2014年のロシアによるクリミア「併合」、2016年の米大統領選へのロシアの介入疑惑、2020年の台湾総統選挙をめぐる中国の活動、2022年のロシアによるウクライナ侵略などでも指摘されているように、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを媒体とした、偽情報の流布や、対象政府の信頼低下や社会の分断を企図した情報拡散などによる情報戦への懸念が高まっている。こうしたSNS上での工作には、ボットと呼ばれる自律的なプログラムが多用されるようになっているとの指摘がある。大手ソーシャルメディア各社は、ボットアカウントも含め、中国やロシアなど政府によるプロパガンダ5作戦に利用されているとするアカウントの削除を発表してきている。
KEY WORD情報戦とは
「情報戦」とは、紛争が生起していない段階から、偽情報や戦略的な情報発信などを用いて他国の世論・意思決定に影響を及ぼすとともに、自らの意思決定への影響を局限することで、自らに有利な安全保障環境の構築を企図することをいいます。国際社会において、この「情報戦」に重点が置かれている状況です。
このような偽情報の流布などによる情報戦は、AIやコンピューティング技術のさらなる活用により、一層深刻になる可能性がある。このため、米国では、2021年度国防授権法において、国土安全保障長官に対して、デジタル・コンテンツの偽造に使われる技術や、これが外国政府により使われた場合の安全保障への影響について報告するよう命じている。また、米国防省高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)は、画像や音声の一貫性に着目し、偽造されたコンテンツを自動的に発見するアルゴリズムの研究を行っている。ウクライナでは、ロシアによる侵略に対し、政府HPや各種SNSなどを利用して、戦果・戦況の発信や、捕虜となったロシア軍兵士の母親に向けたメッセージを発信するほか、偽情報を流すアカウントを不適切なコンテンツとして通報するよう促すなどロシアの偽情報に対する対抗措置を講じている。このような巧みな情報発信により、人道的なウクライナと非人道的なロシアという図式の国内外世論の形成に成功している。