第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組
第2章 安全保障協力の積極的な推進
わが国を取り巻く安全保障環境は、大量破壊兵器などの拡散や国際テロの脅威、海洋や宇宙空間、サイバー空間といった国際公共財（グローバル・コモンズ）に関するリスクが増大するなど、様々な課題や不安定要因が顕在化してきている。
これらの課題は、パワーバランスの変容やグローバル化の進展といった構造的変化ともあいまって複雑化・多様化しており、いかなる国も単独で解決できるものではなくなっている。すなわち、わが国を含め、もはやどの国も一国のみで国際社会の安定や自国の安全を確保することはできず、戦略的利益を共有する各国が協調して対応することが必要不可欠となっている。また、近年、軍事力が担う役割も多様化し、紛争直後の復興支援などの平和構築や国家間の信頼醸成・友好関係の増進においても、重要な役割を果たす機会が増大している。
このように、安全保障・防衛分野における国際協力の必要性と潜在性がかつてなく高まる中、防衛省・自衛隊としても、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、わが国の安全及び地域の平和と安定、さらには国際社会全体の平和と安定及び繁栄の確保に積極的に寄与していく必要がある。具体的には、二国間・多国間の防衛協力・交流を強化するとともに、グローバルな安全保障上の課題などへの取組として、国連PKOや海賊対処活動をはじめ、国際平和協力活動及び各種任務をより積極的に推進していくこととしている。
第1節 戦略的な国際防衛協力に向けて
1 安全保障協力・対話、防衛協力・交流の意義と変遷
アジア太平洋地域の平和と安定は、わが国の安全保障に密接に関連するのみならず、グローバルなパワーバランスが変化する中で、国際社会においてもその重要性が増大してきている。この地域には大規模な軍事力を有する国家などが集中する一方、安全保障面での地域協力の枠組みは十分に制度化されておらず、また、域内各国の政治・経済・社会体制の違いが大きく、各国の安全保障観が多様である。既存の国際法を尊重せずに力を背景とした一方的な現状変更を図る動きも増加し、特に南シナ海などの問題は、海洋における法の支配、航行の自由や公海上空における飛行の自由、ひいては東南アジア地域の安定に懸念をもたらしており、こうした問題への対応が地域の安定を確保する観点から重要な課題となっている。こうした中、各国間の信頼を醸成するとともに、地域共通の安全保障上の課題に対して各国が協調して取り組む基盤を整えるためにも、国際情勢や安全保障上の課題を見据えながら、二国間・多国間で防衛分野の協力・交流をこれまで以上に戦略的かつ効果的に推進していく、戦略的な国際防衛協力1の必要性が高まっている。
地域内外のパートナーとの信頼・協力関係を強化していく上で最も重要となるのが、オーストラリアや韓国、インド、ASEAN諸国、欧州諸国といった、わが国と戦略的利益を共有する国との協力である。
協力関係が最も進展するオーストラリアとは、単に二国間関係のみならず、ともに米国の同盟国として、日豪・日米豪の枠組みで、地域の秩序形成や国際社会の平和と安定の維持強化のために幅広く協力していくことが可能である。同じく米国の同盟国である韓国とも、北朝鮮問題への対応をはじめとする諸課題について、日韓・日米韓で協力していくことが重要である。世界最大の民主主義国であり、わが国のシーレーンの中央に位置するインドとは、海洋安全保障をはじめ、幅広い分野で共同訓練などの協力を強化していく。さらに、わが国のシーレーンの要衝を占め、また地域の平和と安定及び繁栄に多大な影響を有するASEAN諸国とも、伝統的なパートナーシップに基づき、より実質的な防衛協力の強化を図っていく必要がある。
中国との安定的な関係は、地域の平和と安定に不可欠であり、防衛交流の促進により透明性の向上と相互の信頼醸成を図るとともに、不測の事態の発生の回避・防止のため、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの構築を推進する。
また、重要な隣国であるロシアとは、防衛交流を通じて信頼関係を増進させることが重要である。ウクライナ情勢などを踏まえ、G7の連帯を重視しつつ適切に対応するとともに、隣国として不測の事態や不必要な摩擦を招かないためにも、実務的コンタクトを絶やさないことが重要である。
モンゴルやニュージーランドをはじめとする他のアジア太平洋地域の友好諸国とも、地域の安定の確保に向けて様々な分野で協力していく。
国際的に世論形成力と規範形成力を有し、わが国と普遍的価値を共有している英国やフランスなど欧州各国は、国際社会の平和と安定及び繁栄に向けて共に主導的な役割を果たすパートナーである。また、日本と欧州は、地理的な隔たりにかかわらず、普遍的価値やルールに基づく国際秩序を構築するという共通の安全保障上の課題に直面しており、NATOなどとの協力を含め、欧州との関係を一層強化していくことが重要である。また、欧州各国の有する高い防衛能力や技術力を踏まえ、共同訓練や防衛装備・技術協力など、より具体的な協力を推進していく。さらに、中東の安定は、わが国にとってエネルギーの安定供給に直結する問題であり、湾岸諸国をはじめとする中東各国とも安全保障・防衛協力を推進していく。また、グローバル化の進展に伴い、安全保障課題も地域を越えた広がりをもつものが増加してきており、防衛省・自衛隊の資源が許す限りにおいて、中央アジアや中南米といった、これまで防衛交流が活発に行われていなかった地域の諸国とも交流を進め、防衛交流・協力のネットワークを拡大していく必要がある。
防衛協力・交流の形態について、従来より、二国間の対話や交流を通じて、いわば顔が見える関係を構築することにより、対立感や警戒感を緩和し、協調的・協力的な雰囲気を醸成する努力が行われてきた。これに加え、近年では、国際協力の必要性の高まりに応じて、共同訓練や能力構築支援、防衛装備・技術協力、さらには物品・役務相互支援協定などの制度的な枠組みの整備など、多様な手段を適切に組み合わせ、二国間の防衛関係を従来の交流から協力へと段階的に向上させてきている。
また、域内の多国間安全保障協力・対話も、従来の対話を中心とするものから域内秩序の構築に向けた協力へと発展しつつある。こうした二国間・多国間の防衛協力・交流を多層的かつ実質的に推進し、地域及びグローバルな安全保障環境の改善につなげていくことが重要となっている。
参照資料48（多国間安全保障対話の主要実績（アジア太平洋地域・最近5年間））、資料49（留学生受入実績（平成27年度の新規受入人数））
参照図表III-2-1-1（ハイレベル交流の実績（15（平成27）年1月～16（平成28）年6月））
参照図表III-2-1-2（安全保障対話・防衛交流）
参照図表III-2-1-3（対話、交流から協力へ）
参照図表III-2-1-4（防衛協力・交流イメージ）
参照図表III-2-1-5（各種協定締結状況）
