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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事

1 国防政策

中国は、強固な国防と強大な軍隊の建設を、国家の近代化建設のための戦略的な任務であると同時に、「平和的発展」下にある国家の安全を保障するものと位置づけている。国防政策の目標と任務は、主に、新たな安全保障環境の変化に適応すること、中国共産党の強軍目標の実現に向け積極防御10の戦略方針を貫徹すること、国防と軍隊の近代化を加速すること、国家の主権、安全、発展の利益を断固として擁護すること、並びに中華民族の偉大なる復興という「中国の夢」を実現するため強固な保障を提供することであるとしている。中国は、このような自国の国防政策を防御的であるとしている11

中国は、湾岸戦争やコソボ紛争、イラク戦争などにおいて見られた世界の軍事発展の動向に対応し、情報化条件下の局地戦に勝利するとの軍事戦略に基づいて、軍事力の機械化及び情報化を主な内容とする「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるとの方針をとっている。中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」及び「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えた12ほか、軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させるとの方針も掲げている。

中国の軍事力強化においては、台湾問題への対処、具体的には台湾の独立及び外国軍隊による台湾の独立支援を阻止する能力の向上が、最優先の課題として念頭に置かれていると考えられる。さらに、近年では、台湾問題への対処以外の任務のための能力の獲得にも積極的に取り組んでおり、非伝統的安全保障分野における軍隊の活用も重視している。軍事力強化については、「2020年までに機械化を基本的に実現させ、情報化建設において重大な進展を成し遂げる」との目標を掲げ、「情報化条件下における局地戦で勝利する能力を中核とする、多様化した軍事任務を完遂する能力を向上させ、新世紀における新段階での軍隊の歴史的使命を全面的に履行する」13としており、国力の向上に伴い軍事力も発展させていく考えであるとみられる。

中国は継続的に高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力を広範かつ急速に強化しており、その一環として、いわゆる「A2/AD」能力の強化に取り組んでいるとみられる。また、統合作戦能力の向上、戦力を遠方に展開させる能力の強化、実戦に即した訓練の実施、情報化された軍隊の運用を担う人材の育成及び獲得、国内の防衛産業基盤の向上、法に基づく軍の統治の貫徹に努めている。さらに中国は、東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域などにおいて活動を急速に拡大・活発化させている。特に、海洋における利害が対立する問題をめぐって、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させ、その既成事実化を着実に進めるなど、自らの一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢を示している。このような中国の軍事動向などは、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国として強く懸念しており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。また、地域・国際社会の安全保障上も懸念されるところとなっている。

2 軍事に関する透明性

中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標及び調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。また、軍事力の強化の具体的な将来像は明確にされておらず、軍事や安全保障に関する意思決定プロセスの透明性も十分確保されていない。

中国は、1998(平成10)年以降2年ごとに、「中国の国防」などの国防白書を発表してきており、外国の国防当局との対話も数多く行っている14。07(同19)年8月には、国連軍備登録制度への復帰及び国連軍事支出報告制度への参加を表明し、それぞれの制度に基づく年次報告を提出した。中国国防部は、11(同23)年4月から毎月定例で報道官による記者会見を行っているほか、13(同25)年11月には海軍、空軍など7部門15に報道官が新設された。このような動きは、軍事力の透明性向上に資する動きとも考えられる一方、「輿論戦」を強化するための動きとも考えられる。

一方で、国防費については、内訳の詳細を明らかにしていない。過去においては、人員生活費、訓練維持費、装備費に三分類し、それぞれの総額と概括的な使途を公表していた16が、最近はそのような説明も行われていない。また、13(同25)年4月及び15(同27)年5月に発表された国防白書においては、記述を特定のテーマに限定し、一部にこれまでよりも詳細に記述したところがある反面、それまでの国防白書にはあった国防費に関する記述が一切なくなり、全体の記述量も減少するなど、透明性が低下している面も見られ、国際社会の責任ある国家として望まれる透明性は依然として確保されていない。

中国による事実に反する説明を含め、中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせる事案も発生している。例えば、中国原子力潜水艦によるわが国領海内潜没航行事案(04(同16)年11月)については、国際法違反にもかかわらずその詳細な原因は明らかにされていない。また、中国海軍艦艇による海自護衛艦に対する火器管制レーダー照射事案(13(同25)年1月)などが発生していることについては、中国国防部及び外交部が同レーダーの使用そのものを否定するなど事実に反する説明を行っている。さらに、中国軍の戦闘機が海自機及び空自機に対して異常に接近した事案(14(同26)年5月及び6月)についても、中国国防部は日本側が「演習空域に無断で押し入り、危険な行為を行った」などと事実に反する説明を行っている。近年では、軍事力強化に伴う軍の専門化の進展や任務の多様化など軍を取り巻く環境が大きく変化してきている中で、共産党指導部と人民解放軍との関係が複雑化しているとの見方や、対外政策決定における軍の影響力が変化しているとの見方17もあり、こうした状況については危機管理上の課題としても注目される。

中国による事実に反する説明は、中国が強行している南シナ海における急速かつ大規模な地形開発18においてもみられる。15(同27)年9月、米中首脳会談の中で、習近平主席は「軍事化を追求する意図はない」と述べたが、同年10月には、中国外交部報道官が、「防衛的な性質の軍事施設を置いている」と発言している。

中国は、政治面、経済面に加え、軍事面においても国際社会で大きな影響力を有するに至っているため、各国がその動向に注目している。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後、国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが強く望まれる。

3 国防費

中国は、2016年度の国防予算を約9,544億元19と発表した20。これを昨年度の当初予算額と比較すると約7.6%(約675億元)の伸びとなる21。中国の公表国防費は、1989年度から毎年ほぼ一貫して二桁の伸び率を記録するなど、速いペースで増加しており22、公表国防費の名目上の規模は、1988年度から28年間で約44倍、2006年度から10年間で約3.4倍となっている。中国は、国防建設を経済建設と並ぶ重要課題と位置づけており、経済の発展に併せて、国防力の向上のための資源投入を継続しているものと考えられるが、中国経済の成長の鈍化が今後の中国の国防費にどのような影響を及ぼすか注目される。

また、中国が国防費として公表している額は、中国が実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられていること23に留意する必要がある。例えば、装備購入費や研究開発費などはすべてが公表国防費に含まれているわけではないとみられている。

参照図表I-2-3-1(中国の公表国防費の推移)

図表I-2-3-1 中国の公表国防費の推移

4 軍事態勢

中国の軍事力は、人民解放軍、人民武装警察部隊24と民兵25から構成されており、中央軍事委員会の指導及び指揮を受けるものとされている26。人民解放軍は、陸・海・空軍とロケット軍(戦略ミサイル部隊)からなり、中国共産党が創建、指導する人民軍隊とされている。

(1)軍改革

中国は、現在、建国以来最大規模とも評される人民解放軍の改革に取り組んでいる。

まず、第18期三中全会においては、中央軍事委員会などの機能及び組織を最適化し、各軍種などに対する指導管理体制を完全なものにすることや、当該委員会の統合作戦指揮機構及び戦区統合作戦指揮体制を整え、統合作戦訓練及び後方支援体制の改革を推進することなどが決定された。また、15(同27)年5月に発表された国防白書「中国の軍事戦略」においても、中央軍事委員会統合作戦指揮機構及び戦区統合作戦指揮体制の整備への言及がなされた。

同年11月、軍改革の具体的方向性について、初めて公式の立場が表明された。習近平国家主席は、中央軍事委員会改革工作会議において、中央軍事委員会による人民解放軍に対する集中的かつ統一的指導の実施、陸軍指導機構の創設、「戦区」の設置及び統合作戦指揮機構の創設、軍の人員30万人の削減27、機関及び非戦闘機構の要員の合理化などからなる軍改革を、20(同32)年までに推進する旨発表した。

昨今、これらの改革は急速に具体化している。まず、15(同27)年12月末、人民解放軍「陸軍指導機構」28、「ロケット軍」29、「戦略支援部隊」30の成立大会が北京で開催された。次に、16(同28)年1月11日、中国軍全体の指導機構であるいわゆる「四総部」31が、「統合参謀部」、「政治工作部」、「後勤保障部」、「装備発展部」等、中央軍事委員会隷下の十五の職能部門へと改編された。さらに、同年2月1日、中国人民解放軍におけるこれまでの「七大軍区」32が廃止され、新たに「五大戦区」、すなわち「東部戦区」、「南部戦区」、「西部戦区」、「北部戦区」及び「中部戦区」が編成された33

これら一連の改革は、統合作戦能力を向上するとともに、平素からの軍事力整備や組織管理を含めた軍事態勢の強化を図ることにより、より実戦的な軍の建設を目的としていると考えられる。また、「四総部」の改編は、指導機構の分権並びに中央軍事委員会及び同主席の直接的な指導の強化がねらいであるとの指摘もある。今後、これらの改革が引き続き進められることが予想されるが、わが国を含む地域の安全保障への影響も含め、改革の成果がどのように現れてくるかが注目される。

(2)核戦力及びミサイル戦力

中国は、核戦力及び弾道ミサイル戦力について、1950年代半ば頃から独自の開発努力を続けており、抑止力の確保、通常戦力の補完及び国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。核戦略に関して、中国は、核攻撃を受けた場合に、相手国の都市などの少数の目標に対して核による報復攻撃を行える能力を維持することにより、自国への核攻撃を抑止するとの戦略をとっているとみられている34。また、15(同27)年9月のいわゆる「抗日戦争勝利70周年記念式典」における北京での軍事パレードで多くの戦略ミサイルが展示されたこと35や、現在進められている軍改革において、人民解放軍に陸海空軍と同格の「ロケット軍」が新設されたことなどから、中国は核戦力及び弾道ミサイル戦力を今後も引き続き重視していくものと考えられる。

