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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事態勢

1 全般

核戦力を含む戦略攻撃兵器については、米国は11(平成23)年2月に発効した新戦略兵器削減条約に基づく削減を進めており、16(同28)年3月に配備戦略弾頭18は1,481発、配備運搬手段は741基・機であると公表した19。米国はさらに、核兵器への依存を低減させるための新たな能力の一つとして、「通常兵器による迅速なグローバル打撃」(CPGS:Conventional Prompt Global Strike)構想を研究している20

ミサイル防衛(MD:Missile Defense)については、10(同22)年2月に「弾道ミサイル防衛見直し」(BMDR:Ballistic Missile Defense Review)を公表し、米国本土の防衛については地上配備型迎撃ミサイルにより北朝鮮やイランの大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)に対処するとし、他の地域の防衛については、MDシステムへの投資を拡大しつつ、同盟国との協力と負担の適切な共有のもと、それぞれの地域に応じてMD能力を段階的に向上させるアプローチ(PAA:Phased Adaptive Approach)をとっていくとしていたが、12(同24)年1月には、米国本土及び欧州におけるMDプログラムのための投資を継続する一方、地域において配備可能なMDシステムのための支出を削減し、将来的に、同盟国及び友好国への依存を増加することを表明している。また、13(同25)年3月には、北朝鮮の核実験の実施や長距離弾道ミサイル技術の開発における進展などに対して米国本土防衛を強化するため、地上配備型迎撃ミサイルを本土に、弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)用移動式レーダーを日本にそれぞれ追加配備する一方、欧州に配備することを予定していたスタンダード・ミサイル(SM-3)ブロックIIBの開発を再検討することなどを発表した。

米軍の運用は、軍種ごとではなく、軍種横断的に編成された統合軍の指揮のもとで行われており、統合軍は、機能によって編成された三つの機能統合軍と、地域によって編成された六つの地域統合軍から構成されている。

陸上戦力は、陸軍約48万人、海兵隊約18万人を擁し、ドイツ、韓国、日本などに戦力を前方展開している。陸軍は、国防戦略指針にも記述されているとおり、より小規模ながらも、世界中においてあらゆる種類の作戦を実施できる態勢にある戦力の構築に向けた取組を行っている。海兵隊は、より小規模な部隊である特殊部隊と、より大規模な部隊である重武装の通常部隊との間をつなぐ「中量級」の部隊として、あらゆる脅威に対処することが可能な戦力の獲得を目指している。

海上戦力は、艦艇約940隻(うち潜水艦約70隻)約620万トンの勢力を擁し、東大西洋、地中海及びアフリカに第6艦隊、ペルシャ湾、紅海及び北西インド洋に第5艦隊、東太平洋に第3艦隊、南米とカリブ海に第4艦隊、西太平洋とインド洋に第7艦隊を展開している。

航空戦力は、空軍、海軍と海兵隊を合わせて作戦機約3,600機を擁し、空母艦載機を洋上に展開するほか、ドイツ、英国、日本や韓国に戦術航空戦力の一部を前方展開している。

さらに、サイバー空間での脅威の増大に対処するため、サイバー空間における作戦を統括するサイバーコマンドを創設した。サイバーコマンドは10(同22)年5月に初期運用を開始、同年11月に本格運用を開始した21

参照図表I-2-1-3(統合軍の構成)

図表I-2-1-3 統合軍の構成

2 アジア太平洋地域における現在の軍事態勢

太平洋国家である米国は、アジア太平洋地域に陸・海・空軍と海兵隊の統合軍である太平洋軍を配置し、この地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果たしている。太平洋軍は、最も広い地域を担当する地域統合軍であり、隷下には、統合部隊である在韓米軍や在日米軍などが存在している。また、太平洋軍は、地域に関する米軍の視野を広げるとともに、同盟国の米軍に対する理解を深めるため、地域の同盟国の要員を司令部に受け入れており、現在、カナダ及びオーストラリアからの人員が、それぞれ副部長級の幹部として勤務を行っている。

太平洋軍は、太平洋陸軍、太平洋艦隊、太平洋海兵隊、太平洋空軍などから構成されており、それらの司令部は全てハワイに置かれている22

太平洋陸軍は、ハワイの第25歩兵師団、在韓米軍の陸軍構成部隊である韓国の第8軍、また、アラスカ陸軍などを隷下に置くほか、日本に第1軍団の前方司令部・在日米陸軍司令部など約2,400人を配置している23

太平洋艦隊は、西太平洋とインド洋などを担当する第7艦隊、東太平洋やベーリング海などを担当する第3艦隊などを有し、艦艇約200隻を擁している。このうち第7艦隊は、1個空母打撃群を中心に構成されており、日本、グアムを主要拠点として、領土、国民、シーレーン、同盟国その他米国の重要な国益を防衛することなどを任務とし、空母、水陸両用戦艦艇やイージス巡洋艦などを配備している。

太平洋海兵隊は、米本土と日本にそれぞれ1個海兵機動展開部隊を配置している。このうち、日本には第3海兵師団とF/A-18戦闘機などを装備する第1海兵航空団約1万6,000人が展開しているほか、重装備などを積載した事前集積船が西太平洋に配備されている。

太平洋空軍は3個空軍を有し、このうち、日本の第5空軍に3個航空団(F-16戦闘機、C-130輸送機などを装備)を、韓国の第7空軍に2個航空団(F-16戦闘機などを装備)を配備している。

参照図表I-2-1-4(米軍の配備状況及びアジア太平洋地域における米軍の最近の動向)

図表I-2-1-4 米軍の配備状況及びアジア太平洋地域における米軍の最近の動向

18 配備済みのICBM及び潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)に搭載した弾頭並びに配備済みの重爆撃機に搭載した核弾頭(配備済みの重爆撃機は1つの核弾頭としてカウント)

19 16(平成28)年3月1日現在の数値であるとしている。

20 同構想は、世界のいかなる場所に所在する目標に対しても、命中精度の高い非核長距離誘導ミサイルによって、敵のアクセス(接近)阻止(A2)能力を突破して迅速な打撃を与えようとするものである。

21 サイバー関連部隊として、陸軍サイバーコマンド、艦隊サイバーコマンド、空軍サイバーコマンド、海兵隊サイバー空間コマンドが新編された。

22 13(平成25)年に太平洋陸軍が司令官を中将から大将に格上げすることにより、太平洋陸軍、太平洋艦隊及び太平洋空軍の司令官は全て大将となった。

23 本項で用いられている米軍の兵力数は、米国防省公刊資料(15(平成27)年9月30日現在)による現役実員数であり、部隊運用状況に応じて変動しうる。