既に4回の核実験を行ったことなどを踏まえれば、核兵器計画が相当に進んでいる可能性も考えられる。

核兵器の原料となり得る核分裂性物質19であるプルトニウムについて、北朝鮮はこれまで製造・抽出を数回にわたり示唆してきたほか20、09(同21)年6月には、新たに抽出されるプルトニウムの全量を兵器化することを表明している21。北朝鮮は13(同25)年4月、07(同19)年9月の第6回六者会合で無能力化が合意された原子炉を含む、寧辺のすべての核施設を再整備、再稼働する方針を表明した。13(同25)年11月、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)は、査察が行われていないため断定はできないものの、原子炉の再稼働を示唆する複数の活動が衛星画像により観測されたとの見解を示した22。また、北朝鮮は、15(同27)年9月、原子炉及びウラン濃縮工場を始めとする寧辺のすべての核施設が再整備され、正常稼働を始めている旨言明している。当該原子炉の再稼働は、北朝鮮によるプルトニウム製造・抽出につながりうることから、その動向が強く懸念される。

また、同じく核兵器の原料となりうる高濃縮ウランについては、米国が02(同14)年に、北朝鮮が核兵器用ウラン濃縮計画の存在を認めたと発表し、その後、北朝鮮は09(同21)年6月にウラン濃縮活動への着手を宣言した。さらに北朝鮮は10(同22)年11月に、訪朝した米国人の核専門家に対してウラン濃縮施設を公開し、その後、数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場の稼動に言及した。当該ウラン濃縮工場は、13(同25)年8月に施設拡張が指摘されており、濃縮能力を高めている可能性もある。こうしたウラン濃縮に関する北朝鮮の一連の動きは、北朝鮮が、プルトニウムに加えて、高濃縮ウランを用いた核兵器開発を推進している可能性があることを示すものであると考えられる23

核兵器の開発については、北朝鮮は06(同18)年10月、09(同21)年5月、13(同25)年2月24、16(同28)年1月25に核実験を実施している。北朝鮮は、これらの核実験により、必要なデータの収集を行うなどして核兵器計画を進展させている可能性が高い。また、北朝鮮は16(同28)年1月に実施した核実験について、水爆実験であった旨主張しているが26、地震の規模から考えれば、一般的な水爆実験を行ったとは考えにくい27。一方、北朝鮮が既に過去4回の核実験を行っており、技術的な成熟が見込まれることなども踏まえつつ、北朝鮮による水爆を含めた核兵器開発の動向について、引き続き注視していく必要がある。北朝鮮は16(同28)年1月の核実験実施以降も、核戦力の更なる強化を繰り返し主張しており、国際社会にとって極めて強く懸念すべき状況は引き続き継続するものと考えられる。

16(同28)年3月には、金正恩党委員長が核兵器技術者らと面会し、小型化された核弾頭と主張する物体を視察する様子を公表28するなど、北朝鮮は、その核兵器計画の一環として、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化を追求しているものと考えられる。一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされているが、米国、ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去4回の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる29。北朝鮮が核兵器計画を継続する姿勢を崩していないことを踏まえれば、時間の経過とともに、わが国が射程内に入る核弾頭搭載弾道ミサイルが配備されるリスクが増大していくものと考えられ、関連動向に重大な関心をもって注目していく必要がある。

このように、北朝鮮による核兵器開発は、北朝鮮が大量破壊兵器の運搬手段となりうる弾道ミサイルの長射程化などの能力増強を行っていることとあわせて考えれば、わが国を含む地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、平和と安定を著しく害するものとして断じて容認できない。

(2)生物・化学兵器

北朝鮮の生物兵器や化学兵器の開発・保有状況については、北朝鮮の閉鎖的な体制に加え、生物・化学兵器の製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装も容易であることから、詳細については不明である。しかし、化学兵器については、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられるほか、生物兵器についても一定の生産基盤を有しているとみられる30, 31

(3)弾道ミサイル

北朝鮮の弾道ミサイルは、北朝鮮が極めて閉鎖的な体制をとっていることもあり、大量破壊兵器同様その詳細については不明な点が多いが、北朝鮮は、軍事能力強化の観点に加え、政治外交的観点や外貨獲得の観点32などからも、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられる。また、14(同26)年3月、6月、7月及び15(同27)年3月にノドン及びスカッドとみられる短・中距離弾道ミサイルを発射したほか、16(同28)年2月以降も「人工衛星」と称する弾道ミサイルを含め、弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、北朝鮮は、しばしば弾道ミサイルを発射し、わが国を含む関係国に対する軍事的挑発を行っている33

ア トクサ

北朝鮮は、射程約120kmと考えられる短距離弾道ミサイル「トクサ」の開発を行っていると考えられる34。トクサは北朝鮮が保有又は開発している弾道ミサイルとしては初めて固体燃料推進方式を採用しているとみられる35

イ スカッド

北朝鮮は、1980年代半ば以降、スカッドBやその射程を延長したスカッドC36を生産・配備するとともに、これらの弾道ミサイルを中東諸国などへ輸出してきたとみられている。また、現在、スカッドの胴体部分の延長や弾頭重量の軽量化などにより射程を延長したスカッドER(Extended Range)を配備しているとみられている。スカッドERの射程は1,000km37に達するとみられており、わが国の一部がその射程内に入る可能性がある。

ウ ノドン

1990年代までに、北朝鮮は、ノドンなど、より長射程の弾道ミサイル開発に着手したと考えられる。すでに配備されていると考えられるノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルであると考えられる。射程は約1,300kmに達するとみられており、わが国のほぼ全域がその射程内に入る可能性がある。

ノドンはこれまで、1993(同5)年に行われた日本海に向けての発射において使用された可能性が高いほか、06(同18)年7月に北朝鮮南東部の旗対嶺(キテリョン)地区から発射された計6発の弾道ミサイルは、スカッド及びノドンであったと考えられる38。また、09(同21)年7月、同地区から発射されたと考えられる計7発の弾道ミサイルについては、それぞれスカッド又はノドンであった可能性がある39。さらに、14(同26)年3月に日本海に向けて発射されたノドンと推定される弾道ミサイルは、初めて北朝鮮西岸から東に向けて朝鮮半島を横断する形で発射されており、北朝鮮は弾道ミサイルの性能や信頼性に自信を深めているものと考えられる40

ノドンの性能の詳細は確認されていないが、命中精度については、この弾道ミサイルがスカッドの技術を基にしているとみられていることから、例えば、特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高さではないと考えられるが、北朝鮮が精度の向上を図っているとの指摘もある。

エ テポドン1

テポドン1は、ノドンを1段目、スカッドを2段目に利用した2段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、射程は約1,500km以上と考えられ、1998(同10)年に発射された弾道ミサイルの基礎となったと考えられる。北朝鮮は、現在では、さらに長射程のミサイルの開発に力点を移していると考えられ、テポドン1はテポドン2を開発するための過渡的なものであった可能性がある。

オ ムスダン

北朝鮮は現在、新型中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile)「ムスダン」の開発を行っている。ムスダンは北朝鮮が1990年代初期に入手した旧ソ連製潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)SS-N-6を改良したものであると指摘されており、スカッドやノドンと同様に発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載され移動して運用される。また、射程については約2,500~4,000kmに達するとの指摘があり、わが国全域に加え、グアムがその射程に入る可能性が指摘されてきた41

北朝鮮は16(同28)年4月にムスダンと推定される弾道ミサイルの発射を初めて試みたものの失敗したと考えられる一方、同年6月には、北朝鮮東岸の元山(ウォンサン)付近より発射されたムスダンと推定される中距離弾道ミサイルが1,000kmを超えた高度(北朝鮮発表によれば最大頂点高度1,413.6km)に達した上で、約400km飛翔し、日本海上に落下した42。この時の発射態様については、高い角度で発射され、通常の軌道に比べて高高度まで打ち上げる一方で、短い距離を飛翔させる、いわゆる「ロフテッド軌道」で発射されたものとみられる43。仮に、この時と同じムスダンと推定される弾道ミサイルが通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は、これまでムスダンについて指摘されてきた約2,500~4,000kmという射程の範囲に合致すると推定されることから、北朝鮮は、6月の発射を通じて、中距離弾道ミサイル(IRBM)44としての一定の機能を示したものと考えられる。同年4月以降の複数回のムスダン発射45が失敗に終わったとみられることから、エンジンやミサイル本体に根本的な欠陥がある可能性も指摘されていたが、失敗等を通じて問題の解決に努め、一定の技術的進展を得た可能性も否定できない。

