中国は、特に海洋において利害が対立する問題をめぐり、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力による一方的な現状変更の試みやその既成事実化など高圧的とも言える対応を推し進めつつ、自らの一方的主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。また、国家戦略として「一帯一路」構想を推進しているが、近年一部の「一帯一路」構想の協力国において、財政状況の悪化などからプロジェクト見直しの動きもみられている。さらに、安全保障や発展・開発を含む分野における中国主導の多国間メカニズムの構築46など、独自の国際秩序形成への動きや、他国の政治家の取り込みなどを通じて他国の政策決定に影響力を及ぼそうとする動きなども指摘されている47。
同時に、中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの認識に基づき、「人類運命共同体」の構築を提唱しつつ、「相互尊重、公平正義、協力、ウィン・ウィンの新型国際関係」の建設推進について言及している。軍事面においては、諸外国との間で軍事交流を積極的に展開している。近年では、米国やロシアをはじめとする大国や東南アジアを含む周辺諸国に加えて、アフリカや中南米諸国などとの軍事交流も活発に行っているほか、太平洋諸国との関係強化の動きもみられる。中国が軍事交流を推進する目的としては、関係強化を通じて中国に対する懸念の払拭に努めつつ、自国に有利な安全保障環境の構築や国際社会における影響力の強化、海外兵器市場の開拓、資源の安定的な確保や海外拠点の確保などがあるものと考えられる。
1989年にいわゆる中ソ対立に終止符が打たれて以来、中露双方は継続して両国関係重視の姿勢を見せている。90年代半ばに両国間で「戦略的パートナーシップ」を確立して以来、関係の深化が強調されており、2001年には、中露善隣友好協力条約が締結された。2004年には、長年の懸案であった中露国境画定問題も解決されるに至った。両国は、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有し、関係を一層深めており、2024年5月の中露首脳会談において、両国は「現在の中露関係は、まさに史上最高水準にある」と評価している。さらに、例えば、米中、米露関係の緊張が高まる中で、中露間では一貫して協力が深化しており、それぞれが米国などとの間で対立している台湾やNATOの東方拡大をめぐる問題などの安全保障上の課題について一致した姿勢を示すことで、自らに有利な国際環境の創出を企図しているものとみられる。
2024年5月、中露首脳会談を実施する習近平国家主席とプーチン大統領
【中国通信/時事通信フォト】
軍事面では、中国は90年代以降、ロシアから戦闘機や駆逐艦、潜水艦など近代的な武器を購入しており、中国にとってロシアは最大の武器供給国である48。近年、中露間の武器取引額は一時期に比べ低い水準で推移しているものの、中国は引き続きロシアが保有する先進装備の輸入や共同開発に強い関心を示しているとみられる。例えば、中国はロシアから最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機や地対空ミサイルシステム「S-400」を導入している。なお、ロシアが「S-400」を輸出したのは、中国が初めてであるとされる。一方で、ロシアは中国の技術力向上により、武器輸出における中国との競合を懸念しつつあるとの指摘もある。
中露間の軍事交流としては、定期的な軍高官などの往来に加え、共同訓練、共同飛行、共同航行などを実施している。中露両国は、海軍による大規模な共同演習「海上協力」を2012年以降実施しており、そのなかで共同掃海訓練、封鎖作戦、臨検・拿捕などが演練されている。
また、中露両国は2018年以降、軍事演習への相互参加を継続している。2024年9月には中露それぞれが主催する演習に両国軍が相互に参加するなど、軍事連携の頻度が増加している。中国としては、これらの交流を通じて、ロシア製兵器の運用方法や実戦経験を有するロシア軍の作戦教義などを学習することも見込んでいるものと考えられる。
