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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 対外関係

1 全般

ロシアは、多極化のすう勢の中で、影響力のある一つの極としてロシアの国際的地位が強化されているとの認識のもと、国益を実現していくことを対外政策の基本方針としている46。また、外交は国家安全保障戦略に基づき、国益の擁護のため、オープンで合理的かつ実利的に行うこととしており、無駄な対立は避け、世界各地にパートナー国をできる限り多数獲得するなど、多角的な外交を目指している47

このため、ロシアは、独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)諸国との間で経済的な連携の強化を図っている48。また、ロシアは、世界経済の牽引役と認識するアジア太平洋諸国とも関係を強化すべきとしており49、昨今、中国とインドとの関係強化をはかるべき国として重視している。

一方、欧米諸国との間での協力関係の強化のための取組については、ウクライナ危機を受け、引き続き試練に直面しているが、シリア情勢をめぐっては、シリアの安定やISILをはじめとする国際テロ組織への対応の観点から、協力に向けた機運が醸成されつつある。

今後ロシアが、経済面を中心とした実利を重視した対外姿勢と、安全保障面を含む政治・外交的側面をどのようにバランスし、各国との関係をどう進展させていくか、注目される。

2 アジア諸国との関係

ロシアは、多方面にわたる対外政策の中で、アジア太平洋地域の意義が増大していると認識し、シベリア及び極東の経済開発50や対テロ、安全保障の観点からもアジア諸国との関係が重要としている51。プーチン大統領は12(平成24)年5月の外交に関する大統領令で、東シベリア及び極東の社会経済的発展を加速するため、アジア太平洋地域の統合プロセスに参加していく方針を掲げ、中国52、インド、ベトナムのほか、わが国や韓国などとの関係発展に努めていくとしている。また、戦略的安定性及び対等な戦略的パートナーシップの実現のため、特に、中国との包括的パートナーシップ関係及び戦略的協力関係をグローバルかつ地域的な安定性維持のための重要な要素とみなし発展させるとともに、インドとの優先的な戦略的パートナーシップ関係に重要な役割を付与することとしている53

このような方針の下、ロシアは、各種のアジア太平洋地域の枠組みに参加している54。なお、12(同24)年9月には、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)首脳会議がウラジオストクで開催されている。

これらのうち、インドとの関係では、戦略的パートナーシップのもと、首脳が相互訪問するなど緊密な関係を維持している。13(同25)年10月には、プーチン大統領が訪露したシン首相(当時)と会談し、武器輸出を含む軍事分野での協力の拡大などについて合意した。14(同26)年12月には、訪印したプーチン大統領がモディ首相と会談し、ロシア製原子力発電所を新たに建設することなどで合意した。15(同27)年1月には、訪印したショイグ国防相がバリカル国防相と会談し、両国の軍事・軍事技術協力について協議した。両国は、第5世代戦闘機「PAK FA」や超音速巡航ミサイル「ブラモス」の共同開発を行うなど、軍事技術協力も強化55しているほか、03(同15)年以降、両国の陸軍及び海軍による対テロ演習「インドラ」を行っている。また、わが国との関係では、互恵的協力を発展させるとしており、近年、政治、経済、安全保障など、多方面において働きかけを強めている。

3 ウクライナをめぐる情勢

ウクライナでは、15(同27)年2月の停戦合意(ミンスク合意の実施に係る包括的措置)56以降も、ウクライナ軍と分離派武装勢力との間で衝突が継続していたが、同年9月以降は停戦合意の徹底がはかられた結果、戦闘の烈度は低下し、紛争犠牲者の数は大幅に減少した。同年10月にはドイツ、フランス、ロシア及びウクライナによる首脳会談が実施され、軽火器の撤収開始やOSCE特別監視団の権限の拡大などについて合意された。しかしながら、ミンスク合意に定められた分離は支配地域における選挙などの政治プロセスに大きな進展は見られない。このように、ロシアがいわゆる「ハイブリッド戦」の展開を通じ行ったクリミア半島やウクライナ東部における現状変更の結果は、固定化の様相を示しており、ウクライナ危機の解決には時間を要する状況となっている。こうした中、ウクライナ軍と分離派武装勢力との間では、軍事衝突が再燃するおそれもあることから、ウクライナ情勢には引き続き注目していく必要がある。