なお、閉鎖的な体制のために北朝鮮の軍事活動の意図を確認することは極めて困難であること、全土にわたって軍事関連の地下施設が存在するとみられていることに加え、TELに搭載され移動して運用されると考えられることなどから、トクサ、スカッド、ノドン、ムスダンなどのTEL搭載式ミサイルの発射については、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難であると考えられる46

カ テポドン2

テポドン2は、1段目にノドンの技術を利用したエンジン4基を、2段目に同様のエンジン1基をそれぞれ使用していると推定されるミサイルである。射程については、2段式のものは約6,000kmとみられ、3段式である派生型については、ミサイルの弾頭重量を約1トン以下と仮定した場合、約1万km以上におよぶ可能性があると考えられる。テポドン2は、06(同18)年7月、北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から発射され、発射数十秒後に高度数kmの地点で、1段目を分離することなく空中で破損し、発射地点の近傍に墜落したと考えられる。また、北朝鮮は09(同21)年4月、「人工衛星」を打ち上げるとして、同地区からテポドン2又は派生型を利用したとみられる発射を行った。この発射については、わが国の上空を飛び越えて3,000km以上飛翔し、太平洋に落下したと推定される。北朝鮮は、12(同24)年4月にも、「人工衛星」を打ち上げるとして、北朝鮮北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、テポドン2又は派生型を利用したとみられる発射を行ったが、ミサイルは1分以上飛翔し、数個に分かれて黄海に落下しており、発射は失敗したと考えられる47

同年12月、北朝鮮は再び「人工衛星」を打ち上げるとして、同地区からテポドン2派生型を利用した発射を行った。この発射については、落下物がいずれも北朝鮮が事前に設定した予告落下区域に落下し、3段目の推進装置とみられるものを含む物体は軌道を変更しながら飛翔を続け、地球周回軌道に何らかの物体を投入させたことなどが推定される48

さらに、16(同28)年2月にも、北朝鮮は「人工衛星」を打ち上げるとして、再度同地区から12(同24)年12月の発射の際に使用されたものと同様の仕様のテポドン2派生型を利用した発射を行った。この発射により、同様の仕様の弾道ミサイルを2回連続して発射し、概ね同様の態様で飛翔させ、地球周回軌道に何らかの物体を投入したと推定される49ことから、北朝鮮の長射程の弾道ミサイルの技術的信頼性は前進したと考えられる。また、こうした長射程の弾道ミサイルの発射試験は、射程の短い他の弾道ミサイルの射程の延伸や、弾頭重量の増加、命中精度の向上にも資するものであるほか、多段階推進装置の分離技術や、姿勢制御・推進制御技術等は北朝鮮が新たに開発中の他の中・長距離弾道ミサイルにも応用可能とみられることから、北朝鮮が保有するノドン等の弾道ミサイルの性能の向上のほか、ムスダンやKN08、潜水艦発射弾道ミサイルなど新たな弾道ミサイルの開発を含め、北朝鮮による弾道ミサイル開発全体をより一層進展させるとともに、攻撃手段の多様化にも繋がるものであると考えられる。一方、長射程の弾道ミサイルの実用化にあたっては、いくつかの関連技術については更なる検証が必要になるものと考えられ、例えば、長射程の弾道ミサイルの開発にあたっては、弾頭部の大気圏外からの再突入の際に発生する超高温の熱などから再突入体を防護する技術が必要になることから、北朝鮮は今後新たな飛翔試験の実施等により、こうした技術の検証を企図する可能性がある50。また、固定式発射台からの発射は外部からの攻撃に対し脆弱であることから、北朝鮮は今後発射施設の地下化・サイロ化や長射程の弾道ミサイルのTELからの発射といった抗堪性及び残存性の追求を図っていく可能性がある。

16(同28)年6月、鳥取県海岸において、外見等の特徴から、北朝鮮が同年2月に発射したテポドン2派生型の先端部の「外郭覆い」(フェアリング)の一部とみられる漂着物が発見された。同年6月末現在、防衛省において、その詳細について分析中である。

鳥取県海岸で発見された北朝鮮が発射したテポドン2派生型の一部とみられる漂着物【鳥取県提供】の画像

鳥取県海岸で発見された北朝鮮が発射した
テポドン2派生型の一部とみられる漂着物【鳥取県提供】

参照図表I-2-2-3(16(平成28)年2月7日の北朝鮮による「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射について)

図表I-2-2-3 16(平成28)年2月7日の北朝鮮による「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射について

キ 新型大陸間弾道ミサイル

12(同24)年4月及び13(同25)年7月に行われた閲兵式(軍事パレード)で登場した新型ミサイル「KN08」は、詳細は不明ながら、大陸間弾道ミサイルとみられている51。また、15(同27)年10月の閲兵式(軍事パレード)には、「KN08」とみられる新型ミサイルが、これまでと異なる形状の弾頭部で登場した52。この「KN08」の派生型とみられる新型ミサイルについて、米国防省は「KN14」と呼称している旨報じられている。テポドン2が固定発射台から発射するのに対し、KN08及びKN14はTEL搭載式であるため、発射兆候の事前の把握を困難にし、残存性を高める意図があると考えられる。

ク 潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)

北朝鮮は、SLBM及びSLBMの搭載を企図した新型潜水艦の開発を行っていると指摘されてきたが、15(同27)年5月には北朝鮮メディアを通じて写真を公開しつつSLBMの試験発射に成功したと発表した53ほか、16(同28)年1月には、15(同27)年12月の金正恩党委員長の活動に関する記録映画の中で、15(同27)年5月に公開したものとは異なるSLBMとみられる射出試験の映像を放映した。さらに、16(同28)年4月にも、北朝鮮はSLBMの試験発射に再び成功したと発表した54。仮に北朝鮮が公表した画像及び映像が正しいとすれば、空中にミサイルを射出した後に点火する、いわゆる「コールド・ローンチシステム」の運用に成功している可能性があると考えられる。また、16(同28)年4月の発射においては、ミサイルから噴出する炎の形及び煙の色などから、固体燃料が使用された可能性が指摘されている55。北朝鮮は、同年7月にも、新浦(シンポ)沖よりSLBMと推定される弾道ミサイル1発を発射しており、引き続き、関連の動向に注目していく必要がある。こうしたSLBMの開発により、北朝鮮は弾道ミサイルによる打撃能力の多様化と残存性の向上を企図しているものと考えられる。

参照図表I-2-2-2(北朝鮮の弾道ミサイルの射程)

図表I-2-2-2 北朝鮮の弾道ミサイルの射程

ケ 弾道ミサイル開発に関する動向と見通し

北朝鮮が発射実験をほとんど行うことなく、弾道ミサイル開発を急速に進展させてきた背景として、外部からの各種の資材・技術の北朝鮮への移転の可能性が考えられる。また、弾道ミサイル本体及び関連技術の移転・拡散を行い、こうした移転・拡散によって得た利益でさらにミサイル開発を進めているといった指摘56や、北朝鮮が弾道ミサイルの輸出先で試験を行い、その結果を利用しているといった指摘もある。このほか、長射程の弾道ミサイルの発射実験は、射程の短い他の弾道ミサイルの性能の向上にも資するものであるとともに、関連技術等は北朝鮮が新たに開発中の他の中・長距離弾道ミサイルにも応用可能とみられることから、12(同24)年12月及び16(同28)年2月の発射も含め、テポドン2など長射程の弾道ミサイルの発射は、北朝鮮による弾道ミサイル開発全体をより一層進展させるものであると考えられる。

