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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 宇宙空間に関する各国の取組

1 米国

米国は、世界初の偵察衛星、月面着陸など、軍事、科学、資源探査など多種多様な宇宙活動を発展させ続けており、世界最大の宇宙大国である。米軍の行動においても宇宙空間の重要性は強く認識されており、宇宙空間は、安全保障上の目的でも積極的に利用されている。

政策面では、2018年3月、「国家宇宙戦略」を公表し、敵対者が宇宙を戦闘領域に変えたとの認識を示したうえで、宇宙空間における米国及び同盟国の利益を守るため、脅威を抑止及び撃退していくと表明した。また、「国防宇宙戦略」において、中国やロシアを最も深刻で差し迫った脅威と評価したほか、宇宙領域における優位性の確保、国家的な運用や統合・連合作戦を宇宙能力で支援すること、宇宙領域の安定性確保の3点を目標としている。さらに、米国政府は、同年12月に公表した「国家宇宙政策(NSP:National Space Policy)」において、宇宙の平和利用の原則のもと、国家安全保障活動のために宇宙を引き続き利用するとしている。

2022年4月には、破壊的なDA-ASATミサイル実験を実施しない旨の宣言を発表し、他国に対しても同様の取組を行うよう求めた。これを受け、わが国のほか、韓国、英国、フランスなども同様の発表を行っている。また、同年10月に公表された「国家防衛戦略」において、宇宙領域について、敵の妨害や欺瞞にかかわらず、戦闘目標を達成するための監視・決定システムの能力を向上させるとしている。

米副大統領のDA-ASAT実験中止を含む宇宙政策の演説【DVIDS】

米副大統領のDA-ASAT実験中止を含む宇宙政策の演説【DVIDS】

組織面では、大統領直轄組織である国家航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)が主に非軍事分野の宇宙開発を担う一方、国防省が軍事分野の観測衛星や偵察衛星などの研究開発と運用を担っている。2019年8月、宇宙の任務を担っていた戦略軍の一部を基盤に新たな地域別統合軍として宇宙コマンドが発足し、同年12月、6番目の軍種として空軍省の隷下に人員約1万6,000人規模の宇宙軍を新たに創設した。さらに、2022年11月、宇宙コマンドの隷下に宇宙に関する作戦を調整する連合統合任務部隊を創設した。また、地域別統合軍であるインド太平洋軍に宇宙部隊を、同年12月には中央軍に宇宙部隊をそれぞれ新編している。

参照3章1節2項(軍事態勢)

2 中国

中国は、1950年代から宇宙開発を推進しており、世界初となる無人探査機の月の裏側への着陸などを成功させてきた。2022年10月には、実験モジュール「夢天」を打ち上げ、コアモジュール「天和」とドッキングさせることで、宇宙ステーション「天宮」を完成させるなど、宇宙活動をさらに活発化させている。

中国は従来から国際協力や宇宙の平和利用を強調しているものの、人工衛星による情報収集、通信、測位など軍事目的での宇宙利用を積極的に行っていることが指摘されている。例えば、衛星測位システム「北斗」は航空機、艦船の航法、ミサイルなどの誘導用、2021年と2022年に複数回打ち上げられた「遥感」システムは電子偵察や画像偵察用として、軍事利用の可能性が指摘されている。また、「長征」シリーズなどの運搬ロケットについては、開発・生産元である中国国有企業が弾道ミサイルの開発、生産なども行っているとされ、運搬ロケットの開発は弾道ミサイルの開発にも応用可能とみられる。

また、中国は、対宇宙作戦を地域紛争への米国介入を抑止・対抗する手段と捉えていると指摘されており2、ASATの開発などを進めている。先述の2007年の衛星破壊実験や2014年7月の破壊を伴わない対衛星ミサイル実験のほか、地上配備型レーザー、宇宙ロボットなど様々なASAT能力と関連技術の取得、開発を続けている3との指摘もある。