4 シリアをめぐる情勢

ロシアは15(同27)年9月、アサド・シリア大統領からの支援要請があったとして、シリア国内への空爆を開始した。これに対し、欧米諸国はロシアがISILをはじめとするテロ組織のみならず、アサド政権と対立する反体制派も攻撃していると非難し57、また、ISILはロシアに対する報復を宣言した。

同年10月には、エジプトを離陸したロシアの旅客機が墜落し、乗員乗客224人が死亡した。その後ロシアは当該事件をISILによるテロであったと断定、ISILに対する報復を宣言し、戦略爆撃機などを投入し空爆を強化した。

参照I部3章1節

こうした中、同年11月、トルコ軍機がシリア・トルコ国境付近を飛行中のロシア軍機を領空侵犯を理由に撃墜する事案が生起した。プーチン大統領はロシア軍機による領空侵犯を否定しつつ、トルコによる対応を激しく非難し、謝罪を要求するとともに、トルコに対する経済制裁を決定した。このことから、トルコとロシアの間で関係が悪化している。

ロシアは、空爆を開始して以降、潜水艦や駆逐艦からの巡航ミサイルによる長距離攻撃や戦略爆撃機及びSu-35戦闘機等の投入など、軍事介入の度合いを一段と強化したが、16(同28)年3月、所期の目的を達成したとして主要部隊を撤収させた。しかしながら、ロシアは引き続き、シリア国内における自らの軍事拠点に部隊を駐留させ、その使用を継続しており、ロシアによる軍事作戦は続行していると見られる。

参照I部3章1節

ロシアによる軍事介入の目的は、①ロシアと友好的なアサド政権の存続、②シリアにおけるロシア軍基地等の権益の防衛、③ISILをはじめとする国際テロ組織による脅威への対応及び、④中東地域での影響力確保などが考えられ、これまでのところ、アサド政権による支配地域の回復とロシアの権益擁護に資してきているとみられる。また、巡航ミサイルや戦略爆撃機による攻撃はロシアによる長距離精密打撃能力を誇示することとなった。ロシアの軍事介入がアサド政権の帰趨に重大な影響を与えていることや、ロシアとイランやイラクなど周辺国との連携拡大を考慮すると、今後のシリアの安定や、対ISIL軍事作戦におけるロシアの影響力は無視できないものとなっている。

5 独立国家共同体との関係

ロシアは、CISとの二国間・多国間協力の発展を外交政策の最優先事項としている。また、自国の死活的利益がCISの領内に集中しているとし58、ウクライナ(クリミア)、モルドバ(トランスニストリア59)、アルメニア、タジキスタン及びキルギスのほか、09(同21)年8月にCISを脱退したジョージア(南オセチア、アブハジア)60にロシア軍を駐留させ、14(同26)年11月には、アブハジアと同盟及び戦略的パートナーシップに関する条約を締結するなど61、軍事的影響力の確保に努めている62

中央アジア・コーカサス地域においては、イスラム武装勢力の活動の活発化に伴い、テロ対策を中心とした軍事協力を進め、01(同13)年5月、CISの集団安全保障条約機構(CSTO:Collective Security Treaty Organization)63の枠組みにおいて合同緊急展開部隊を創設した。また、09(同21)年6月には、CISの合同緊急展開部隊の機能を強化した常設の合同作戦対応部隊を創設している64

このほか、ロシア及び中央アジア各国は、アフガニスタンの治安悪化が中央アジア地域の不安定化を招くことを懸念して、アフガニスタン支援を行うとともに、アフガニスタン国境の警備強化について対策を検討している65