北朝鮮は、「人工衛星の打上げ」を継続するとともに、より強力な運搬ロケットを開発・発射していくとの主張を続けており、今後も、長射程の弾道ミサイルの実用化に向けたさらなる技術的検証のため、「人工衛星」打上げを名目にした同様の発射を繰り返すなどして、長射程の弾道ミサイル開発を一層進展させる可能性が高い。北朝鮮は、東倉里(トンチャンリ)地区に所在する発射タワーの大型化改修などを行っていると指摘57されており、16(同28)年2月に発射されたミサイルは12(同24)年12月に発射されたテポドン2派生型と同程度の大きさだったものの、将来的にはこれよりも大型の長距離弾道ミサイルが発射される可能性もある。仮に北朝鮮がこうした弾道ミサイルの長射程化をさらに進展させ、同時に核兵器の小型化・弾頭化等を実現した場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。

さらに、16(同28)年4月には初めてムスダンの発射を試み、同年6月の発射では中距離弾道ミサイル(IRBM)としての一定の機能が示されたと推定されるほか、同年3月には大気圏再突入環境模擬試験や、固体燃料ミサイルエンジンの燃焼実験、新型ICBMエンジンの地上実験の実施を公表するなど、北朝鮮は新たな中・長距離弾道ミサイルの実用化に向けた技術の獲得及びその高度化を追求する姿勢を示しており、わが国を含む関係国にとって深刻な懸念となっている。

加えて、北朝鮮は、弾道ミサイルの研究開発だけでなく、運用能力の向上を企図した動きも活発化させている。金正恩党委員長は、軍部隊に対し形式主義を排した実戦的訓練を行うよう繰り返し指導しているが、14(同26)年以降の弾道ミサイル発射事案では、過去に例の無い地点から、早朝・深夜に、TELを用いて複数の弾道ミサイルを発射するなど、北朝鮮が任意の地点・タイミングで弾道ミサイルを発射できることが示された。このような奇襲攻撃能力を含む弾道ミサイル部隊の運用能力の向上は、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威がさらに高まっていることを示している。

このように、北朝鮮の弾道ミサイル問題は、核問題ともあいまって、その能力向上の観点、移転・拡散の観点の双方から、わが国を含むアジア太平洋地域及び国際社会にとって、より現実的で差し迫った問題となっており、その動向が強く懸念される。

4 内政
(1)金正恩体制の動向

北朝鮮においては、11(同23)年の金正日(キム・ジョンイル)国防委員会委員長死去後、金正恩氏が12(同24)年4月までに朝鮮人民軍最高司令官、朝鮮労働党第1書記及び国防委員会第1委員長に就任して事実上の軍・党・「国家」のトップとなり、短期間で金正恩体制が整えられた。体制移行後は、党関連会議の開催や決定事項などが多く公表されたほか、16(同28)年5月には1980(昭和55)年10月以来36年ぶりとなる第7回朝鮮労働党大会を開催するなど、党を中心とした「国家」運営を行っているとの指摘がある。その一方で、軍事力の重要性を強調しているほか、軍組織の視察などを多く行っていることなどから、金正恩党委員長は、引き続き軍事力を重視していくものと考えられる。

体制移行後、金正恩党委員長は、軍の主要3職である総政治局長、総参謀長及び人民武力部長を含めて頻繁に人事異動を行い、金正恩党委員長が引き上げた人物を党・軍・内閣の要職に配置するとともに、13(平成25)年12月には、金正恩党委員長の叔父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長を「国家転覆陰謀行為」を行ったとして処刑するなど、自身を唯一の指導者とする体制の強化・引き締めを図っているものとみられる58。また、14(同26)年には金正恩党委員長の叔母にあたる金慶喜(キム・ギョンヒ)朝鮮労働党書記の動静報道が途絶えた一方で、金正恩党委員長の実妹とされる金与正(キム・ヨジョン)氏が朝鮮労働党幹部として動静が報じられるようになるなど59、金一族の中での世代交代も進んでいる可能性がある。

16(同28)年5月に開催された党大会においては、金正恩氏が新たなポストである党委員長に推戴されるとともに、金正恩党委員長が党中央委員会活動総括報告の中で、自国を「核保有国」と位置づけ、経済建設と核武力建設の並進路線を恒久的に堅持し、自衛的な核武力を質・量的にさらに強化していくと発言するなど、核・ミサイル開発を継続する姿勢を内外に示した。また、党大会前には弾道ミサイルの発射を含む各種挑発活動を過去に例を見ない内容と頻度で行った。

党大会の開催は、党に軸足を置いた「国家」運営を重視する金正恩党委員長による統治体制が組織・人事面等において名実ともに本格化したことを示している可能性がある60。また、同年6月に開かれた最高人民会議において、国防委員会を国務委員会に改めることが決定されるとともに、金正恩党委員長が国防委員会第1委員長に代わる「国家」の新たな「最高首位」である国務委員長に推戴されたことも、統治体制の本格化の現れと考えられる。しかし、幹部の頻繁な処刑や降格・解任にともなう萎縮効果により、幹部が金正恩党委員長の判断に異論を唱え難くなることや、対南政策を担う統一戦線部の金養建(キム・ヤンゴン)部長が15(同27)年12月に交通事故死し、後任には強硬派とされる金英哲(キム・ヨンチョル)偵察総局長が就任したとの指摘もあることから、十分な外交的勘案がなされないまま北朝鮮が軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる。また、貧富の差の拡大や外国からの情報の流入などにともなう社会統制の弛緩などに関する指摘もなされており、体制の安定性という点から注目される。

(2)経済事情

経済面では、社会主義計画経済のぜい弱性に加え、冷戦の終結にともなう旧ソ連や東欧諸国などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、北朝鮮は慢性的な経済不振、エネルギーと食糧の不足に直面している。特に、食糧事情については、引き続き海外からの食糧援助に依存せざるを得ない状況にあるとみられている61。また、16(同28)年1月の核実験や同年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射等の北朝鮮による各種挑発行為を受け、韓国は南北間の交易額の99パーセント以上を占める開城工業団地の操業を全面的に中断することを決定したほか、わが国や米国等も独自の制裁措置を強化しており、これらに加え16(同28)年3月に採択された国連安保理決議第2270号による制裁措置が最大の貿易相手国である中国62を含む関係各国によって厳格に履行されれば、北朝鮮は、更に厳しい経済状況に置かれる可能性がある。

こうした経済面での様々な困難に対し、北朝鮮ではこれまでにも、限定的な改善策や一部の経済管理システムの変更が試みられてきた63ほか、経済開発区の設置64や、工場などの生産・販売計画に関する裁量の拡大などを進めているとされており65、さらに、16(同28)年5月に開催された第7回党大会では、党中央委員会活動総括報告の中で、経済分野の遅れを指摘した上で、国の経済を振興させて人民生活を高めることは最も重大な課題と述べていることからも、北朝鮮は経済の立て直しを重要視しているとみられる。一方、北朝鮮が現在の統治体制の不安定化につながり得る構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、様々な困難がともなうと考えられる。

5 対外関係
(1)米国との関係

米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じた核問題の解決を図ろうとしている。六者会合の再開については、米国は一貫して、北朝鮮が05(同17)年の六者会合共同声明の遵守や南北関係の改善のための具体的な措置を講じることが必要との立場を示している。

これに対し北朝鮮は、米国の北朝鮮に対する敵視政策や米朝間の信頼関係の欠如が朝鮮半島の平和と非核化を妨げているなどとして米国を非難し、信頼関係構築のため、まず米朝間における平和協定締結が必要だと主張している66。このように、以前から米朝の立場には隔たりがみられていたが、さらに13(同25)年1月の国連安保理決議第2087号採択以降、北朝鮮は、米国の敵視政策がより危険な段階に入っているとして、地域の平和と安全を保障するための対話の余地は残しつつ、世界の非核化が実現される以前の朝鮮半島の非核化は不可能であり、朝鮮半島の非核化のための対話は今後なくなるであろうと主張している。こうした両者の立場の溝は依然埋まっておらず、同年6月に北朝鮮が国防委員会報道官重大談話として米朝高官級会談の開催を提案したのに対し、米国は、具体的な行動で非核化に向かっていることを示さなければならないとの立場を崩さず、会談は実現していない。

また、北朝鮮は、米国の対北朝鮮敵視政策の現れとして、米韓連合演習などに強く反発し、強硬な対米非難を繰り返すとともに、弾道ミサイルの発射など軍事的挑発を行ってきている67。16(同28)年3月から4月にかけての米韓連合演習に際しても、攻撃対象としてアジア太平洋地域の米軍基地や米国本土を挙げるなど、強硬な主張とともに、弾道ミサイルや多連装ロケットなどの発射を繰り返した。

