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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 拡散する国際テロリズムをめぐる動向

1 最近の国際テロリズムの特徴

アルカイダやISILをはじめとする国際テロ組織は、中東・北アフリカを中心に、特に統治機構が弱体化又は破綻した国家・地域に活動の拠点を置きつつ、管理が十分でない国境を越えて、その活動を拡大・活発化させており、中には、拠点から遠く離れた地域においてもテロを実行する能力を持つ組織も存在する。これらテロ組織は、活動目的や能力が組織によってそれぞれ異なると見られる96が、一般的な傾向として、ソーシャル・メディアなどサイバー空間を活用するなどして、テロ組織による組織内外における情報共有・連携、武器や資金の獲得のためのグローバルなネットワークを形成している。中には、高度な広報戦略により、組織の宣伝や戦闘員の勧誘、テロの呼びかけを巧みに行う組織も存在する97ほか、サイバー攻撃を行う可能性が指摘されているテロ組織も存在する98

01(平成13)年の米同時多発テロ以降、欧米諸国が主体となって「テロとの闘い」を進めてきたが、昨今テロによる犠牲者の数は増加傾向にある99

こうした中、欧米諸国では、アルカイダやISILの唱える過激思想に感化されて過激化し、居住国でテロを実行するいわゆる「ホーム・グロウン型」のテロが脅威となっており、特に、自国民がイラクやシリア100といった紛争地域で戦闘訓練や実戦経験を積み、過激な思想を吹き込まれ、本国に帰国した後にテロを実行することが懸念されている101

また、近年では、アルカイダやISILなどのテロ組織との正式な関係はないものの、インターネットなどの情報により自ら過激化した個人や団体が単独又は少人数でテロを計画し実行主体となる「ローン・ウルフ型」テロも、事前の兆候の把握や未然防止が困難なため、脅威として認識されている。ISILは引き続き欧州を始めとする世界各地でのテロ攻撃を呼びかけていることから、今後もテロの発生が懸念される。

わが国との関係でも、15(同27)年初頭、シリアにおける邦人殺害テロ事件において、ISILが日本人をテロの対象とする旨、明確に宣言したほか、同年10月のバングラデシュ邦人殺害事件においてISILが犯行声明を発出し、機関誌において日本人を攻撃対象に挙げている。邦人7名が死亡した16(同28)年7月のバングラデシュにおけるダッカ襲撃テロ事件も踏まえれば、国際テロの脅威に対しては、わが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況となっている102

このように国際テロの脅威の拡散傾向に拍車がかかっており、その実行主体も多様化し、地域紛争の複雑化とあいまってその防止がますます困難となっていることから、国際テロ対策に関する国際的な協力の重要性がさらに高まっており、現在、軍事的な手段のほか、テロ組織の資金源の遮断やテロ戦闘員の国際的移動の防止103など国際社会全体として各種の取組が行われている。

2 主要な国際テロ組織の動向
(1)ISIL

ISILは従来のテロ組織と異なり、潤沢な資金104や強力かつ洗練された軍事力105、整備された組織機構を有し、一定の領域を事実上支配する点が特徴として指摘されている。また、旧イラク政権のバース党員や旧イラク軍の将兵の参加により優れた軍事作戦能力を持つほか、数多くの外国人戦闘員を有しているとされ、巧みな広報戦略106もあり、欧米諸国からの約6,900人を含む約2万5,000人がISILの活動に参加しているとの指摘107がある。イラクへの侵攻開始以降、ISILはイラク治安部隊などから奪取した各種装備を活用し、欺瞞戦術など108も用いつつ、イラク及びシリア国内の要衝都市、油田地域、軍事施設などを相次いで制圧し、一時期、その支配領域を拡大させたほか、世界各地で支持者を増やしている109