中国は、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)、中距離弾道ミサイル(IRBM/MRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile/Medium-Range Ballistic Missile)、短距離弾道ミサイル(SRBM:Short-Range Ballistic Missile)といった各種類・各射程の弾道ミサイルを保有している36。これらの弾道ミサイル戦力は、液体燃料推進方式から固体燃料推進方式への更新による残存性及び即応性の向上が行われている37ほか、射程の延伸、命中精度の向上、弾頭の機動化や多弾頭化などの性能向上の努力が行われているとみられている。

戦略核戦力であるICBMについては、これまでその主力は固定式の液体燃料推進方式のミサイルDF-538であったが、中国は、固体燃料推進方式で、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載される移動型のDF-31及びその射程延伸型であるDF-31Aを配備しており、特にDF-31Aの数を今後増加させていくとの指摘もある39。また、SLBMについては、現在、射程約8,000kmとみられているJL-2を搭載するためのジン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)が運用中とみられている。ジン級SSBNが核抑止パトロールを開始すれば、中国の戦略核戦力は大幅に向上するものと考えられる40

わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、TELに搭載され移動して運用される固体燃料推進方式のDF-21やDF-26があり、これらのミサイルは、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能である41。中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)DF-21Dを配備している42。また、射程がグアムを収めるDF-2643は、DF-21Dを基に開発された「第2世代ASBM」とされており、移動目標を攻撃することもできるとみられている。さらに、中国は、IRBM/MRBMに加えて、射程1,500km以上の巡航ミサイルであるDH-10(CJ-10)、そしてこの巡航ミサイルを搭載可能なH-6(Tu-16)爆撃機を保有しており、これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力となるとみられている44。中国は、これらASBM及び長射程の巡航ミサイルの戦力化を通じて、「A2/AD」能力の強化を目指していると考えられる。SRBMについては、固体燃料推進方式のDF-16、DF-15及びDF-11を多数保有し、台湾正面に配備しており45、わが国固有の領土である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられている。

また、中国は、ミサイル防衛網の突破が可能となる打撃力の獲得のため、弾道ミサイルに搭載して打ち上げる極超音速滑空兵器の開発を推進しているとみられており、今後の動向が注目される46

一方、中国は10(同22)年及び13(同25)年1月に、ミッドコース段階におけるミサイル迎撃技術の実験を行ったと発表しており47、中国による弾道ミサイル防衛の今後の動向が注目される48

参照図表I-2-3-2(中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程)

図表I-2-3-2 中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程

(3)陸上戦力

陸上戦力については、約160万人と世界最大である。中国は、1985(昭和60)年以降に軍の近代化の観点から行ってきた人員の削減49や組織・機構の簡素化・効率化に引き続き努力しており、装備や技術の面で立ち遅れた部隊を漸減し、能力に重点を置いた軍隊を目指している。具体的には、これまでの地域防御型から全国土機動型への転換を図り、歩兵部隊の自動車化、機械化を進めるなど機動力の向上を図っているほか、空挺部隊(空軍所属)、水陸両用部隊、特殊部隊及びヘリコプター部隊の強化を図っているものと考えられる。また、部隊の多機能化を進め、統合作戦能力の向上と効率的な運用に向けた指揮システムの構築に努力し、後方支援能力を向上させるための改革にも取り組んでいる。

中国は、09(平成21)年に確認された「跨越2009」以降、10(同22)年から13(同25)年までは「使命行動」、14(同26)年以降は「跨越」及び「火力」といった、陸軍の長距離機動能力50、民兵や公共交通機関の動員を含む後方支援能力など、陸軍部隊を遠隔地に展開するために必要な能力の検証・向上などを目的とする、複数の軍区に跨がる機動演習を毎年実施している。また、「使命行動2013」には海軍及び空軍も参加したとされるほか、14(同26)年以降は「統合(聯合)行動」で兵種合同・軍種統合演習が実施されていることなどから、併せて統合作戦能力の向上も企図しているものと考えられる。

参照図表I-2-3-3(中国軍の配置と戦力)

図表I-2-3-3 中国軍の配置と戦力

(4)海上戦力

海上戦力は、北海、東海、南海の3個の艦隊からなり、艦艇約880隻(うち潜水艦約60隻)、約150万トンを保有しており、自国の海上の安全を守り、領海の主権と海洋権益を保全する任務を担っている。中国海軍は、国産で最新鋭のユアン級潜水艦51や、艦隊防空能力や対艦攻撃能力の高い水上戦闘艦艇52の量産を進めているほか、最新のYJ-18対艦巡航ミサイルを発射可能な垂直ミサイル発射システム(VLS:Vertical Launch System)などを搭載した巡洋艦の開発を進めているとの指摘もある。また、大型の揚陸艦や補給艦の増強を行っているほか、08(同20)年10月には大型の病院船を就役させた。

空母に関しては、ウクライナから購入した未完成のクズネツォフ級空母ワリャーグの改修を進め、11(同23)年8月から試験航行を開始し、12(同24)年9月に遼寧(りょうねい)と命名し、就役させた53。同艦就役後も国産のJ-15艦載機を用いた艦載機パイロットの育成や同艦における発着艦試験を継続していると考えられ、13(同25)年11月には、同艦が初めて南シナ海に進出し、当該海域で試験航行を実施した54。また、15(同27)年12月末、中国国防部報道官が、国産空母の建造を初めて正式に認め、当該空母は「大連で建造されており、排水量は5万トン級で、通常動力装置を採用して」いるほか、「スキージャンプ式の発艦方式をとる」55と発表した。

建造中の中国国産空母とされる船体(16(平成28)年6月2日)【IHS Jane’s】の画像

建造中の中国国産空母とされる船体(16(平成28)年6月2日)
【IHS Jane’s】

このような海上戦力強化の状況などから、中国は近海における防御に加え、より遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築を目指していると考えられる56。こうした中国の海上戦力の動向には今後も注目していく必要がある57

(5)航空戦力

航空戦力は、海軍、空軍を合わせて作戦機を約2,720機保有している。第4世代の近代的戦闘機は着実に増加しており、ロシアからSu-27戦闘機の導入・ライセンス生産などを行い、対地・対艦攻撃能力を有するSu-30戦闘機も導入しているほか、Su-27戦闘機を模倣したとされるJ-11B戦闘機や国産のJ-10戦闘機を量産している58。また、ロシアのSu-33艦載機をモデルにしたとされる国産のJ-15艦載機が、空母「遼寧」に搭載されている。さらに、中国は、15(同27)年11月、ロシアの国営軍事企業と、最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機24機の購入契約を締結したとされているほか、次世代戦闘機との指摘もあるJ-20及びJ-31戦闘機の開発も進めている59。中国空軍は、核兵器や最新鋭のYJ-12空対艦ミサイルを含む巡航ミサイルを搭載可能とされるH-6爆撃機を保有している。このほか、H-6U空中給油機やKJ-50060及びKJ-2000早期警戒管制機などの導入により近代的な航空戦力の運用に必要な能力を向上させる努力も継続している。さらに、輸送能力向上のため、新型のY-20大型輸送機を開発中61であるとみられている。このような様々な航空機の自国での開発・生産・配備やロシアからの導入に加え、偵察などを目的に高高度において長時間滞空可能な機体(HALE:High Altitude Long Endurance)や、攻撃を目的にミサイルなどを搭載可能な機体などを含む多種多様な無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)62の自国での開発を進めているとみられ、その一部については生産・配備も行っているとみられている。

新型早期警戒管制機KJ-500【IHS Jane’s】の画像

新型早期警戒管制機KJ-500【IHS Jane’s】

軍事パレードで展示されたGJ-1(「翼竜(よくりゅう)」)攻撃型無人機【IHS Jane’s】の画像

軍事パレードで展示されたGJ-1(「翼竜(よくりゅう)」)攻撃型無人機【IHS Jane’s】

このような航空戦力の近代化状況などから、中国は、国土の防空能力の向上に加えて、より遠方での制空戦闘及び対地・対艦攻撃が可能な能力の構築や長距離輸送能力の向上を目指していると考えられる63。こうした中国の航空戦力の動向には今後も注目していく必要がある。

(6)宇宙の軍事利用及びサイバー戦に関する能力

中国の宇宙プログラムは世界で最も短期間で発達したとされ、軍事目的で宇宙利用を行っている可能性があり、紛争時に敵の宇宙利用を制限・妨害するため、レーザー兵器や衛星妨害兵器を開発しているとみられている。また、中国はサイバー空間にも関心を有しており、サイバー攻撃で地域全体における敵のネットワークを破壊することで、その「A2/AD」能力を強化しているとの指摘もある。これらの背景としては、迅速で効率的な戦力の発揮に欠くことのできない軍事分野での情報収集、指揮通信などが人工衛星やコンピュータ・ネットワークへの依存を高めていることが指摘できる。

参照I部3章4節(宇宙空間と安全保障)I部3章5節(サイバー空間をめぐる動向)

(7)統合運用体制構築に向けた動き

中国は、13(同25)年11月の第18期三中全会において、「統合作戦能力の向上や指揮態勢・組織の改革」という政策方針を提起するなど、近年、軍種間での統合協同作戦能力を向上させるべく、体制整備を進めている。この一環として、13(同25)年11月に「東シナ海防空識別区」を有効に監視するなどの目的で、海空軍などを統合運用するための「東シナ海統合作戦指揮センター」を新設したとされている64。また、中国共産党が最高戦略レベルにおける意思決定を行うための「中央軍事委員会統合作戦指揮センター」が設立された。さらに、15(同27)年11月、習近平国家主席は、軍改革の具体的方向性に関する講話の中で、中央軍事委員会の統合作戦指揮機構の健全化や戦区の統合作戦指揮機構創設について述べた。実際、16(同28)年1月、いわゆる「四総部」が解体され、中央軍事委員会に複数部門制が導入されたほか、同年2月には、軍区が改編され、新たに5つの戦区が編成されている。このように、統合運用体制の整備は、軍改革が進むにつれより一層進展していく可能性がある。

