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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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第2章 諸外国の防衛政策など

第1節 米国

1 安全保障政策・国防政策

アフガニスタン及びイラクにおける2つの戦争の終息後、中国の軍事的台頭をはじめとするグローバルなパワーバランスの変化や、ウクライナや南シナ海をめぐる力を背景とした現状変更の試み、ISILなど国際テロ組織による活動の活発化など、新たな安全保障環境の下、米国の世界への関わり方が大きく変化しつつある。一方、米国は厳しい財政状況の中においても、引き続きその世界最大の総合的な国力をもって世界の平和と安定のための役割を果たしていくものと考えられる。

15(平成27)年2月に公表された国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)は、10(同22)年に発表されたNSSにおいて示された①米国、米国民、同盟国及びパートナー国の安全、②力強く、革新的で、成長する米国経済による繁栄、③米国内と世界における普遍的な価値観の尊重、④平和、安全、機会を促進する規範に基づく国際秩序という4つの国益の追求を継続するほか、テロの脅威や大量破壊兵器の拡散、サイバー攻撃などの様々な課題について、引き続き指導的な役割を果たすとともに、規範に基づく国際秩序を推進しつつ、同盟国やパートナー国と共に行動を取っていく姿勢を強調している。

米国は、各種戦略文書1に示されているように、アジア太平洋地域における同盟国などとの関係を強化するとともに、同地域へのアセット配備を量・質ともに充実させるとの考えの下、引き続きアジア太平洋地域へのリバランスを推進することとしており、同地域を重視する方針を継続していく姿勢を示している。昨今の中国による南シナ海における埋め立てや拠点構築、軍事目的での利用などの一方的な現状変更及び既成事実化の動きも念頭に、米国は、国際法上の権利や自由などを保護するため、「航行の自由作戦」(I部3章3節3(p144)参照)を継続していくこととしている。

同時に、米国はアジア太平洋地域以外の安全保障上の課題にも対処している。14(同26)年以降、イラク・レバントのイスラム国(ISIL:Islamic State of Iraq and the Levant)などによるイラク及びシリアにおける攻勢を受け、同年8月以降、米国は空爆をはじめとする対ISIL軍事作戦として「固有の決意作戦」(OIR:Operation Inherent Resolve)を主導している(米国が主導する有志連合による対ISIL軍事作戦の動向については、次章第1節で記述)。また、アフガニスタンにおいても、15(同27)年10月、オバマ大統領は16(同28)年末までに撤収予定であった計画を見直し、同年中は現在の9,800人の態勢を維持し、17(同29)年以降も5,500人を駐留させる新たな方針を発表した。さらに、17会計年度国防省予算要求において、ロシアによるウクライナ情勢の緊迫化、大量の難民流入に直面している欧州における米軍による抑止力を強化するため、「欧州再保証イニシアティブ」2の関連予算を前年度の4倍以上の約34億ドルに増やしている。

こうした中東や欧州などをめぐる情勢の変化や、16(同28)年11月に予定されている大統領選の結果が、米国のアジア太平洋地域へのリバランスなどのこれまでの政策方針にどのような影響を与えるのかが今後注目される。

このほか、米国は、昨今の中国等による「A2/AD」能力の強化などを念頭に、米軍の軍事的優位性が徐々に浸食されているとの認識の下、米軍の優位性の維持・拡大のため、新たな分野の軍事技術の開発を企図して「第3のオフセット戦略」(本節4(p12)参照)を推進している。また、米軍は、カーター国防長官が15(同27)年2月の就任以来進めてきた「将来の戦力」(The Force of the Future)構想3の一環として、人材確保や勤務環境などの改善にも積極的に取り組んでいるほか、同年12月、各職種の求める基準を満たすことを条件に、女性兵士に対して全ての職種を開放することを決定している。

16(平成28)年3月、イラクでの「固有の決意作戦」(対ISIL軍事作戦)において警戒任務にあたる米海兵隊員【米国防省HP】の画像

16(平成28)年3月、イラクでの「固有の決意作戦」(対ISIL軍事作戦)において
警戒任務にあたる米海兵隊員【米国防省HP】

1 安全保障認識

15(同27)年2月に公表されたNSSにおいてオバマ大統領は、今日、米国及び国際社会が直面している課題として、暴力的な過激主義とテロの脅威による米国及び同盟国に対する攻撃のリスクの増加、サイバーセキュリティ問題の高まり、ロシアによる侵略、感染症の発生などを挙げた上で、米国はこれらを含む様々な課題に対処し、国際社会を率いていく唯一の能力を有しており、強く持続可能な指導力をもって米国の安全保障上の利益を守っていくこととしている。