6 米国との関係

プーチン大統領は、米国との経済面での協力関係の強化を目指しつつ、一方で、ロシアが「米国によるロシアの戦略的利益侵害の試み」と認識するものに対しては、米国に対抗してきた。一方、オバマ政権は、ウクライナ危機を受け、ロシアによるウクライナの主権及び領土の一体性の侵害を強く非難し、ロシアに厳しい経済制裁を科すなど66、オバマ政権発足時と比較して米露関係は悪化している67

ロシアは、米国のMD欧州配備計画は自国の核抑止能力に否定的影響を与える可能性があるとして強く反発していたが、09(同21)年9月、米国はMDシステムの欧州配備計画の見直しを発表し68、これに対してロシアは一定の評価を与えた。

しかしながら、ロシアは、米国がMDにかかわる能力を量的又は質的に発展させ、その戦略核戦力の潜在能力を脅かす場合には、11(同23)年2月に発効した新戦略兵器削減条約は効力を有しなくなると解しており69、最近の欧州における米国のMD計画の進展に対し、ロシアは同条約からの脱退を示唆するなどけん制を図っている70

米国との軍事交流について、ロシアは、12(同24)年7月にハワイ周辺海域で行われたリムパックに艦艇を初参加させるなど一定の協力関係の構築を指向しているものとみられていたが、ウクライナ情勢をめぐるロシアの動きを受けて、米国は14(同26)年3月、ロシアとの軍事交流の中断を発表し71、ミサイル駆逐艦を黒海に派遣するほか、ウクライナ政府に対し非殺傷兵器などの提供を行った72。さらに、米国は、緊張が継続するウクライナ東部情勢を踏まえ、15(同27)年2月、ウクライナ政府への殺傷兵器の供与を示唆するなど、ロシアをけん制する動きを見せた。

一方、シリア情勢をめぐっては16(同28)年2月以降、米露両国やサウジアラビア、イランなど関係国がシリア全土での敵対行為の停止を目指すことに合意73し、同年2月22日、米露のイニシアティブによりシリアにおける敵対行為の停止に関する共同声明及び付属書が発出されるなど、協調のきざしもみられる。

参照I部3章1節

7 欧州・NATOとの関係

NATOとの関係については、これまでNATO・ロシア理事会(NRC:NATO-Russia Council)の枠組みを通じ、ロシアは、一定の意思決定に参加するなど、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動してきたが、ウクライナ危機を受けて、NATOや欧州各国は、NRCの大使級会合を除き、軍事面を含むロシアとの実務協力を停止するとともに74、ウクライナ政府と連携しながら、ロシアに対し厳しい外交姿勢を継続している。

10(同22)年11月、リスボンで開催されたNRC首脳会合は、ロシアとNATOは真の現代化された戦略的パートナーシップの構築に向けて協力を進めていくとし、現在、両者の間で、ミサイル防衛(MD)、アフガニスタン、対テロ協力、海賊対策といった分野で対話や協力の模索が続けられてきた。しかし、MD協力については、11(同23)年6月のNRC国防相会合における協議の中で、NATOとロシアがそれぞれ保有する独立した二つのシステムのもと、情報・データの交換のみを内容とするMD協力を主張するNATOと、ロシアとNATOによる統一的なシステムのもと、各国の担当空域を設定して一体的運用を行う「セクターMD」を目指すロシアの立場の違いが浮き彫りとなるなど、両者の協力には進展がみられなかった。

また、ロシアとNATOとの間では、欧州通常戦力(CFE:Conventional Armed Forces in Europe)適合条約をめぐる問題も未解決である75

さらに、ウクライナ危機により、冷戦後初めて、NATOの東部国境に脅威が存在する状況となり、東欧及びバルト諸国のNATO加盟国の一部が自国の安全に懸念を覚えていることもあり、NATOは、集団防衛の実効性の確保に向けた取組などを続けている76