また、近年中国は「跨越」や「火力」にみられるような軍区を跨ぐ長距離機動演習や、「使命行動2013」や「統合(聯合)行動」にみられるような陸・海・空軍などで行う統合演習を実施するなど、統合運用体制構築を目指した訓練の実施も進めている。これらの訓練は、異軍種間の連携や戦区を越えた戦力の投入をより円滑にするためのものであると考えられ、今後の動向が注目される。

5 海洋における活動
(1)全般

近年、中国は、より遠方の海空域における作戦遂行能力の構築を目指していると考えられ、その海上戦力及び航空戦力による海洋における活動を質・量ともに急速に拡大させている。特に、わが国周辺海空域においては、艦載ヘリの飛行や陣形運動など、何らかの訓練と思われる活動や情報収集活動を行っていると考えられる中国の海軍艦艇65や海・空軍機、海洋権益の保護などのための監視活動を行う中国の海上法執行機関66所属の公船や航空機が多数確認されている67。このような中国の活動には、わが国領海への中国公船による断続的侵入や領空の侵犯のほか、火器管制レーダーの照射や戦闘機による自衛隊機への異常な接近、「東シナ海防空識別区」の設定といった公海上空における飛行の自由を妨げるような動きを含め、不測の事態を招きかねない危険な行為を伴うものもみられ、極めて遺憾である。中国は「法の支配」の原則に基づき行動することが求められる。

参照I部3章3節(海洋をめぐる動向)

(2)わが国周辺海域における活動の状況

海上戦力の動向としては、中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出回数が近年増加傾向にあり、当該進出は現在も高い頻度で継続している68。この際、中国海軍の艦艇部隊は、08(同20)年以降、毎年複数回、沖縄本島と宮古島の間の海域を通過しているほか、12(同24)年以降、毎年大隅海峡や、与那国島と西表島近傍の仲ノ神島の間の海域を通過している。また、15(同27)年3月には、奄美大島と横当島(よこあてじま)の間の海域を西進した。さらに、08(同20)年10月及び16(同28)年2月には津軽海峡を、また、13(同25)年7月、14(同26)年12月、15(同27)年8月には宗谷海峡を通過するなど、わが国の北方を経由した活動も定期的に実施されるようになってきている。このように、中国海軍の艦艇部隊による太平洋進出・帰投ルートは、わが国の北方を含む形で引き続き多様化の傾向にあるなど、外洋への展開能力の向上を図っているものと考えられる。また、13(同25)年10月には、西太平洋で初となる海軍三艦隊合同演習「機動5号」が実施されたほか、14(同26)年12月にも、同様の三艦隊合同演習が実施されたとみられる69

このほか、東シナ海においては、継続的に中国海軍艦艇が活動しているとみられており70、中国側は尖閣諸島に関する中国独自の立場71に言及したうえで、管轄海域における中国海軍艦艇によるパトロールの実施は完全に正当かつ合法的である旨発言している。13(同25)年1月には、中国海軍艦艇から海自護衛艦に対して火器管制レーダーが照射された事案や、中国海軍艦艇から海自護衛艦搭載ヘリコプターに対して同レーダーが照射されたと疑われる事案が発生している72。また、16(同28)年6月、中国海軍のジャンカイI級フリゲート1隻が、尖閣諸島周辺のわが国接続水域内に入域した。中国海軍戦闘艦艇による同接続水域内への入域は初の事案である。さらに、近年、中国海軍情報収集艦による活動も複数確認されている。15(同27)年11月、尖閣諸島南方の接続水域の外側の海域で、同年12月及び16(同28)年2月には、房総半島南東の接続水域の外側の海域で、それぞれ中国海軍ドンディアオ級情報収集艦(AGI)1隻が往復航行を実施した。また、同年6月には、同型情報収集艦1隻が、口永良部島(くちのえらぶじま)及び屋久島付近のわが国領海内を航行した後、北大東島北方の接続水域内を航行し、その後、尖閣諸島南方の接続水域の外側を東西に往復航行した。中国海軍艦艇による領海内航行は約12年ぶりである。このように、最近、尖閣諸島に関する独自の主張に基づくとみられる活動の推進をはじめ、中国海軍艦艇が尖閣諸島を含めてその活動範囲を一層拡大するなど、わが国周辺海域における行動を一方的にエスカレートさせており、強く懸念される状況となっている。

16(平成28)年5月に上部構造物の設置が確認された海洋プラットフォーム第12基

16(平成28)年5月に上部構造物の設置が確認された
海洋プラットフォーム第12基

中国公船の動向としては、尖閣諸島周辺のわが国領海において、08(同20)年12月に「海監」船が徘徊(はいかい)・漂泊といった国際法上認められない活動を行った。また、10(同22)年9月には、尖閣諸島周辺のわが国領海において、わが国海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件が生起している。その後も、11(同23)年8月、12(同24)年3月及び同年7月に「海監」船や「漁政」船が、当該領海に侵入する事案が発生している73。このように、「海監」船及び「漁政」船は、徐々に当該領海における活動を活発化させてきたが、12(同24)年9月のわが国政府による尖閣三島(魚釣島、北小島及び南小島)の所有権の取得・保有以降、このような活動は著しく活発化し、当該領海へ断続的に侵入している。13(同25)年4月及び9月には、当該領海に同時に8隻の中国公船が侵入した。同年10月以降は、領海侵入を企図した公船の運用状況74からルーチン化がみられている。そのため、運用要領などの基準が定まった可能性も考えられる。

また、15(同27)年12月26日以降、機関砲とみられる武器を搭載した公船75がわが国領海に繰り返し侵入するようになっている。このほか、尖閣諸島近海に派遣する公船は大型化が図られており、14(同26)年8月以降、わが国領海に侵入してくる公船のうち、少なくとも1隻は3,000トン級以上の公船である。また、15(同27)年2月には、初めて3,000トン級以上の公船が3隻同時にわが国領海に侵入した。さらに、中国は世界最大級となる1万トン級の巡視船の建造も進めており、既に2隻76が試験航行を実施したとされている。このように、中国公船によるわが国の領海侵入を企図した運用態勢の強化は着実に進んでいると考えられる。

なお、12(同24)年10月には、中国海軍東海艦隊の艦艇が「海監」船や「漁政」船と領土主権及び海洋権益の維持・擁護に着目した共同演習を実施し、海軍の退役艦艇を13(同25)年7月に正式に発足した中国海警局77に引き渡しているとみられるほか、14(同26)年にも海軍と「海警」の連携訓練や海軍と「海巡」の共同訓練「海神2014」が行われるなど、海軍は、運用面及び装備面の両面から海上法執行機関を支援しているとみられる。

参照図表I-2-3-4(わが国周辺海域における最近の主な中国の活動)

図表I-2-3-4 わが国周辺海域における最近の主な中国の活動(航跡はイメージ)

(3)わが国周辺空域における活動の状況

近年、中国海・空軍の航空機によるわが国に対する何らかの情報収集と考えられる活動が活発にみられるようになっており、近年、空自による中国機に対する緊急発進の回数も急激な増加傾向にある78

航空戦力の東シナ海上空における動向としては、07(同19)年9月、複数のH-6爆撃機が、また、10(同22)年3月には、Y-8早期警戒機が、東シナ海上空においてわが国の防空識別圏に入り日中中間線付近まで進出する飛行を行ったほか、11(同23)年3月には、Y-8哨戒機及びY-8情報収集機が、日中中間線を越えて尖閣諸島付近のわが国領空まで約50kmに接近する飛行を行うなど、飛行パターンも多様化している。12(同24)年には戦闘機を含む中国機による活動も活発化した。13(同25)年1月には、中国国防部が東シナ海における中国軍機による定例的な警戒監視及び同軍戦闘機による空中警戒待機(CAP:Combat Air Patrol)とみられる活動の実施について公表を行った。また、同年の中国の国防白書では、空軍による海上空域での警戒パトロールに関する記述が新たに追加された。

同年11月23日、中国政府は尖閣諸島をあたかも「中国の領土」であるかのような形で含む「東シナ海防空識別区」を設定し、中国国防部の定める関連の規則に従わない場合は中国軍による「防御的緊急措置」をとる旨発表した79。同日、Tu-154情報収集機及びY-8情報収集機がそれぞれ東シナ海を飛行しており、中国空軍は、当該防空識別区設定後、初のパトロール飛行を実施した旨公表している。また、同年12月26日には、当該防空識別区設定後の1か月で、中国軍は関係空域に偵察機、早期警戒機、戦闘機を51回、延べ87機出動させた旨公表している。

また、11(同23)年3月、4月及び12(同24)年4月には、東シナ海において警戒監視中の海自護衛艦に対して、中国国家海洋局所属とみられるヘリコプターなどが近接飛行する事案が発生している80。さらに、14(同26)年5月及び6月には、東シナ海において通常の警戒監視活動を行っていた海自機及び空自機に対して、中国軍のSu-27戦闘機2機が異常に接近する事案が発生している81。中国国防部は、自衛隊の航空機が中国側の航空機に対し危険な行為を行ったなどと発表しているが、いずれの場合も、自衛隊機による活動は国際法にのっとった正当なものであり、自衛隊機が危険な行為などを行ったとの事実は一切ない。

航空戦力の太平洋への進出については、13(同25)年7月にY-8早期警戒機1機が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出したことが、空自の対領空侵犯措置により初めて確認された。昨年(15(同27)年)も、2月には、Y-9情報収集機1機が2日連続で、5月には、H-6爆撃機2機が、7月には、Y-9情報収集機1機、Y-8早期警戒機1機及びH-6爆撃機2機の計4機が2日連続で、また、11月には、H-6爆撃機4機、Tu-154情報収集機1機及びY-8情報収集機1機の計6機82が、それぞれ同様の飛行を行った83。さらに、16(同28)年1月末には、Y-9情報収集機1機及びY-8早期警戒機1機の計2機が対馬海峡を通過し、初めて日本海で活動した。このように、中国機による活動はさらに活発化している84

沖縄本島と宮古島間を通過して太平洋へ進出したH-6爆撃機(15(平成27)年11月27日)の画像

沖縄本島と宮古島間を通過して太平洋へ進出した
H-6爆撃機(15(平成27)年11月27日)