同年7月に公表された国家軍事戦略は、国際秩序の主要な側面を見直すことを試み、米国の国家安全保障上の利益を脅かすような形で行動する「修正主義国家」としてロシア、イラン、北朝鮮、中国を明示的に列挙4し、過去10年に比べ、国家間の紛争の懸念が高まりつつあるとしたほか、ISILなどの暴力的過激派組織が差し迫った脅威になっているとした。また、16(同28)年1月の一般教書演説において、オバマ大統領は、「悪の帝国(evil empires)」よりもむしろ破綻国家がもたらす脅威を強調し、ISIL及びアルカイダは米国民への直接の脅威と明言した。さらに、同年2月、カーター国防長官は、国防省予算要求に当たり考慮した5つの課題として、ロシア、中国、北朝鮮、イラン、テロリズム、特にISILを挙げた。

このような認識を総合的に考慮すれば、米国は、短期的には、ISILやアルカイダなどの暴力的な過激派組織、中長期的には、既存の国際秩序や米国及び同盟国の利益を脅かすことを試みる国家を安全保障上の脅威として認識していると思われる。

2 国防戦略

14(同26)年3月に公表された「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR:Quadrennial Defense Review)は、アジア太平洋地域へのリバランス、欧州や中東の安定への強い関与など、国防戦略指針に示された優先事項を具体化していくため、相互に関連し、補強し合う三本の柱として、本土の防衛、グローバルな安全保障の構築、戦力の投射と決定的な勝利5を重視するとしている。

この三本の柱のもとで、米軍は以下のことを同時に実施することが可能であるとしており、抑止が失敗した場合には、大規模かつ多面にわたる作戦で第一の地域で敵対者を打破するとともに、他の地域において第二の敵対者の目的を挫き、あるいは(第二の)敵に受容できないコストを課すことが可能であるとしている6

①本土の防衛

②継続され分散された対テロ作戦

③前方展開及び関与を通じて複数の地域で攻撃を抑止し、同盟国に安全を保証する

また、三本の柱の実現のため、国防省は、戦闘の方法、戦力の配備、能力の優越や技術的先進性への投資といった分野で革新的な手法を追求しており、具体的には、アジア太平洋地域などの重要地域への海軍前方展開部隊の追加配備や艦艇・航空・地上部隊などの新たな組み合わせなどをあげている。

QDRにおいては、統合軍の構成について、多岐にわたる紛争への対応に向けた修正、海外におけるプレゼンスと態勢の修正と維持、能力・戦力・即応性の修正などを行うとともに、米軍は規模を縮小するものの、先進的な能力と即応性を備えたものとするとしている。また、予算などの資源が減少する状況にあっても、国防省は、国防戦略の柱と緊密に整合する能力分野として、①ミサイル防衛、②核抑止、③サイバー、④宇宙、⑤航空/海上、⑥精密打撃、⑦情報・監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)、⑧対テロ・特殊作戦、⑨抵抗・回復力7を重視するとしている。

3 アジア太平洋地域へのリバランス

米国は、国防戦略指針やQDR、NSSに示されているように、アジア太平洋地域を重視し、同地域へのプレゼンスを強化する方針を継続している。11(同23)年11月、オバマ米大統領はオーストラリアの議会において演説を行い、今後、アジア太平洋地域におけるプレゼンス及び任務を最優先とすることを初めて明言し、日本や韓国におけるプレゼンスを維持しつつ東南アジアでのプレゼンスを向上させることなどを示した。また、QDRは、アジア太平洋地域へのリバランスに関する国防省の取組の中核は、わが国を含む地域の同盟国との安全保障に関する取組を更新し、向上させることであるとするとともに、米軍は20(同32)年までに、海軍及び空軍の戦力の60%をアジア太平洋地域に配備することとしている。アジア太平洋地域における米軍プレゼンスの強化に関する具体例としては、オーストラリア北部における米海兵隊のローテーション展開や豪軍の施設・区域への米空軍機のアクセスの拡大などを通じたオーストラリアにおける米軍プレゼンスの強化8があげられる。