また、地域における従来の国家による統治体制を真っ向から否定し、カリフ制国家を標榜するなど、独自の政治・宗教的秩序の追求を優先するという特徴を有している。

ISILは、その支配領域の維持を優先する一方、欧米諸国などへのテロも呼びかけており、各国ではイラクやシリアなどの紛争地から帰還したISIL戦闘員によるテロが懸念されている。15(同27)年11月のパリ同時多発テロや、16(同28)年1月のジャカルタでの爆破テロに見られるように、ISILは、欧州や東南アジアなど自らの拠点から離れた地域においても作戦運用能力を高めつつあるとも指摘されており、さらなるテロの拡散・過激化が懸念される。

(2)アルカイダ

01(同13)年に発生した9.11テロを主導したとされるアルカイダについては、11(同23)年5月、パキスタンに潜伏していた指導者ウサマ・ビン・ラーディンや系列組織の多くの幹部が米国の作戦により殺害され、その中枢は昨今は組織の生き残りを重視しているとされるが、アルカイダによる攻撃の可能性が根絶されたわけではない。アルカイダ指導部の指揮統制力が衰退する一方、関連組織は主に北アフリカや中東などを拠点として勢力を増大させ、テロを実行している110

(3)アラビア半島のアルカイダ(AQAP)

AQAPはイエメンを拠点に活動するイスラム教スンニ派の過激組織で、09(同21)年、創始者のウハイシ師が、アラビア半島及び中東全域でのカリフ制国家の成立とシャリーア111の施行のため、サウジアラビアで活動するアルカイダメンバーなどを合流させ結成した。AQAP112はこれまで、複数の航空機に対するテロ未遂への関与113のほか、15(同27)年1月に発生した仏週刊紙本社襲撃事件についても関与が指摘されている。イエメン情勢が混乱する中114、AQAPはイエメンを拠点に活動を拡大し、イエメン軍の基地を制圧するなどしており、力の空白を利用したAQAPの更なる勢力拡大が懸念されている。一方で、米国は無人機による掃討作戦を実施し指導者のウハイシ師を殺害し、アラブ連合軍が同年4月以降AQAPの拠点となっていた同国南部のムカッラを奪還するなど対AQAP作戦では一定の成果を挙げている。

(4)イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)

AQIMはアルジェリアを拠点に活動するイスラム教スンニ派の過激派組織で、主にアルジェリア人や欧米人を標的とした誘拐事件を起こしてきた。AQIMは、06(同18)年にアルカイダに忠誠を誓い、最大約3万人の人員を擁していたものの、アルジェリア軍の対テロ作戦によって、その勢力は約1,000人前後へ減少したとされる。またAQIMは、13(同25)年に開始されたフランス主導の軍事介入によってマリ北部における勢力を縮小する一方、リビアやチュニジアでの影響力を拡大させている。さらに、15(同27)年11月には、マリの米国系ホテルを襲撃したが、この事件ではAQIMを離脱したベルモフタールらが設立したアル・ムラビトゥーンとの連携が明らかになっており、同組織は同年12月にAQIMへの合流を表明した115。これは、西アフリカでも勢力を拡大させAQIMの既得権益を侵しつつあるISILに対抗する措置であったとの指摘もなされており、今後AQIMによるテロ活動の活発化が指摘されている。

3 世界各地で発生するテロをめぐる動向
(1)中東・北アフリカ116

中東では、イラク・シリアで勢力を拡大しているISILやアルカイダ系組織などのイスラム過激派によるテロ事件が域内各地でも依然として発生している。サウジアラビアは、AQAPやISILによる攻撃対象とされており、これらの組織との関連が疑われる者の摘発を続けている117。特に、ISILは、シーア派のモスクなどを標的としたテロ攻撃を頻繁に行い118、今後も攻撃を継続する旨声明で明らかにしていることから、引き続きテロの拡大が懸念されている。トルコでは、長年政府と対立するクルディスタン労働者党(PKK)119などによるテロが引き続き発生している120さらに、ISILによるとみられるテロも発生しており、15(同27)年7月、南東部スルチでクルド人を狙った自爆テロにより31人が死亡し、同年10月には、首都アンカラの中央駅で行われたクルド系デモ集会で爆発テロが発生し102人が死亡した。

