わが国の防衛の根幹である防衛力は、わが国の安全保障を確保するための最終的な担保であり、わが国に脅威が及ぶことを抑止するとともに、脅威が及ぶ場合には、これを阻止・排除し、わが国を守り抜くという意思と能力を表すものである。
脅威は能力と意思の組み合わせで顕在化するところ、意思を外部から正確に把握することは困難であり、国家の意思決定過程が不透明であれば、脅威が顕在化する素地が常に存在する。このような国から自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要であり、相手の能力に着目した防衛力を構築する必要がある。今後の防衛力については、新しい戦い方にも対応できるよう、防衛力を抜本的に強化することで、相手にわが国を侵略する意思を持たせないようにすることが必要である。
また、外交力、情報力、経済力、技術力を含めた国力を統合して、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛体制を構築していく。
わが国の平和と安全にかかわる力による一方的な現状変更やその試みについては、わが国として、同盟国・同志国などと協力・連携して抑止していく必要がある。相手の行動に影響を与えるためには、柔軟に選択される抑止措置(FDO)としての訓練・演習などや、戦略的コミュニケーション(SC)を、政府一体となって、また同盟国・同志国などと共に充実・強化していく必要がある。防衛省・自衛隊は、平素から常続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR)及び分析を関係省庁と連携して実施し、事態の兆候を早期に把握するとともに、戦闘機などによる緊急発進(スクランブル)を実施している。
緊急発進(スクランブル)対応中の隊員
島嶼部を含むわが国に対する侵攻に対しては、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除するとともに、領域を横断して優越を獲得し、陸海空の領域及び宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力を有機的に融合した領域横断作戦を実施し、非対称な優越を確保し、侵攻戦力を阻止、排除する。そして、粘り強く活動し続けて、相手の侵攻意図を断念させる。
また、ミサイル攻撃を含むわが国に対する侵攻に対しては、ミサイル防衛により公海及びわが国の領域の上空でミサイルを迎撃し、攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において有効な反撃を加える能力としてスタンド・オフ防衛能力などを活用し、ミサイル防衛とあいまってミサイル攻撃を抑止する。
イージス艦「まや」SM-3ブロックIIA発射試験
さらに、大規模テロやそれに伴う原子力発電所をはじめとした重要インフラに対する攻撃なども、深刻な脅威である。防衛省・自衛隊においては、関係機関と緊密に連携して、それらの攻撃に際しては実効的な対処を行う。加えて、わが国への侵攻が予測される場合には、機動展開能力を活用し住民の避難誘導を含む国民保護のための取組を円滑に実施する。
国民保護訓練に参加する隊員
わが国周辺における軍事活動が活発化するなか、防衛省・自衛隊は、平素から各種の手段による情報の迅速・的確な収集に努めており、情報収集・分析など機能の強化を進めている。
国際社会においては、紛争が生起していない段階から、偽情報や戦略的な情報発信などを用いて他国の世論・意思決定に影響を及ぼすとともに、自らに有利な安全保障環境を企図する情報戦に重点が置かれている。こうした状況を踏まえ、防衛省・自衛隊は、わが国防衛の観点から、偽情報の見破りや分析、そして迅速かつ適切な情報発信などを肝とした認知領域を含む情報戦に確実に対処できる体制・態勢を構築していく。
将来にわたりわが国を守り抜く上で、弾薬、燃料、装備品の可動数といった現在の自衛隊の継戦能力は、必ずしも十分ではない。こうした現実を直視し、有事において自衛隊が粘り強く活動でき、また、実効的な抑止力となるよう、十分な継戦能力の確保・維持を図る必要がある。そのため、必要十分な弾薬を早急に保有し、火薬庫及び燃料タンクを整備するとともに、装備品の可動状況を向上させる。また、主要司令部の地下化や構造強化を進め、施設の再配置なども進める。
火薬庫の確保
わが国への侵攻のみならず、大規模災害及び感染症危機などは深刻な脅威であり、国の総力を挙げて全力で対応する必要がある。防衛省・自衛隊は、大規模災害などに際し、関係機関と緊密に連携して、効果的に人命救助、応急復旧、生活支援などを行う。
人命救助にあたる隊員
2016年の平和安全法制施行後、この法制にかかる各種準備・訓練を実施してきた。2022年には、わが国政府が存立危機事態の認定を行ったという前提の実動訓練に初めて参加したほか、自衛隊法第95条の2に基づく米軍等の部隊の武器等の警護として、初めて日米豪3か国が連携した形で米豪軍に対する警護を実施した。
