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ダイジェスト 第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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概観

わが国を取り巻く安全保障環境は、様々な課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきており、一層厳しさを増している。

  • わが国周辺を含むアジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因は、より深刻化している。領土や主権、経済権益などをめぐり、純然たる平時でも有事でもない、いわゆるグレーゾーンの事態が増加・長期化する傾向にあるとともに、周辺国による軍事力の近代化・強化や軍事活動などの活発化の傾向がより顕著となっている。
  • 特に、北朝鮮による核兵器・弾道ミサイル開発の更なる進展は、国際社会に背を向けた度重なる挑発的言動とあいまって、わが国を含む地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。
  • また、中国による透明性を欠いた軍事力の増強と積極的な海洋進出が地域の軍事バランスを急速に変化させつつある中、東シナ海及び南シナ海における中国による独自の主張に基づく現状変更の試みは、誤解や誤算に基づく不測の事態を招くリスクを高めるおそれも含め、わが国を含む地域・国際社会の安全保障上の懸念となっている。
  • グローバルな安全保障環境においては、一国・一地域で生じた混乱や安全保障上の問題が、直ちに国際社会全体の課題や不安定要因に拡大するリスクが高まっている。国際テロ組織の活動は引き続き活発化の傾向にあり、いまやテロの脅威は中東・北アフリカにとどまらずグローバルに拡散している。ロシアがウクライナで行った現状変更の結果は固定化の様相を示している一方、中国による南シナ海における現状を変更し緊張を高める一方的な行動に関しても、その既成事実化がより一層進展する中、国際社会の対応に課題を残している。サイバー攻撃は高度化・巧妙化し、サイバー空間の安定的利用に対するリスクが増大している。
  • こうした国際社会における安全保障上の課題や不安定要因は、複雑かつ多様で広範にわたっており、一国のみでの対応はますます困難なものとなっている。
  • わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題も依然として未解決のまま存在している。

最近のわが国周辺の安全保障関連事象

安倍内閣総理大臣の画像

15(平成27)年11月のパリ同時多発テロ事件の現場で献花する安倍内閣総理大臣【内閣広報室提供】

ファイアリークロス礁の画像

急速かつ大規模な埋め立ての後、滑走路が完成したとされるファイアリークロス礁(16(平成28)年5月時点)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe】

米国

  • 中国の軍事的台頭をはじめとするグローバルなパワーバランスの変化や、ウクライナや南シナ海を巡る力を背景とした現状変更の試み、イラク・レバントのイスラム国(ISIL:IslamicState of Iraq and the Levant)など国際テロ組織による活動の活発化など、新たな安全保障環境の下、米国の世界への関わり方が大きく変化しつつある。一方、米国は厳しい財政状況の中においても、引き続きその世界最大の総合的な国力をもって世界の平和と安定のための役割を果たしていくものと考えられる。
  • 米国は、短期的には、ISILやアルカイダなどの暴力的な過激派組織、中長期的には、既存の国際秩序や米国及び同盟国の利益を脅かすことを試みる国家を、安全保障上の脅威として認識していると思われる。
  • 米国は、アジア太平洋地域における同盟国等との関係を強化するとともに、同地域へのアセット配備を量・質ともに充実させるとの考えの下、引き続きアジア太平洋地域へのリバランスを推進することとしており、同地域を重視する方針を継続していく姿勢を示している。昨今の中国による南シナ海における一方的な現状変更及び既成事実化の動きも念頭に、米国は、国際法上の権利や自由などを保護するため、「航行の自由作戦」を継続していくこととしている。
  • 米国は、昨今の中国などによる軍事力の強化などを念頭に、米軍の軍事的優位性が徐々に浸食されているとの認識の下、米軍の優位性の維持・拡大のため、新たな分野の軍事技術の開発を企図して「第3のオフセット戦略」を推進している。第3のオフセット戦略は、大国に対する通常戦力による抑止を強化するため、技術・組織・運用面において優位性を得ることをねらいとしており、人間と機械の協働及び戦闘チーム化への投資を重視するとしている。