(2)韓国との関係

南北関係は、10(同22)年3月の韓国哨戒艦沈没事件68、同年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件69といった南北間の軍事的な緊張をもたらす事案が発生するなど、李明博(イ・ミョンバク)政権下では関係が悪化していた。13(同25)年2月に朴槿恵(パク・クネ)政権が発足してからも、北朝鮮は、13(同25)年1月の国連安保理決議第2087号や3月の国連安保理決議第2094号の採択、また3月から4月にかけての米韓連合演習などに反発し、南北の不可侵に関する全ての合意の全面無効化など強硬な主張を行った70。13(同25)年4月末まで行われた米韓連合演習の終了後は、北朝鮮は次第に韓国に対する挑発的言動を緩和させ、8月には事実上操業を停止していた開城(ケソン)工業団地71の再開に合意したほか、14(同26)年2月には南北離散家族再会行事が3年4か月ぶりに実施されるなど韓国との対話を行ってきたが、14(同26)年2月末から米韓連合演習が開始されると、小型無人機の韓国領空内への侵入72や、白翎島(ペンニョンド)や延坪島(ヨンピョンド)などが位置する韓国西北島嶼地域で大規模な海上射撃訓練を行うなど、軍事的挑発を行った73

15(同27)年8月には、非武装地帯(DMZ)内韓国側区域で地雷が爆発し、韓国軍の兵士2名が重傷を負ったことを発端として、韓国が約11年ぶりに対北拡声器放送を再開し、南北間で砲撃事案が発生する等、関係が極度に緊張したが、南北高官級協議の結果、拡声器放送の中断を含む共同報道文に合意し74、同年10月には南北離散家族再会行事が実施されるなど一時的に緊張は緩和された。しかし、関係改善のための次官級会談では、具体的な合意の発表はなかったほか、北朝鮮が16(同28)年1月に核実験を、同年2月に「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射を強行したことを受け、韓国は対北拡声器放送の再開や在韓米軍によるTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense)75配備に関する米韓公式協議の開始の決定、開城(ケソン)工業団地の稼働を全面的に中断する決定などの措置を講じた。これに対し、北朝鮮側も開城工業団地を軍事統制区域と宣言し、韓国側関係者を全員追放して資産を凍結する旨表明したほか、同年3月から4月にかけての米韓連合演習に際しては、第一打撃対象に韓国大統領府を挙げるなど挑発的な言動を繰り返しており、南北間での緊張が高まった。同年5月の第7回朝鮮労働党大会以降、北朝鮮は、韓国に対し、軍事当局間の対話を提案しているが、韓国は、北朝鮮が非核化の意思を行動で示さない限り対話には応じないとの姿勢を示している。

(3)中国との関係

中国との関係では、1961(昭和36)年に締結された「中朝友好協力及び相互援助条約」が現在も継続している76。現在、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、15(平成27)年の北朝鮮の貿易総額77に占める中国と北朝鮮の貿易額の割合は約64%と極めて高水準であり、北朝鮮による中国依存が指摘されている。

一方、北朝鮮情勢や核問題に関しては、中国は朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。また、中国は、国連安保理決議第2087号及び第2094号に賛成したほか、両決議の採択を受けて、13(同25)年2月及び同年4月に同決議で定められた物品の禁輸措置を徹底する通達を出した。また、16(同28)年1月の北朝鮮による核実験及び同年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射に際しては、中国は当初朝鮮半島の不安定化を招いてはならないとして過度な制裁への懸念を示唆していたものの、最終的には北朝鮮に対する制裁を大幅に強化する内容を含む国連安保理決議第2270号に賛成した。

このように、中国は北朝鮮にとって極めて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。一方、核・弾道ミサイル問題をめぐり北朝鮮が必ずしも中国の立場と一致した行動を採らないことや、中国との経済協力において重要な役割を果たしていた張成沢国防委員会副委員長が処刑されたことなどから、北朝鮮と中国の関係や中国の北朝鮮に対する影響力については今後とも注目される。

また、14(同26)年以降、高官往来の回数の減少や習近平国家主席による北朝鮮未訪問のままでの韓国国賓訪問など、政治・外交面における冷却化の可能性が指摘されていた中朝関係については、15(同27)年9月のいわゆる「抗日戦争勝利70周年記念式典」に際して崔竜海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党書記が訪中したほか、同年10月の朝鮮労働党70周年記念行事に際して、中国の劉雲山(りゅううんざん)政治局常務委員が訪朝し、金正恩党委員長は劉雲山常務委員との会談において中朝関係は血潮をもって結ばれた戦略的関係であり、一層強化・発展させていく旨言及するなど、中朝関係の改善局面入りを示す動きも一時的にみられた。しかし、中国による朝鮮半島非核化の要請にも関わらず、北朝鮮が16(同28)年1月に核実験を強行し、同年2月には武大偉(ぶだいい)・中国外交部朝鮮半島事務特別代表の訪朝直後に「人工衛星」と称する弾道ミサイルを発射したことなどから、中朝関係は再び冷却化している可能性が考えられる。同年6月、李洙墉(リ・スヨン)党副委員長が訪中し、習近平国家主席と会談を行ったが、北朝鮮側が並進路線への理解を求めた一方、中国側は自制と対話を呼びかけたとされ、北朝鮮の核開発をめぐる中朝間の隔たりは依然として大きいとみられる。

(4)ロシアとの関係

ロシアとの関係は、冷戦の終結にともない疎遠になっていたが、00(同12)年には「露朝友好善隣協力条約」が署名された78。11(同23)年8月には、金正日国防委員会委員長(当時)がロシアを訪問し、9年ぶりに露朝首脳会談が行われ、ガス・パイプライン事業における協力などを進めることで合意したほか、金正恩体制への移行後の12(同24)年9月には、北朝鮮のロシアに対する債務のうち、90%を帳消しとする旨の協定に調印するなど、露朝間は友好関係を保っている。さらに、13(同25)年9月にはロシア極東沿海地方のハサンと北朝鮮北東部の羅津(ラジン)港を結ぶ鉄道が開通した。14(同26)年以降、北朝鮮はさらに対ロシア外交を活発化させ、多くの高官の往来や経済協力における進展がみられた79

北朝鮮の核問題については、ロシアは、中国と同様、朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。13(同25)年2月の北朝鮮による核実験実施後には、核実験を非難する声明を発表しているが、同時に、北朝鮮との正常な貿易・経済関係に影響を及ぼしかねない制裁措置には反対するとも表明している。また、16(同28)年1月の北朝鮮による核実験及び同年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射に際しては、国連安保理決議違反であるとして北朝鮮を非難しつつ、一方で北朝鮮の経済崩壊は回避すべきとして厳しい制裁には慎重な姿勢を示唆したが、最終的には自国への影響を局限する形で決議に同意した。

(5)その他の国との関係

北朝鮮は、1999(同11)年以降、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試み、欧州諸国などとの国交の樹立80やARF(ASEAN Regional Forum)閣僚会合への参加などを行ってきた。また、イラン、シリア、パキスタン、ミャンマー、キューバといった国々との間では、武器取引や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係が伝えられている。13(同25)年4月には、北朝鮮がシリアに対してガスマスクなどの輸出を図りトルコ当局に阻止され、また同年7月には、キューバから北朝鮮に向かっていた北朝鮮船籍の「清川江(チョンチョンガン)」号が、パナマ運河付近でパナマ当局によって拿捕され、MiG-21戦闘機や地対空ミサイルシステムなど、国連安保理決議違反の積荷が押収された。

近年では、北朝鮮はアフリカ諸国との関係を強化しているものとみられ、北朝鮮高官がアフリカ諸国を訪問している81。これらの関係強化の背景には、通常の政治・経済上の協力強化といった目的のほか、国連安保理決議に基づく制裁や中東の政治的混乱などにより困難になりつつある武器取引や軍事協力をアフリカ諸国で拡大し82、外貨を獲得しようとする狙いも含まれるとみられ、このような北朝鮮の違法な活動が核・弾道ミサイル開発の資金源となる可能性が懸念される。