2019年以降、中露両国は爆撃機による長距離にわたる共同飛行をこれまで計9回実施している。日米豪印首脳会合が開催されている中で実施された2022年5月の共同飛行は、開催国たるわが国に対する示威行動を意図したものであり、これまでと比べ挑発度を増すものであった。同年11月の共同飛行の際には、中国機がロシア国内の飛行場に、ロシア機が中国国内の飛行場にそれぞれ初めて着陸したとされたほか、2024年11月の共同飛行の際には、中国軍の空中給油機や核を搭載可能な空中発射型弾道ミサイルを搭載できるとされるH-6N爆撃機の参加が初めて確認されるなど、活動の多様化がみられる。
2021年以降、中露は計5回共同航行を実施している。2023年3月の中露首脳会談後に発表された共同声明では、海上・空中における「共同パトロール」や「共同演習」などを定期的に実施することが明記された。2023年に実施された共同航行においては、航行中に50以上の戦闘訓練を実施したとされるほか、共同航行実施前後には、共同航行参加艦艇による相手国への寄港が初めて実施されるなど、活動の多様化がみられる。2024年は、7月および9月~10月に中露艦艇が共同航行し、初めて年2回実施された。
中露両国による度重なる爆撃機の共同飛行や艦艇の共同航行は、わが国に対する示威活動を明確に意図したものであり、わが国の安全保障上、重大な懸念である。
このように、ウクライナ侵略が行われている中にあっても、中露両国はますます連携を強化する動きを見せている。今後、中露両国がさらに軍事的な連携を深めていく可能性もあり、また、こうした中露両国の軍事協力の強化などの動向は、わが国を取り巻く安全保障環境に直接的な影響を与えるのみならず、米国や欧州への戦略的影響も考えられることから、懸念を持って注視する必要がある。
参照図表I-3-2-18(中露軍事連携の主な動向)
中国は、1961年の中朝友好協力と相互援助条約のもとで北朝鮮との緊密な関係を維持してきた。習総書記は2019年6月、中国国家主席として14年ぶりに北朝鮮を訪問し、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)国務委員長との間で5回目となる首脳会談を行っている。また、2022年10月には、金委員長が、習近平総書記の再選にあたり祝電を送付し、2023年9月には、習総書記が、北朝鮮建「国」75周年にあたり祝電を送付している。
中国は朝鮮半島問題に関して「3つの堅持」(①朝鮮半島の非核化実現、②朝鮮半島の平和と安定の維持、③対話と協議を通じた問題解決)と呼ばれる基本原則を掲げているとされ、非核化のみならず従来の安定維持や対話も同等に重要との立場をとっていると考えられる。こうした状況のもと、中国は北朝鮮に対する制裁を強化する2017年までの累次の国連安保理決議に賛成してきた一方、最近では、ロシアとともに国連安保理決議に基づく制裁の一部解除などを含む決議案を国連安保理で提案するなどの動きも見せているほか、2022年5月には北朝鮮によるICBM級弾道ミサイルの発射を受けて米国が提案した制裁決議案に対し、ロシアとともに拒否権を行使した。
なお、国連安保理決議で禁止されている、洋上での船舶間の物資の積替え(いわゆる「瀬取り」)に関し、中国側は終始自身の国際義務を真剣に履行しているとしているが、中国籍船舶の関与が指摘されている。
参照8節1項3(中国との関係)、8節2項3(2)(中国との関係)
参照6節1項3(2)(中国との関係)、6節3項(太平洋島嶼国)
中国は、ミサイル、戦車、無人機を含む航空機、艦船などの輸出を拡大している。具体的には、パキスタン、セルビアが主要な輸出先とされているほか、アルジェリア、ナイジェリアなどのアフリカ諸国や、タイやミャンマーなどの東南アジア諸国、サウジアラビアなどの中東諸国などにも武器を輸出しているとされる49。
中国による武器移転については、友好国との間での戦略的な関係の強化や影響力拡大による国際社会における発言力の拡大のほか、資源の獲得にも関係しているとの指摘がある。中国は、国際的な武器輸出管理の枠組みの一部には未参加であり、ミサイル関連技術などの中国からの拡散が指摘されるなどしている。
資料:最近の国際軍事情勢(中国)
URL:https://www.mod.go.jp/j/surround/index.html