Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 国際テロリズムの動向

1 全般

中東やアフリカなどの統治能力がぜい弱な国において、国家統治の空白地域がアル・カーイダやISILなどの国際テロ組織の活動の温床となる例が顕著にみられる。こうしたテロ組織は、国内外で戦闘員などにテロを実行させてきたほか、インターネットなどを通じて暴力的過激思想を普及させている。その結果、欧米などにおいて、国際テロ組織との正式な関係はないものの、何らかの形で影響を受けた個人や団体が、少人数でテロを計画及び実行するテロが発生している。さらに、極右思想を背景とした特定の宗教や人種を標的とするテロも欧米諸国で発生している。

国際テロ組織のうち、ISILは、元々の拠点であるイラク及びシリアのほか、両国外に「イスラム国」の領土として複数の「州」を設立し、こうした「州」が各地でテロを実施している。

アフガニスタンなどを拠点とするアル・カーイダは、多くの幹部が米国の作戦により殺害されるなど弱体化しているとみられる。しかしながら、声明を発出するなどの活動は継続している。

国際テロ対策に関しては、テロの形態の多様化やテロ組織のテロ実行能力の向上などにより、テロの脅威が拡散、深化している中で、テロ対策における国際的な協力の重要性がさらに高まっている。

2 アフリカにおける動向

アフリカは、ISILやアル・カーイダ関連組織が活発に活動している。その一部を例としてあげると、アフリカ西部においては、たとえばマリをはじめとするサヘル地域で、テロ組織の活発な活動のみならず、組織間の衝突がみられる。アフリカ南部においては、モザンビークを中心に活動する、後にISIL中央アフリカ州と称するようになる武装集団などの襲撃により2021年3月にはフランス企業が主導する天然ガス田の開発中断に至った。アフリカ東部においては、ソマリアにおいてアル・シャバーブが、政治プロセスを妨害し続けている。

このようなテロ組織の活動に対し、欧州諸国などにより、対テロ作戦や訓練支援が行われてきた。たとえば、サヘル地域においては、2013年以降、派兵を継続してきたフランスは、2022年6月、2020年から実施してきたフランス主導の多国籍特殊部隊のマリにおける活動を終了し、同年8月、フランス軍がマリから撤収完了し、同年11月、サヘル地域における軍事作戦の終了を発表した。モザンビークにおいては、周辺国の部隊派遣により、武装集団に占拠されていた地域を2021年8月に奪還したほか、同年11月、EUの訓練ミッションの活動が開始された。

3 中東における動向

ISILは、2013年以降、情勢が不安定であったイラク及びシリアにおいて勢力を拡大し、2014年に「イスラム国」の樹立を一方的に宣言した。同年以降、米国が主導する有志連合軍は、両国において、空爆や現地勢力に対する教育・訓練などに従事し、2019年、米国は、有志連合とともに両国におけるISILの支配地域を100%解放したと宣言するに至った。2022年には、2月及び11月に米国がISIL指導者の死亡を発表したが、ISILはそれぞれ同年3月及び11月に新指導者の就任を発表しており、ISILは、イラク及びシリアにおいて、依然活動を継続しているとみられる。

アフガニスタンにおいては、タリバーンが支配地域を拡大する中、2015年以降、ISIL「ホラサン州」が、首都カブールや東部を中心にテロ活動を継続してきた。アル・カーイダと協力関係にあるタリバーンがカブールを制圧した2021年8月、米国は、米軍の撤収を完了したが、遠隔からの対テロ作戦の継続を表明した。

米軍撤収後も、ISIL「ホラサン州」は、カブールなどで、テロ攻撃を継続しているが、件数は減少傾向にある。アル・カーイダについては、2022年8月、米国は、アフガニスタンの首都カブールにおいて、ドローン攻撃によりその指導者を殺害したと発表した。2023年3月現在、後任の指導者就任は発表されていない。