1 北朝鮮はこれまで、故金日成(キム・イルソン)国家主席の生誕100周年にあたる12(平成24)年に「強盛大国」の扉を開くとしてきたが、最近では「強盛国家」との表現が主に用いられている。

2 第7回朝鮮労働党大会決定書「朝鮮労働党中央委員会事業総括について」(16(平成28)年)5月8日)

3 16(平成28)年5月に開催された第7回朝鮮労働党大会において、金正恩氏が「党委員長」に推戴されたことを受け、金正恩氏の役職は党委員長就任前の記述も含め、党委員長に統一している。

4 北朝鮮では、1994(平成6)年まで、毎年1月1日に金日成国家主席による「新年の辞」の演説が行われてきたが、同国家主席死去後の95(同7)年以降12(同24)年までの間は、これに代わり、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」、朝鮮人民軍機関紙「朝鮮人民軍」、金日成社会主義青年同盟機関紙「青年前衛」の3紙による「新年共同社説」が発表されていた。

5 例えば、「横須賀、三沢、沖縄、グアムはもちろん、米本土もわれわれの射程圏内にある」(13(平成25)年3月31日付「労働新聞」)、「日本の全領土は、われわれの報復攻撃の対象となることを免れられない(その文脈で、東京、大阪、横浜、名古屋、京都の地名を列挙)」(同年4月10日付「労働新聞」)など

6 14(平成26)年11月23日に発表された朝鮮民主主義人民共和国国防委員会声明

7 例えば、「ひとたび朝鮮半島で火が付いた場合、日本にある米軍侵略基地はもちろん、戦争に利用される日本の全てのものは一瞬にして灰じんと化すであろう」「(朝鮮は)いまやその気になれば瞬間に日本を壊滅させるだけでなく、ハワイ、米国本土までも直撃破壊する報復能力を持っている」(16(平成28)年3月10日付「労働新聞」)など。また、16(平成28)年3月7日付の祖国平和統一委員会報道官声明は、「日本と太平洋地域、米国本土にある全ての侵略の拠点が、北朝鮮が保有している様々な打撃手段の射程圏内にある」旨言及している。

8 1962(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回総会で採択された。

9 「ミリタリー・バランス(2014)」によれば、北朝鮮は、ソ連製T-54やT-55といった戦車を、T-62を基礎として独自生産した天馬(チョンマ)に更新している。また、韓国国防部が15(平成27)年1月に公表した「2014国防白書」では、北朝鮮による新型の300mm多連装ロケットの開発や戦車・装甲車・多連装ロケットの保有数の大幅増加などが指摘されている。なお、16(平成28)年3月には、300mm多連装ロケットを3回にわたり多数発射し、同年4月には新型の短距離地対空ミサイルを発射したとされている。

10 北朝鮮の特殊部隊には軍関係のものと朝鮮労働党関係のものがあるとされていたが、09(平成21)年にこれらの組織が統合され、軍の下に「偵察総局」が設置されたと伝えられており、13(同25)年3月には、北朝鮮の朝鮮中央放送が、金英哲(キム・ヨンチョル)大将を偵察総局長として報じたことから、同組織の存在が公式に確認された。なお、サーマン在韓米軍司令官(当時)は、12(同24)年10月の米陸軍協会における講演で「北朝鮮は、世界最大の特殊部隊を保有しており、その兵力は6万人以上に上る」と述べているほか、韓国の「2014国防白書」は、「北朝鮮軍の特殊戦兵力は現在、20万人余りに達すると評価される」と指摘している。

11 16(平成28)年2月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮は、おそらく、政治目標の達成を支援するために、妨害又は破壊を伴うサイバー攻撃を実施する能力及び意志を有している」と指摘しているほか、同年同月に米国防省が議会に提出した年次報告書「北朝鮮の軍事及び安全保障の進展」(2015 年版)は、「北朝鮮は、攻勢的なサイバーオペレーションの能力を韓国や米国を含む敵国での情報収集と混乱を惹起するための魅力的な基盤の一つと見ているものと思われる」と指摘している。また、韓国の「2014国防白書」によれば、北朝鮮はサイバー戦力要員として6,000人余りを投入し、韓国の軍事作戦や国家インフラを阻害するなどのサイバー攻撃を実施している。北朝鮮によるサイバー攻撃事案については、I部3章5節参照

12 06(平成18)年10月27日、わが国が収集した情報とその分析並びに米国や韓国の分析などをわが国独自で慎重に検討・分析した結果、政府として、北朝鮮が核実験を行った蓋然性が極めて高いものと判断するに至った。

13 政府としては、09(平成21)年5月25日に北朝鮮が朝鮮中央通信を通じて地下核実験を実施し成功させた旨を公表したこと及び気象庁が通常の波形とは異なる北朝鮮の核実験による可能性のある地震波を探知したことから、北朝鮮が同日に核実験を行ったものと考えている。

14 13(平成25)年4月1日の朝鮮中央通信の報道によれば、同法は北朝鮮を「核保有国」とした上で、その「核保有国の地位」を更に強固にするため、核抑止力及び核報復打撃力の質・量的な強化、核兵器などの安全管理、核拡散防止への協力、核軍縮への積極支持などを規定している。

15 16(平成28)年3月4日に発表された朝鮮民主主義人民共和国政府報道官声明

16 14(平成26)年3月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」

17 例えば、14(平成26)年3月14日に発表された朝鮮民主主義人民共和国国防委員会声明では、米国が北朝鮮に対して核の威嚇と恐喝を行っており、北朝鮮は国と民族の自主権を守護するためにやむを得ず核抑止力を持つことになったと主張している。

18 例えば、13(平成25)年12月2日付の「労働新聞」論評は、「イラク・リビア事態は、米国の核先制攻撃の脅威を恒常的に受けている国が強力な戦争抑止力を持たなければ、米国の国家テロの犠牲、被害者になるしかないという深刻な教訓を与えている」と主張している。

19 プルトニウムは、原子炉でウランに中性子を照射することで人工的に作り出され、その後、再処理施設において使用済の燃料から抽出し、核兵器の原料として使用される。一方、ウランを核兵器に使用する場合は、自然界に存在する天然ウランから核分裂を起こしやすいウラン235を抽出する作業(濃縮)が必要となり、一般的に、数千の遠心分離機を連結した大規模な濃縮施設を用いてウラン235の濃度を兵器級(90%以上)に高める作業が行われる。

20 北朝鮮は03(平成15)年10月に、プルトニウムが含まれる8,000本の使用済み燃料棒の再処理を完了したことを、05(同17)年5月には、新たに8,000本の使用済み燃料棒の抜き取りを完了したことをそれぞれ発表している。

21 シャープ在韓米軍司令官(当時)は、11(平成23)年4月の下院軍事委員会で「いくつかの核兵器に十分な量のプルトニウムを保有していると評価している」と証言している。また、韓国の「2014国防白書」は、北朝鮮が40kg余りのプルトニウムを保有していると推定している。

22 14(平成26)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、北朝鮮は「ウラン濃縮施設を拡張し、以前プルトニウム製造に使用していた原子炉を再稼働させ、自身が表明したことを実行した」と指摘。また、原子炉が再稼働すれば、1年あたり核爆弾約1個を製造できる量のプルトニウム(約6kg)を製造できる能力を有することになるとの指摘がある。

23 12(平成24)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮の(ウラン濃縮施設の)公開は、北朝鮮がこれまでウラン濃縮能力を追求してきたとの米国の長年にわたる評価を裏付けるものである」と指摘している。また、韓国の「2014国防白書」においては、「北朝鮮は高濃縮ウラン(HEU:Highly Enriched Uranium)プログラムを進めていると評価される」との指摘がなされている。

24 13(平成25)年2月12日午前11時59分頃、北朝鮮付近を震源とする、通常の波形とは異なる自然地震ではない可能性のある地震波を気象庁が観測し、また、同日、朝鮮中央通信を通じ北朝鮮が核実験を実施し成功させた旨公表があった。これらを踏まえ、政府において、米国や韓国などと連絡を取りつつ、事実関係の確認を行った。政府としては、以上の諸情報を総合的に勘案した結果、北朝鮮が核実験を実施したものと判断した。なお、北朝鮮は、「第3回地下核実験を成功裏に行った」「以前とは異なり、爆発力が大きいながらも小型化・軽量化された原子爆弾を使用し、高い水準で安全かつ完璧に行われた」「多種化されたわれわれの核抑止力の優秀な性能が物理的に誇示された」などと発表している。

