Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

6 経済安全保障をめぐる動向

科学技術やイノベーションが国家間競争の中核となる中で、各国の安全保障政策においても、状況の進展に応じた、経済・技術分野を焦点とした取組が引き続き注目されている。

各国は自国の持つ機微技術の流出を防止するため、輸出管理、対内投資の事前審査、基幹インフラに関する取組などを継続している。例えば、中国では、軍民融合政策により軍事利用が可能な先端技術の開発・獲得に取り組みながら、輸出管理制度を整備してきている。具体的には、2022年4月、「両用品目輸出管理条例」意見募集稿を発表した。この条例は輸出管理法(2020年12月施行)の実施の徹底などのため起草されたと説明されている10

米国では、中核技術を保護するため、戦略的・継続的に投資審査制度及び輸出管理政策を更新している。2022年9月、対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)に対し、変容する安全保障上のリスクについて妥協なき検討の確保を求める大統領令(EO14083)が出された。この大統領令は、米国の安全保障に対する侵害を目的に、対米投資を利用する国家が存在する事実を認めている。

同年10月、米国は、中国による先進コンピューターチップの調達、スーパーコンピュータの開発・保有、先進半導体製造の各能力の制限を目的とした輸出管理上の措置を公表した。併せて、エステべス商務次官補(産業・保全担当)は同盟国及びパートナーへの働きかけを実施している旨明らかにしている。これに対し中国は、同年12月、米国のチップ及びその他の製品に対する輸出規制措置を世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)の紛争解決メカニズムに付託した11

カナダは、2022年5月、ファーウェイ及びZTEの新規5G機器及びサービス利用の禁止などの措置を採用する計画を公表、同年6月、その措置の根拠規定を含むサイバーセキュリティ法案を下院に提出した。英国は、同年10月、ファーウェイ製品・役務の品質が、2020年の米国による制裁12の影響を受け、敵対的窃取とシステム障害のリスクを高めているとして、同社を5Gネットワーク機器・サービスのハイリスクベンダーとして指定し、35の事業者に対して新規ファーウェイ機器の5Gネットワークへの即時導入禁止などの指示を出した。

また、各国では、物資の安定供給に資するため、自国のサプライチェーンに関し必要な措置をとろうとする動きが継続し、国際連携の動きもみられる。2022年5月に米国が立ち上げ14か国が参加するインド太平洋経済枠組み(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)では、サプライチェーン途絶の予期・回避による強靭な経済の構築に取り組んでいる。韓国では、同年10月、「経済安全保障のためのサプライチェーン安定化支援基本法」が発議された13。また、ロシアによるエネルギーを対抗措置として利用する最近の試みを受け、米国をはじめ各国が重要工業品や原料を潜在的な敵対国に過度に依存することの脅威を再認識し、国内外における中国抜きのサプライチェーン再構築の現行の取組を一層促進するだろう14、との指摘もある。

さらに、各国においては、科学技術・研究開発を軸に、国際社会における自国の影響力確保に向けた投資の強化も顕著となっている。米国では、2022年8月、CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)及び科学法が成立した。この法律は、半導体の研究開発、製造、及び労働力育成に向けた527億ドルの基金と、将来技術に関する米国のリーダーシップ促進のための施策を定めている。

参照IV部1章5節(経済安全保障に関する取組)

10 JETROビジネス短信「両用品目輸出管理条例案が発表、審査期間や包括許可の申請要件などが明らかに(中国)」(2022年5月26日)による。

11 中国商務省報道局プレスリリース(2022年12月12日)による。

12 米国の2018輸出管理改革法の下で輸出管理規則に導入された2020年5月及び同年8月の外国直接製品ルールの変更のこと。これによりファーウェイは、特定の米国技術を利用して設計または製造された半導体などを調達することも製造することもできなくなり、サプライチェーンの重要部分を中国へ移転、中国技術に依存することになった。

13 JETROビジネス短信「「経済安全保障のためのサプライチェーン安定化支援基本法」を発議(韓国)」(2022年10月19日)による。

14 米中経済・安全保障調査委員会「2022年議会報告書」による。