アジア太平洋地域における米軍の最近の動向

北朝鮮

全般

  • 北朝鮮は、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられるほか、16(平成28)年1月に核実験を実施し、2月以降も弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、軍事的な挑発的言動を繰り返している。北朝鮮のこうした軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、わが国はもとより、地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっていることから、わが国として強い関心をもって注視していく必要がある。

大量破壊兵器・ミサイルの開発

  • 北朝鮮は16(平成28)年1月に4回目となる核実験を実施し、同年2月には「人工衛星」と称する弾道ミサイルを発射したほか、同年3月以降も弾道ミサイルの発射を繰り返している。
  • 北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。
  • 北朝鮮は16(同28)年1月に実施した核実験について、水爆実験であった旨主張しているが、地震の規模から考えれば、一般的な水爆実験を行ったとは考えにくい。いずれにせよ、北朝鮮による水爆開発の動向について、引き続き注視していく必要がある。
  • 過去4回の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、北朝鮮が既に核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられ、時間の経過とともに、わが国が射程に入る核搭載弾道ミサイルが配備されるリスクが増大していくものと考えられる。
  • 16(同28)年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射においては、12(同24)年12月と同様の仕様の「テポドン2」派生型が利用され、北朝鮮の長射程の弾道ミサイルの技術的信頼性は前進したと考えられる。また、こうした長射程の弾道ミサイルの発射試験は、北朝鮮による弾道ミサイル開発全体を一層進展させるとともに、攻撃手段の多様化にも繋がるものであると考えられる。
  • 16(同28)年4月には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)の試験発射に再び成功したと発表するなど、北朝鮮はSLBMの開発を継続しているとみられるほか、15(同27)年10月の閲兵式(軍事パレード)には、「KN08」とみられる新型ミサイルが、これまでと異なる形状の弾頭部で登場(「KN14」と呼称されるとの報道)しており、弾道ミサイルによる打撃能力の多様化と残存性の向上を企図しているものと考えられる。
  • 仮に北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化や核兵器の小型化・弾頭化を実現し、米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。
  • また、14(同26)年以降に見られた弾道ミサイル発射事案では、発射台付き車両を用いて、北朝鮮が任意の地点・タイミングで複数の弾道ミサイルを発射するなど、奇襲攻撃能力を含む弾道ミサイル部隊の運用能力の向上が示され、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威がさらに高まっている。
  • 16(同28)年4月に初めて発射を試みたムスダンについては、同年6月の発射では中距離弾道ミサイルとしての一定の機能が示されたほか、同年3月には大気圏再突入環境模擬試験や、固体燃料ミサイルエンジンの燃焼実験、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missiles)エンジンの地上実験の実施を公表するなど、北朝鮮は新たな中・長距離弾道ミサイルの実用化に向けた技術の獲得及びその高度化を追求する姿勢を示しており、わが国を含む関係国にとって深刻な懸念となっている。
  • 北朝鮮の大量破壊兵器・ミサイル開発の更なる進展は、国際社会に背を向けた度重なる挑発的言動とあいまって、わが国を含む地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。

北朝鮮の弾道ミサイルの射程

内政

  • 北朝鮮は36年ぶりとなる第7回朝鮮労働党大会を16(平成28)年5月に開催。金正恩氏が党委員長に推戴(すいたい)されるとともに、自国を「核保有国」と位置づけ、並進路線の堅持など核・ミサイル開発を継続する姿勢を内外に示した。また、党大会前には弾道ミサイルの発射を含む各種挑発活動を過去に例を見ない内容と頻度で行った。
  • 党大会の開催は、党に軸足を置いた「国家」運営を重視する金正恩党委員長による統治体制が組織・人事面等において名実ともに本格化したことを示している可能性がある。しかし、幹部の頻繁な処刑や降格・解任に伴う萎縮効果により、北朝鮮が十分な外交的勘案がなされないまま軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる。