このように中国は、官・軍・民が密接に協力しながら、今後も宇宙開発に注力していくものとみられる。米国は中国に対し、宇宙における米国の能力に並ぶ又は上回る能力を追求していると評価4しており、軍用衛星の運用数は米国を上回っているとの指摘もある5

政策面では、中国は、宇宙が国際的戦略競争の要点であり、宇宙の安全は国家建設や社会発展の戦略的保障であると主張しており、航空宇宙分野の発展を加速する方針を明らかにしている。2022年1月に発表された「中国の宇宙」白書において「宇宙強国の建設」を強調し、宇宙事業を発展させるとしている。また、同年10月の第20回党大会における習近平総書記の報告の中でも、「宇宙開発強国の建設を加速させる」との方針が掲げられた。

組織面では、2015年12月に中央軍事委員会の直轄部隊として設立された戦略支援部隊は、任務や組織の細部は公表されていないものの、宇宙・サイバー・電子戦を任務としており、衛星の打上げ・追跡を担当しているとみられる。また、中央軍事委員会の装備発展部が有人宇宙計画などを担当しているとみられる。

3 ロシア

1991年の旧ソ連解体以降、ロシアの宇宙活動は低調な状態にあったが、近年は、ウクライナ侵略後も、活発な宇宙活動を継続している。例えば、ロシアは、2030年までに、観測や通信などを行う600機以上の衛星による衛星コンステレーション構想「スフェラ」を計画している。国際宇宙ステーションの2028年までの参加延長を決定したほか、独自の宇宙ステーションの開発計画を明らかにしている。

また、ロシアは、シリアにおける軍事作戦に宇宙能力を活用しており、ショイグ国防相は2019年の国防省の会議において、本作戦の経験で、軍用衛星の再構築が必要との認識に至った旨明らかにした。2022年4月と12月に、電子偵察用とみられる軍用衛星を打ち上げている。2022年11月には、6機目となる早期警戒衛星「ツンドラ」の軌道投入に成功しており、ミサイル防衛能力の強化が進展している。また、2021年11月、ロシア国防省は、軌道上にあるソ連の人工衛星を破壊する実験に成功した旨発表した。

一方で、国営宇宙公社ロスコスモス(State Space Corporation ROSCOSMOS)の総裁は、欧米諸国の制裁の影響により、欧州宇宙機関との協力を完全に停止したと発言している。

政策面としては、宇宙活動を展開していく今後の具体的な方針として、2016年3月、「2016-2025年のロシア連邦宇宙プログラム」を発表し、国産宇宙衛星の開発・展開、有人宇宙飛行計画などを盛り込んだ。

組織面では、ロスコスモスがロシアの科学分野や経済分野の宇宙活動を担う一方で、国防省が安全保障目的での宇宙活動に関与し、2015年8月に空軍と航空宇宙防衛部隊が統合され創設された航空宇宙軍が実際の軍事面での宇宙活動や衛星打上げ施設の管理などを担当している。

4 韓国

韓国の宇宙開発は、2005年に施行された「宇宙開発振興法」のもと、2022年12月に発表した「第4次宇宙開発振興基本計画」に基づき推進されている。その計画は、月と火星への2045年までの着陸を目標として、宇宙関連予算を倍増させ、宇宙産業を推進し、2023年末までに宇宙航空庁を発足させるなどとしている。また、2021年5月、米韓ミサイル指針の終了に関して米国と合意したことに伴い、運搬ロケット開発の制限が解消され、独自の打上げ手段獲得を目指すなど宇宙開発を加速させている。例えば、2022年6月に韓国国産ロケット「ヌリ号」の2回目の打ち上げで初めての衛星の軌道投入に成功しており、2027年までにさらに4回の打上げを計画している。

組織面では、韓国航空宇宙研究院が実施機関として研究開発を主導、国防科学研究所が各種衛星の開発利用に関与している。また、朝鮮半島上空の宇宙監視能力を確保するため、初の宇宙部隊を2019年に創設し、2022年、「空軍宇宙作戦大隊」に拡大改編した。