一方、ロシアは、欧州、特にバルト諸国周辺において、挑発的ともとられる航空活動を活発に行っている77。しかし、フランスとの間では、ミストラル級強襲揚陸艦の輸出契約を双方の合意により円満に破棄し、また、パリ同時多発テロ後にシリアにおいて一定の協調行動をとるなど、国別に異なる対応をとっている。

8 武器輸出

ロシアは、軍事産業基盤の維持、経済的利益のほかに、外交政策への寄与といった観点から武器輸出を積極的に推進しているとみられ、輸出額も近年増加傾向にある78。また、07(同19)年1月、武器輸出権限を国営企業「ロスオボロンエクスポルト」に独占的に付与し、引き続き、輸出体制の整備に努めている。さらにロシアは、軍事産業を国家の軍事組織の一部と位置づけ、スホーイ、ミグ、ツポレフといった航空機企業の統合を図るなど、その充実・発展に取り組んでいる。

ロシアは、インド、中国、アルジェリア、ASEAN諸国、ベネズエラなどに戦闘機や艦艇などを輸出している79。15(同27)年の武器輸出のうち注目すべき取引は、中国向けのSu-35戦闘機80と地対空ミサイル・システム「S-400」の契約締結であった。この取引が成立した背景として、中国は兵器の国産化を進めているものの、最先端の装備についてはロシアからの技術導入を引き続き必要としている一方、ロシアはウクライナ危機に起因する外交的孤立化の回避や、武器輸出による経済的利益の獲得を目指していたため、中露双方の利害が一致したとの指摘がなされている81

46 「ロシア連邦対外政策構想」(13(平成25)年2月)

47 「ロシア連邦国家安全保障戦略」(15(平成27)年12月)で「ロシアは国益を擁護するためオープンで合理的かつ実利的な外交政策を実施、無駄な対立(新たな軍拡競争を含む。)を回避する。(中略)ロシア連邦の目標は世界の様々な地域において対等なパートナー国をできる限り多数獲得することである」と述べている。

48 11(平成23)年10月、CIS8か国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウクライナ、モルドバ及びアルメニア)がCIS自由貿易圏創設条約に調印した。

49 ラヴロフ外相の露中印外相会合時の記者会見(16(平成28)年4月)

50 ロシアは現在、シベリアやサハリンの資源開発などを進めている。

51 「ロシア連邦対外政策構想」(13(平成25)年2月発表)。なお、プーチン首相(当時)は12(同24)年2月に発表した外交政策に関する選挙綱領的論文で、アジア太平洋地域全体の重要性が高まっているとの認識を示している。

52 中国との関係については、I部2章3節3参照
13(平成25)年11月、プーチン大統領はベトナムと韓国を公式訪問している。

53 「ロシア連邦国家安全保障戦略」(15(平成27)年12月)で「ロシア連邦は、中華人民共和国との包括的パートナーシップ関係及び戦略的協力関係をグローバルな及び地域的安定性を維持する重要な要素と見なし、それを発展させる。ロシア連邦は、インド共和国との優先的な戦略的パートナーシップに重要な役割を与える」と述べている。

54 アジア太平洋経済協力(APEC)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)、11(平成23)年からは東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)などの地域的な枠組みへ参加してきている。

55 このほか、15(平成27)年3月には、ロシアよりリース方式により導入したアクラ級攻撃型原子力潜水艦1隻に加え、さらに1隻をリース方式で供与するよう、インドからロシアに要請したとの報道もある。

56 ミンスク合意の実施に係る包括的措置は次の項目からなる。①15(平成27)年2月15日午前0時(現地時間)から停戦開始、②重火器を撤去し、幅50~140キロメートルの安全地帯設置、③OSCEによる停戦監視、④分離派の支配地域に自治権を付与する対話の開始、⑤拘束者への恩赦、⑥全捕虜の解放、⑦人道支援の実施、⑧年金や生活補助など東部の社会経済体制の回復、⑨全ての紛争地域におけるウクライナ政府側による国境の完全な管理の回復、⑩外国武装部隊、兵器、傭兵のウクライナからの撤収、⑪15(同27)年末までに非中央集権化を主要な要素とした憲法改革の実施及び地方に自治権を拡大する法律の採択、⑫分離派の支配地域での地方選挙に関する協議、⑬ウクライナ、ロシア及びOSCEの作業部会の創設など活動の強化。