尖閣諸島及びその周辺上空のわが国領空については、12(同24)年12月に、中国国家海洋局所属の固定翼機が中国機として初めて当該領空を侵犯する事案が発生し、その後も14(同26)年3月までの間、同局所属の固定翼機の当該領空への接近飛行がたびたび確認された85。また、最近では中国軍用機が南下するといった尖閣諸島近傍での活動の活発化も確認されている。16(同28)年6月、航空自衛隊戦闘機が尖閣諸島方向に南下飛行した中国軍機に対し、対領空侵犯措置を行ったことに関し、中国国防部は自衛隊機が中国軍機に対して挑発を行ったなどと公式発表86を行った。しかしながら、自衛隊機は国際法及び自衛隊法に基づいて対領空侵犯措置を実施しており、中国軍機に対して挑発的な行為をとったという事実は一切ない。最近の中国軍用機による尖閣諸島近傍における活動について、今後も強い関心をもって注視していく必要がある。

参照図表I-2-3-5(中国機に対する緊急発進回数の推移)、図表I-2-3-6(わが国周辺空域における最近の中国の活動)

図表I-2-3-5 中国機に対する緊急発進回数の推移

図表I-2-3-6 わが国周辺空域における最近の中国の活動(航跡はイメージ)

(4)南シナ海における活動の状況

中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)諸国などと領有権について争いのある南沙(スプラトリー)・西沙(パラセル)諸島などを含む南シナ海においても活動を活発化させている。09(同21)年3月及び13(同25)年12月には、南シナ海を航行していた米海軍艦船に対し中国海軍艦艇などが接近・妨害する事案が発生している87。また、14(同26)年8月には、中国軍の戦闘機が米軍機に対し異常な接近・妨害を行ったとされる事案などが発生している88。また、中国海軍艦艇が周辺諸国の漁船に対し威嚇射撃を行う事案も生起していると伝えられている。さらに近年では、地形の埋め立て及び各種インフラ整備を含む同海域における中国による地形開発活動に対してベトナムやフィリピンなどが抗議を行うなど、南シナ海をめぐって中国と周辺諸国との摩擦が表面化している。

中国は、南沙諸島にある7つの地形89において、14(同26)年以降、急速かつ大規模な埋め立て活動90を強行し、砲台といった軍事施設のほか、滑走路や格納庫、港湾、レーダー施設等、軍事目的に利用し得る各種インフラ整備を推進している91。ファイアリークロス礁においては、水上戦闘艦艇の入港が可能とみられる大型港湾の造成が進展しているほか、16(同28)年1月には、戦闘機や爆撃機などが離発着可能な3,000m級の滑走路の完成が宣言され、周辺国から抗議がある中で、航空機による試験飛行が強行された。さらに、同年4月には、南シナ海哨戒任務中の海軍哨戒機がファイアリークロス礁に急患輸送を目的として着陸した92。また、スビ礁及びミスチーフ礁においても、大規模な埋め立てに続き、大型滑走路の建設が進展しているとみられる93。その他の4つの地形でも、港湾、ヘリパッド、レーダーなどの施設建設が進展している。このほか、中国は西沙諸島においても地形開発や軍事目的での利用を推進しており、ウッディー島においては、13(同25)年以降、滑走路の延長工事を実施したほか、15(同27)年10月にはJ-11等の戦闘機を展開させるとともに、16(同28)年2月には、地対空ミサイルとみられる装備の所在が確認されている。また、12(同24)年4月に中比公船が対峙する事案が発生したスカボロー礁94においても、近年、中国の艦船による測量とみられる活動が確認されたといわれているほか、今後、新たな埋め立てが行われる可能性があるとの指摘もなされている95。仮に、スカボロー礁において埋め立てが実施されレーダー施設や滑走路等の設置が行われた場合、周辺海域における中国の状況把握能力や作戦能力が高まり、ひいては南シナ海全域での能力向上につながる可能性も指摘されていることも踏まえ、今後とも状況を注視していく必要がある。中国によるこのような活動は、一方的な現状変更及びその既成事実化を一層進展させる行為であり、わが国として深刻な懸念を有しているほか、米国をはじめとした国際社会からも同様の懸念が示されている96。なお、中国は、地形開発に対する国際的な懸念が高まっているとの指摘に対し、フィリピンやベトナムなど幾つかのASEAN諸国が、南沙諸島の地形を不当に占拠し、飛行場など固定施設の大規模工事を実施していると主張している97が、中国の地形開発はその他の国々が行っている活動とは比較にならないほどに大規模であり98、かつそれを急速に実施している。

急速かつ大規模な埋め立て及び滑走路などの施設建設が進むファイアリークロス礁(左:14(平成26)年8月14日時点、中央:15(平成27)年3月18日時点、右:16(平成28)年5月1日時点)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe】の画像

急速かつ大規模な埋め立て及び滑走路などの施設建設が進むファイアリークロス礁
(左:14(平成26)年8月14日時点、中央:15(平成27)年3月18日時点、右:16(平成28)年5月1日時点)
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レーダー(推定)含む施設建設が進むジョンソン南礁(16(平成28)年2月9日時点)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe】の画像

レーダー(推定)含む施設建設が進むジョンソン南礁
(16(平成28)年2月9日時点)
【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe】

いずれにせよ、南シナ海をめぐる問題は、アジア太平洋地域の平和と安定に直結する国際社会全体の関心事項であり、中国を含む各国が緊張を高める一方的な行動を慎み、「法の支配」の原則に基づき行動することが強く求められる。

参照I部2章6節(東南アジア)I部3章3節(海洋をめぐる動向)

(5)「遠海」における活動の状況

中国海軍は、自らの海上戦力を「近海防御・遠海護衛」型へとシフトしている99とされており、近年、インド洋などのより遠方の海域で作戦を遂行する能力を着々と向上させている。例えば、08(同20)年12月以降、海賊に対処するための国際的な取組に参加するため、中国海軍艦艇は、インド洋を航行し、ソマリア沖・アデン湾に進出している。また、10(同22)年及び13(同25)年には中国海軍の病院船がインド洋沿岸諸国などに対し、医療サービス任務「調和の使命」を実施した。さらに、14(同26)年1月から2月にかけて、中国海軍艦艇がスンダ海峡から東インド洋に進出し、訓練を実施したとされている。このほか、インド洋以外においても、15(同27)年9月、中国艦艇5隻100がベーリング海の公海上を航行し、アリューシャン列島で米国の領海に進入したとされている101。中国海軍潜水艦の活動もインド洋において継続的に確認されるようになってきている。13(同25)年末から14(同26)年初めにかけて、中国海軍のシャン級原子力潜水艦がインド洋で活動を行ったとされている。また、14(同26)年9月から10月にかけて、ソン級潜水艦もインド洋で活動を行ったほか、同年、スリランカ・コロンボに2度寄港したとされており、中国潜水艦として初めて国外の港湾に入港した102。さらに、15(同27)年5月には、ユアン級潜水艦がパキスタン・カラチに寄港したとされている。

また、中国が遠方の海域における作戦の補助にも資する海外における港湾などの活動拠点を確保しようとする動きもみられている。例えば、アデン湾に面する東アフリカの戦略的要衝であるジブチにおいては、以前より中国軍の基地が建設されるとの指摘がなされてきた103。そして、15(同27)年12月、中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC:Forum on China-Africa Cooperation)において、ジブチのユスフ外相が、「中国軍の基地は建設中のドラレ新港の一画に設置されることになる」と明言したのに続き、16(同28)年1月、中国外交部報道官は、中国とジブチが「保障施設」104の建設に関して協議を行い合意に達したと発表している。また、中国はいわゆる「真珠の首飾り」戦略の下、インド洋諸国で港湾インフラ建設を支援することにより、寄港地を確保し、シーレーンの防衛強化を図っているとの指摘もある105

(6)海洋における活動の目標

中国による海上及び航空戦力の整備状況、海空域における活動状況、国防白書における記述、中国の置かれた地理的条件、グローバル化する経済などを考慮すれば、中国海・空軍などの海洋における活動には、次のような目標があるものと考えられる。

第一に、中国の領土、領海及び領空を防衛するために、可能な限り遠方の海空域で敵の作戦を阻止することである。これは、近年の科学技術の発展により、遠距離からの攻撃の有効性が増していることが背景にある。

第二に、台湾の独立を抑止・阻止するための軍事的能力を整備することである。中国は、台湾問題を解決し、中国統一を実現することにはいかなる外国勢力の干渉も受けないとしており、中国が、四方を海に囲まれた台湾への外国からの介入を実力で阻止することを企図すれば、海空域における軍事作戦能力を充実させる必要がある。

第三に、中国が独自に領有権を主張している島嶼(しょ)の周辺海空域において、各種の監視活動や実力行使などにより、当該島嶼に対する他国の支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強めることである。

第四に、海洋権益を獲得し、維持及び保護することである。中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘及びそのための施設建設や探査を行っているが、13(同25)年6月以降には、東シナ海の日中中間線の中国側において、既存の4基に加え、新たに12基の海洋プラットフォームの建設作業などを進めていることが確認されている。また、16(同28)年5月、12基のうち、土台のみが設置されていた2基について上部構造の取り付けが実施された。このように、中国側が一方的な開発を進めていることに対して、わが国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止などを求めている106

第五に、自国の海上輸送路を保護することである。この背景には、中東からの原油の輸送ルートなどの海上輸送路が、グローバル化する中国の経済活動にとって、生命線ともいうべき重要性を有していることがある。将来的に、中国海軍が、どこまでの海上輸送路を自ら保護すべき対象とするかは、そのときの国際情勢などにも左右されるものであるが、近年の中国の海・空軍の強化を考慮すれば、その能力の及ぶ範囲は、中国の近海を越えて「遠海」へと拡大していくと考えられる。