更に、16(同28)年6月、イスタンブールのアタチュルク国際空港で、銃撃及び爆破テロが発生し、41人が死亡、200人以上が負傷し、トルコ当局はISILによる犯行との見方を強めている。

また、北アフリカでも、アルジェリア、エジプト121、リビア122及びチュニジアでISILやアルカイダ系組織が活動しているとみられており、近年、テロ事件が頻発している。アルジェリアでは、13(同25)年1月、ベルモフタール123が率いるアル・ムラビトゥーンの一派である覆面旅団が、同国南東部イナメナスの天然ガスプラントを襲撃し、邦人10人を含む多数が犠牲となった。チュニジアでは、15(同27)年3月、イスラム過激派によってチュニスのバルドー国立博物館が襲撃され、邦人3人を含む外国人観光客など21人が死亡したほか、同年6月には観光地のスースで武装した男がホテルのビーチで銃を乱射し、38人が死亡する事案が発生し、ISILが犯行声明を発出している。

(2)サブサハラ・アフリカ

サブサハラ・アフリカ地域では、ケニア、マリ124、ソマリア、ナイジェリアなどでイスラム過激派が勢力を拡大させている。ケニアではアル・シャバーブ125が13(同25)年9月、ナイロビ市内の高級商業施設を襲撃し67名が死亡、15(同27)年4月には、同国北東部のガリッサの大学を襲撃し148人が死亡した。さらにソマリアでは、同組織によるAMISOM部隊126に対する攻撃が継続しているほか、16(同28)年2月には、モガディシュを離陸したジブチ行き航空機でパソコン型爆弾が爆発する事件を発生させている。一方、ナイジェリアでは09(同21)年以降、イスラム国家の建設を目的とする「ボコ・ハラム」127が、警察などの取り締まりに対する報復としてテロ128を繰り返すなど活動を活発化させていることから、国連安保理を含む国際社会による取組みが行われている129。さらに、ボコ・ハラムは、ニジェール、カメルーン及びチャドなど国外にも活動を広げつつあり、15(同27)年3月には、ISILに対して忠誠を誓うなど、その勢力を拡大させる動きを見せたが、周辺国によるボコ・ハラム掃討作戦により勢力に陰りが出ているとの指摘もある。

(3)欧州・米州・豪州

欧州では、イスラム過激派の影響を受けた人物又は、イラク・シリアなどから帰国した戦闘員によるテロが発生している。フランスでは、15(同27)年1月、イスラム過激派の影響を受けたアルジェリア系フランス人などが、預言者ムハンマドの風刺画を巡りパリ中心部の週刊紙「シャルリー・エブド」の本社などを襲撃する事件が発生した130。また、同年11月には、パリの国立競技場や劇場などを狙った同時多発テロが発生し、130人が死亡する大規模テロが発生し、ISILフランスと記載された犯行声明が出されている。ベルギー131では、16(同28)年3月にブリュッセルの空港及び地下鉄で相次いで自爆テロが発生し、自爆した3人の犯人を含め35人が死亡した。事件後は、ISILベルギーと記載された犯行声明が発出された。パリとブリュッセル連続テロでは、それぞれの犯行グループが連携していたとの見方もなされている。以上のことから、ISILによるシリア・イラク域外での作戦運用能力を誇示する意図が指摘されており、欧州各国政府は警戒を強めている132。また、テロの脅威は米州にも拡散しており、15(同27)年12月には、米国カリフォルニア州の福祉施設で2人組が銃を乱射し、14人が死亡し133、ISILのラジオ局アルバヤーンが犯行を称賛する声明を発出している。さらに、16(同28)年6月にはフロリダ州のナイトクラブでISILの過激思想に影響を受けたとみられる男による銃撃によって49人が死亡するテロが発生。事件後にISILは犯行声明を発出したものの、明確な関係は明らかになっていない。一連の事件をとおして、ISILなどによる過激思想の米国内への浸透が懸念されている。また、カナダでは、14(同26)年10月、オタワの連邦議会前で、ISILの過激思想に同調したとみられる、イスラム教に改宗した男性によってカナダ軍兵士が銃撃され死亡する事件が発生している。

