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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 地域内の協力

15(平成27)年12月31日に成立したASEAN共同体は、政治・安全保障共同体、経済共同体及び社会・文化共同体の三つの共同体による協力を柱に構成されている。このうち、政治・安全保障共同体(APSC:ASEAN Political-Security Community)は、これまでのASEANによる取組で積み上げられてきた政治・安全保障分野の協力を土台とし、民主的かつ調和的な環境下での平和的な生存確保を目標とするとの理念が掲げられている。そのような理念を実現することを目指し、同年11月の第27回ASEAN首脳会議で採択された「APSCブループリント2025」では、次の二つの大きな構想が描かれる。

まず第1に、25(同37)年を目標に、人々が安全かつ調和した安全保障環境において暮らし、寛容で穏健な価値などを共有するような共同体となること、第2には、地域の平和と安全に対する挑戦に取り組み、地域構造において中心的な役割を果たすと同時に、域外とともに世界の平和と安全及び安定に寄与することである。

それらの構想を実現するための施策としては、①法に基づき、人を源泉とし、人を中心とする共同体となることを目指し、ASEAN憲章やこれまでの合意の実行などによるASEAN基本原則の履行及び促進、②平和かつ安全で安定した地域となることを目指し、ASEAN外相会議やASEAN国防相会議(ADMM:ASEAN Defense Ministers’ Meeting)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)などのメカニズムの強化、③ダイナミックかつ外向的なASEANの中心性を目指し、ASEAN主導のメカニズムによる取組強化や域外国との対話・協力の強化、④ASEANの組織力及びプレゼンス強化を目指し、ASEAN作業プロセスの合理化や地域及び国際間における組織的なプレゼンスの向上、との四点の特徴が挙げられている。

ASEAN各国は、これまでの地域の多国間安全保障の枠組みとしてもASEANの活用を図っており、安全保障問題に関する対話の場であるASEAN地域フォーラム(ARF)やASEAN国防相会議(ADMM)などを開催しているほか、軍事人道支援・災害救助机上演習(AHR:ASEAN Militaries’ Humanitarian Assistance and Disaster Relief Table-Top Exercise)を行うなど、地域の安全保障環境の向上や信頼醸成に努めてきた。また、ASEANは域外国との関係拡大も重視し、ADMMにわが国を含む域外8か国を加えた拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)53が開催されるとともに、人道支援・災害救援演習などが実施されている54。今後は、ASEAN政治・安全保障共同体の理念及び構想に基づき、対話や人道支援・災害救助演習、域外国との関係拡大などの取組を一層発展させていくものと見られる。

参照I部3章3節3項((8)東南アジアなど))

53 ADMMプラスの枠組みのほか、米国・ASEAN、中国・ASEAN及び日本・ASEAN間で、国防相会談が行われており、14(平成26)年4月には、米ASEAN国防相会談が初めて米国において開催された。

54 15(平成27)年5月には、4回目となるARF災害救援実動演習がマレーシアにおいて実施された。同演習には、共催国のマレーシア及び中国のほか、わが国や米国、豪州及びASEAN諸国を含むARFメンバー国から計約2,000人以上が参加した。