中国は、長い国境線と海岸線に囲まれた広大な国土に世界最大級の人口を擁し、国内に多くの異なる民族、宗教、言語を抱えている。固有の文化、文明を形成してきた中国特有の歴史に対する誇りと19世紀以降の半植民地化の経験は、中国国民の国力強化への強い願いとナショナリズムを生んでいる。
習近平(しゅうきんぺい)中国共産党中央委員会総書記(習総書記)は、「反腐敗」による幹部の粛清などを通じて中国共産党における権力基盤を確立してきた。2022年10月に開催された中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)においては、「習総書記の党中央の核心、全党の核心の地位を擁護し、党中央の権威と集中的統一指導を擁護すること」を意味する「二つの擁護」が党規約に義務として明記され、また、直後に開催された中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議(一中全会)では、習総書記の3期目続投が決定された。
中国共産党第20回党大会で報告を行う習近平総書記【中国通信/時事通信フォト】
中国は、2014年に「総体的国家安全観」という概念を提起し、政治、軍事、国土、経済、文化、社会、科学技術、ネットワーク、生態、資源、核、海外における利益、宇宙、深海、極地、生物など様々な領域が全て国家の安全に関連するという考えに基づき、中央国家安全委員会の設立、「国家安全戦略(2021-2025年)」の策定のほか、国内防諜体制の強化やサイバー空間の管理強化などのための各種法整備を進めている。
加えて、中国は、外国勢力による中国統一への干渉や台湾独立を狙う動きに強く反対する立場から、最大の努力を尽くして平和的統一の未来の実現を目指すが、決して武力行使の放棄を約束しないことをたびたび表明している。2005年3月に制定された反国家分裂法では、「台独分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われた時、国家は非平和的方式そのほか必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」とし、武力行使の不放棄が明文化されている。また、第20回党大会で採択された改正党規約においても、「『台湾独立』に断固反対し、阻止する」との文言を追加し、台湾独立阻止を党の任務として位置づけた。
中国国内には、様々な問題も存在している。共産党幹部などの腐敗のまん延や、都市部と農村部、沿岸部と内陸部の間の経済格差のほか、都市内部における格差、環境汚染などの問題も顕在化している。腐敗のまん延は軍においてもみられ、2023年10月に李尚福(りしょうふく)国防部長(当時)が解任をされたことを含め同年7月から12月の間に少なくとも15人の軍高官が解任されたと指摘されている1。さらに、最近では経済の成長が鈍化傾向にあるほか、将来的には、人口構成の急速な高齢化に伴う年金などの社会保障制度の問題も予想されており、このような政権運営を不安定化させかねない要因は拡大・多様化の傾向にある。また、新疆ウイグル自治区をはじめとする中国の人権状況および香港をめぐる情勢について国際社会からの関心は引き続き高い。