このほか豪州でも、14(同26)年12月、シドニーのカフェで、ISILに影響を受けたとみられる男性が人質を取って立てこもり、犯人を含む3名が死亡する事件が発生した。その後も、豪州国内では、テロを計画していた人物の摘発・逮捕が続いている。

(4)東南アジア

東南アジアでは、テロ組織の取締りなどに一定の進捗がみられる134一方、インドネシアのイスラム過激派の精神的指導者である、バシール師135が獄中からISILへの忠誠を表明し、資金提供を行うなど、ISILを支持する動きがあるとの指摘がなされている136。また、外国人戦闘員としてインドネシアやマレーシアなどからイラク・シリアに渡航する若者の存在が伝えられており、域内における新たな脅威となっている137

インドネシアではISIL支持者に対する取り締まりが強化されているが、16(同28)年1月にはジャカルタの欧米系コーヒー店など及び周辺で爆発・銃撃事案が発生した。事件後にISILインドネシアと記載された犯行声明が発出されており、ISILによる東南アジアにおける初めてのテロ攻撃とみられている。マレーシアでは、大規模なテロは発生していないものの、14(同26)年以降、ISIL支持者が50人以上逮捕されており、ISIL支持者の層が拡大しているとの見方がある138。一方、タイでは、15(同27)年8月にバンコク中心部のエラワン廟付近で20人以上が死亡する爆発事案が発生している139

(5)南アジア

南アジアは、以前からテロが頻発している地域であり、特にパキスタンでは、パキスタン・タリバーン運動(TTP)などによる教育機関や軍関係施設などを標的としたテロが多発している。14(同26)年12月、TTPは北西部ペシャワルの軍学校を襲撃し、141人以上が死亡したほか、16(同28)年1月には北西部チャルサダの大学をTTPが襲撃し、学生など20人以上が死亡した。インドでは、16(同28)年1月、北西部のパンジャブ州で武装集団が空軍基地を襲撃し、治安部隊7人を殺害し、地元の過激派が犯行声明を発出した。また、バングラデシュでは15(同27)年9月及び10月にイタリア人や邦人1人が銃撃を受け死亡する事案が発生した。さらに、16(同28)年7月、ダッカのレストランで邦人7名を含む約20名が死亡する襲撃テロ事件が発生した。これらの事件では、ISILバングラデシュと記載された犯行声明が発出され(15年9月及び10月の事象は機関誌で言及)、特に7月の事案ではISILの関与が指摘されている。

さらに、ISILはアフガニスタン及びパキスタン国内にホラサーン支部を一方的に設置したほか、インド亜大陸では、14(同26)年9月、アルカイダのザワヒリ容疑者が新たに支部を設立したと発表140するなど、南アジアでのイスラム過激派によるテロの拡大が懸念される。

(6)ロシア

ロシア南部では、ISILが勢力を拡大しており、15(同27)年6月、ISILコーカサス支部が設立された141。一方ISILは、シリアで空爆を行っているロシアに対し、15(同27)年10月及び11月、テロ攻撃を呼びかける声明を発出している。ロシア国内ではこれまで大規模なテロは確認されていないが、軍施設への襲撃や自爆テロなどが発生しており142、北コーカサス地域がISIL戦闘員の一大供給地であることを考慮すれば、今後とも同地域におけるISILの影響を受けた戦闘員や支持者によるテロのほか、ロシア国内へのテロの脅威の拡散が懸念されている。

参照図表I-3-1-2(アフリカ・中東地域の主なテロ組織)