こうした中国の海空域における活動の目標や近年の動向を踏まえれば、今後とも中国は、東シナ海や太平洋といったわが国近海及び南シナ海並びにそれらの上空などにおいて、活動領域をより一層拡大するとともに活動の活発化をさらに進めていくものと考えられる。このため、わが国周辺における海軍艦艇及び海・空軍機の活動や各種の監視活動のほか、活動拠点となる施設の整備状況107、自国の排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)などにおける権利の性質及び範囲に関する独自の解釈の展開108などを含め、その動向により一層注目していく必要がある。

他方、近年、中国は、海洋における不測の事態を回避・防止するための取組にも関心を示している。例えば、14(同26)年4月、中国は、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS:Western Pacific Naval Symposium)参加国海軍の艦艇及び航空機が予期せず遭遇した際の行動基準を定めた「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES:Code for Unplanned Encounters at Sea)」に、日米などとともに合意した。また、同年9月、日中防衛当局は、12(同24)年9月以降中国側が応じてこなかった「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けた協議を再開することで原則一致し、15(同27)年1月に第4回共同作業グループ協議を、また、同年6月に第5回共同作業グループ協議を実施した109。さらに、同年11月にマレーシアで開催された日中防衛相会談においても、本メカニズムの早期運用開始を目指すことが確認された110。このほか、14(同26)年11月には、オバマ大統領と習近平国家主席が、米中間で意図せぬ衝突のリスクを低減することを目的とした二つの信頼醸成措置111についての合意を発表し、翌15(同27)年9月には、追加の付属書に関する合意を発表した112

6 軍の国際的な活動

人民解放軍は近年、平和維持、人道支援・災害救助、海賊対処といった非伝統的安全保障分野における任務を重視し始めており、これらの任務を行うために積極的に海外にも部隊を派遣するようになってきている。このような軍の国際的な活動に対する姿勢の背景には、中国の国益が国境を越えて拡大していることに伴い、国外において国益の保護及び促進を図る必要性が高まっていることや、国際社会に対する責任を果たす意思を示すことにより自国の地位を向上させる意図があるとみられている。

中国は、国連PKOを一貫して支持するとともに積極的に参加するとしており、中国国防部によれば、これまでに国連PKOに3万1,000人あまりの軍人が派遣されている。国連によれば、中国は、16(同28)年4月末時点で、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)113などの国連PKOに計3,042人の部隊要員、文民警察要員、軍事監視要員を派遣している114ほか、予算の分担率も大幅に増加している115。このように、中国は国連PKOにおいて積極的な人的・金銭的貢献を行っており、その存在感は高まっている。他方、中国の国連PKOに対する積極姿勢の背景には、同活動を通じて当該PKO実施地域、特にアフリカ諸国との関係強化を図るとのねらいもあるとみられている。

また、中国は、海軍として初めての遠洋における任務として、08(同20)年12月から、ソマリア沖・アデン湾に海軍艦艇を派遣し、中国船舶などの護衛にあたらせている。これは、中国海軍がより遠方の海域で継続的に作戦を遂行する能力を向上させていることを示すとともに、中国が自国の海上輸送路の保護を一層重視しつつあることの表れと考えられる。なお、中国は、アデン湾に面するジブチにおいて、軍の後方支援を提供するための施設建設を進めていくことで同国と合意しているほか、インド洋諸国において港湾インフラ建設を支援するなどしており、中国海軍のインド洋などにおける作戦遂行能力はより一層向上する可能性がある。

さらに、中国は、リビア情勢の悪化を受け、11(同23)年2月から3月にかけて在留中国人の退避活動を行った際、海軍艦艇及び空軍輸送機を現地に派遣した。海外在留中国人の退避活動に軍が参加することは初めてとされる。また、中国は、13(同25)年11月から12月にかけて、フィリピンにおける医療救援活動のため病院船を派遣し、14(同26)年3月から9月にかけて、同年3月に行方不明となったマレーシア機捜索活動に海軍艦艇や空軍輸送機などを派遣したほか、同年12月には、中国海軍艦艇がモルディブの首都マレにおいて給水支援を実施した。また、中国は西アフリカ地域におけるエボラ出血熱の流行に際し、シエラレオネ及びリベリアに対し、対エボラ支援隊の派遣を含む医療支援を中心とした支援を実施している。さらに、イエメン情勢の悪化を受け、15(同27)年3月から4月にかけて、中国海軍海賊対処部隊がアデン港及びホデイダ港などに入港し、在留中国人及び日本人1名を含む外国人の退避活動に従事した。中国による人道支援・災害救援活動は国際的にも評価されているが、これらの活動を通じて、軍の平和的・人道的なイメージや、戦争以外の軍事作戦を重視する意図を内外に示すとともに、戦力を遠方に展開させる能力を検証するねらいもあるとの指摘がなされている。

7 教育・訓練などの状況

人民解放軍は、近年、運用能力の強化を図ることなどを目的として実戦的な訓練の実施を推進しており、陸・海・空軍間の統合演習、対抗演習、上陸演習、軍区を跨いだ演習などを含む大規模な演習、さらには夜間演習、諸外国との共同演習なども行っている。習近平総書記の発言や、総参謀部による軍事訓練指示において、「戦いができる。勝つ戦いをする」との目標が繰り返し言及されていることは、軍がより実戦的な訓練の実施を推進している証左と考えられる116。06(同18)年に開かれた全軍軍事訓練会議において、機械化条件下の軍事訓練から情報化条件下の軍事訓練への転換の推進が強調され、09(同21)年から施行された、新たな「軍事訓練及び評価大綱」では、複数の軍種による統合訓練のほか、非戦争軍事行動の訓練、情報化に関する知識・技能の教育、ハイテク装備のシミュレーション訓練、ネットワーク訓練、電子妨害が行われるなどの複雑な電磁環境下での訓練などが重視されている。

人民解放軍は、教育面でも、科学技術に精通した軍人の育成を目指している。03(同15)年から、統合作戦・情報化作戦の指揮や情報化された軍隊の建設などを担うための高い能力を持つ人材育成のための人材戦略プロジェクトが推進されており、20(同32)年にかけて、人材建設の大きな飛躍を成し遂げるという目標を掲げている。人民解放軍で近年行われているとみられる給与水準の向上には優秀な人材を確保する目的があると考えられる。一方、近年では、給与を含む各種処遇、人材育成制度、退役軍人の処遇などをめぐる問題も指摘されている117

中国は、戦争などの非常事態において民間資源を有効に活用するため、動員体制の整備を進めてきており、10(同22)年2月には、戦時における動員についての基本法となる「国防動員法」を制定し、同年7月に施行した。

また、中国は、14(同26)年の第18期四中全会で「法治」の推進を示し、関連する各種法整備を進めている。同年11月、国内防諜体制を強化するため、従来の「国家安全法」を改正した「反スパイ法」を制定、即日施行した。続いて、15(同27)年7月には、対外的な脅威に対する安全保障にとどまらず、安定、安全、発展といった国家の安全に関する分野を広く包括的に整理した新たな「国家安全法」が制定された。さらに、中国は、同年12月、国家統制の強化を図る「反テロリズム法」を可決し、翌16(同28)年1月1日に施行した。今後、これらの安全関連法制がどのように運用されていくのか注目される。

8 国防産業部門の状況

中国では、自国で生産できない高性能の装備や部品をロシアなど外国から輸入しているが、装備の国産化を重視していると考えられ、多くの装備を国産化しているほか、新型装備の研究開発に意欲的に取り組んでいる。中国の国防産業部門は、独自の努力のほか、経済成長に伴う民間の産業基盤の向上、軍民両用技術の利用、外国技術の吸収によって発展しているとみられ、中国の軍事力の強化を支える役割を果たしている118

中国の国防産業は、かつて、過度の秘密主義などによる非効率性のために成長が妨げられてきたが、近年は、国防産業の改革が進められている。国務院機構である工業・情報化部の国防科学技術工業局の隷下に、核兵器、ミサイル、ロケット、航空機、艦艇、その他の通常兵器を開発、生産する10個の集団公司を編成することで、特に、軍用技術を国民経済建設に役立てるとともに、民生技術を国防建設に吸収するという双方向の技術交流を促している。これにより、具体的には、国防産業の技術が、宇宙開発や航空機工業、船舶工業の発展に寄与してきたとされている。

また、軍民両用産業分野における国際協力及び競争を奨励、支持するとしており、軍民両用の分野を通じて外国の技術を吸収することにも関心を有しているとみられる。

10 積極防御戦略思想は、中国共産党の軍事戦略思想の基本であるとされ、防御、自衛及び「後発制人」(後から打って出て相手を制する)の原則を堅持し、「人不犯我、我不犯人、人若犯我、我必犯人」(相手が攻撃しなければ攻撃しないが、相手が攻撃するのであれば必ず攻撃する)ということを堅持するものとされる。

11 15(平成27)年5月に発表された国防白書「中国の軍事戦略」による。なお、11(同23)年9月に発表された国防白書「中国の平和的発展」において、中国は「覇権を唱えず平和的発展を歩む」と説明する一方で、「国家主権」「国家安全」「領土保全」「国家統一」「国家の政治制度と社会の安定」「経済社会の持続的発展の基本的保障」を含む「核心的利益」については断固擁護するとしている。

12 中国は03(平成15)年、「中国人民解放軍政治工作条例」を改正し、「輿論戦」、「心理戦」及び「法律戦」の展開を政治工作に追加した。これらについて、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(11(同23)年8月)は次のように説明している。
・「輿論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆及び国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内及び国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの
・「心理戦」は、敵の軍人及びそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの
・「法律戦」は、国際法及び国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの

13 国防白書「2008年中国の国防」では、「21世紀中頃に国防及び軍隊の近代化の目標を基本的に達成する」との目標が併せて記述されている。これは、中国共産党創設百周年(2021年)と中華人民共和国建国百周年(2049年)という「二つの百年」の一つである建国百周年を念頭に置いているとみられる。

14 例えば、わが国との間においても、15(平成27)年6月、中国国防部広報代表団が防衛省を訪問し、防衛省・自衛隊の広報部門との間で3回目となる交流を実施し、日中両国の白書の策定過程や関連する内容などについて意見交換を実施した。

