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ダイジェスト 第IV部 共通基盤などの強化

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いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化など

防衛生産・技術基盤の強化

科学技術が急速に進展し、各国は将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなり得る先端技術の開発を行っている。また、人工知能(AI)をはじめとする新たな技術の進展により、戦闘様相が陸・海・空領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波領域や人の認知領域にまで広がっている。こうした変化を捉え、各国は技術的優越を確保するため研究開発にも積極的に取り組んでいる。一方、わが国の防衛生産・技術基盤は、サプライチェーン・リスクや相次ぐ撤退など課題が山積みであり、厳しい状況に晒されている。こうした状況を踏まえ、防衛戦略において、防衛生産・技術基盤は、自国での装備品の研究開発・生産・調達を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を防衛装備品に取り込むために不可欠な基盤であることから、いわば防衛力そのものと位置付けられるものであり、その強化に取り組んでいくこととしている。

また、新しい戦い方に必要な装備品を取得するためには、わが国が有する技術をいかに活用していくかが極めて重要である。わが国の高い技術力を基盤とした、科学技術とイノベーションの創出は、経済的・社会的発展をもたらす源泉であり、わが国の安全保障にかかわる総合的な国力の主要な要素である。また、わが国の官民の技術力を、従来の考え方にとらわれず、安全保障分野に積極的に活用していくことは、わが国の防衛体制の強化に不可欠な活動である。わが国の官民における科学技術の研究開発の成果を、防衛装備品の研究開発などに積極的に活用していくことで、国家としての技術的優越の確保に戦略的に取り組んでいくことが重要である。そのため、わが国として重視すべき技術分野について国内における研究開発をさらに推進し、技術基盤を育成・強化する必要がある。

日英伊で共同開発する次期戦闘機のイメージ

日英伊で共同開発する次期戦闘機のイメージ

12式地対艦誘導弾(能力向上型)【三菱重工業(株)名古屋誘導推進システム製作所より提供】

12式地対艦誘導弾(能力向上型)
【三菱重工業(株)名古屋誘導推進システム製作所より提供】

長期運用型UUV

長期運用型UUV

防衛装備移転の推進

防衛装備品の海外への移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止し、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出するなど重要な政策的手段となる。安全保障上意義が高い防衛装備移転や国際共同開発を幅広い分野で円滑に行うため、防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しを検討する。また、防衛装備移転を円滑に進めるため、基金を造成し、必要に応じた企業支援を行うことなどにより、官民一体となり防衛装備移転を進めていくこととしている。

フィリピン空軍の要員に対する受託教育

フィリピン空軍の要員に対する受託教育

防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化など

人的基盤の強化

防衛力の中核は自衛隊員である。全ての隊員が高い士気と誇りを持ち、個々の能力を発揮できるよう環境を整備すべく、人的基盤の強化を進めていく。

少子化による募集対象者人口の減少という厳しい採用環境の中にあっても、優秀な人材を安定的に確保すべく募集活動に取り組むほか、民間人材の活用を図るため中途採用も強化している。予備自衛官などに関しても、専門的な技能を持つ人材の活用などに取り組んでいる。

また、隊員の生活・勤務環境の改善、給与面の処遇の向上、再就職支援、栄典・礼遇に関する施策の推進、家族支援施策などにも取り組んでいく。

地方協力本部による募集活動(合同企業説明会)

地方協力本部による募集活動(合同企業説明会)

ハラスメントへの対応

2022年9月、元陸上自衛官が現役時に、セクシュアル・ハラスメントの被害を受けていたことが調査の結果、確認された。被害を訴えたにもかかわらず適切に対応がなされなかった極めて深刻な事案である。

また、相談件数が増加の一途をたどっているなどの現状を踏まえ、防衛大臣は、全自衛隊を対象とした特別防衛監察の実施やハラスメント対策の抜本的見直しのための有識者会議の設置を指示した。

