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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

2 わが国の主権を侵害する行為に対する措置

1 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)
(1)基本的考え方

国際法上、国家はその領空に対して完全かつ排他的な主権を有している。対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行うものであり、陸上や海上とは異なり、この措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条の規定に基づき、第一義的に空自が対処している。

(2)防衛省・自衛隊の対応

ア 全般

空自は、わが国周辺を飛行する航空機を警戒管制レーダーや早期警戒管制機などにより探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、その航空機の状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。さらに、この航空機が実際に領空を侵犯した場合には、退去の警告などを行っている。

2022年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は778回(中国機に対し575回、ロシア機に対し150回、その他53回)であった。

緊急発進(スクランブル)対応中の隊員

緊急発進(スクランブル)対応中の隊員

近年、中国機の飛行形態は変化し、活動範囲は東シナ海のみならず、太平洋や日本海にも拡大している。また、2022年3月にもロシア機による領空侵犯があったほか、2022年5月及び11月には中露両国の爆撃機がわが国周辺において長距離にわたる共同飛行を行うなど、中国機及びロシア機はわが国周辺で活発な活動を継続している。

防衛省・自衛隊としては、今後も活動を活発化させている中国軍及びロシア軍の動向を注視しつつ、対領空侵犯措置に万全を期していく。

イ 外国の気球などへの対応

2019年11月、2020年6月及び2021年9月のものも含め、過去にわが国領空内で確認されていた特定の気球型の飛行物体について、さらなる分析を重ねた結果、この気球は中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定されたことから、防衛省は2023年2月にその旨公表した。

気球であっても、外国のものであればわが国の許可なく領空に侵入すれば領空侵犯となる。外国の気球がわが国の許可なく領空に侵入する場合、戦闘機などによる必要な確認及び行動の監視を行いつつ、外交ルートを含む各種手段により収集した情報や、個別具体的な状況を勘案して、外国政府の気球であるか否か並びに国民の生命及び財産への影響などの判断を行う。当該気球が外国政府のものと判断される場合には、当該外国政府に対する警告などを実施し、それでもなお、領空侵犯を継続する場合などには、自衛隊機は自衛隊法第84条に規定する「必要な措置」として、武器の使用を含めて対応することになる。

なお、政府は従来、対領空侵犯措置の際の武器の使用は、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許されるとしてきた。これは、有人かつ軍用の航空機を念頭に置いたものであるが、領空侵犯する気球を含む無人の航空機については、武器の使用を行っても直接に人に危害が及ぶことはないことから、例えば、そのまま放置すれば他の航空機の安全な飛行を阻害する可能性があるなど、わが国領域内の人の生命及び財産、また航空路を飛行する航空機の安全の確保といった保護すべき法益のために、必要と認める場合には、正当防衛または緊急避難に該当しなくとも、武器を使用することが許される、と無人の航空機に対する武器の使用にかかる同条の解釈を明確化した。

気球を含む無人の航空機といった多様な手段によるわが国の領空への侵入のおそれが増すなか、国民の生命及び財産を守るため、また、わが国の主権を守るため、国際法規及び慣習を踏まえてより一層厳正に対処していく。

参照I部3章2節2項6(2)わが国周辺海空域における軍の動向I部3章5節3項6(5)わが国周辺における活動、図表III-1-3-2(冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳)、図表III-1-3-3(緊急発進の対象となったロシア機及び中国機の飛行パターン例(2022年度))、図表III-1-3-4(わが国及び周辺国・地域の防空識別圏(ADIZ)(イメージ))

図表III-1-3-2 冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳

図表III-1-3-3 緊急発進の対象となったロシア機及び中国機の飛行パターン例(2022年度)

図表III-1-3-4 わが国及び周辺国・地域の防空識別圏(ADIZ)(イメージ)

動画アイコンQRコード動画:航空警戒管制
URL:https://www.youtube.com/watch?v=DKd7UEU73rM

動画アイコンQRコード資料:2022年度 年度緊急発進状況
URL:https://www.mod.go.jp/js/activity/domestic/Scramble2022.html

2 領海及び内水内を潜水航行する潜水艦への対処など
(1)基本的考え方

わが国の領水内6で潜水航行する外国潜水艦に対しては、海上における警備行動(海上警備行動)を発令して対処することになる。こうした潜水艦に対しては、国際法に基づき海面上を航行し、かつ、その旗を掲げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求することになる。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、わが国の領水内を潜水航行する外国潜水艦を探知・識別・追尾し、こうした国際法に違反する航行を認めないとの意思表示を行う能力及び浅海域における対処能力の維持・向上を図っている。

2004年11月、先島諸島周辺のわが国領海内を潜水航行する中国原子力潜水艦に対し、海上警備行動を発令し、海自艦艇などにより潜水艦が公海上に至るまで継続して追尾した。また、2018年1月、尖閣諸島周辺のわが国の接続水域における中国潜水艦による潜水航行が初確認された。

さらに、2021年9月10日には中国国籍と推定される潜水艦が奄美大島周辺のわが国接続水域内を潜水航行しているのを確認し、海自護衛艦及び哨戒機による警戒監視を行った。この潜水艦による領海侵入はなかったものの、このような潜水艦の活動はわが国として注視すべきものである。国際法上も、外国の潜水艦が沿岸国の領海内を航行する際には海上において、その旗を掲げて航行しなければならないとされており、国際法に反する活動を許さないためにも、自衛隊は万全の警戒監視態勢を維持していく。

3 武装工作船などへの対処
(1)基本的考え方

武装工作船と疑われる船(不審船)には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処できない、又は著しく困難と認められる場合には、海上警備行動を発令し、海上保安庁と連携しつつ対処することになる。

不審船対処訓練に参加する海自艦艇と海上保安庁巡視船

不審船対処訓練に参加する海自艦艇と海上保安庁巡視船

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊は、1999年の能登半島沖での不審船事案や2001年の九州南西海域での不審船事案などの教訓を踏まえ、様々な取組を行っている。特に海自は、特別警備隊7の編成、護衛艦などへの機関銃の装備などを実施してきたほか、1999年に防衛庁(当時)と海上保安庁が策定した「不審船に係る共同対処マニュアル」に基づき、海上保安庁との定期的な共同訓練を行うなど、連携の強化を図っている。

6 領海及び内水

7 2001年3月、海上警備行動下において不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。