対外関係

  • 南北関係は、15(平成27)年8月の非武装地帯(DMZ:Demilitarized zone)内韓国側区域での地雷の爆発を発端として、砲撃事案が発生するなど、関係が極度に緊張したほか、16(同28)年1月以降も北朝鮮による核実験の実施や弾道ミサイルの発射、米韓連合演習に反発した挑発的言動などにより、南北間での緊張が高まっている。
  • 中国は北朝鮮にとって極めて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。一方、中国による朝鮮半島非核化の要請にも関わらず、北朝鮮が核実験や弾道ミサイルの発射を強行したことなどから、中朝関係は冷却化している可能性が考えられる。

中国

全般

  • 中国は、国際社会における自らの責任を認識し、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが強く期待されている。
  • 中国は、「平和的発展」を唱える一方で、特に海洋における利害が対立する問題をめぐって、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させており、その中には不測の事態を招きかねない危険な行為もみられる。さらに、力を背景とした現状変更については、その既成事実化を着実に進めるなど、自らの一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢を示しており、今後の方向性について強い懸念を抱かせる面がある。
  • 15(平成27)年10月に開催された中国共産党第18期五中全会では、「全面的な法による国の統治」が打ち出されており、党・軍内部の腐敗問題への対応は今後も継続するとみられる。
  • 中国は周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力(いわゆる「A2/AD(Anti-Access/Area-Denial)」能力)の強化に取り組んでいるとみられる。

軍事

  • 中国は軍事力を広範かつ急速に強化し、さらに、東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域などにおいて活動を急速に拡大・活発化させている。このような中国の軍事動向などは、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国として強く懸念しており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。また、地域・国際社会の安全保障上においても懸念されるところとなっている。中国は、国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、軍事に関する透明性を高めていくことが強く望まれる。
  • 中国の公表国防費は、1989年度から毎年ほぼ一貫して二桁の伸び率を記録するなど、速いペースで増加している。公表国防費の名目上の規模は、1988年度から28年間で約44倍、2006年度から10年間で約3.4倍となっている。

    中国の公表国防費の推移

  • 中国は、現在、建国以来最大規模とも評される人民解放軍の改革に取り組んでおり、人民解放軍「陸軍指導機構」、「ロケット軍」、「戦略支援部隊」の設立、軍全体の指導組織であるいわゆる「四総部」の改編、さらに、新たな「五大戦区」の編成など、昨今、改革は急速に具体化している。
  • 中国は、対艦弾道ミサイル及び長射程の巡航ミサイルの戦力化を通じて、「A2/AD」能力の強化を目指していると考えられる。また、15(平成27)年12月末、国産空母の建造を初めて正式に認めた。さらに、同年11月、ロシアの国営軍事企業とSu-35戦闘機24機の購入契約を締結したとされているほか、次世代戦闘機との指摘もあるJ-20及びJ-31戦闘機の開発も進めている。

わが国周辺海空域における活動状況

わが国周辺海域における最近の主な中国の活動(航跡はイメージ)

