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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

防衛白書トップ > 第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ > 第1章 わが国自身の防衛体制 > 第4節 ミサイル攻撃を含むわが国に対する侵攻への対応 > 1 島嶼部を含むわが国に対する侵攻への対応

第4節 ミサイル攻撃を含むわが国に対する侵攻への対応

防衛戦略における第三の防衛目標は、万が一、抑止が破れ、わが国への侵攻が生起した場合には、その態様に応じてシームレスに即応し、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国などの支援を受けつつ、これを阻止・排除することである。

島嶼部を含むわが国に対する侵攻に対しては、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除するとともに、領域を横断して優越を獲得し、宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・海・空の領域における能力を有機的に融合した領域横断作戦を実施し、非対称な優越を確保し、侵攻戦力を阻止・排除する。そして、粘り強く活動し続けて、相手の侵攻意図を断念させる。

また、ミサイル攻撃を含むわが国に対する侵攻に対しては、ミサイル防衛により公海及びわが国の領域の上空でミサイルを迎撃し、攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において有効な反撃を加える能力としてスタンド・オフ防衛能力などを活用し、ミサイル防衛とあいまってミサイル攻撃を抑止する。

さらに、国民の生命・身体・財産に対する深刻な脅威である大規模テロや重要インフラに対する攻撃などに際しては、関係機関と連携し実効的な対処を行う。そして、わが国への侵攻が予測される場合には、住民の避難誘導を含む国民保護のための取組を円滑に実施できるようにする。

1 島嶼部を含むわが国に対する侵攻への対応

1 基本的考え方

東西南北、それぞれ約3,000kmに及ぶわが国領域には、広範囲にわたり多くの島嶼を有し、そこには守り抜くべき国民の生命・身体・財産・領土・領海・領空及び各種資源が広く存在している。

そうした地理的特性を持つわが国への侵攻に的確に対応するためには、安全保障環境に即した部隊などの配置とともに、平素から状況に応じた機動・展開を行うことが必要である。また、自衛隊による常時継続的な情報収集・警戒監視などにより、兆候を早期に察知し、海上優勢1・航空優勢2を確保することが重要である。

万が一、抑止が破られ、わが国への侵攻が生起した場合には、わが国の領域に対する侵害を排除するため、宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・海・空の領域における能力を有機的に融合し、相乗効果によって全体の能力を増幅させる領域横断作戦により、個別の領域が劣勢である場合にもこれを克服しつつ、統合運用により機動的・持続的な活動を行い、迅速かつ粘り強く活動し続けて領域を確保し、相手方の侵攻意図を断念させる。

参照図表III-1-4-1(領域横断作戦のイメージ図(一例))

図表III-1-4-1 領域横断作戦のイメージ図(一例)

2 防衛省・自衛隊の取組
(1)スタンド・オフ防衛能力の強化

諸外国のレーダー探知範囲や各種ミサイルの射程・性能は著しく向上しており、これらの脅威が及ぶ範囲は侵攻部隊の周囲数百km以上に及ぶ。

必要かつ十分な数量のスタンド・オフ・ミサイルを、様々な場所、様々なプラットフォームで重層的に保有することで、わが国に対する武力攻撃に対する抑止を向上させる必要がある。また、わが国への侵攻事態が生起した場合には、隊員の安全を可能な限り確保しつつ、相手の脅威圏外からできる限り早期・遠方でわが国に侵攻する部隊を阻止・排除することが必要である。

このため、まず、わが国への侵攻がどの地域で生起しても、わが国の様々な地点から、重層的にこれらの艦艇や上陸部隊などを阻止・排除できる必要かつ十分な能力を保有する。次に、各種プラットフォームから発射でき、また、高速滑空飛翔や極超音速飛翔といった多様かつ迎撃困難な能力を強化することとしている。

具体的には、12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型・艦艇発射型・航空機発射型)、島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速3誘導弾の研究開発を実施・継続し、各種誘導弾の長射程化を実施する。また、国産のスタンド・オフ・ミサイルの量産弾を取得するほか、米国製のトマホークをはじめとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実な導入を実施・継続する。

さらには、発射プラットフォームのさらなる多様化のための研究・開発を進めるとともに、スタンド・オフ・ミサイルの運用能力向上を目的として、潜水艦に搭載可能な垂直ミサイル発射システム(VLS:Vertical Launching System)、輸送機搭載システムなどを開発・整備する。

(2)無人アセット防衛能力の強化

無人アセットは、有人装備と比べて、人的損耗を局限し、長期連続運用ができるといった大きな利点がある。さらに、この無人アセットをAIや有人装備と組み合わせることにより、部隊の構造や戦い方を根本的に一変させるゲーム・チェンジャーとなり得ることから、空中・水上・水中などでの非対称的な優勢を獲得することが可能である。

このため、こうした無人アセットを情報収集・警戒監視のみならず、戦闘支援などの幅広い任務に効果的に活用していく。また、2023年度中には、無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)の取得をはじめ各種無人アセットの運用実証や研究が計画されている。

(3)機動展開能力の強化

島嶼部を含むわが国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、わが国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊(人員・装備・補給品など)を迅速に機動展開させる必要がある。

このため、自衛隊自身の海上・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI:Private Finance Initiative)などの民間輸送力を最大限活用する。

また、これらによる部隊への輸送・補給などがより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、既存の空港・港湾施設などを運用基盤として使用するために必要な措置を講じ、補給能力の向上を実施していくとともに、全国に所在する補給拠点の改修を積極的に推進していく。あわせて、輸送船舶、輸送機、輸送ヘリコプターなどの各種輸送アセットの取得などによる輸送力の強化を進めていく。

このほか、自衛隊は機動展開能力を向上させるべく、米国をはじめとする関係国との共同訓練を含め、多くの訓練を実施している。

(4)南西地域における防衛体制の強化

南西地域の防衛体制強化のため、九州・南西地域における部隊の新編が進められている。2023年3月、陸自は石垣島に駐屯地を新設し、警備部隊、地対空誘導弾部隊及び地対艦誘導弾部隊を配置したほか、2023年度には竹松駐屯地(長崎県大村市)に水陸機動団第3水陸機動連隊(仮称)を新編する。また、今後、第15旅団(沖縄県那覇市)の師団への改編が予定されている。

V-22オスプレイの運用については、防衛省はその配備先として、佐賀空港が最適の飛行場と判断しており、佐賀県知事から受入れの表明を頂き、2023年5月、佐賀県有明海漁業協同組合との間で不動産売買契約を締結し、駐屯地予定地を取得した4。なお、佐賀空港配備には一定期間を要することを考慮し、2020年にV-22オスプレイを運用する輸送航空隊を木更津駐屯地に新編し、V-22オスプレイの暫定配備を開始した。

参照図表III-1-4-2(九州・南西地域における主要部隊新編状況(2016年以降)(概念図))

図表III-1-4-2 九州・南西地域における主要部隊新編状況(2016年以降)(概念図)

1 海域において相手の海上戦力より優勢であり、相手方から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

2 わが航空部隊が敵から大なる妨害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態

3 音速の5倍以上の速度域

4 佐賀空港の西側に駐機場や格納庫などを整備し、陸自目達原駐屯地から移駐する約50機のヘリコプターと新規に取得する17機のオスプレイとあわせて約70機の航空機を配備することを想定している。