防衛戦略などに示された基本方針及びこれらと整合された統合的な運用構想により導き出された、わが国の防衛上必要な7つの機能・能力の基本的な考え方とその内容は次のとおりである。
東西南北、それぞれ約3,000キロに及ぶわが国領域を守り抜くため、侵攻してくる艦艇や上陸部隊などに対して脅威圏外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化する。まず、様々な地点から重層的に艦艇などを阻止・排除できる必要十分な能力を保有し、各種プラットフォームから発射でき、また、高速滑空飛翔や極超音速飛翔などの迎撃困難な能力を強化する。このため、2027年度までにスタンド・オフ・ミサイルを運用可能な能力を強化するが、国産ミサイルの増産体制確立前に十分な能力の早期確保のため、外国製のスタンド・オフ・ミサイルを取得する。今後、おおむね10年後までに、航空機発射型スタンド・オフ・ミサイルを運用可能な能力を強化するとともに、迎撃困難な飛翔を行うことが可能な高速滑空弾、極超音速誘導弾、その他スタンド・オフ・ミサイルを運用する能力を獲得する。
極超音速兵器などへ対応するため、探知・追尾能力や迎撃能力などの対処能力を抜本的に強化する。相手からのわが国に対するミサイル攻撃については、まず、ミサイル防衛システムにより公海及びわが国の領域の上空でミサイルを迎撃する。そのうえで、攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において有効な反撃を加える能力としてスタンド・オフ防衛能力などを活用する。こうした反撃能力を保有することにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛システムによる迎撃を行いやすくすることで、ミサイル防衛と相まってミサイル攻撃そのものを抑止していく。このため、2027年度までに、警戒管制レーダーや地対空誘導弾の能力を向上させるとともに、イージス・システム搭載艦を整備する。また、指向性エネルギー兵器などにより、小型無人機などに対処する能力を強化する。今後、おおむね10年後までに、滑空段階での極超音速兵器への対処能力の研究などにより、統合防空ミサイル防衛能力を強化する。
イージス・システム搭載艦(イメージ)
無人装備をAIや有人装備と組み合わせ、非対称的な優勢を獲得することが可能であるため、無人アセットを情報収集・警戒監視のみならず、戦闘支援などの幅広い任務に効果的に活用する。また、自衛隊の装備体系、組織の最適化の取組を推進する。このため、2027年度までに無人アセットを早期装備化やリースなどにより導入し、幅広い任務での実践的な能力を獲得する。今後、おおむね10年後までに、無人アセットを用いた戦い方をさらに具体化し、わが国の地理的特性などを踏まえた機種の開発・導入を加速し、本格運用を拡大する。
宇宙・サイバー・電磁波の領域や陸海空の領域における能力を有機的に融合し、相乗効果によって全体の能力を増幅させる領域横断作戦により、個別の領域が劣勢である場合にもこれを克服し、わが国の防衛を全うすることがますます重要になっている。まず、宇宙・サイバー・電磁波の領域については相手方の利用を妨げ、又は無力化する能力を含め能力を強化・拡充する。そのうえで、
今後、より一層、戦闘様相が迅速化・複雑化していく状況において、戦いを制するためには、各級指揮官の適切な意思決定を相手方よりも迅速かつ的確に行い、意思決定の優越を確保する必要があることから、AI導入などを含めネットワークの抗たん性やISRT能力を強化する。このため、2027年度までに、ハイブリッド戦や認知領域を含む情報戦に対処可能な情報能力を整備する。また、衛星コンステレーションなどによるニアリアルタイムの情報収集能力を整備する。今後、おおむね10年後までに、AIを含む各種手段を最大限に活用し、情報収集・分析などの能力をさらに強化する。
また、これまで以上に、わが国周辺国などの意思と能力を常時継続的かつ正確に把握する必要があるため、情報本部を中心に分析能力を強化する。これに加え、偽情報の流布を含む情報戦などに対処するための取組も抜本的に強化するとともに、同盟国・同志国などとの情報共有や共同訓練などを実施する。
島嶼部を含むわが国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、わが国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開させる必要がある。このため、自衛隊自身の海上・航空輸送力を強化しつつ、民間の輸送力を最大限活用する。また、自衛隊の部隊が円滑かつ効果的に活動できるよう、平素から空港・港湾施設などの利用拡大や補給能力の向上を実施する。また、自衛隊は島嶼部における侵害排除のみならず、強化された機動展開能力を住民避難に活用し、国民保護の任務を実施する。このため、2027年度までに、民間資金等活用事業(PFI)船舶の活用の拡大などにより、輸送能力を強化する。今後、おおむね10年後までに、輸送能力をさらに強化しつつ、補給拠点の改善により輸送・補給を一層迅速化する。
PFI船舶を活用した訓練
将来にわたりわが国を守り抜くうえで、弾薬、燃料、装備品の可動数といった現在の自衛隊の継戦能力は、必ずしも十分ではない。そのため、弾薬の生産能力の向上や製造量に見合う火薬庫の確保を進め、必要十分な弾薬・燃料を早急に保有するとともに、装備品の可動率を向上させるための体制を早急に確立する。このため、2027年度までに必要な弾薬を保有し火薬庫を増設するとともに、部品不足を解消して、計画整備など以外の装備品が全て可動する体制を確保する。今後、おおむね10年後までに、火薬庫の増設を完了し、弾薬や装備品の部品について、適正な在庫の確保を維持する。
さらに、平素においては自衛隊員の安全を確保し、有事においても容易に作戦能力を喪失しないよう、主要司令部の地下化・構造強化、施設の再配置などを実施する。また、隊舎・宿舎の着実な整備や老朽化対策を行う。気候変動の問題は今後の防衛省・自衛隊の運用や各種計画などに一層影響をもたらすことから、各種課題に対応していく。このため、2027年度までに、司令部の地下化、主要な基地・駐屯地内の再配置・集約化を進め、各施設の強靱化を図る。今後、おおむね10年後までに、防衛施設の更なる強靱化を図る。最後に、自衛隊員の継戦能力向上のため、衛生機能も強化する。