  • 中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出回数が近年増加傾向にあり、当該進出は現在も高い頻度で継続していることなどから、外洋への展開能力の向上を図っているものと考えられる。
  • 16(平成28)年6月、中国海軍のフリゲートがわが国尖閣諸島周辺の接続水域に入域したほか、情報収集艦が、口永良部(くちのえらぶ)島周辺の領海内及び北大東島北方の接続水域内での航行に続き、尖閣諸島南方での往復航行を行った。
    最近、尖閣諸島に関する独自の主張に基づくとみられる活動の推進をはじめ、中国海軍艦艇が尖閣諸島を含めてその活動範囲を一層拡大するなど、わが国周辺海域の行動を一方的にエスカレートさせており、強く懸念される状況になっている。
  • 中国公船の動向としては、領海侵入のルーチン化、機関砲とみられる武器を搭載した公船による領海侵入、公船の大型化がみられ、中国公船による領海侵入を企図した運用態勢の強化は着実に進んでいると考えられる。
  • 近年、空自による中国機に対する緊急発進の回数は、急激な増加傾向にあるほか、最近では、中国軍用機が南下するといった尖閣諸島近傍での活動の活発化も確認されており、このような活動について、今後も強い関心をもって注視していく必要がある。
  • 独自に領有権を主張している島嶼の周辺海空域において、各種の監視活動や実力行使などにより、他国の支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることが、中国の海洋における活動の目標の一つだと考えられる。
  • 中国は、13(同25)年6月以降、東シナ海の日中中間線の中国側において、石油や天然ガスの採掘のため、既存の4基に加え、新たに12基の海洋プラットフォームの建設作業などを進めていることが確認されており、中国側が一方的な開発を進めていることに対して、わが国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止などを求めている。

南シナ海及び「遠海」における活動の状況

  • 中国は、南沙諸島の7つの地形で、14(平成26)年以降、急速かつ大規模な埋め立て活動を強行し、砲台といった軍事施設のほか、滑走路や格納庫、港湾、レーダー施設等、軍事的に利用し得るインフラ整備を推進している。
  • 中国は、西沙諸島においても地形開発や軍事目的での利用を推進しており、ウッディー島においては、滑走路の延長工事の実施、J-11等の戦闘機の展開、地対空ミサイルとみられる装備の展開が確認されている。
  • 中国海軍は、自らの海上戦力を「近海防御・遠海護衛」型へとシフトしているとされており、近年、インド洋などのより遠方の海域で作戦を遂行する能力を着々と向上させている。
  • 中国は、ジブチにおいて、軍の後方支援を提供するための施設建設を進めていくことで同国と合意しているほか、インド洋諸国において港湾インフラ建設を支援するなどしており、中国海軍のインド洋などにおける作戦遂行能力はより一層向上する可能性がある。

ロシア

  • ロシアは、厳しい経済状況に直面しつつも、引き続き軍の近代化に努めるとともに、軍の活動を活発化させ、その活動領域を拡大する傾向がみられる。
  • ウクライナ情勢をめぐっては、ロシアによる力を背景とした現状変更の結果は固定化の様相を示しており、特に欧米を中心にロシアに対する脅威認識が増大している。また、ロシアによるシリアへの軍事介入は、一連の軍改革の成果の現れや、国際的影響力拡大を企図した動きとして注目される。
  • 新たに改訂された国家安全保障戦略では、多極化しつつある世界で、ロシアの役割はますます増大しているとの認識の下、軍事力の果たす役割を引き続き重視し、十分な水準の核抑止力やロシア軍等により戦略抑止及び軍事紛争の阻止を実施するとしている。
  • ロシアは、北方領土においてロシア軍の駐留を継続させ、事実上の占拠の下で、その活動をより活発化させている。

東南アジア

  • 東南アジア各国は、近年、経済成長などを背景として国防費を増額させ、第4世代の近代的戦闘機や潜水艦など、海・空軍の主要装備品の導入を中心とした軍の近代化を進めている。
  • 南シナ海においては、領有権などをめぐって中国との間で主張が対立し、地域の緊張が高まる中、一方的な現状変更及びその既成事実化に対する国際社会による深刻な懸念が急速に広まりつつある。また、関係国の一部では、国際法に基づく問題解決に向けた努力(※)もなされている。