25 16(平成28)年1月6日午前10時30分頃、北朝鮮付近を震源とする、通常の波形とは異なる自然地震ではない可能性のある地震波を気象庁が観測し、また、同日、北朝鮮は朝鮮中央通信を通じ、水爆実験を実施し成功させた旨の声明を公表した。政府としては、これらの情報を含め、諸情報を総合的に勘案した結果、北朝鮮が核実験を実施したものと判断した。

26 北朝鮮は16(平成28)年1月6日に実施した核実験について「初の水爆実験を成功裏に実施した」「新たに開発された実験用水爆の技術的諸元が正確だということを完全に実証し、小型化された水爆の威力を科学的に解明した」などと発表している。これに先立つ15(平成27)年12月10日、朝鮮中央放送は、金正恩党委員長が「水素爆弾の巨大な爆発音を轟かせることができる強大な核保有国となった」旨発言したと報じていた。

27 米国家情報長官「世界脅威評価書(16(平成28)年2月)」は、北朝鮮が16(同28)年1月6日に実施した核実験について、「引き続きこの実験の評価を継続中なるも、今次核実験における出力の低さは、熱核融合装置の実験成功と一致しない」と指摘している。また、韓国国家情報院は16(同28)年1月、4回目の核実験の威力と地震波が、過去3回の核実験に及ばなかったことから、水爆実験の可能性は低い旨国会に報告したと報じられている。

28 16年(同28)年3月9日の朝鮮中央放送によれば、金正恩党委員長が核兵器研究部門の技術者らと会見、核兵器事業を指導し、「核弾頭を軽量化して弾道ロケットに合致するように標準化、規格化を実現した」旨述べたとされている。

29 北朝鮮が06(平成18)年10月に初めて核実験を実施してから既に9年以上が経過し、また北朝鮮はこれまでに4回の核実験を実施している。このような技術開発期間及び実験回数は、米国、ソ連、英国、フランス、中国における小型化・軽量化技術の開発プロセスと比較しても不十分とは言えないレベルに到達しつつある。また、韓国の「2014国防白書」においても「北朝鮮の核兵器の小型化能力はかなりの水準に達している」との評価が示されている。さらに、16(同28)年3月には、韓国統一部報道官が記者会見において、「初の核実験からの期間を考慮すると、北朝鮮が小型化の技術をある程度は確保していると見ている」旨発言したほか、国防部報道官は、「北朝鮮の小型化技術が相当レベルに達したものと評価しているが、現在まで小型化された核弾頭とKN08の実戦能力は確保できていないものと見ている」旨発言した。なお、北朝鮮は、同年3月、「小型化された核弾頭」と主張する物体にかかる画像を公開し、KN08とみられる新型大陸間弾道ミサイルへの搭載可能性を示唆している。

30 例えば、韓国の「2014国防白書」は、「(北朝鮮は)1980年代から化学兵器を生産し始め、約2,500~5,000トンの様々な化学兵器を貯蔵していると推定される。また、炭疽菌(たんそきん)、天然痘(てんねんとう)、ペストなど様々な種類の生物兵器を独自に培養し、生産しうる能力を保有していると推定される」と指摘している。また、13(平成25)年5月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」は、「北朝鮮は、火砲や弾道ミサイルを含む様々な通常兵器を改良することにより、化学兵器を使用できる可能性がある」と指摘している。

31 北朝鮮は、1987(昭和62)年に生物兵器禁止条約を批准しているが、化学兵器禁止条約には加入していない。

32 北朝鮮は自ら、「外貨稼ぎを目的」に弾道ミサイルを輸出していると認めている。(1998(平成10)年6月16日「朝鮮中央通信」論評、02(同14)年12月13日北朝鮮外務省報道官談話)

33 14(平成26)年以降の北朝鮮による短・中距離弾道ミサイル発射事案の概要は次のとおり。①14(同26)年3月3日午前6時20分頃及び午前6時30分頃、朝鮮半島東岸の元山(ウォンサン)付近から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、東北東に向けて発射した。いずれも約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。②同月26日午前2時30分頃から午前2時40分頃にかけて、朝鮮半島西岸の粛川(スクチョン)付近から、ノドンと推定される弾道ミサイルを2発、東方に向けて発射した。いずれも約650km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。③6月29日午前5時頃、朝鮮半島東岸の元山(ウォンサン)付近から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、東方に向けて発射した。発射された弾道ミサイルは最大で約500km飛翔し、いずれも日本海上に落下したものと推定される。④7月9日午前4時頃から4時20分頃にかけて、北朝鮮南西部(平壌の南方約100km)から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、北東に向けて発射した。発射された弾道ミサイルはいずれも約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。⑤7月13日午前1時20分頃から1時30分頃にかけて、北朝鮮南部の開城(ケソン)付近から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、北東に向けて発射した。発射された弾道ミサイルはいずれも約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。⑥7月26日午後9時35分頃、北朝鮮西岸(海州(ヘジュ)の西方約100km)から、スカッドと推定される弾道ミサイルを1発、東方に向けて発射した。発射された弾道ミサイルは約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。⑦15(同27)年3月2日午前6時30分頃及び6時40分頃、北朝鮮西岸南浦(ナンポ)付近から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、東北東に向けて発射した。発射された弾道ミサイルはいずれも約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。⑧16(同28)年3月10日午前5時22分頃及び5時27分頃、北朝鮮西岸の南浦(ナンポ)付近から、スカッドと推定される弾道ミサイルを2発、東北東に向けて発射した。発射された弾道ミサイルはいずれも約500km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。⑨同月18日午前5時54分頃、北朝鮮西岸の粛川(スクチョン)付近から、ノドンと推定される弾道ミサイルを1発、東方向に発射した。発射された弾道ミサイルは約800km飛翔し、日本海上に落下したものと推定される。

34 ベル在韓米軍司令官(当時)は、07(平成19)年3月の下院軍事委員会で「北朝鮮は、新型で固体燃料推進方式の短距離弾道ミサイルを開発中である。最近では、06(同18)年3月、このミサイルを成功裏に試験発射した。一旦運用可能な状態になれば、このミサイルは現行のシステムに比し、より機動的かつ急速展開が可能で、一層短い準備期間での発射が可能となるだろう」と証言した。

35 一般的に、固体燃料推進方式のミサイルは、固体状の推進薬が前もって充填されており、液体燃料推進方式に比べ、即時発射が可能であり発射の兆候が事前に察知されにくく、かつ、保管や取扱いも比較的容易であることなどから、軍事的に優れているとされる。

36 スカッドB及びスカッドCの射程は、それぞれ約300km、約500kmとみられている。

37 16(平成28)年2月に議会に提出した米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」

38 北朝鮮が06(平成18)年7月に発射した計7発の弾道ミサイルのうち、3発目については北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から発射されたテポドン2であったと考えられる。

39 発射された計7発の弾道ミサイルは、いずれも09(平成21)年6月22日に北朝鮮より連絡を受け、海上保安庁が航行警報を発出した軍事射撃訓練区域内に落下したのではないかと推測される。

40 16(平成28)年3月18日にも、北朝鮮はノドンと推定される弾道ミサイルを同様の形で発射している。

41 シャープ在韓米軍司令官(当時)は、09(平成21)年3月の上院軍事委員会で「北朝鮮は現在、沖縄やグアム、アラスカを攻撃することが可能な新型の中距離弾道ミサイルを配備しつつある」と証言した。また、韓国の「2014国防白書」は、「(北朝鮮は、)2007年に射程3,000km以上のムスダンミサイルを作戦配備したことにより、朝鮮半島を含む日本やグアムなどの周辺国に対する直接的な打撃能力を保有することになった」旨指摘している。