図表I-3-1-2 アフリカ・中東地域の主なテロ組織

96 米国務省「2012年版国別テロリスト報告書」(13(平成25)年5月)

97 インターネットやソーシャル・メディアを用いて若者を戦闘員に勧誘しており、15(平成27)年5月の国連の報告によると、女性のテロ組織への参加問題について国際社会の協力が求められている。I部3章1節3項「拡散する国際テロリズム」を参照

98 15(平成27)年1月、米中央軍のツイッターのアカウントがサイバー攻撃を受ける事案が発生

99 テロの犠牲者は、14(平成26)年には過去最多の約3.2万人に達した(国別テロ報告書2014(15(平成27)年6月)による)。さらに、ISILをはじめとするイスラム過激派によるソフトターゲットを狙ったテロの増加を受けて、テロに巻き込まれる一般市民の被害が増加している。

100 シリア情勢についてはI部3章1節参照

101 米国土安全保障省長官発言(14(平成26)年2月7日)

102 15(平成27)年2月に発行されたISIL機関誌「ダービク」第7号では、シリアにおける邦人2名の殺害についての記述があり、改めて日本人及びその権益を標的としたテロを呼びかけ、さらに、第11号(15(同27)年9月発表)において、ボスニア、マレーシア及びインドネシアに所在する日本の外交使節を標的にしたテロ攻撃を呼びかけている。また、第12号(15(同27)年11月発表)ではバングラデシュにおける邦人殺害事件についての記述があり、日本国民及び国益が攻撃対象であると改めて警告している。

103 14(平成26)年9月、国連安保理は、テロ行為の実行を目的とした渡航を国内法で犯罪とすることなどを求めた、外国人テロ戦闘員問題に関する決議第2178号を採択した。同決議では、テロ行為への参加の目的で自国領域内に入国又は通過しようとしていると信じるに足りる合理的な根拠を示す信頼性の高い情報を有する場合、当該個人の領域内への入国又は通過を阻止することを義務づけるなどの措置を含んでいる。また、15(同27)年6月にドイツで開催されたG7首脳会議でも、テロリストの資産凍結に関する既存の国際的枠組みを効果的に履行するとのコミットメントが再確認されている。

104 国連の報告書によると、ISILの1日の石油収入は84万6,000ドル~164万5,000ドル(約1~2億円)とみられている。この他にも誘拐による身代金収入や税金などの一方的徴収を組織の収入源としているとの指摘がある(国連安保理アルカイダ制裁委員会報告書(14(平成26)年11月14日))。また、有志連合による空爆や石油価格の変動を受け、石油収入はもはや主要な資金源ではなくなってきているとの指摘がある中、現在は支配地域の住民や企業への課税を増やすことにより収入源を多角化しているとの指摘や、海外の支援者を通じた資産運用によって利益を得ているとの指摘もなされている。ただし、対ISIL有志連合による空爆により、石油関連施設が破壊され、ISILの主たる収入源である石油密売による収入が減少傾向にあり、戦闘員に支払われる給与が半減しているとの指摘がある。

105 ISILは戦車(M1A1エイブラムス、T-72、T-55)、火砲、小銃など充実した装備を誇っている。一部では、戦闘機保有疑惑も報じられているが、これまでのところ戦闘地域で運用されているとの情報はない。

106 インターネットやソーシャル・メディアを用いて若者を戦闘員に勧誘しており、15(平成27)年5月の国連の報告によると、女性のテロ組織への参加問題について国際社会の協力が求められている。

107 地域紛争の研究を行うシンクタンクであるソウファン・グループによる外国人戦闘員に関する報告書(15(平成27)年12月)によると、外国人戦闘員の約6割は中東・北アフリカ出身者である。出身地別にみると、主に①チュニジア(6,000人)、②サウジアラビア(2,500人)、③ロシア(2,400人)、④トルコ(2,200人)、⑤ヨルダン(2,000人)などである。また、欧米からもフランス(1,700人)、英国、ドイツ(760人)、ベルギー(470人)、スウェーデン、オーストリア(300人)などを中心に全体の約2割弱を占める。さらには、インドネシア(700人)、マレーシア、フィリピン(100人)など、戦闘員供給のネットワークはアジアにも拡大してきている。