    ※ 16(平成28)年7月、国連海洋法条約に基づく南シナ海に関する比中仲裁手続に関し、フィリピンの申立がほぼ認められる内容で、最終判断が下された。

スビ礁の画像

急速かつ大規模な埋め立てが進むスビ礁【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe】

地域紛争・国際テロなどの動向

  • 近年、世界各地で起きている紛争は、民族、宗教、領土、資源などの様々な問題に起因している。また、内戦や地域紛争を受けて発生・拡大した国家統治の空白地域が、テロ組織の活動の温床となる例も多くみられるほか、テロ組織の中には国境や地域を越えて活動するものもあり、引き続き国際社会にとって差し迫った安全保障上の課題となっている。
  • 社会への不満などを背景に、ISILをはじめとする国際テロ組織の過激思想に共感を抱く若者が増え、国際テロ組織の活動に参加しているほか、自国においていわゆる「ホーム・グロウン型」・「ローン・ウルフ型」のテロ活動を行う事例が増えている。パリ同時多発テロやジャカルタでのテロ事案にみられるように、テロの脅威は中東・北アフリカにとどまらずグローバルに拡散している。16(平成28)年7月のバングラデシュにおけるダッカ襲撃テロ事件などを踏まえれば、わが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況となっている。
  • 拠点から遠く離れた地域においてもテロを実行する能力を持つ国際テロ組織は、サイバー空間を活用するなどして、組織内外におけるグローバルなネットワークを形成し、中には、高度な広報戦略により、組織の宣伝や戦闘員の勧誘、テロの呼びかけを巧みに行う組織も存在する。

海洋

  • 東シナ海・南シナ海においては、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例が多く見られるようになっている。
  • 米国は、南シナ海の沿岸国による行き過ぎた海洋権益の主張に対抗するため、「航行の自由作戦」を継続的に実施している。

    「航行の自由作戦」の画像

    15(平成27)年10月に「航行の自由作戦」を行った米海軍ミサイル駆逐艦「ラッセン」【米国防省HP】

  • 中国は、中国海軍がより遠方の海域で継続的に作戦を遂行する能力の向上を目指している。アデン湾に面するジブチにおいて、軍の後方支援を提供するための施設建設を進めるほか、インド洋諸国において港湾インフラ建設を支援するなどしている。
  • 北極海沿岸諸国は、資源開発や航路利用などの権益確保に向けた動きを活発化させており、ロシアなどは、軍事力の新たな配置などを進める動きも示している。沿岸諸国以外でも、中国は、極地科学調査船を北極海に派遣するなど、北極海に対して積極的に関与する姿勢を示している。

宇宙空間

  • 主要国は、C4ISR機能の強化などを目的として、画像偵察衛星、電波情報収集衛星、軍事通信衛星、測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打上げに努めている。
  • 一方、中国やロシアなどによる対衛星兵器の開発やスペースデブリの飛散などは、各国の衛星に対する脅威として注目されており、宇宙空間の安定的利用に対するリスクが、各国にとっての安全保障上の重要な課題の一つとなっている。

    ※ C4ISR:Command(指揮),Control(統制),Communication(通信),Computer(コンピュータ),Intelligence(情報),Surveillance(監視)and Reconnaissance(偵察)の略

サイバー

  • 国家等に害を加えようと意図する主体は、物理的な手法によって直接攻撃するよりもサイバー空間を通じた攻撃を選択する方がより容易である場合が多いと認識しているとされている。
  • 諸外国の政府機関や軍隊などの通信ネットワークに対するサイバー攻撃が多発しており、中国、ロシア、北朝鮮などの政府機関などの関与が指摘されているなど、サイバー攻撃は日に日に高度化・巧妙化しており、今やサイバーセキュリティは、各国にとっての安全保障上の重要な課題の一つとなっている。

軍事科学技術と防衛生産・技術基盤

  • 科学技術の発展は軍事分野においても革命とも呼ぶべき大きな変化を引き起こしており、米国は、中国等の能力強化を念頭に、軍事的優位性を確保するため、「第3のオフセット戦略」を推進している。
  • 米国では、様々な国防省関連機関が企業、大学などの研究に対し大規模なファンディングなどによる資金提供を行っている。
  • 欧米諸国では、高度化・複雑化に伴う装備品の開発・生産コストの高騰に対応するため、防衛産業の合併・統合や同盟国・友好国間での装備技術協力を推進している。