42 北朝鮮は、16(平成28)年6月22日午前5時57分頃及び8時3分頃、それぞれ1発のムスダンと推定される弾道ミサイルを発射した。5時台に発射された弾道ミサイルは、複数に分離した上で北朝鮮東岸沿岸付近に落下した。分離したもののうちの最大飛翔距離は約100kmと推定される。また、8時台に発射された弾道ミサイルについては、本文に記述しているとおりである。翌23日の朝鮮中央放送は、地対地中長距離戦略弾道ロケット「火星(ファソン)10」試験発射を成功させた旨発表するとともに、①弾道ロケットの最大射程を模擬し、高角発射体制で行われたこと、②予定飛行軌道に沿って最大頂点高度1,413.6kmまで上昇、飛行し、400km前方の予定された目標水域に正確に着弾させたこと、③弾道ロケットの飛行動力学的特性と安定性・操縦性、新たに設計された構造と動力系統に対する技術的特性が確証され、再突入段階での弾頭の耐熱性と飛行安全性が検証されたこと、④現地視察を行った金正恩党委員長は、「太平洋の作戦地帯内の米軍を全面的かつ現実的に攻撃し得る確実な能力を持つことになった」と述べたことを報じるとともに、同日付けの労働新聞には発射の様子を示す写真が複数掲載された。

43 北朝鮮がロフテッド軌道で発射した意図については必ずしも明らかではないが、16(平成28)年6月23日の朝鮮中央放送が「今回の試験発射は、周辺国家の安全に些細な影響も与えることなく成功裏に行われた」と報じていることも踏まえれば、わが国を含む他国の領域を飛び越えるような飛翔をさせた場合に想定される近隣国や米国を含む国際社会からの反発や批判を極小化させるねらいもあった可能性が考えられる。なお、ロフテッド軌道により弾道ミサイルが発射された場合、一般的に、迎撃がより困難になると考えられている。

44 中距離弾道ミサイル(IRBM)とは、一般に、約3,000~5,500kmを射程とする弾道ミサイルを指す。

45 北朝鮮は、16(平成28)年4月28日早朝及び夕刻にムスダンと推定される弾道ミサイルをそれぞれ1発ずつ発射したものの、失敗したと推定される。また、同年5月31日早朝にムスダンの可能性がある中距離弾道ミサイル(IRBM)1発を発射したものの、失敗したと推定される。さらに、同年4月15日に発射され、失敗したとみられる弾道ミサイル1発についても、ムスダンであったとの指摘がなされている。

46 16(平成28)年2月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」によれば、トクサ及びスカッド用のTELは合計して最大100両、ノドン用のTELは最大50両、IRBM(ムスダンを指すと考えられる)用のTELは最大50両を保有しているとされる。また、「IHS Jane’s Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(2015)」によれば、北朝鮮は合計700~1,000発保有しており、そのうち45%がスカッド級、45%がノドン、残り10%がその他の中・長距離弾道ミサイルであると推定されている。

47 北朝鮮は発射後、「地球観測衛星の軌道進入は成功しなかった」と発表し、発射が失敗したことを認めている。

48 地球周回軌道に投入されたと推定される何らかの物体が、何らかの通信や、地上との信号の送受信を行っていることは確認されておらず、当該物体が人工衛星としての機能を果たしているとは考えられない。

49 16(平成28)年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射においても、地球周回軌道に投入されたと推定される何らかの物体が、何らかの通信や、地上との信号の送受信を行っていることは確認されておらず、当該物体が人工衛星としての機能を果たしているとは考えられない。

50 朝鮮中央放送は16(平成28)年3月15日、金正恩党委員長の指導の下「弾道ロケット大気圏再突入環境模擬試験」を行い、成功した旨報じている。

51 15(平成27)年2月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮は移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)KN08を2度公開した。このミサイルは未だ試験はなされていないものの、北朝鮮はこのミサイルシステムの配備に向けた初期段階の措置を既に取った」と評価している。

52 15(平成27)年10月13日付のJane’s Defence Weeklyは、同年10月10日の軍事パレードに登場した「KN08」について、3段目が以前より大きくなっていることから射程が延伸されている可能性、質の低い先端部の素材では再突入時の高温に耐えられない為、速度を落とし弾頭部を保護するために鈍頭化した可能性などを指摘している。

53 米国ジョンズホプキンス大学米韓研究所ウェブサイト(38North)が14(平成26)年10月28日付で公表した記事は、北朝鮮北部の新浦(シンポ)造船所付近に、潜水艦や水上艦艇の垂直発射管システムに関する初期段階の研究、開発、試験及び評価に使用される可能性がある新たなテストスタンドが設置されたと指摘している。また、韓国の「2014国防白書」は、北朝鮮が弾道ミサイルを搭載可能な新型潜水艦を建造しているとみられると指摘している。北朝鮮が公表したSLBM「水中試験発射」については、韓国国防部は、当該試験は開発初期段階の「射出試験」にあたり開発完了までには更におよそ4~5年を要するとの評価を示しつつも、北朝鮮によるSLBM開発は北東アジアの安定を阻害するとして懸念を表明し、開発の即時中断を求めている。また、米国防省が16(同28)年2月に議会に提出した「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告(2015年版)」によれば、北朝鮮はSLBMの開発を進めており、少なくとも1基の発射装置を保有しているとされている。これまでの試験発射に使用された新型潜水艦は、排水量2,000トン級と推定され、実験用と指摘されている。

54 韓国合同参謀本部は、北朝鮮が16(平成28)年4月23日午後6時30分頃、新浦(シンポ)北東の日本海上でSLBMと推定されるミサイル1発を発射し、当該ミサイルは約30km飛翔したとみられる旨発表した。また、米戦略軍も、北朝鮮が同日午後6時29分(日本時間)に、日本海上でSLBM1発を発射したことを探知・追跡したと発表している。

55 北朝鮮のSLBMは、液体燃料式の旧ソ連製SLBM「SS-N-6」を改良したものであると指摘されている。

56 例えば、ノドンと、イランのシャハーブ3やパキスタンのガウリの形状には類似点が見受けられ、ノドン本体ないし関連技術の移転などが行われた可能性が指摘されている。また、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散活動について、14(平成26)年1月の米国家情報長官「世界脅威評価」は、「北朝鮮が弾道ミサイルや関連物資をイランやシリアを含む複数の国家に輸出していることや、(07(同19)年に破壊された)シリアにおける原子炉の建設を援助したことは、北朝鮮の拡散活動の範囲を示すものである」と指摘している。また、14(同26)年3月に米国防省が公表した「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」は、北朝鮮が国連安保理決議に基づく各国の取組を迂回するため、複数のダミー企業などを介した輸送などのさまざまな手法を利用している旨指摘している。

57 米国ジョンズホプキンス大学米韓研究所ウェブサイト(38North)が14(平成26)年10月1日及び同年7月29日付で公表した記事は、東倉里(トンチャンリ)地区を撮影した衛星画像を分析した結果、発射タワーが高さ55mに延伸されており、12(同24)年12月に使用されたテポドン2派生型(全長約30m)よりも大型の全長50mまでのロケットが発射可能となると指摘している。

58 張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の処刑後には、北朝鮮メディアは「唯一的領導体系」の強化や「一心団結」を繰り返し呼び掛けており、例えば、14(平成26)年1月10日付「労働新聞」社説では「一心団結を損なう些細な現象や要素に対しても警戒心を持つ」ことを求めている。また、15(同27)年5月には玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長が反逆罪に問われ処刑された可能性が指摘され、韓国国家情報院は同部長が同年4月末に処刑された旨国会に報告したと報じられているほか、北朝鮮メディアは同年7月、朴永植(パク・ヨンシク)前軍総政治局副局長を人民武力部長の肩書きで紹介している。また、北朝鮮メディアは16年2月21日以降、李永吉(リ・ヨンギル)氏に代わり、李明秀(リ・ミョンス)前人民保安部長を総参謀長の肩書きで紹介している。なお、李永吉氏は、16(同28)年5月の朝鮮労働党大会において、党政治局候補委員として発表されている。

59 朝鮮中央放送によれば、金与正氏は16(平成28)年5月に開催された党大会において党中央委員に選出されたほか、党大会後の祝賀パレードにおいてもひな壇上で金正恩党委員長を補佐する姿が報じられている。