また、韓国国防部は、宇宙関連の能力を強化するため、監視偵察・早期警報衛星などを確保していく計画であるとしている6

5 インド

インドは、有人宇宙ミッション、通信、測位、観測分野などの開発プログラムを推進している。2022年4月、米印は、第4回外務・防衛閣僚会議「2+2」を開催し、宇宙における協力の重要性を強調し、防衛宇宙対話を実施する計画を歓迎した。

また、インドは、自国周辺の測位が可能な測位衛星として地域航法衛星システム(NavIC:Navigation Indian Constellation)衛星を運用しているほか、2017年2月には、低予算で104機の衛星を1基のロケットで打ち上げることに成功するなど、高い技術力を有している。また、2019年3月、モディ首相は、低軌道上の人工衛星をミサイルで破壊する実験に成功したと発表している。2021年2月には、有人宇宙政策を発表しており、2022年12月には、インドで初となる有人宇宙飛行「ガガニャーン」計画について、2024年の打ち上げを目指すとした。

6 欧州

欧州における宇宙活動は、EU、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)、欧州各国がそれぞれ独自の宇宙活動を推進しているほか、相互の協力による宇宙活動が行われている。

EUは、2021年から2027年までの中期予算計画の宇宙政策に148.8億ユーロを割り当てたほか、2021年5月、衛星測位システムの安全管理などを含む、EUの宇宙プログラムの執行を担うEU宇宙プログラム庁(EUSPA:European Union Agency for the Space Programme)を発足させた。今後はEU・ESAが計画している衛星測位システム「ガリレオ」、地球観測プログラム「コペルニクス」、欧州防衛庁(EDA:European Defence Agency)による偵察衛星プロジェクト(MUSIS:Multinational Space based Imaging System)などが、欧州における安全保障分野に活用されていくものとみられる。さらに、2023年3月に公表したEU宇宙安全保障・防衛戦略では、安全保障・防衛における宇宙能力の利用を強化するとし、新しい地球観測サービスの開発や初期のSDAサービスの提供を計画している。

また、NATOは、宇宙を陸・海・空・サイバーと並ぶ「第5の作戦領域」であると宣言するなど、宇宙領域における安全保障の重要性に関して認識を示している。2020年10月には、NATO国防相会合が開催され、新たに宇宙センターを設立することが合意された。さらに、2021年6月のNATOの首脳会合で公表したコミュニケにおいて、宇宙空間における武力攻撃がNATOの集団的自衛権の発動につながりうる旨、初めて記載された。加えて、2022年6月に公表した新戦略概念では、宇宙及びサイバー領域で効果的に活動する能力を強化するとしている。

2020年末にEUを離脱した英国は、2021年1月にガリレオプログラムに参加しない旨の発表を行っている。また、2021年4月、宇宙司令部(Space Command)が正式に発足し、宇宙作戦、宇宙関連人員の訓練及び養成、宇宙能力(宇宙関連装備計画の開発及び提供)の3つの機能を担うとされる。戦略面においては、同年9月に「国家宇宙戦略」を、2022年2月に「国防宇宙戦略」を発表しており、ISRや衛星通信などの分野に今後10年で14億ポンドを投資するとしている。

フランスは、2019年7月、「国防宇宙戦略」を発表し、宇宙司令部創設のほか、脅威認識、宇宙状況監視能力の強化などについて言及している。同年9月、軍事省内にある宇宙軍事監視作戦センター、統合宇宙司令部、衛星軍事監視センターの機能・人員を集約する形で空軍隷下に宇宙司令部を創設した。また、2020年9月に空軍の名称を航空・宇宙軍に変更し、空軍の業務に宇宙への自由なアクセス及び宇宙空間での行動の自由を保障するための活動を追加している。

2 米国家情報局「Challenges to security in space」(2022年4月)による。

3 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告書」(2022年11月)による。

4 米国家情報長官「世界脅威評価書」(2022年2月)による。

5 英国国際戦略研究所「ミリタリー・バランス(2023)」による。

6 韓国国防部「2022国防白書」(2023年2月)による。