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第III部 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組

8 大規模災害などへの対応

自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

1 災害派遣などの概要

災害派遣は、都道府県知事などが、災害に際し、防衛大臣又は防衛大臣の指定する者へ部隊などの派遣を要請し、要請を受けた防衛大臣などが、やむを得ない事態と認める場合に派遣することを原則としている28。これは、都道府県知事などが、区域内の災害の状況を全般的に把握し、都道府県などの災害救助能力などを考慮したうえで、自衛隊の派遣の要否などを判断するのが最適との考えによるものである。ただし、大規模地震対策特別措置法に基づく警戒宣言29又は原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言が出されたときには、防衛大臣は、地震災害警戒本部長又は原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の要請に基づき、派遣を命じることができる。

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えており、この部隊を「FAST-Force(ファスト・フォース)」と呼んでいる。

参照資料24(自衛隊の主な行動)資料25(自衛官又は自衛隊の部隊に認められた武力行使及び武器使用に関する規定)、図表III-1-2-11(要請から派遣、撤収までの流れ)、図表III-1-2-12(災害派遣などに備えた待機態勢(基準))

図表III-1-2-11 要請から派遣、撤収までの流れ

図表III-1-2-12 災害派遣などに備えた待機態勢(基準)

2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害への対応

ア 御嶽山における行方不明者再捜索への支援にかかる災害派遣

14(平成26)年9月27日に発生した御嶽山の噴火に対し、自衛隊は、長野県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助や行方不明者捜索を実施した。15(同27)年7月3日、行方不明者の再捜索を行うことを判断した長野県知事からの行方不明者再捜索の支援に係る災害派遣要請を受け、自衛隊は、警察・消防などの捜索要員及び物資の空輸を実施して、行方不明者の再捜索を支援した。本派遣の規模は、人員延べ約1,160人、車両延べ約210両、航空機延べ48機に上った。

イ 平成27年9月関東・東北豪雨にかかる災害派遣

15(平成27)年9月10日、茨城県に大雨特別警報が発表され、鬼怒川において越水が発生し、氾濫(はんらん)発生情報が発表された。自衛隊は、茨城県知事からの災害派遣要請を受け、孤立者の救助、ボートによる避難支援、土嚢による水防活動、給水、入浴支援及び防疫活動を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約7,540人、車両延べ約2,150両、ボート延べ約180隻、航空機延べ105機に上った。

また、同日、栃木県にも大雨特別警報が発表され、翌日に警報は解除されたものの、日光市で孤立地域が発生したことから、11日に栃木県知事からの災害派遣要請を受けて、孤立者の救助を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約70人、車両延べ15両、航空機延べ5機に上った。

さらに、宮城県においても11日に大雨特別警報が発表され、吉田川の一部が大雨により氾濫し、氾濫発生情報が発表された。氾濫水の影響により、孤立地域が発生したことから、宮城県知事からの災害派遣要請を受けて、孤立者の救助を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約190人、車両延べ40両、航空機延べ7機、ボート延べ37隻に上った。

平成27年9月関東・東北豪雨にかかる災害派遣での救助活動の画像

平成27年9月関東・東北豪雨にかかる災害派遣での救助活動

ウ 大雪等による給水支援にかかる災害派遣

16(平成28)年1月23日から25日にかけての記録的な寒波の影響により、日本各地で断水が発生した。自衛隊は、島根県、広島県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県及び鹿児島県の各県知事からの災害派遣要請を受けて、同年1月25日から2月1日の8日間、8県29市町において約1,280トンの給水支援を実施した。本派遣の規模は、人員延べ約1,860人、水トレーラー等延べ約340両に上った。

エ 平成28年熊本地震にかかる災害派遣

16(平成28)年4月14日、熊本県熊本地方を震源とする地震(マグニチュード6.5)が発生し、熊本県知事からの災害派遣要請を受け、人命救助や被災者への生活支援(物資輸送、給食、給水、入浴支援等)を行った。また、同年4月16日、熊本県熊本地方を震源とする地震(マグニチュード7.3)が発生し、熊本県に加え大分県知事からも災害派遣要請を受け、同日、西部方面総監を指揮官とする統合任務部隊を編成し、最大人員約2万6千人態勢で人命救助や生活支援活動を実施した。

本派遣は、同年5月30日に終了し、派遣規模は、人員延べ約814,000名、航空機延べ約2,600機、艦船延べ約300隻となった。また、最大で①物資輸送:227か所、②給食支援:49か所、③給水支援:147か所、④入浴支援:25か所、⑤医療支援:9か所など、被災者への生活支援活動を全力で行った。

