Contents

第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

2 契約制度などの改善

1 取得制度の見直し

防衛省では、環境の変化に迅速に対応した取得改革を推進するため、07(平成19)年から「総合取得改革推進プロジェクトチーム」会合を、10(同22)年からは有識者による「契約制度研究会」において取得制度の検討を行っている。平成28年度からは、検討結果を確実に具現化するため、特別研究官制度3を活用している。

2 長期契約など

防衛装備品の製造には長期間を要することから、一定数量を一括で調達しようとする場合に5年を超える契約が必要になるものが多い。また、防衛装備品や役務については、①毎年度の調達数量が少数であること、②防衛省のみが調達を行っていること、③それらを供給する企業が限られていることなどから、スケールメリット4が働きにくく、また、企業としても高い予見可能性をもって計画的に事業を進めることが難しいといった特殊性がある。

このため、財政法において原則5か年度以内とされている国庫債務負担行為による支出年限について、特定の装備品については、長期契約法5の制定により10か年度以内とした。この長期契約の導入により、安定的な調達が可能となり、計画的な防衛力整備が実現されるとともに、企業側も、将来の調達数量が確約され、人員・設備の計画的な活用と一括発注による価格低減が可能となる。さらに、下請企業の防衛産業からの撤退防止にも寄与する。

平成27年度においては、固定翼哨戒機(P-1)20機の調達(経費縮減見込額は契約ベースで約417億円)を、平成28年度予算においては、哨戒ヘリコプター(SH-60K)17機の調達と陸自特別輸送ヘリコプター(EC-225LP)及び海自練習ヘリコプター(TH-135)の機体維持(経費縮減見込額の合計は契約ベースで約148億円6)について、それぞれ長期契約することとした。

参照図表III-3-2-1(長期契約のイメージとコスト縮減効果)

図表III-3-2-1 長期契約のイメージとコスト縮減効果

長期契約による一括調達によりコストの縮減を図るSH-60K哨戒ヘリの画像

長期契約による一括調達によりコストの縮減を図るSH-60K哨戒ヘリ

また、PFI法7などを積極的に活用してより長期の複数年度契約を実現することにより、国の支出の平準化による予算の計画的取得及び執行を実現するとともに、受注者側のリスク軽減、新規参入の促進などを通じた装備品調達コストの低減などのメリットを引き出すことが期待される。16(同28)年3月には、PFI法を活用した民間船舶の運航・管理事業について、事業契約の締結を行った8

このほか、防衛装備品の特性などにより、およそ競争性が期待できない調達や、防衛省の制度を利用してコストダウンに取り組む企業については、迅速かつ効率的な調達の実施及び企業の予見可能性の向上の観点から、透明性・公正性を確保しつつ、対象を類型化・明確化した上で、随意契約の活用を図っている。

3 調達価格の低減と企業のコストダウン意欲の向上

防衛装備品の調達においては、市場価格の存在しないものが多数存在するという特殊性があることを踏まえ、調達価格の低減と企業のコストダウン意欲の向上を同時に達成することが必要である。このため、実際に要した原価を確認し、契約履行後に企業に超過利益が生じないよう、契約金額の見直しや生じた超過利益の返納を求めるなどの特約条項を付した契約(原価監査付契約)により、調達価格の低減に努めている。

しかし、このような契約は、企業にとっては決算終了後に超過利益の返納を求められるなど、企業のコストダウン・インセンティブが働きにくいとの指摘もあった。このため、新たな契約手法として、官民が共同して契約の履行管理を行うことで契約上のリスクを極小化し、コストダウンが図られた場合は一定の割合を企業に還元するリスクシェア型インセンティブ契約の検討を進めている。

3 実務を行う防衛省職員の視点だけでなく、経営学・経済学の分野で提唱されている理論なども踏まえ、効果的な取得制度の見直しを図るため、当該分野を専門とする大学准教授などを非常勤職員として招へいし、防衛装備品の取得制度に資する研究を実施する制度

4 規模を大きくすることにより得られる効果のことであり、例えば、材料の大量購入などにより、単価を低く抑えることができる。

5 特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法(平成27年4月成立)

6 約148億円には、EC-225LP及びTH-135の機体維持にかかるPBL契約(成果保証契約)による縮減効果(後述)も含む。

7 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律

8 特別目的会社である高速マリン・トランスポート株式会社(船舶2隻(「ナッチャンWorld」及び「はくおう」)を所有・運航・維持・管理)と事業契約の締結を行った。