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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

2 新たな安全保障環境

1 グローバルな安全保障環境

国家間の相互依存関係が一層拡大・深化し、一国・一地域で生じた混乱や安全保障上の問題が、直ちに国際社会全体に拡大するリスクが増大している。また、中国、インドなどのさらなる発展と米国の影響力の相対的な変化に伴うパワーバランスの変化、純然たる有事でも平時でもないグレーゾーン事態の増加傾向、公海の自由が不当に侵害される状況が生じている。さらに、宇宙空間・サイバー空間の安定的利用の確保が重要課題となっている。

2 アジア太平洋地域における安全保障環境

国家間の協力関係の充実・強化が図られる一方、グレーゾーンの事態が長期化する傾向が生じており、これらがより重大な事態に転じる可能性が懸念されている。

北朝鮮は、大規模な軍事力を展開し、非対称的な軍事能力4を引き続き維持・強化しており、さらに、地域の緊張を高める行為を繰り返している。特に、核・ミサイル開発については、弾道ミサイルの長射程化や高精度化のための技術の向上を図っており、核兵器の小型化・弾頭化の実現の可能性も排除できず、わが国に対するミサイル攻撃の示唆などの挑発的言動とあいまって、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。

中国は、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが強く期待されている。一方で、継続的な高い水準での国防費の増加、周辺地域への他国の軍事力の接近・展開の阻止と活動の阻害のための取組、軍事に関する不十分な透明性、海空域における活動の急速な拡大・活発化、海洋における力を背景とした現状変更の試みなどの軍事動向は、わが国のみならず、アジア太平洋地域・国際社会における安全保障上の懸念ともなっている。

ロシアは、軍改革を進展させ、軍事力の近代化に向けた取組が見られる。また、ロシア軍の活動は、引き続き活発化の傾向にある。

米国は、アジア太平洋地域へのリバランスを明確にし、財政面などの制約の中でも、同盟国などとの関係の強化などを図りつつ、地域への関与、プレゼンスの維持・強化を進めている。

3 わが国の地理的特性など

海洋国家であるわが国にとって、「開かれ安定した海洋」の秩序を強化し、海上交通及び航空交通の安全を確保することが、平和と繁栄の基礎である。また、わが国は、自然災害の多発、人口の集中、沿岸部にある多数の原子力発電所など、安全保障上の脆弱(ぜいじゃく)性を抱えており、東日本大震災のような大規模震災が発生した場合、その影響は、国際社会にも波及し得る。今後、南海トラフ地震などへの対処に万全を期す必要性が増している。

4 わが国が取り組むべき課題

様々な安全保障上の課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化し、わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している中、一国のみではこれらへの対応は困難である。したがって、課題などへの対応に利益を共有する各国が、地域・国際社会の安定のために協調しつつ積極的に対応する必要性がさらに増大している。

4 ここでいう非対称的な軍事能力とは、通常兵器を中心とした一定の軍事能力を保有又は使用する相手に対抗するための、例えば、大量破壊兵器、弾道ミサイル、テロ、サイバー攻撃といった、相手と異なる攻撃手段を指す。