今般の地震に際しては、甚大な被害が生じたことを踏まえ、平成23年の東日本大震災以来2回目となる即応予備自衛官の招集を行い、同年4月23日から5月2日までの間、最大で約160人の即応予備自衛官が生活支援活動に従事した。また、政府の被災者生活支援チームの取組の一環として、4月23日から5月29日までの間、PFI方式により契約30している民間船舶「はくおう」を、熊本県八代港において被災者の休養施設として活用し、原則として1泊2日の宿泊、食事及び入浴のサービスを計17回にわたり、約2,600名に対して提供した。

さらに、在日米軍からは、①C-130による自衛隊員及び自衛隊車両の熊本空港への輸送、②UC-35による自衛隊員の熊本空港への輸送、③MV-22オスプレイによる救援物資の被災地への輸送の支援を受け、韓国軍からは、C-130(2機)により、レトルトご飯、飲料水、毛布及びテントの提供を受けた。

参照資料46(災害派遣の実績(過去5年間))、図表III-1-2-13(災害派遣の実績(平成27年度))

図表III-1-2-13 災害派遣の実績(平成27年度)

(2)救急患者の輸送など

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。平成27年度の災害派遣総数541件のうち、419件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。

また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない、本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や、火災、浸水、転覆など緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施しているほか、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者をC-130H輸送機にて搬送する広域医療搬送も行っている。

さらに、平成27年度には、61件の消火支援を実施しており、そのうち55件が自衛隊の施設近傍の火災への対応であった。その他、山林などの消火が難しい場所では、空中消火活動も行っている。

(3)原子力災害への対応

防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体、原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、自治体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。さらに、14(平成26)年10月以降、内閣府(原子力防災担当)に陸・海・空自衛官5人を出向させ、原子力災害対処能力の実効性の向上に努めている。

北海道原子力防災訓練において放射線量の測定をする陸自隊員の画像

北海道原子力防災訓練において放射線量の測定をする陸自隊員

(4)各種対処計画の策定

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、統合運用を基本としつつ、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処態勢の持続を可能とする態勢を整備している。その際、東日本大震災の教訓を十分に踏まえることとしている。

また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。

(5)自衛隊が実施・参加する訓練

自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、各種の防災訓練を実施しているほか、国や地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方自治体などの関係機関との連携強化を図っている。

ア 自衛隊統合防災演習(JXR:Joint Exercise for Rescue)

15(平成27)年6月から7月にかけて、首都直下地震を想定して指揮所演習及び実動演習を行い、自衛隊の震災対処能力の向上を図るとともに、在日米軍の全軍種が参加し、日米連携の強化を図った。

イ 日米共同統合防災訓練(TREX:Tomodachi Rescue Exercise)

15(平成27)年6月、南海トラフ地震を想定して実動訓練を行い、自衛隊、在日米軍及び防災関係機関との連携要領を演練するなど、震災対処能力の向上を図った。本訓練は、高知県が主催する総合防災訓練と連携して実施されたほか、在日米陸軍が初めて参加し、日米連携の強化を図った。

日米共同統合防災訓練(TREX)において、負傷者を米軍機へ搬送する日米の隊員の画像

日米共同統合防災訓練(TREX)において、
負傷者を米軍機へ搬送する日米の隊員

ウ その他

15(平成27)年7月には、陸自中部方面隊が南海トラフ地震を想定した訓練(南海レスキュー27)を、同年8月には、陸自北部方面隊が日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震を想定した訓練(ノーザン・レスキュー2015)を実施するなど、震災対処能力の向上を図った。

参照資料47(災害派遣にかかる主な訓練の実施及び参加実績(平成27年度))

(6)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、地方公共団体などとの平素からの連携の強化も重要である。このため、①自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡担当官(事務官)を設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面総監部と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。16(平成28)年3月末現在、全国46都道府県・249市区町村に372人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化する上で極めて効果的であり、東日本大震災においてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

参照資料22(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)

F-2戦闘機の松島基地帰還行事で熊田政務官の出迎えを受けた第21飛行隊長の画像

F-2戦闘機の松島基地帰還行事で熊田政務官の出迎えを受けた第21飛行隊長

28 海上保安庁長官、管区海上保安本部長及び空港事務所長も災害派遣を要請できる。災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣について、①派遣を命ぜられた自衛官は、自衛隊法に基づく権限を行使できる。②災害派遣では予備自衛官及び即応予備自衛官に、地震防災派遣又は原子力災害派遣では即応予備自衛官に招集命令を発することができる。③必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することができる。

29 地震予知情報の報告を受けた場合において、地震防災応急対策を行う緊急の必要があると認めるとき、閣議にかけて、地震災害に関する警戒宣言を内閣総理大臣が発する。

30 III部3章2節2項(契約制度などの改善)参照