60 党大会においては、党中央指導機関(党中央委員会、党政治局等)の委員・候補委員の選挙が実施され、党政治局常務委員に朴奉珠(パク・ポンジュ)首相、崔竜海(チェ・リョンヘ)党書記が新たに選出され、党政治局常務委員は金正恩党委員長、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委委員長及び黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長とあわせ、5人体制となった。党政治局常務委員の5人はいずれも生粋の軍人ではないこと、党政治局内での軍人の序列が押し下げられていること、党中央軍事委員会の構成員に朴奉珠首相が加わったことなどは、党中心の統治体制の本格化の表れであるとの指摘がある。

61 16(平成28)年4月、国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)は、15(同27)年11月から16(平成28)年10月までの主食の食糧総生産量を540万トンと予想し、穀物の輸入必要量を69.4万トンと推定している。食糧総生産量は、干ばつの影響による水不足等により、10(平成22)年以来初めて減少した。

62 15(平成27)年の北朝鮮の貿易総額に占める中国と北朝鮮の貿易額の割合は約64%。ここでの貿易総額の定義については、注77を参照。

63 例えば、09(平成21)年末にはいわゆるデノミネーション(貨幣の呼称単位切下げ)などが行われたが、物資の供給不足などのため物価が高騰するなど経済が混乱し、これに伴い社会不安が増大したとの指摘がある。

64 13(平成25)年3月31日の党中央委員会総会において金正恩党委員長は、各道に経済開発区を設置するよう指示し、これに基づき同年5月には経済開発区法が制定された。また、同年11月には、1か所の特殊経済地帯と13か所の経済開発区の設置が発表され15(同27)年1月には、13か所の経済開発区に関する開発計画が策定されたと報じられている。

65 政策の細部については必ずしも明らかでないが、工業部門については、国家計画外の生産を独自に決定・販売し、従業員の報酬、福利厚生なども独自の実情に合わせて実施するものとされる。農業部門については、家族単位の自律経営制を導入し、土地を1人あたり1,000坪支給した上で、生産物は国家が40%、個人が60%の割合で分配すると指摘されている。

66 例えば、13(平成25)年7月2日の第20回東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会合で、北朝鮮の朴宜春(パク・ウィチュン)外相は、「米国の敵視政策の清算は、わが共和国に対する自主権尊重に基づいて米朝間の平和協定を締結し、各種の反共和国制裁と軍事的挑発を終えるところからまず始めるべきである」と演説している。

67 13(平成25)年3月から4月まで実施されていた米韓連合演習に対しては、国連安保理決議などへの反発とあいまって、朝鮮軍事休戦協定の完全白紙化、米国への核先制攻撃の示唆などの強硬な主張を繰り返した。14(同26)年2月から4月にかけて実施された米韓連合演習に際しては、対米非難を行いつつ、弾道ミサイルや多連装ロケットなどを多数発射した。また、15(同27)年3月から4月にかけて実施された米韓連合演習に際しては、同年3月2日の米韓連合演習の開始日に日本海に向けて弾道ミサイルを発射するとともに、対米非難を繰り返した。

68 10(平成22)年3月26日、韓国海軍の哨戒艦「天安(チョナン)」が北方限界線(NLL:Northern Limit Line)付近の黄海において沈没し、同年5月、米国、オーストラリア、英国、スウェーデンの専門家を含む軍民の合同調査団は、同艦は北朝鮮の小型潜水艦艇から発射された魚雷による水中爆発によって発生した衝撃波とバブル効果により切断され沈没したとの調査結果を発表した。

69 10(平成22)年11月23日、北朝鮮は、韓国軍が黄海に面する延坪島沖において射撃訓練を行っているさなか、延坪島に向けて砲撃を行い、韓国側に民間人を含む死傷者が発生した。

70 13(平成25)年1月には、北朝鮮の祖国平和統一委員会が、韓国に対し、「国連の制裁に積極的に加担する場合、強力な物理的対応措置がとられるだろう」との声明を発表したほか、同年2月には、労働新聞が、「(核実験への対抗措置として韓国が制裁を強化すれば)無慈悲な報復を引き起こす」との論説を発表している。

71 13(平成25)年4月、北朝鮮は、南北経済協力事業として04(同16)年に操業を開始した開城(ケソン)工業団地(韓国との軍事境界線に近い北朝鮮南西部の開城市に立地。多数の韓国企業が、北朝鮮労働者を雇用して操業)について、韓国人関係者の立入りを禁止し、その後、北朝鮮労働者を全て撤収させ、事業を暫定的に中断すると発表。13(同25)年5月には韓国側関係者も全て団地から撤収していた。

72 14(平成26)年3月24日、同月31日及び4月6日に、それぞれ坡州(パジュ)、白翎島(ペンニョンド)及び三陟(サムチョク)で墜落した無人機が発見された。同年5月、韓国国防部は、科学的調査の結果これらの無人機は北朝鮮から飛来したものと確認し、休戦協定と南北不可侵合意に違反する明白な軍事的挑発であるとの立場を発表した。一方、北朝鮮側は、韓国側が事件をねつ造していると批判し、韓国と北朝鮮による共同調査を通じて事実を解明すべきと主張している。

73 韓国国防部の発表によれば、14(平成26)年3月31日、北朝鮮は多連装ロケットなどにより約500発の砲撃を行い、そのうち約100発が北方限界線(NLL:Northern Limit Line)以南の韓国側水域に着弾した。韓国政府は、白翎島などの付近住民に避難命令を発令するとともに、約300発の対応射撃を実施した。韓国側に被害は報じられていない。

74 15(平成27)年8月25日、南北は6項目からなる「共同報道文」に合意し、北側が「地雷爆発による南側兵士の負傷について遺憾を表明」し、南側は「非正常的な事態が発生しない限り、全ての拡声器放送を中断する」こととした。また、離散家族再会行事の実施や、南北関係を改善するための当局会談の実施についても合意した。

75 ターミナル段階にある短・中距離弾道ミサイルを地上から迎撃する弾道ミサイル防衛システム。大気圏外及び大気圏内上層部の高高度で目標を捕捉し迎撃する。弾道ミサイル防衛システムについては、III部1章2節参照

76 締約国(中国、北朝鮮)の一方が軍事攻撃を受け、戦争状態に陥った際には、他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事及びその他の支援を与える旨の規定が含まれている。

77 ここでの北朝鮮の貿易総額は、大韓貿易投資振興公社が発表した韓国との貿易を除く北朝鮮の対外貿易総額と韓国統一部が発表した南北交易額を合計し、算出したもの。

78 締約国(ロシア、北朝鮮)の一方に対する軍事攻撃の際には、他方の締約国は、直ちにその保有するすべての手段をもって軍事的又はその他の援助を与える旨の従前の条約(ソ朝友好協力及び相互援助条約)に存在した規定がなくなった。

79 例えば、14(平成26)年2月には金永南最高人民会議常任委委員長が訪露、同年3月にはガルシカ極東発展相が訪朝し貿易、経済及び科学技術協力に関する会談録(議定書)に調印、同年4月にはトルトネフ副首相が訪朝し北朝鮮貿易省とロシア連邦アムール州政府間の貿易経済協力に関する合意書などに調印、同年5月には、プーチン大統領が北朝鮮に対する債務調整協定批准法に署名、同年9月には李洙墉(リ・スヨン)外相が訪露、同年11月には玄永哲人民武力部長及び崔竜海党書記が訪露した。また、15(同27)年に入ってからも、2月から3月にかけて李洙墉外相及び李龍男(リ・リョンナム)対外経済相が訪露、同年4月に玄永哲人民武力部長が訪露、同年6月には崔泰福(チェ・テボク)最高人民会議議長が訪露したほか、同年4月及び10月にガルシカ極東発展相が訪朝するなど、頻繁な高官往来は継続している。

80 例えば、英国は00(平成12)年、ドイツは01(同13)年にそれぞれ北朝鮮と国交を樹立した。

81 例えば、16(平成28)年5月、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委委員長が赤道ギニア大統領就任式に出席し、同国大統領と会談したほか、同就任式に出席していたチャド共和国、ガボン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ギニア共和国、マリ共和国の首脳とも会談を行った。

82 15(平成27)年2月に公表された「国連安全保障理事会対北朝鮮制裁委員会専門家パネル最終報告書」は、エチオピアの弾薬製造者との取引関係の可能性、エリトリアとの武器関連機材輸出の可能性、ウガンダ警察に対する訓練支援における武器等禁輸違反の可能性などに言及している。