108 ISILはイラク治安部隊などから奪取した戦闘服などを利用して、検問所や車両に近づき自爆テロを実施しているほか、鹵獲した装甲車両や一般車両に装甲板などを取り付け、偽装などを施した上で自爆車両として活用していると指摘されている。

109 昨今、中東、アフリカ、中央アジア及び南アジアに支部を設置し、地元のイスラム過激派からの忠誠も背景に拡大している。国連事務総長によるISILに関する報告書では、15(平成27)年12月15日現在、34の組織がISILに忠誠を表明しているとされている。さらに米シンクタンクのインテルセンターによると、活動実態が不明な組織があるものの、16(同28)年1月現在で、16ヶ国に41支部が存在すると見られている。

110 米国家情報長官(DNI:Director of National Intelligence)「世界脅威評価」(16(平成28)年2月)による。

111 シャリーアは、「イスラム法」を意味するアラビア語である。イスラム法とは、イスラム教全体に適用される法規範で、信仰行為や道徳規範、私法や社会関係法だけでなく、刑法や国際法、戦争法なども含む。ただし、総合的な法典は存在せず、実生活はクルアーン(コーラン)などの法源に従って法学者が導いた解釈に基づいて運用される。

112 AQAPは09(平成21)年、創始者のウハイシ師が、アラビア半島及び中東全域でのカリフ制国家の成立とシャリーアの施行のため、サウジアラビアで活動するアルカイダメンバーなどを合流させ結成した。

113 09(平成21)年12月のノースウエスト航空爆破未遂や、10(同22)年10月のイエメン発米国向けの複数の航空貨物からの爆発物発見事案などに関与したとされている。10(同22)年7月にAQAPから発行されたインスパイア第1号では簡単な爆弾製造方法が紹介されている。

114 ホーシー派を巡るイエメン国内の混乱についてはI部3章2節「イエメン情勢」を参照。

115 16(平成28)年1月にブルキナファソで、同3月にコートジボワールのグラン・バッサムで発生し、いずれもアル・ムラビトゥーンによる犯行と見られている。

116 アフガニスタン、イラク、シリア及びイエメンのテロ情勢については、I部3章1節2項の「アフガニスタン情勢」「ISILの対頭を受けたシリア・イラク情勢」及び「イエメン情勢」にて記述

117 15(平成27)年7月、サウジアラビアの治安当局はISILとの関連が疑われる431人を逮捕するなど、国内でのテロリストの取り締まりを強化している。

118 15(平成27)年だけでも、5月、7月、8月及び10月にモスクや治安部隊に対する爆弾テロ事件が発生している。

119 クルディスタン労働者党とは、トルコ南東部やイラク北部を拠点にクルド人国家の樹立を目的として活動する分離主義組織である。主に、トルコ政府や同治安部隊などを標的とした攻撃を行っている。

120 16(平成28)年2月には、アンカラ市内の空軍司令部付近で、トルコ軍を狙ったと見られる爆発テロが発生して、29人が死亡し、PKKの関連組織である、クルド開放の鷹がPKKに対する攻撃を続けるトルコ政府に対する報復であるが犯行声明を発出している。

121 エジプトにおけるテロについてはI部3章1節2項6の「エジプト情勢」を参照。

122 リビアにおけるテロについてはI部3章1節2項3の「リビア情勢」を参照。

123 15(平成27)年6月の米軍による空爆を受け、ベルモフタールの生死は不明であるとみられている。

124 マリのイスラム過激派の動向については、I部3章1節2項9「マリ情勢」を参照。

125 アル・シャバーブは、アルカイダの公式な関連組織であり、イスラム国家の樹立、ソマリア政府の打倒や駐留する外国部隊を排除するために、ソマリア軍や駐留外国部隊を標的として攻撃を実施している。構成員の多くは、ソマリア人及び外国人の戦闘員である。15(平成27)年2月、アル・シャバーブは米国、英国、フランス、カナダ国内にあるショッピングモールや商業地区を攻撃するようこれらの国のイスラム教徒に呼びかけている。