また、米国は東南アジア諸国との間で、累次にわたる共同軍事演習や軍事技術供与、軍事援助などを行い、信頼関係を構築するとともに、東南アジア諸国の即応能力の強化に努めている。15(同27)年8月に国防省が公表した「アジア太平洋の海洋安全保障戦略」は、国防省の海洋目標として、アジア太平洋地域及びその海洋領域の重要性を認識し、①海洋の自由の確保、②紛争及び強制の抑止、③国際法及び国際基準の遵守の促進を掲げ、これらを達成するため、アジア太平洋地域に米軍の最高の能力、アセット及び人員を配置するとともに、同盟国やパートナー国の海洋安全保障能力の強化を支援することとしている。

こうした考えの下、15(同27)年11月、米国は、フィリピン、ベトナム、インドネシア及びマレーシアに対し、海洋安全保障能力の強化のため、15及び16会計年度を通じて合計2億5,900万ドルの支援を表明した。これを受けて、同月、オバマ大統領は、フィリピンに対し、7,900万ドルの支援、巡視船1隻及び調査船1隻の供与を表明した。同年12月には、カーター米国防長官とシンガポールのウン・エン・ヘン国防相との間で二国間の防衛関係を強化するための防衛協力強化協定が署名された。また、現在2隻目がローテーション展開しているシンガポールへの沿海域戦闘艦(LCS:Littoral Combat Ship)9について、17(同29)年末までに最大4隻を同時展開させる計画であることが確認された。

わが国との関係では、P-8哨戒機の嘉手納飛行場への配備、無人偵察機グローバル・ホークの三沢飛行場への一時展開、国内で2基目となるTPY-2レーダー10の経ヶ岬通信所への配備、弾道ミサイル防衛能力を有するイージス艦の横須賀への追加配備11といった取組を着実に進めてきている。

一方、米国は、同盟国や友好国のみならず中国に対しても、アジア太平洋地域への関与の重要性を強調する姿勢を示している。14(同26)年のQDRにおいては、米国は中国との間で、海賊対策、平和維持、人道支援・災害救援などの実務的な分野における能力向上のための対話を継続するとともに、国際的な規範や原則と両立しつつ地域の平和と安定を向上させるよう、米中関係の競合的な側面を管理していくとしている。

15(平成27)年11月、フィリピンに対する海洋安全保障分野における支援を表明するオバマ大統領【在マニラ米大使館HP】の画像

15(平成27)年11月、フィリピンに対する海洋安全保障分野における
支援を表明するオバマ大統領【在マニラ米大使館HP】

4 第3のオフセット戦略

14(同26)年11月、ヘーゲル米国防長官(当時)は国防イノベーション構想を発表し、これが第3のオフセット戦略へと発展することを期待する旨述べた。米国は、1950年代以降、敵の有する能力と異なる新たな分野の軍事技術の開発に投資し、非対称的な手段を獲得することにより、相手の能力をオフセット(相殺)する戦略12を通じ軍事作戦上及び技術上の優位を維持してきたが、今日こうした米国の優位性は潜在的な敵が軍を近代化させ先進的な軍事力を獲得したり、技術が拡散することにより、徐々に失われつつあることから、限られた資源を活用して米国の優位性を維持・拡大するため、新たに革新的な方策を見つけることを企図して本構想を打ち出したものとしている。

本構想の策定を指揮するワーク米国防副長官は、第3のオフセット戦略においては、ロシアや中国を念頭に置いた大国に対する通常戦力による抑止を強化するため、技術・組織・運用の各側面において相手に対し優位性を得ることがねらいとされており、そのための投資として、人間と機械の協働及び戦闘チーム化を重視13するとしている。また、民生技術の革新により、競争環境が大きく変化しており、民生技術を注視・活用していくため民間部門とのより緊密な連携が求められること、技術の拡散により優位性が短期間のうちに失われる可能性があることを指摘している。

