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ダイジェスト 第II部 わが国の安全保障・防衛政策

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わが国の安全保障と防衛の基本的考え方

国家の独立、平和と安全を守る防衛力

平和と安全は、国民が安心して生活し、国が繁栄を続けていくうえで不可欠のものであるが、願望するだけでは確保できない。

国民の命や暮らしを守り抜くうえで、まず優先されるべきは、積極的な外交の展開である。日米同盟を基軸とし、多国間協力を推進していくことが不可欠である。同時に、外交には裏付けとなる防衛力が必要である。戦略的なアプローチとして、「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンの下での外交を展開するとともに、反撃能力の保有を含む防衛力の抜本的強化を進めていく。また、わが国に対する脅威の発生を予防する観点から、インド太平洋地域における協力などの分野で防衛力が果たす役割の重要性は増している。

わが国は、このような防衛力の役割を認識したうえで、外交や経済など様々な分野における努力を尽くすことにより、わが国の平和と安全を確保していく。

また、わが国は、憲法のもと、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備している。

観閲する岸田内閣総理大臣と浜田防衛大臣(国際観艦式)

観閲する岸田内閣総理大臣と浜田防衛大臣(国際観艦式)

国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画など

真に国民を守り抜ける体制を作り上げる

国際秩序が重大な挑戦に晒され、国際関係において対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代となっている。そして、わが国は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しており、新たな危機の時代に突入していると言える。こうした厳しい安全保障環境に対応していくために、2022年12月に「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」を策定した。必要な防衛力の抜本的強化を実現し、真に国民を守り抜ける体制を作り上げる、戦後の防衛政策の大きな転換点になったと考えている。

「国家安全保障戦略」は、国家安全保障に関する最上位の政策文書として位置付けられ、伝統的な外交・防衛分野のみならず、経済安全保障、技術、情報なども含む幅広い分野への政府としての横断的な対応に関する戦略が示されている。特にわが国自身の防衛体制を強化するため、2027年度において、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組と合わせ、そのための予算水準が2022年度の国内総生産(GDP)の2%(約11兆円)に達するよう、所要の措置を講ずる。

「国家防衛戦略」においては、わが国防衛の目標や、これを実現するためのアプローチと手段が示されている。戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境の中で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、その厳しい現実に正面から向き合って、相手の能力と新しい戦い方(大規模なミサイル攻撃、情報戦を含むハイブリッド戦、宇宙・サイバー・電磁波の領域や無人機などによる非対称的な攻撃、核兵器による威嚇など)に着目した防衛力の抜本的強化を行う必要がある。そのため、反撃能力の保有を含め、防衛力の抜本的強化の方針を定めた。

防衛上の必要な機能・能力として、まず、わが国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除するために、「①スタンド・オフ防衛能力」「②統合防空ミサイル防衛能力」を強化する。万が一、抑止が破られた場合、①②の能力に加え、領域を横断して優越を獲得し、非対称的な優勢を確保するため、「③無人アセット防衛能力」「④領域横断作戦能力」「⑤指揮統制・情報関連機能」を強化する。さらに、迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させるため、「⑥機動展開能力・国民保護」「⑦持続性・強靱性」を強化する。防衛力の抜本的強化は、いついかなる形で力による一方的な現状変更が生起するか予測困難であるため、5年後の2027年度までにわが国への侵攻が生起する場合に、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国などの支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらに、おおむね10年後までに、この防衛目標をより確実にするための更なる努力を行い、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する。

これに加え、いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤、防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤も強化する。

わが国として保有すべき防衛力の水準を示し、その水準を達成するための内容を含む「防衛力整備計画」においては、5年間で43兆円程度という、これまでとは全く異なる水準の予算規模により、防衛力の抜本的強化の実現に向けた様々な取組を記載した。特に、スタンド・オフ防衛能力や無人アセット防衛能力など、将来の防衛力の中核となる分野の抜本的強化や、現有装備品の最大限の活用のための可動率向上や弾薬確保、主要な防衛施設の強靱化への投資の加速、さらには防衛生産・技術基盤や人的基盤の強化にしっかりと取り組んでいく。

3つの防衛目標

①力による一方的な現状変更を許さない安全保障環境を創出

G7首脳会合に参加する岸田総理大臣(2023年5月)【首相官邸HP】

G7首脳会合に参加する岸田総理大臣(2023年5月)【首相官邸HP】

②力による一方的な現状変更やその試みを、同盟国・同志国等と協力・連携して抑止・対処

米空軍戦略爆撃機等との共同訓練(2023年3月)

米空軍戦略爆撃機等との共同訓練(2023年3月)

③我が国への侵攻が生起する場合、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、阻止・排除

水陸両用作戦等の訓練(2023年2月)

水陸両用作戦等の訓練(2023年2月)

防衛力抜本的強化「元年」予算

令和5(2023)年度防衛関係費は、防衛力を5年以内に抜本的に強化するために必要な取組を積み上げて、新たな「整備計画」の初年度に相応しい内容及び予算規模を確保(防衛力抜本的強化「元年」予算)した。

歳出予算は、整備計画対象経費として6兆6,001億円(前年度比1兆4,213億円(27.4%)増)を計上し、米軍再編などを含めると6兆8,219億円となり、「防衛費の相当な増額」を確保した。また、新規後年度負担(新たな事業)は、整備計画対象経費として7兆676億円(前年度比2.9倍)を計上し、1年でも早く、必要な装備品を各部隊に届け、部隊で運用できるよう、初年度に可能な限り契約を実施する。具体的には、将来の防衛力の中核となる分野について、「スタンド・オフ防衛能力」、「無人アセット防衛能力」などについて大幅に予算を増やすとともに、現有装備品の最大限の活用のため、可動向上や弾薬確保、主要な防衛施設の強靱化への投資(重要な司令部の地下化や隊舎等の整備)を加速している。

予算配分に当たっては、防衛力整備事業について、これまでは主要装備品などの取得経費とその他の経費の2区分に分けて管理してきたが、各幕・各機関ごとに新たに15区分に分類して管理することとし、予算の積み上げをよりきめ細かく行い、弾薬、維持整備、施設、生活・勤務環境などへのしわ寄せを防いでいる。

防衛力抜本的強化「元年」予算

わが国の安全保障と防衛を担う組織

防衛省・自衛隊は、内閣に設置された国家安全保障会議で議論された基本的な方針のもとで、政策立案や任務の遂行を行っている。

また、防衛省・自衛隊は、陸・海・空自衛隊を一体的に運用する統合運用体制をとっている。統合運用の実効性強化に向け、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断作戦を実現するため、既存組織の見直しにより、陸海空自の一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部の速やかな創設に向け、各種課題を検討している。

自衛隊の行動などに関する枠組み

2015年に成立した平和安全法制においては、いかなる事態においても切れ目のない対応を可能とすべく、「存立危機事態」や「重要影響事態」などの政府として対処すべき事態を新たに定義づけており、政府としては、引き続き、対応に万全を期していく。