57 15(平成27)年10月、米、英、仏、独、カタール、サウジアラビア及びトルコは、ロシアが反体制派や市民への攻撃を止め、ISILとの戦いに集中することなどを求める共同宣言を発表。

58 メドヴェージェフ大統領(当時)は、ジョージア紛争後の08(平成20)年8月、外交の5原則の一つとして、ロシアには特権的利害を有する地域があるとの認識を示した。

59 ドニエストル川の東岸地域のトランスニストリアでは、1990(平成2)年、ロシア系住民がモルドバからの分離・独立を宣言したが、国際社会はこれを承認していない。ロシアによるクリミア「編入」を受けて14(同26)年3月、トランスニストリア「議会」は、トランスニストリアの編入を認めるようロシアに要請した。また、プーチン大統領は同年3月、オバマ大統領との電話会談でトランスニストリアが封鎖状態にあると非難している。なお、トランスニストリアには約1,500人のロシア軍部隊が駐留している。

60 ジョージアは08(平成20)年8月のジョージア紛争を経て、09(同21)年8月、CISから脱退したが、ロシアはジョージア領内の南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認したほか、これらの地域に引き続き軍を駐留させている。なお、12(同24)年10月のジョージア議会選挙で対露関係の改善を公約とした野党連合「ジョージアの夢」が反露的な政策を採る与党「統一国民運動」に勝利し、13(同25)年10月の大統領選挙では「ジョージアの夢」が擁立したマルグヴェラシヴィリ氏が当選し、同年11月に大統領に就任した。なお、マルグヴェラシヴィリ大統領は、就任式での演説でロシアとの対話を深化させる用意があると述べ、ロシアとの関係改善を図る一方で親欧米路線も継続していくとの考えを示している。

61 14(平成26)年12月に改訂された「軍事ドクトリン」には、共通の防衛及び安全保障を目的とするアブハジア共和国及び南オセチア共和国との協力を促進すると記されている。

62 CIS諸国の中には、ベラルーシやカザフスタンなどロシアとの関係を重視する国がある一方、ロシアとの関係に距離を置こうとする動きもみられ、ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバなどの国々は、安全保障や経済面でロシアへの依存度低下を目指し、おおむね欧米志向の政策をとってきた。なお、12(平成24)年9月、キルギスとロシアは、17(同29)年に期限を迎えるキルギス国内のロシア軍基地の使用期間を、さらに15年間延長することに合意している。12(同24)年10月、タジキスタンとロシアは、タジキスタン国内の第201ロシア軍基地の使用期限を42(同54)年まで延長することに合意した。13(同25)年12月には、ベラルーシにロシア空軍のSu-27戦闘機が初めて配備された。

63 1992(平成4)年5月にウズベキスタンのタシケントにおいてアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの6か国首脳が集団安全保障条約(CST:Collective Security Treaty)に署名した。1993(同5)年にはアゼルバイジャン、ジョージア、ベラルーシの3か国が加わり、同条約は94(同6)年4月に発効した。しかし、1999(同11)年にアゼルバイジャン、ジョージア、ウズベキスタンは同条約を更新することなく脱退した。02(同14)年5月にCSTは集団安全保障条約機構に改編された。なお、06(同18)年8月にウズベキスタンはCSTOに復帰したが、12(同24)年6月にCSTOへの参加停止を通告、事実上、同機構を脱退した。