17会計年度予算要求においても本構想を推進することとされており、重視する技術分野として、確実な測位技術、大型無人潜水艇、高速打撃兵器、武器庫用途航空機14などを挙げている15

5 核戦略

オバマ米大統領は、核兵器のない世界を目標にする一方で、この目標は早期に実現できるものではなく、核兵器が存在する限り核抑止力を維持するとしている。

10(同22)年4月に発表された「核態勢の見直し」(NPR:Nuclear Posture Review)は、核をめぐる安全保障環境が変化してきており、核テロリズム及び核拡散が今日における切迫した脅威となっているとしている。また、核兵器保有国、特にロシア及び中国との戦略的安定性の確保という課題に向けて取り組まなくてはならないとしている。

NPRは、このような安全保障環境認識に立脚し、①核拡散と核テロリズムの防止、②米国の核兵器の役割の低減、③低減された核戦力レベルでの戦略的抑止と安定の維持、④地域的抑止の強化と同盟国・友好国に対する安心の供与、⑤安全・確実・効果的な核兵器の維持、という5つの主要目標を提示している。

13(同25)年6月、オバマ米大統領はベルリンにおいて核兵器の削減などに関する演説を行い、同日、国防省は核兵器運用戦略に関する報告書を公表した。それらの中で、米国は、米国の配備済み戦略核兵器のうち3分の1にあたる数量を削減することなどについてロシアと交渉を行っていくとの考えを表明した。

14(同26)年2月、ヘーゲル米国防長官(当時)は核ミサイル運用部隊の将校による違法薬物所持や習熟度試験での不正行為などの不祥事を受け、内部及び外部からの国防省の核関連事業全体の見直し(「核関連事業の見直し」(NER:Nuclear Enterprise Review))の実施を指示した。同年11月、ヘーゲル長官はNERの結果として内部調査の報告書の要約と退役軍人などによる外部調査の報告書を発表し、現状の米軍の核戦力は任務の要求を満たしているものの、将来的に安全性及び有効性を確保するためには大幅な改善が必要であるとした。2つの報告書においては監督・管理上の問題の改善、核抑止事業への投資の拡大、士気の向上を含む人員及び訓練の重視などに重点が置かれた提言がなされ、これを受け国防省は安全性の向上、戦力の近代化の確保、課題への対処を予算配分における優先事項とした上で、今後空軍及び海軍の核戦力に携わる人員の拡充、査察の方法の改善、キャリア管理の改善などに取り組んでいくとした。

参照I部3章2節1項(核兵器)

6 17会計年度予算

近年、米国政府の財政赤字が深刻化しており、11(同23)年8月に成立した予算管理法において、21会計年度までに政府歳出を大幅に削減することが規定された。12(同24)年1月、国防省は、同法の成立を踏まえた具体的な国防歳出削減額が、12会計年度から21会計年度までの10年間で約4,870億ドル(13会計年度から17会計年度までの5年間で約2,590億ドル)に上ることを発表した。13(同25)年3月には、予算管理法の規定により、国防歳出を含む政府歳出の強制削減が開始した。同年12月に成立した民主党及び共和党による超党派予算法により、14及び15会計年度予算における強制削減は緩和され、また、15(同27)年11月に成立した超党派予算法により、16及び17会計年度予算における強制削減も緩和されたものの、18会計年度以降の強制削減の扱いについては大統領及び議会との間で何ら合意はなされていない。今後、強制削減が再び開始される場合には、安全保障環境の変化により米軍にもたらされるリスクが相当増大するおそれがあり、国防予算の動向には引き続き注視を要する。

17会計年度国防省予算要求においては5,239億ドル16の本予算を計上し、海外における作戦経費については、東欧におけるロシアの動向などを念頭に欧州再保証イニシアティブの予算額を約4倍の34億ドル、イラク及びシリアにおける対ISIL作戦の予算額を約1.5倍の75億ドルに増加するなど計588億ドルを計上した。また、国防予算の主要な原則として①バランスの取れた戦力の追求、②厳しい予算環境下における即応性の持続、③組織改編の加速、④装備品取得、研究・開発などへの投資の追求、⑤人員への手当て、⑥海外作戦の支援を挙げた上で、陸軍については現役の人員を16会計年度水準の47万5,000人から46万人に削減すること、海軍については空母ジョージ・ワシントンの改修費用を昨年度に引き続き計上し空母11隻体制を維持すること、空軍についてはF-35、KC-46、長距離攻撃爆撃機「B-21」(LRS-B:Long-Range Strike Bomber)17を空軍の三大調達優先事項として堅持するとともに、A-10攻撃機の退役は22(同34)年まで先送りすることなどを示した。