この有識者会議の検討結果を踏まえ新たな対策を確立し、ハラスメントを一切許容しない組織環境の構築に取り組んでいく。

防衛省ハラスメント防止対策有識者会議

防衛省ハラスメント防止対策有識者会議

ワークライフバランスと女性活躍

各種事態に持続的に対応できる態勢を確保するため、職員が心身ともに健全な状態で、かつ、高い士気を保って、その能力を十分に発揮できる環境を整える必要がある。

このため、長時間労働是正のための働き方改革や、テレワークなどを活用した、働く時間と場所の柔軟化を取り入れている。

また、女性自衛官の配置制限を解除するなど、意欲と能力のある女性職員の活躍推進に取り組んでいる。

幅広い職域で活躍する女性自衛官1

幅広い職域で活躍する女性自衛官2

幅広い職域で活躍する女性自衛官

隊員の命を救う衛生組織

防衛戦略は、自衛隊衛生について、持続性・強靱性の観点から、隊員の生命・身体を救う組織に変革することとしている。

特に、負傷した隊員の救命率を向上させるため、第一線から後送先病院までのシームレスな医療・後送態勢を確立する必要がある。

さらに、防衛医科大学校での戦傷医療についての教育研究の強化を進めるとともに、医官及び看護官の臨床経験をより充実させるために必要な運営改善を進める。

沖縄の医療拠点への患者搬送訓練

沖縄の医療拠点への患者搬送訓練

政策立案機能の強化

厳しい戦略環境に対応するためには、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案が必要とされている。このため、関係省庁や民間の研究機関、防衛産業を中心とした、企業との連携強化に取り組んでいる。また、防衛研究所を中心として、研究体制を見直し・強化し、知的基盤の強化を推進している。

国内初の政策シミュレーション国際会議

国内初の政策シミュレーション国際会議

訓練・演習に関する諸施策

自衛隊は、わが国を防衛するという厳しい任務を果たすため、平素から統合訓練や陸・海・空自衛隊による各種訓練などを実施している。その内容は従来の領域にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波を含む新領域にも及んでいる。これらの領域をうまく活用し、防衛力を高めるべく、領域横断作戦能力の向上を図っている。

また、日米同盟の抑止力・対処力を強化するため、各自衛隊は、各軍種間での共同訓練や日米共同統合演習を実施するとともに、その内容を年々深化させている。

さらに、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)というビジョンに基づき、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に推進するため、広くインド太平洋地域における同盟国、同志国などとの共同訓練・演習に積極的に取り組んでいる。

加えて、近年は、インド太平洋地域の沿岸国のみならず、域外の同志国などとの共同訓練・演習を積極的に推進し、各国との相互運用性の向上や他国との関係強化などを図っている。

厳しさを増す安全保障環境において、わが国の平和と独立を守り抜くためには、現状に満足することなく、自らがより精強になるとともに、同盟国・同志国などとの連携能力を向上させる必要がある。このため、自衛隊は訓練・演習を通じたさらなる抑止力・対処力の獲得に努めている。

海上から水陸両用車による上陸訓練(キーン・ソード23)

海上から水陸両用車による上陸訓練(キーン・ソード23)

離島に展開する日米の長射程火器(オリエント・シールド22)

離島に展開する日米の長射程火器(オリエント・シールド22)

豪海軍補給艦との洋上給油訓練(日米豪共同訓練)

豪海軍補給艦との洋上給油訓練(日米豪共同訓練)

日本上空でのドイツとの共同訓練(日独共同訓練)

日本上空でのドイツとの共同訓練(日独共同訓練)

地域社会や環境との共生に関する取組

地域社会との調和にかかる施策

防衛省・自衛隊の様々な活動は、国民一人一人、そして、地方公共団体などの理解と協力があってはじめて可能となる。こうした考えのもと、今後とも防衛省・自衛隊は、地域社会・国民と自衛隊相互の信頼をより一層深めていくために必要な各種施策を推進していく。

騒音防止工事の助成(北海道川上郡標茶町標茶中学校)

騒音防止工事の助成(北海道川上郡標茶(しべちゃ)町標茶(しべちゃ)中学校)

気候変動・環境問題への対応

気候変動の問題は、将来のエネルギーシフトへの対応を含め、今後、防衛省・自衛隊の運用や各種計画、施設、防衛装備品、さらにわが国を取り巻く安全保障環境により一層の影響をもたらすことは必須である。防衛省・自衛隊は、従前から環境関連法令を遵守し、環境保全の徹底や環境負荷の低減に努めてきたところ、2022年8月には、防衛省として気候変動に戦略的に取り組むべき施策を取りまとめた「防衛省気候変動対処戦略」を策定した。今後は本戦略に基づき気候変動の影響に対する具体的取組を進めていく。

情報発信や公文書管理・情報公開

国民や諸外国の信頼と協力を得るため、防衛省・自衛隊の活動について、分かりやすい広報活動を様々な方法で、より積極的に行っていく。

令和4年(2022)度国際観艦式と同時期に実施された「フリートウィーク」における艦艇一般公開

令和4年(2022)度国際観艦式と同時期に実施された「フリートウィーク」における艦艇一般公開