日米安保条約に基づく日米安保体制は、わが国自身の防衛体制とあいまってわが国の安全保障の基軸である。わが国は、民主主義、人権の尊重、法の支配、資本主義経済といった基本的な価値観や世界の平和と安全の維持に関する利益を共有し、経済面においても関係が深く、かつ、強大な軍事力を有する米国との安全保障体制を基軸として、わが国の平和、安全及び独立を確保してきた。
日米防衛相会談(2023年1月)
防衛戦略では、わが国への侵攻を抑止する観点から、それぞれの役割・任務・能力に関する議論をより深化させ、日米共同の統合的な抑止力をより一層強化していくこととしている。具体的には、日米共同による宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦を円滑に実施するための協力及び相互運用性を高めるための取組を一層深化させる。さらに、防空、対水上戦、対潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)、アセットや施設の防護、後方支援などにおける連携の強化を図る。また、わが国の防衛力の抜本的強化を踏まえた日米間の役割・任務分担を効果的に実現するため、日米共同計画にかかる作業などを通じ、運用面における緊密な連携を確保する。加えて、より高度かつ実践的な演習・訓練を通じて同盟の即応性や相互運用性をはじめとする対処力の向上を図っていく。核抑止力を中心とした米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保するため、日米間の協議を閣僚レベルのものも含めて一層活発化・深化させる。また、力による一方的な現状変更やその試み、さらには各種事態の生起を抑止するため、平素からの日米共同による取組として、共同FDO(柔軟に選択される抑止措置)や共同ISR(情報収集・警戒監視・偵察)などをさらに拡大・深化させる。
米海兵隊のF-35B戦闘機との共同訓練(2022年10月)
また、在日米軍のプレゼンスは、抑止力として機能している一方で、在日米軍の駐留に伴う地域住民の生活環境への影響を踏まえ、各地域の実情に合った負担軽減の努力が必要である。特に、在日米軍の再編は、米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するための極めて重要な取組であることから、防衛省としては、在日米軍施設・区域を抱える地元の理解と協力を得る努力を続けつつ、米軍再編事業などを進めていく。
日米共同訓練(2023年2月)
防衛省・自衛隊は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)というビジョンのもと、一か国でも多くの国々と連携を強化するべく、多角的・多層的な防衛協力・交流を積極的に推進している。
近年では、同盟国のみならず、アジア、アフリカ、欧州など、多様な国々との間で、ハイレベル交流、共同訓練、能力構築支援などといった防衛協力・交流を進めている。
また、同志国などとの間で、円滑化協定(RAA)、物品役務相互提供協定(ACSA)、防衛装備品・技術移転協定等の制度的枠組みの整備も拡大させている。
日豪防衛相会談(2022年12月)
海洋国家であるわが国にとって、海洋の秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することは、極めて重要である。このため、ソマリア沖・アデン湾で実施中の海賊対処をはじめ、海洋状況監視などの海洋安全保障に関する多国間の協力を推進している。
防衛省・自衛隊は、従前よりエジプトとイスラエルの停戦監視を任務とするMFOへの司令部要員として2名を派遣しているところ、今般、司令部要員2名を追加派遣する。また、南スーダンではUNMISS司令部要員として4名が活動している。このほか、国連事務局やPKO訓練センターなどへの職員派遣や、国連三角パートナーシップ・プログラムへの各種支援などに積極的に参画し、国際平和協力活動に貢献している。
また、2022年5月から6月までの間、ドバイにあるUNHCRの倉庫から人道救援物資をウクライナ周辺国に航空機による輸送を行った。
さらに、2023年2月から3月までの間、トルコ及びシリアにおいて発生した地震に際し、国際緊急援助隊法に基づき物資輸送を実施した。
トルコにおける地震災害に伴う国際緊急援助活動においてインジルリク空軍基地(トルコ)で物資を下すB-777特別輸送機
自衛隊は、このような緊急の要請にも対応できる態勢を常時維持している。
防衛省・自衛隊は、大量破壊兵器及びその運搬手段となりうるミサイルや通常兵器及び軍事転用可能な貨物・機微技術の拡散などに対する国際的な態勢整備や訓練などに、関係省庁と連携しながら取り組んでいる。
PSI訓練における各国及び関係機関代表者とのディスカッション(2022年8月)