15 総政治部(当時)、総後勤部(当時)、総装備部(当時)、海軍、空軍、第二砲兵(当時)及び武装警察の7部門

16 国防白書「2008年中国の国防」及び「2010年中国の国防」では、それぞれ2007年度、2009年度の国防費の支出に限り、人員生活費、訓練維持費、装備費のそれぞれについて、現役部隊、予備役部隊、民兵別の内訳が明らかにされた。

17 例えば、国家主権や海洋権益などをめぐる安全保障上の課題に関して、人民解放軍が態度を表明する場面が近年増加しているとの指摘がある。一方、中国共産党の主要な意思決定機関における人民解放軍の代表者数は過去に比べて減少していることから、党の意思決定プロセスにおける軍の関与は限定的であるとの指摘もある。なお、人民解放軍は「党による軍隊の絶対指導」を繰り返し強調している。

18 I部2章3節2項5(4)同2章6節4項同3章3節3項7及び8参照

19 中国は2015年度から地方移転支出などを含まない中央本級支出における国防予算額を公表している。

20 外国の国防費を単純に外国為替相場のレートを適用して他の通貨に換算することは、必ずしもその国の物価水準に照らした価値を正確に反映するものではないが、仮に2016年度の中国の国防予算を1元=19円(平成28年度の出納官吏レート)で換算すると約18兆1,327億円となる。なお、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)は、15(平成27)年の中国の軍事支出を2,150億米ドルと見積もっており、米国に次ぐ世界第2位で、アジア全体の国防費の49%を占めるとしている。

21 中国は、2016年度の国防費の伸び率を「前年度比7.6%の増加」と発表したが、これは2015年度執行額と2016年度当初予算を比較した伸び率である。

22 中国の公表国防費は、中央財政支出における当初予算比で、1989年度から2015年度までの間、2010年度を除き、毎年二桁の伸び率を記録した。なお、中央本級支出における国防費が公表された2015年度については、後に地方移転支出などが別途公表されたため、合算し、中央財政支出における国防費を算出して計算した。

23 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は、中国の15(同27)年の軍事関連支出を1,800億ドル以上と見積っている。また、同報告書は、中国の公表国防費(1,440億ドル)は、研究開発費や外国からの兵器調達などの主要な支出区分を含んでいないと指摘している。

24 党・政府機関や国境地域の警備、治安維持のほか、民生協力事業や消防などの任務を負う。国防白書「2002年中国の国防」では、「国の安全と社会の安定を維持し、戦時は人民解放軍の防衛作戦に協力する」とされる。

25 平時においては経済建設などに従事するが、有事には戦時後方支援任務を負う。国防白書「2002年中国の国防」では、「軍事機関の指揮のもとで、戦時は常備軍との合同作戦、独自作戦、常備軍の作戦に対する後方勤務保障提供及び兵員補充などの任務を担い、平時は戦備勤務、災害救助、社会秩序維持などの任務を担当する」とされる。12(平成24)年10月9日付解放軍報によれば2010年時点の基幹民兵数は600万人とされている。

26 中央軍事委員会には、形式上は中国共産党と国家の二つの中央軍事委員会があるが、党と国家の中央軍事委員会の構成メンバーは基本的には同一であり、いずれも実質的には中国共産党が軍事力を掌握するための機関とみなされている。

27 これに先立ち、15(平成27)年9月3日、習近平国家主席は、いわゆる「抗日戦争勝利70周年記念式典」におけるスピーチの中で、「軍隊の人員を30万人削減することを宣言する」と述べた。また、同日行われた記者会見で中国国防部報道室は、30万人削減を17(同29)年末までに基本的に完了させるとの方針を明らかにした。

28 人民解放軍は大きな陸軍の組織とされてきたため、これまで「陸軍指導機構」が存在しなかった。しかし、本改革により、陸軍は、他の軍種、すなわち海・空軍及びロケット軍(戦略ミサイル部隊)と同格とされることとなった。なお、各軍種の「指導機構」は、これまで正・副司令員及び正・副政治委員、司令部、政治部、後勤部及び装備部により構成されてきたところ、新設された「陸軍指導機構」も同様の組織化がなされているかどうかについては公表されていない。

29 「ロケット軍」の新設は第二砲兵からの事実上の昇格と考えられる。

30 「戦略支援部隊」は国家の安全を維持するための新型戦力とされ、サイバー・宇宙・電子戦などを担当するとの指摘がある。

31 「総参謀部」、「総政治部」、「総後勤部」及び「総装備部」

32 「瀋陽軍区」、「北京軍区」、「済南軍区」、「南京軍区」、「広州軍区」、「成都軍区」及び「蘭州軍区」

33 戦区成立大会において習近平主席は、戦区と軍種の役割について「軍事委員会が全体を管理し、戦区が作戦を主管し、軍種が軍建設を担う」と述べている。

34 国防白書「中国の軍事戦略」(15(平成27)年5月)では、「中国は終始、核兵器先制不使用の政策を遂行し、自衛防御の核戦略を堅持し、いかなる国とも核軍備競争を行わない」としている。一方、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(同28)年5月)は、中国の核兵器先制不使用政策の適用条件については不明瞭な点がある旨指摘している。

35 15(平成27)年9月の軍事パレードで展示された弾道ミサイルは、DF-15B(SRBM)、DF-16(SRBM)、DF-21D(MRBM(ASBM))、DF-26(IRBM(ASBM含む))、DF-31A(ICBM)、DF-5B(ICBM)、また、巡航ミサイルはDH-10(CJ-10)とみられるDF-10A

36 米国とロシアは(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)条約に基づき、SRBM及びIRBM/MRBMを1991(平成3)年までに全て廃棄している。

37 液体燃料推進方式と固体燃料推進方式の違いについては、I部2章2節脚注35参照

38 DF-5Bは、個別目標誘導複数弾頭(MIRV:Multiple Independently targetable Re-entry Vehicle)を搭載しているとされる。

39 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は、中国は「DF-41」として知られる新型の移動型ICBMを開発しており、このICBMはMIRVを搭載できる、と指摘している。

40 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は、「現在4隻のジン級SSBNが就役済みで、もう1隻を建造中」であり、JL-2を搭載した同SSBNが、「2016年に中国初となる核抑止パトロールを実施する見込みである」と指摘している。

41 国防白書「中国の軍事戦略」(15(平成27)年5月)によれば、中国は第二砲兵(当時)の軍事力発展戦略の一つとして、「核戦力及び通常戦力の兼備」を挙げている。

42 DF-21Dは「空母キラー」と呼ばれている(米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書(15(平成27)年11月))。

43 DF-26は「グアム・キラー」と呼ばれている(米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書(15(平成27)年11月))。

44 米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書(15(平成27)年11月)は、H-6K爆撃機に搭載されることでより遠方を攻撃することが可能となるDH-10(CJ-10)対地攻撃巡航ミサイルや、DF-26(IRBM)が、グアムを含む第二列島線を標的にすることができると指摘している。

45 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は、中国が15(同27)年末時点で、DF-16含め少なくとも1,200発のSRBMを保有していると指摘している。

46 14(平成26)年1月、8月、12月、15(同27)年6月、8月、11月、16(同28)年4月の計7回、中国が超高速で飛行しミサイルによる迎撃が困難とされる極超音速滑空兵器「WU-14/DF-ZF」の飛翔試験を実施したとの指摘がある。

47 中国は、HQ-9などのHQシリーズ地対空ミサイル、ロシアから輸入したSA-10/20(S-300シリーズ)地対空ミサイルなどの弾道ミサイルに対する迎撃が可能なシステムを保有している。

48 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は2回の迎撃実験が成功したと指摘している。また、中国はこれら2回の実験に加え、14(同26)年7月に実施した実験もミサイル迎撃技術の実験だったと称しているが、実際には対衛星兵器(ASAT:Anti Satellite Weapon)実験を行ったとの指摘されている(I部3章4節2項4脚注27参照)。

49 削減された人員の一部は人民武装警察に編入されたとみられている。

50 国防白書「中国の軍事戦略」(15(平成27)年5月)によれば、中国は陸軍の軍事力発展戦略の一つとして「機動作戦」を挙げている。

51 同艦は静粛性に優れているほか、必要な酸素をあらかじめ搭載することで、浮上などにより酸素を大気中から取り込むことなく、従来よりも長期間の潜航が可能となる大気非依存型推進(AIP:Air Independent Propulsion)システムを搭載しているとされる。

52 例えば、「中華イージス」と呼ばれ、レーダーを強化し、最新のYJ-18対艦巡航ミサイルを発射可能な新型垂直ミサイル発射システム(VLS)などを搭載した艦隊防空艦であるルーヤンIII級駆逐艦、VLSを装備したジャンカイII級フリゲート、対潜戦能力を高めたコルベットであるジャンダオ級小型フリゲートなどが、近年大幅に増強されているとみられる。

53 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は、空母「遼寧」について、艦隊防空任務に利用されるかもしれないが、米国の空母ほどは長距離戦力投射を行うことができないため、訓練用としての役割を果たし続けるとの見方を示しているほか、15(同27)年、国内で訓練されたJ-15艦載機パイロットを初めて認定し、艦載機部隊は16(同28)年に実戦配備されるだろうと指摘している。

54 13(平成25)年5月には、中国初の艦載機部隊が正式に創設された旨、報じられた。

55 中国は、艦載機に搭載出来る武器や燃料が少なくなる、固定翼の早期警戒機などを運用できないといった、スキージャンプ式の制約を克服すべく、電磁式カタパルトを研究中であるとの指摘がある。

56 国防白書「中国の軍事戦略」(15(平成27)年5月)は、海軍の軍事力発展戦略として「近海防御・遠海護衛」を挙げている。また、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(同28)年5月)も、中国は「近海」防衛から「遠海」護衛への漸進的な変化を続けていると指摘している。

