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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

2 認知領域を含む情報戦などへの対処

1 認知領域を含む情報戦

国際社会において、紛争が生起していない段階から、偽情報や戦略的な情報発信などを用いて他国の世論・意思決定に影響を及ぼすとともに、自らの意思決定への影響を局限することで、自らに有利な安全保障環境の構築を企図する情報戦に重点が置かれている状況を踏まえ、わが国として認知領域を含む情報戦に確実に対処できる体制・態勢を構築することとしている。

参照I部4章1節4項(情報関連技術の広まりと情報戦)

2 防衛省・自衛隊の取組

厳しさを増す安全保障環境やIT技術を含む技術革新の急速な進展などに伴い、認知領域を含め新たな「戦い方」に対応していくことが重要である。

特に、ロシアによるウクライナ侵略の状況を踏まえれば、わが国防衛の観点から、偽情報の見破りや分析、そして迅速かつ適切な情報発信などを肝とした認知領域を含む情報戦への対応が急務である。

国際社会においては情報戦との名のもと、様々な行為が行われていることを踏まえ、国内外における信頼性を確保するうえで、わが国防衛の観点から実施する情報戦対応の外縁について明示することが重要である。

具体的には、認知領域を含む情報戦とは、わが国防衛の観点から、有事はもとより、現段階から、①情報機能を強化することで、多様な情報収集能力を獲得しつつ、②諸外国による偽情報の流布をはじめとしたあらゆる脅威に関して、その真偽や意図などを見極め、様々な手段で無力化などの対処を行うとともに、③同盟国・同志国などとの連携のもと、あらゆる機会を捉え、適切な情報を迅速かつ戦略的に発信するといった手段を通じて、わが国の意思決定を防護しつつ、力による一方的な現状変更を抑止・対処し、より望ましい安全保障環境を構築することをいうものとする。なお、わが国の信頼を毀損する取組(SNSなどを介した偽情報の流布、世論操作、謀略など)は実施しない。

防衛省においては、このような情報戦対応の中核を情報本部が担うこととし、防衛省全体として、2027年までに認知領域を含む情報戦に確実に対処可能な情報能力を整備することとしている。具体的には、諸外国の動向の常時継続的な収集(多様な情報収集能力の確保など)、諸外国による情報発信などに関する真偽の見極め(プロパガンダや偽情報などの検知、偽情報などのファクト・チェック)、あらゆる機会を捉えた、わが国に有利な環境の構築(戦略的・情報通信基盤の維持・情報保全など)を実施する。

情報戦対応の中核を担う情報本部においては、

  • 情報収集・分析・発信に関する体制の強化
  • 各国などの動向に関する情報を常時継続的に収集・分析することが可能となる人工知能(AI)を活用した公開情報の自動収集・分析機能の整備
  • 各国による情報発信の真偽を見極めるためのSNS情報などを自動収集する機能の整備
  • 関係機関との情報交換

を行うなど、政策部門・運用部門と緊密に連携しつつ、収集・分析・発信のあらゆる段階において必要な措置を講じる。

さらに、陸・海・空の自衛隊の部隊などにおいても、基幹部隊の見直しを行い、部隊を新編するなど、確固とした体制を整備していく考えであり、具体的には、電子戦部隊、サイバー戦部隊などを一体的に保持することで、情報戦を効果的に遂行する体制を構築する。

加えて、同盟国・同志国などとの情報共有や共同訓練などを実施していくことにより、さらなる能力の強化に努める。

こうした各種措置のほか、防衛力の中核である自衛隊員が偽情報に惑わされ、的確な意思決定が阻害されることのないよう、隊員一人一人が偽情報の危険性を理解し、常日頃から物事を冷静に捉え、客観的に吟味できる姿勢を涵養することが求められるため、教育や自己研鑽の機会や必要な素養の習得やサイバー/メディア・リテラシーの向上などの取組を通じ、情報保全体制のさらなる強化に取り組む。