参照図表I-2-1-1(政府歳出の強制削減が国防予算に与える影響)、図表I-2-1-2(米国の国防費の推移)

図表I-2-1-1 政府歳出の強制削減が国防予算に与える影響

図表I-2-1-2 米国の国防費の推移

1 12(平成24)年1月に公表された国防戦略指針(Sustaining U.S. Global Leadership:Priorities for 21st Century Defense)において、戦略文書として初めてアジア太平洋重視の方針が明記されて以降、14(同26)年3月に公表された「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR:Quadrennial Defense Review)、15(同27)年2月に公表されたNSS、及び同年7月に公表された国家軍事戦略においても引き続きアジア太平洋へのリバランス政策を推進する旨記述されている。

2 米国が北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)の同盟国及びパートナー国に対し、安全保障及び地域統合へのコミットメントを再保証するため、欧州における米軍のプレゼンスの増加、NATO同盟国などとの更なる二国間・多国間の訓練・演習の実施、欧州における米国装備の事前集積の強化などを行う取組。

3 「将来の戦力」(The Force of the Future)構想において提案されている具体的な施策としては、大学生向けの国防省インターンシップの機会の拡大、官民交流の推進(民間部門の才能ある技術者が国防省の特定のプロジェクトに特定の期間だけ関われるようにすることや、又は、国防省の職員が民間部門で働き、先端技術を持ち帰れるようにすることなど)、有給の産休期間の長期化、家庭の都合を理由とする同基地における勤務期間延長の柔軟化、これまでのように20年以上勤務しなくても年金を受け取れるようにすることなどが含まれる。

4 15(平成27)年7月、ダンフォード統合参謀本部議長は、上院の指名公聴会において、安全保障上の最大の脅威は、保有する核能力及び侵略行為の観点からロシア、脅威の程度に順序をつけなければならないとすれば、二番目は、軍事力の拡大及び太平洋地域におけるプレゼンスとその関心の観点から、中国であると発言している。

5 三本柱の主な内容は、以下のとおり。
①本土の防衛:米国への攻撃を抑止し、打破する能力を維持する。本土の防衛には、文民機関が米国の空域、海岸線、国境を警備し、国内の災害に対処するのを支援することも含まれる。
②グローバルな安全保障の構築:紛争を防ぎ、共通の安全保障課題に関して同盟国や友好国の安全を保証するため、米国による世界への強い関与を継続する。
③戦力の投射と決定的な勝利:米軍は、敵を決定的に打破する能力を維持することにより、一つ又は複数の戦域において攻撃を抑止するとともに、人道支援や災害救援のためにも戦力を投射する。

6 10(平成22)年に公表されたQDRでは、米軍は2つの国家による攻撃に対処する能力は保持しつつも、多岐にわたる作戦を実施する能力を保有するとした。また、12(同24)年に公表された国防戦略指針では、1つの地域において国家主体の攻撃的な目的を完全に否定することを見据えながら、2つ目の地域において、その機会に乗じて攻撃を行おうとする者に対し、その目的を否定したり、受容できないコストを課したりする能力を保有するとした。