57 国防白書「中国の軍事戦略」(15(平成27)年5月)によれば、中国は「『陸重視・海軽視』の伝統的な思想を突破」し、「近代的な海上軍事力体系建設」を目指すなどとしており、中国は海洋戦略を重視しているとみられる。

58 このほか、15(平成27)年4月、中国製のWS-10Aターボファンエンジン、アビオニクス、武器システムを搭載しているとされるJ-11D戦闘機の試作機が飛行した。また、J-10戦闘機のアップグレード版であるJ-10B戦闘機の開発も進められており、「ミリタリー・バランス(2016)」は、15(同27)年末までに、約50機のJ-10Bが製造中だったと指摘している。

59 11(平成23)年1月には、J-20戦闘機の試作機が初の飛行試験に成功し、15(同27)年末までに計9機の試作機が作製されたとされる。また、J-31戦闘機の試作機も、14(同26)年11月に行われた珠海エアショーにおいて確認されている。なお、J-31戦闘機については、将来的に艦載機とするとの指摘や輸出製品とするとの指摘もある。「ミリタリー・バランス(2016)」は、現在の開発ペースが維持されるならば、中国初のステルス戦闘機の運用開始はおそらく20(同32)年前後になると予測している。

60 「ミリタリー・バランス(2016)」は、15(平成27)年時点で、少なくとも2機のKJ-500早期警戒管制機が運用されている、と指摘している。

61 中国国防部は、13(平成25)年1月26日、中国が自主開発したY-20大型輸送機が試験飛行に初成功したと発表した。その後も関連する各種試験や試験飛行が継続しているものとみられ、「ミリタリー・バランス(2016)」は、15(同27)年の第4四半期までに最大5機が飛行試験プログラムに入っていた、と指摘している。また、16(同28)年6月にはY-20大型輸送機が正式に部隊配備されたとの指摘もある。

62 中国が開発を進めるHALE型UAVとしては、「中国版グローバルホーク」とされる「翔竜(しょうりゅう)」がある。偵察、通信中継、シギントなど多目的に用いられるUAVとしてはBZK-005がある。13(平成25)年9月に尖閣諸島北方約200kmを国籍不明のUAVが飛行しているが、同機がBZK-005であったとの指摘もなされている。さらに、同機は西沙諸島・ウッディー島に配備されたとの報道もある。また、攻撃型UAVとしては、14(同26)年8月に実施された対テロ合同演習「平和の使命2014」に参加したとされる、GJ-1(「翼竜(よくりゅう)」)やCH-4(「彩虹(さいこう)-4」)などがあり、「ミリタリー・バランス(2016)」はGJ-1が現在空軍で運用中であると指摘している。なお、15(同27)年9月の軍事パレードでは、BZK-005やGJ-1などのUAVが展示された。

63 14(平成26)年4月、習近平中央軍事委員会主席が空軍機関を視察し、「航空・宇宙一体、攻防兼備」型空軍の建設について言及した。また、国防白書「中国の軍事戦略」(15(同27)年5月)においても、中国は空軍の軍事力発展戦略として「航空・宇宙一体、攻防兼備」を挙げている。

64 14(平成26)年7月31日の定例記者会見において、中国国防部報道官は、「東シナ海統合作戦指揮センター」の存在に関する質問に対し、「合同作戦指揮体制の形成は、情報化条件下の統合作戦における必然的要求」などと回答を行い、その存在を事実上追認した。

65 中国の海軍艦艇による活動としては、例えば、04(平成16)年11月には、中国の原子力潜水艦が、わが国の領海内で国際法違反となる「他国の領海内での潜没航行」を行っている。また、05(同17)年9月には、東シナ海の樫(中国名「天外天」)ガス田付近を中国のソブレメンヌイ級駆逐艦1隻を含む5隻の艦艇が航行し、その一部が同ガス田の採掘施設を周回したことが確認されている。

66 中国国務院(わが国の内閣に相当)の隷下の公安部「海警」、国土資源部国家海洋局「海監」、農業部漁業局「漁政」、交通運輸部海事局「海巡」、海関総署海上密輸取締警察などが海上における監視活動などを行ってきたが、13(平成25)年3月、「海巡」を除くこれら4つの機関などを統合し、新たな「国家海洋局」として再編したうえで、同局が公安部の指導のもと、「中国海警局」(「海警」)の名称により監視活動などを実施する方針などが決定された。同年7月、中国海警局は正式に発足した。また、辺海防委員会が、国務院及び中央軍事委員会の指導のもと、これら海上法執行機関及び海軍による海洋における活動などについての調整を行っているとされる。

67 人民解放軍については、平時と戦時の兵力配備を同一化し、従来の活動領域を超えた領域での活動を行うなどして、例外的行為を慣例化・常態化させることにより、相手方の警戒意識の麻痺や国際社会に状況の変化を黙認・受容させることなどを企図している、との見方(2009年版台湾「国防報告書」)がある。

68 08(平成20)年以降の中国海軍戦闘艦艇の太平洋進出回数は、それぞれ、2回(08年)、1回(09年)、3回(10年)、2回(11年)、7回(12年)、11回(13年)、7回(14年)、8回(15年)となっている。

69 本演習を「機動6号」と呼称する報道もある。なお、本演習に参加した艦艇の一部は、じ後、宗谷海峡、対馬海峡を通り日本を一周した。

70 例えば、15(平成27)年10月21日付中国軍網は、近年、中国海軍東海艦隊の全主力戦闘艦艇の年平均活動日数が150日を超えている旨報じている。

71 中国は、わが国固有の領土である尖閣諸島について独自の主張を行っているほか、13(平成25)年5月には、中国共産党機関紙が、「歴史的に未決である琉球問題も、再度議論すべき時が到来したと言える」など、沖縄がわが国の一部であることについて疑義を呈していると受け取れる内容が含まれる記事を掲載した。なお、中国政府は、当該記事について、研究者が個人の資格で執筆したものである旨述べている。

72 I部3章3節1項(東シナ海・南シナ海における「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

73 12(平成24)年2月には、わが国の排他的経済水域(EEZ)において海洋調査を行っていた海上保安庁測量船に対して、「海監」船2隻が中止要求を行う事案が発生している。同様の事案は、10(同22)年5月及び9月にも発生している。

74 例外はあるものの、月に2~3回の頻度で、2~3隻の公船が、午前10時くらいから2時間程度、わが国領海へ侵入することが多い。

75 16(平成28)年6月末現在、機関砲とみられる武器を搭載した公船として、「海警31239」及び「海警31241」の2隻が確認されている。なお、中国海軍所属のジャンウェイI級フリゲート3隻が「中国海警局」に引き渡されるための改修を行っていたとの指摘があるほか、ルダ級駆逐艦2隻についても、同様に、中国海軍から「中国海警局」に引き渡されるとの指摘がある。

76 「海警2901」及び「海警3901」。これらの公船は76mm砲を搭載しているとされる。

77 I部2章3節脚注67参照

78 15(平成27)年度の中国機に対する緊急発進回数は合計571回と過去最高を記録した。

79 I部3章3節1項(東シナ海・南シナ海における「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

80 例えば、11(平成23)年3月7日、中国国家海洋局所属とみられるZ-9ヘリコプターが、東シナ海中部海域において警戒監視中の護衛艦「さみだれ」に対して、水平約70m、高度約40mの距離に接近し周回したほか、12(同24)年4月12日には、護衛艦「あさゆき」に対し、同局所属とみられるY-12が水平約50m、高度約50mの距離に接近し周回するという事案が発生した。

81 I部3章3節1項(東シナ海・南シナ海における「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

82 当該6機に加え、同時間帯にH-6爆撃機4機及びY-8早期警戒機が、沖縄本島と宮古島の間を通過しなかったものの、沖縄本島及び宮古島近傍における活動を実施した。

83 航空戦力が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出した回数は、13(平成25)年が計5回、14(同26)年が計5回、15(同27)年が計6回確認されている。

84 15(平成27)年3月30日、中国空軍の報道官が、空軍機が台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡を通過し西太平洋上空で初めて訓練を行ったと公表したほか、同年8月14日にも同様の訓練を実施と公表している。また、同年5月21日、同報道官が、空軍機が初めて沖縄本島・宮古島間を通過して西太平洋上空で訓練を行ったと公表したほか、同年11月27日にも同様の訓練を実施と公表している。

85 中国は東シナ海に面した南麂(なんき)列島に、ヘリポート及びレーダーを建設しているとの指摘もある。

86 16(平成28)年6月17日、航空自衛隊戦闘機が尖閣諸島方向に南下飛行した中国軍機に対し、対領空侵犯措置を行ったことに関し、中国国防部は「日本のF-15戦闘機2機が高速で接近し、挑発の上、火器管制レーダーを我が方に照射した。中国軍は果敢に対応し、戦術機動等の措置を講じたところ、日本側戦闘機は赤外線フレアを放射し、その場から逃げ去った」との公式発表を行った。

87 I部3章3節1項(東シナ海・南シナ海における「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

88 I部3章3節1項(東シナ海・南シナ海における「公海自由の原則」をめぐる動向)参照

89 ジョンソン南礁、クアテロン礁、ガベン礁、ヒューズ礁、ファイアリークロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁の7つ

90 米国防省「アジア太平洋海洋安全保障戦略」(15(平成27)年8月)は、「中国は2015年6月時点で2,900エーカー(約11.7km2)以上を埋め立てた」「これは他の係争国が40年間で埋め立てた総面積の17倍を20か月で行ったことになり、南沙諸島での埋立地の約95%に相当する」と記述している。さらに、米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(16(平成28)年5月)は、中国が「2015年末までに3,200エーカー(約13km2)を埋め立てた」と指摘している。

91 15(平成27)年9月、米中首脳会談後に個別に出された成果文書によると、習近平国家主席は、「南沙諸島で中国が行っている関連の建設行動は、特定の国を対象にしたり、影響を与えるものではなく、中国は軍事化を追求する意図はない」と主張した。しかし、同年10月、中国外交部報道官は、「軍事化」について否定しつつも、「中国側は、いくらかの必要な、限定的かつ純粋に防衛的な性質の軍事施設を置いている」と発言している。また、16(同28)年4月の国防部の発表によると、范長龍中央軍事委員会副主席が南沙諸島を視察したとされる。