64 CSTOは、10(平成22)年6月のキルギス南部における民族衝突に際してキルギスからの平和維持の要請に十分に対応できなかったことを教訓として、危機対応の体制の効率化について議論している。また、11(同23)年12月のCSTO首脳会議は、加盟国が自国に第三国の基地を設置する場合、全ての加盟国の了承を要するとして、外国軍隊の加盟国への駐留を牽制した。なお、CSTO共同演習「ヴザイモディストヴィエ(協同作戦)」が09(同21)年10月及び10(同22)年10月にカザフスタン、12(同24)年9月にアルメニア、13(同25)年9月にベラルーシで実施されている。

65 13(平成25)年12月のロシア国防省評議会拡大会合において、プーチン大統領は、14(同26)年に国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)がアフガニスタンから撤収することは、同国のみならず中央アジアの不安定要素であり、ロシアの国益及び安全保障にとって脅威となる可能性があると述べている。

66 米国は、資産凍結や入国禁止の対象となるロシアの個人及び企業を段階的に拡大するとともに、融資の停止や資産凍結の対象を、金融、エネルギー企業、国有銀行、国有防衛技術企業などの主要産業部門にも拡大している。

67 16(平成28)年4月、バルト海の公海上においてロシア軍のSu-24戦闘爆撃機及びKa-27ヘリコプターが米イージス艦「ドナルド・クック」に接近する飛行を行ったことについて、ケリー国務長官はラヴロフ外相との電話会談で、危険な行為であるとして強く抗議した。また、同月、バルト海の公海上空においてもロシア軍のSu-27戦闘機が米軍のRC-135偵察機に接近し妨害する飛行を行ったとされるが、ロシア側はこれらの飛行は正当な行為だった旨反論したと伝えられている。

68 米国のMD欧州配備計画については、I部2章1節2参照

69 ミサイル防衛に関するロシア連邦の声明(10(平成22)年4月8日)

70 ロシアは、米国のMD計画がロシアに向けられたものではないことの法的な保証を求めているほか、米国はロシアの懸念を考慮していないとして11(平成23)年11月、早期警戒レーダーを実戦配備するなどの対抗措置や新戦略兵器削減条約から脱退する可能性について言及した大統領声明を発表した。また、13(同25)年11月にラヴロフ外相は、イランの核問題をめぐるジュネーブでの合意が履行されれば、米国の欧州MDシステムは不要になると述べている。

71 14(平成26)年3月、米国防省のカービー報道官(当時)は、ロシアによるクリミア半島占拠を受け、ロシア軍との合同演習や当局者協議、軍艦の寄港など、一切の軍事交流を中断すると発表した。

72 米国はウクライナに、防弾チョッキ、ヘルメット、車両、暗視・熱源監視装置、重工兵資材、高性能ラジオ、巡視艇、食料、テント、対迫撃砲レーダー、制服、救急処置装置などを提供している。

73 合意のポイントは、①シリアの政権移行プロセスを定めた国連安保理決議2254の完全履行、②反体制派からシリア軍に対する攻撃の停止、③シリア軍・ロシア軍から反体制派に対する攻撃の停止、及び④停戦を利用した他勢力からの領土獲得の自制である。この合意は2月27日午前零時から実施されることとなったが、対象にISIL、ヌスラ戦線及び国連安保理が指定するテロ組織は含まない。

74 ウクライナ情勢をめぐり、NATOは非難声明を発出し、東欧・バルト諸国に軍事力を追加的に展開しているが、加盟国内部ではロシアへの対応に温度差がある。

75 1999(平成11)年の欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)イスタンブール首脳会議において、従来のブロック別保有上限の国別・領域別保有制限への変更、CFE適合条約発効までの現行CFE条約の遵守などが合意された。ロシアは、自国がCFE適合条約に批准したにもかかわらず、NATO諸国がジョージアとモルドバからロシア軍が撤退しないことなどを理由としてCFE適合条約を批准しないことを不満とし、07(同19)年12月、CFE条約の履行停止を行い、同条約に基づく査察などが停止された。現時点では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの4か国のみが批准しており、CFE適合条約は未発効である。このほか、ロシアは、NATOを中心とする既存の安全保障の枠組みを脱却し、新たな欧州・大西洋地域における安全保障の基本原則を定める新たな欧州安全保障条約を提案している。