7 各能力分野の主な内容は以下のとおり。
①ミサイル防衛:地上配備型迎撃ミサイルの増加、日本へのレーダーの追加配備、迎撃ミサイルの信頼性・効率性及び識別能力の向上、地上配備型迎撃ミサイルの最適な配備地域の研究
②核抑止:運搬手段、弾頭、指揮統制及び核兵器インフラの近代化への投資を維持
③サイバー:18(平成30)年9月末までに、サイバー国家任務部隊(13個)、サイバー防護部隊(68個)、サイバー戦闘任務部隊(27個)、支援チーム(25個)の4部門(計133個部隊)から成るサイバー任務部隊を編成
④宇宙:宇宙状況監視の範囲の多元化・拡大、ISRや精密打撃を含む敵の宇宙空間での軍事能力に対抗する構想を促進
⑤航空/海上:戦闘機、爆撃機などの作戦機、残存可能な持続的監視、回復力の高いシステム及び水中戦への投資によるA2/AD脅威への対処
⑥精密打撃:先進的な空対地ミサイル及び長距離対艦巡航ミサイルの取得により、敵が防護する空域においても攻撃可能な統合能力を向上
⑦ISR:敵に防衛された空域、進入や自由な行動を拒否された領域においても効果的に機能するシステムに重点的に投資、宇宙ISRシステムの利用の拡大
⑧対テロ・特殊作戦:特殊作戦軍の人員の69,700人への増員、世界中で多様な課題に対処する統合軍を支援するため、より多くの特殊作戦軍を投入
⑨抵抗・回復力:攻撃に対しても空、海、陸、宇宙及びミサイル防衛能力の機能を維持・回復する能力の向上、地上及び海上の遠征軍の分散配置、より迅速な滑走路修復能力への投資

8 11(平成23)年11月、オバマ米大統領とギラード豪首相(当時)は共同発表を行い、①ダーウィンなどのオーストラリア北部において、米海兵隊が毎年6か月程度のローテーションで展開し、豪軍との演習・訓練を行うこと、②オーストラリア北部における豪軍の施設・区域への米空軍機のアクセスを拡大し、共同演習・訓練の機会を拡大することを内容とする、米豪戦力態勢イニシアティブを明らかにした。本イニシアティブは、「地理的に分散し、運用上強じんであり、政治的に持続可能な米軍のプレゼンス」という、アジア太平洋地域における米軍の戦力態勢についての基本的な考え方を実現するための一環として行われるとされている。ローテーション展開の規模については、I部2章5節(1)参照

9 沿海域において、A2能力を持つ非対称な脅威を打破するために設計された、高速かつ機動的な艦艇

10 弾道ミサイルの探知・追尾を目的としたレーダー(使用周波数帯がいわゆる「Xバンド」と呼ばれる帯域であるため、「Xバンド・レーダー」とも呼称)。米国は、本レーダーの日本への追加配備により、北朝鮮から発射されるミサイルの早期警戒・追尾能力が強化されるとしている。

11 14(平成26)年4月、ヘーゲル米国防長官(当時)は17(同29)年までに弾道ミサイル防衛能力を有するイージス艦2隻を日本に追加配備することを発表し、内1隻のイージス駆逐艦「ベンフォールド」は15(同27)年10月に横須賀に配備された。もう1隻のイージス駆逐艦「ミリウス」は、17(同29)年夏に横須賀に展開予定である。さらに、16(同28)年3月、弾道ミサイル防衛能力に対応していなかったイージス駆逐艦の「ラッセン」に代わって、後継艦として、弾道ミサイル防衛能力を有するイージス駆逐艦「バリー」を横須賀に配備した。

12 ヘーゲル長官は過去2つの「オフセット戦略」として、①1950年代に米国は核兵器の抑止力を用いることにより旧ソ連の通常戦力に対抗したこと、②1970年代に旧ソ連との間で双方の核戦力が均衡状態に至る一方で、米国は長射程精密誘導弾、ステルス航空機、ISR関連技術といった新たなシステムを獲得することにより旧ソ連に対し優位に立ったことを挙げている。

13 ワーク国防副長官が15(平成27)年11月の講演で説明したところによれば、具体的には、①自動学習する機械、②人間と機械の協働、③人間の活動への援助、④人間と機械の戦闘チーム化、⑤ネットワーク化された自律的兵器が挙げられている。

14 武器庫用途航空機(arsenal plane)は、古い航空機をプラットホームとし、様々なペイロードを発射するための「空飛ぶ発射台(flying launch pad)」として活用する構想である。

15 17会計年度予算要求における科学技術関連予算は、基礎研究費21億ドル、国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)の予算約30億ドルを含む、約125億ドルを計上している。

16 16会計年度成立予算の水準からは約22億ドル増

17 長距離攻撃爆撃機B-21は、現行の爆撃機を代替する新しい長距離爆撃機であり、通常兵器及び核による縦深攻撃能力の主要な要素となる予定である。初期作戦能力を2020年代半ばまでに獲得する予定とされている。