92 中国は、16(平成28)年1月2日、3日及び6日の3回、ファイアリークロス礁において試験飛行を実施したとされている。これに対し、2日にベトナム外務省報道官から断固とした反対が表明されたほか、8日にはフィリピンから文書による抗議がなされた。また、16(平成28)年4月17日、南シナ海で哨戒中の海軍哨戒機が、疾病により命の危険があるとされた南沙諸島の工事現場の建設作業員1名と別の患者2名に対し、ファイアリークロス礁の飛行場から海南島三亜飛行場まで急患輸送を実施したとされる。

93 米国の戦略国際問題研究所・アジア海洋透明性イニシアティブ(CSIS:Center for Strategic and International Studies/AMTI:Asia Maritime Transparency Initiative)は、スビ礁で建設中とされる滑走路を長さ3,250m、幅55m、ミスチーフ礁で建設中とされる滑走路を長さ2,644m、幅55mとしており、速いペースで建設が進んでいるとしている。

94 スカボロ-礁については、12(平成24)年4月の中比公船による対峙以降、中国公船がフィリピンの法執行船や漁船の接近を排除するようになり、以後、フィリピン船舶は同礁に近づくことができなくなっているとの指摘がある。

95 16(平成28)年3月17日、リチャードソン米海軍作戦部長は、スカボロー礁周辺における中国の活動について、「水上艦船が活動し、分類や測量の類いの活動を進めていることを確認していると思う。そこは次に埋め立てを行う可能性がある場所として注意している。」と発言した。また、報道によれば、「中国がスカボロー礁において年内に埋め立て工事を始め、将来的には滑走路を設置し、争いのある海域上空における活動範囲を拡大させる可能性がある。」との指摘もなされている。

96 米国からの懸念としては、例えば、15(平成27)年11月7日、カーター米国防長官は、レーガン国防フォーラムにおいて、中国による「南シナ海における土地の埋め立ての速さと規模、さらなる軍事化の見込み、そして係争国間の誤解や衝突のリスクを高める活動の潜在的可能性に深い懸念」を表明した。また、同年11月21日には、ハリファックス国際安全保障フォーラムにおいて、ハリス米太平洋軍司令官が、南シナ海における中国の地形開発で、「地域の緊張は非常に高まった」と述べ、米国などの「懸念を高める」と述べた。さらに、16(同28)年6月、カーター米国防長官は、アジア安全保障会議で、「中国の南シナ海での行動は、中国自身を孤立化させており、こうした行動が続けば、中国は『自らを孤立させる万里の長城』を築くに至り得る」と述べた。一方、国際社会からの懸念としては、例えば、同年5月26日、トゥスクEU大統領が、南シナ海での地形の埋め立てなどに関し、「海上での建設活動がこの地域の問題解決をより難しくする」として中国を批判した。また、同年6月7-8日に開催された独エルマウG7サミットにおいては、「大規模な埋め立てを含む、現状の変更を試みるいかなる一方的な行動にも強く反対する」などとした、首脳宣言が発表された。さらに、15(同27)年11月23日に採択されたASEAN首脳会議議長声明には、南シナ海における「軍事プレゼンスの強化」や「一層の軍事拠点化」について、「複数の首脳の懸念を共有する」すると明記されたほか、16(同28)年2月27日に発表されたASEAN外相リトリート会合の議長声明では、南シナ海情勢に関する「深刻な懸念」や「地域の非軍事化が重要」との認識が示された。このほか、同年4月11日に発表された「海洋安全保障に関するG7外相声明」には、「南シナ海の状況を懸念する」、「現状を変更し緊張を高め得るあらゆる威嚇的、威圧的又は挑発的な一方的な行動に対し、強い反対を表明する」との内容が盛り込まれた。さらに、「G7伊勢志摩首脳宣言」には、海洋安全保障に関し、「国際法に基づいて主張を行うこと」、「紛争解決には、仲裁裁判を含む司法手続きによるものを含む平和的手段を追求すべきことの重要性を再確認」、「東シナ海・南シナ海における状況を懸念」などの文言が盛り込まれた。

97 15(平成27)年4月29日、中国外交部報道官の発言。16(同28)年5月の米国のCSIS/AMTIの指摘によれば、ベトナムは計10カ所の地形で120エーカー(48.6万m2)以上の埋め立てを最近2年間で行ったとされる。

98 I部2章3節脚注90参照

99 国防白書「中国の軍事戦略」(15(平成27)年5月)による。

100 当該艦艇は、15(平成27)年8月20日から28日にかけて、ウラジオストク近傍及び日本海で実施された中露海軍合同演習「海上協力2015(II)」に参加した艦艇の一部であり、宗谷海峡を航行した後、ベーリング海に至ったと推定される。

101 軍艦には、一般船舶と同様に、沿岸国の平和、秩序及び安全を害さなければその国の領海を通航できる「無害通航権」が国際法で認められている。当該中国艦艇による航行については、沿岸国たる米国によれば国際法違反はなかったとされる。

102 14(平成26)年9月25日、中国国防部報道官が、潜水艦のスリランカ・コロンボへの寄港を初めて公式に認めた。

103 例えば、15(平成27)年5月、ジブチのゲレ大統領が軍事基地の建設について中国と交渉していることを明らかにしたとの指摘がある。

104 中国語の「保障」には、日本語の「支援」という意味がある。

105 中国は、パキスタンのグワダル港、スリランカのハンバントタ港、バングラデシュのチッタゴン港、ミャンマーのシトウェ港などにおいて、現地政府との港湾整備プロジェクトなどに協力している。

106 東シナ海資源開発に関しては、いわゆる「2008年6月合意」を実施するための国際約束締結交渉について、10(平成22)年9月に中国側が延期を一方的に発表した。交渉が再開されない中、樫ガス田などにおいては、中国による生産が行われている可能性が高いなどとの指摘がなされている。一方、南シナ海においては、中国国家海洋局が、12(同24)年5月に石油掘削装置「海洋石油981」が初の掘削に成功したと発表している。

107 中国は、海南島南端の三亜(さんあ)市に、原子力潜水艦用の地下トンネルを有する大規模な海軍基地を建設していると伝えられている。中国にとって同基地は、南シナ海のほか、西太平洋へ進出する上での戦略的要衝に位置しており、空母の配備を含め、南海艦隊の主要な基地として整備が進められているとの指摘もある。

108 中国は近年、国連海洋法条約(UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea)などの独自の解釈を利用しつつ、自国のEEZにおける他国の軍事活動の制限を企図した主張を展開しているとの指摘がある。例えば、中国政府は、「中国のEEZにおいては、許可を得ていない如何なる国の、如何なる軍事活動にも反対である」と表明している(10(平成22)年11月26日、外交部声明)。

109 日中防衛当局は、08(平成20)年以降、3回にわたる協議を重ね、12(同24)年6月、相互理解及び相互信頼を増進し、防衛協力を強化するとともに、不測の衝突を回避し、海空域における不測の事態が軍事衝突あるいは政治問題に発展することを防止することを目的として、定期会合の開催、ホットラインの設置、艦艇・航空機間の直接通信で構成される「海上連絡メカニズム」の構築について合意した。第4回共同作業グループ協議では、本メカニズムの対象が航空機にも及ぶことを明確にするため、名称を「海空連絡メカニズム」とする方向で調整することに合意した。また、第5回共同作業グループ協議では、本メカニズムの運用開始に向けた関連準備作業を加速することに合意した。

110 日中防衛相会談は4年5か月ぶりの実施。同会談で、中谷防衛大臣は、防衛当局間が協力して防衛交流を促進していくことで、二国間関係発展のための良好な環境を醸成していきたい旨述べるとともに、日中間の諸問題についても意見を述べ、率直な意見交換を行った。さらに、両大臣は、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの早期運用開始をはじめ、関係の強化のため、日中防衛交流を発展させていくことの重要性を確認した。

111 第一の措置は軍事活動に係る相互通報措置で、第二の措置は海空域での衝突回避のための行動原則。

112 航空での衝突回避のための行動原則。14(平成26)年11月に合意した海空域での衝突回避のための行動原則に追加された。

113 14(平成26)年9月、中国国務院及び中央軍事委員会は、南スーダンに歩兵大隊700名を派遣することを決定した。これを受け、15(同27)年1月から3月にかけて、中国初となる国連PKOへの実戦部隊が現地入りしている。

114 報道によると、16(平成28)年4月までに計10名の中国将兵が国連PKOの任務遂行中に殉職しており、同年5月にはマリに派遣された中国の国連PKO部隊がイスラム過激派の襲撃を受け、将兵1名が死亡し、5名が負傷した。

115 国連PKO予算における中国の分担率をみると、15(平成27)年は約6.6%と第6位だったが、16(同28)年には約10.2%と大幅に増加し、わが国を抜いて米国に次ぐ第2位となっている。

116 15(平成27)年の軍事訓練指示でも、引き続き実戦化訓練の推進が唱えられているほか、法に基づく軍の統治の貫徹を追求するなど、14(同26)年の第18期四中全会で示された「法治」の要素が軍事訓練にも反映されている。

117 米中経済安全保障再検討委員会及び米ランド研究所による報告書「中国の不完全な軍改革」(15(平成27)年2月)は、人民解放軍の弱点として①組織構造(党軍関係など)、②組織文化(腐敗など)、③軍事体制(軍の規模、採用制度、退役軍人の処遇など)、④指揮命令構造(軍区制など)、⑤人材(一人っ子政策などに起因する新兵の質・意識の低下など)を指摘している。

118 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(15(平成27)年5月)は、中国の先進技術獲得戦略について、引き続き先進的な西洋のデュアル・ユースの技術・部品・装備品・ノウハウの取得に依存している旨指摘している。