76 14(平成26)年9月のNATOウェールズ首脳会合では、集団防衛の強化策として、「即応性行動計画」が採択されている。同行動計画では、NATO即応部隊(NRF:NATO Response Force)内の初動対処部隊として高度即応統合任務部隊(VJTF:Very High Readiness Joint Task Force)の創設、迅速な増派のための東方加盟国内への指揮統制部門の設置、受入施設の整備、装備・物資の事前配置、さらに集団防衛に焦点を当てた演習計画の強化を含んでいる。なお、ブルガリア、バルト諸国、ポーランド、ルーマニアが施設提供の意思を表明している。
その後、15(同27)年6月のNATO国防相会合において、NRFの規模を最大4万人にすること、VJTFの展開を支援するNATO兵力調整ユニット(NFIUs:NATO Force Integration Units)をブルガリア、バルト諸国、ポーランド及びルーマニアに設置すること等が承認され、同年10月のNATO国防相会合ではハンガリー及びスロバキアにNFIUsを設置することが承認された。

77 NATOは14(平成26)年10月、ロシア空軍が同月28日及び29日の両日、バルト海や北海、大西洋、黒海で大規模な軍事活動を行ったと発表した。また、同航空活動は、欧州の空域におけるものとしては異例な規模であったとNATOは批判している。
15(同27)年10月のNATO国防相会合後の事務総長声明において「シリアにおけるロシアの軍事行動の激化が深刻な懸念材料であるとの認識で一致し、ロシアに対してISILとの戦いにおいて建設的な役割を果たすよう要求する。ロシアの行動及び現政権(アサド政権)への支援は有益ではない。近日発生したトルコ領空侵犯は容認しがたい。NATOは今後も情勢の推移を注視する。我々はトルコと強く結束している」と述べられている。

78 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)によれば、11(平成23)年から15(同27)年の間のロシアの武器輸出は、06(同18)年から10(同22)年の間に比べて28%増加している。また、ロシアは武器輸出の世界シェアで米国に次ぐ2位(25%)となっている。

79 インドネシアとの間ではSu-27及びSu-30戦闘機の売却契約が03(平成15)年と07(同19)年に締結され引渡しが行われたほか、16(同28)年にはSu-35戦闘機10機を売却予定であると報道された。マレーシア及びベトナムとの間ではSu-30戦闘機の売却契約が03(同15)年に行われ、これらの国に引き渡されている。ベトナムについては、09(同21)年にSu-30戦闘機及びキロ級潜水艦の売却契約が行われたと伝えられており、14(同26)年1月には同潜水艦の1番艦「ハノイ」がベトナムに到着している。インドについては、13(同25)年11月、ロシア北部のセヴェロドヴィンスクで改修を終えた空母「アドミラル・ゴルシコフ」がインド側に引き渡され、「ヴィクラマディチャ」と改称された。なお、同艦は14(同26)年1月にインドに到着している。また、06(同18)年にはアルジェリアとベネズエラとの間でSu-30戦闘機などの売却契約が結ばれ、一部は引き渡されている。中国については、Su-27戦闘機、Su-30戦闘機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦などが輸出されているが、中国の武器国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとの指摘もあるものの、補修用の航空機エンジンなどの輸出は継続している。イランについては、16(同28)年4月より、地対空ミサイル・システム「S-300」の輸出が開始された。

80 報道によれば、Su-35戦闘機24機を約20億ドル、S-400発射機32機を約30億ドルで輸出する契約が締結され、Su-35戦闘機の最初の4機は16(平成28)年末までに納入される予定。

81 15(平成27)年9月、プーチン大統領は通信社のインタビューに答え、「露中関係は現在、その歴史の中で最高水準に達しており、かつ活発に発展している」と述べた。