126 AMISOMについては、I部3章1節2項8「ソマリア情勢」を参照。

127 ボコ・ハラムは、ナイジェリア政府の打倒、イスラム法の施行、西洋式教育の否定などを目的に、ナイジェリア北部(主に、イスラム教徒の多い同国ボルノ州など)を中心に軍、警察、政府関係者などの他、キリスト教などの関係施設や最近では市場などのソフトターゲットを対象とした自爆テロなどを繰り返している。現在は、ISILの西アフリカ支部として活動している。

128 最近は周囲に警戒されにくい女性や少女を利用した自爆テロを繰り返しているとの指摘もある。

129 14(平成26)年4月、ボコ・ハラムによって200人以上の女子生徒が拉致され、米国はナイジェリア政府による捜索活動の支援のため無人機などを派遣し、国連安保理の制裁委員会はボコ・ハラムを制裁対象に加えた。

130 「シャルリー・エブド」本社を襲撃した兄弟2人組の内、1人はAQAPのキャンプで訓練を受けていたことが確認されている他、AQAPは兄弟に対して直接指示を出したとの声明を発表。また、明確な関連性は確認されていないものの、ユダヤ系食料品店を襲撃したクリバリ容疑者はISILに忠誠を誓う動画をインターネット上に投稿していたと見られる。

131 このほか、14(平成26)年5月、シリアでイスラム過激派に参加していたとされるフランス人がユダヤ博物館で銃を乱射し、4人が死亡する事件が発生した。

132 仏政府は1月の「シャルリー・エブド」襲撃事件後、パリ市内のテロ警戒レベルを最高度に引き上げており、多数の警察官や軍人を動員しているほか、同時多発テロ直後に発出した非常事態宣言を延長するなど警戒を続けている。なお、パリ同時多発テロ以降のフランス政府の対応については、I部2章8項のフランスを参照。

133 容疑者の自宅からは多数の弾薬や爆弾、自動小銃などが発見された。

134 フィリピンでは、国内治安上の最大の懸案となってきた、イスラム過激派テロ組織ASGなどのテロ組織が衰退していると指摘されている。フィリピン情勢についてはI部2章6節2参照

135 バシール師はジェマー・イスラミーヤの設立者の一人である。

136 しかしながら、16(平成28)年に入り、バシール師がISILへの忠誠を取り下げたとの指摘もある。

137 インドネシアでは14(平成26)年8月、政府がISILへの参加を禁止したが、既存の法体系では、明確にテロ活動に関与したとする証拠がなければ、ISILの支持者を逮捕する権限はないといわれている。

138 その中には治安部隊員や公務員などの政府職員に加え、主婦などの一般人までもが含まれていると指摘されている。

139 犯行声明などは発出されていないものの、ウイグル族出身と見られる男性2人が逮捕されている。

140 アルカイダ指導者のザワヒリ容疑者は、バングラデシュ、インド、ミャンマー、スリランカで抑圧されているムスリム教徒を解放することがインド亜大陸のアルカイダ(AQIS:Al-Qaida in the Indian Subcontinent)の目的であると述べている。

141 ダゲスタン、チェンチェン、イングーシ、カバルディノ・バルカリア及びカラチャイ・チェルケス共和国のイスラム過激派の組織が忠誠を誓い設立された。

142 15(平成27)年9月、ダゲスタン共和国南部でロシア軍基地が襲撃され、16(同28)年2月及び3月にも、同じくダゲスタンにおいて自爆テロが発生し、両事案ともISILコーカサス支部が犯行声明を発出している。