パキスタンは、南アジア地域の大国であるインドと、情勢が不安定なアフガニスタンに挟まれ、中国やイランとも国境を接するという地政学的に重要かつ複雑な環境に位置している。特に、アフガニスタンとの国境地域では過激派組織が国境を越えてテロ活動を行っており、テロとの戦いにおけるパキスタンの動向はアフガニスタンの安定に重要な影響を及ぼしうる4。2024年には、パキスタンが、アフガニスタン東部の施設をテロリスト関連施設と主張して越境攻撃を実施するなど、両国の間には過激派組織の対処を巡り軋轢が生じている。
イランとの間では、2024年1月に両国の国境付近において、双方が過激派組織の拠点に対し越境攻撃を行い、死傷者が出る事案が発生したが、その後関係は修復している。
パキスタンは、インドの核・通常兵器による攻撃に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとの立場をとっており、2024年1月時点で約170個の核弾頭を保有するとみられている。核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発も継続し、既に戦術核ミサイル「ナスル」や、中距離弾道ミサイル「シャヒーンII」などを運用しているほか、2022年4月には、射程2,750kmの地対地弾道ミサイル「シャヒーンIII」の飛行試験に成功した。2023年10月には、MIRV化されたとする弾道ミサイル「アバビール」の発射試験を実施するなど、能力向上を進めている。
近年は装備品の近代化を進めており、共同開発や技術移転による国内生産にも取り組む一方、中国と軍事分野における関係を発展させており、中国への依存度の高まりがみられる。陸軍では、主力戦車として中国と共同開発した「アルハリッド」戦車を運用している。また、中国から「LY-80」や「HQ-9/P」などの防空システムを購入し、包括的階層統合防空(CLIAD:Comprehensive Layered Integrated Air Defense)システムを強化している。
海軍については、老朽化する艦艇の置き換えと増強や潜水艦の導入を進めており、中国やトルコと協力しているほか、両国と二国間共同演習を実施している。
空軍は、中国と共同開発し自国生産したJF-17戦闘機や中国製J-10CE戦闘機などを運用している。2024年10月には多国間空軍演習「インダス・シールド」に合わせて、中国との二国間演習を実施している。
また、パキスタンは無人機の導入を推進しており、中国やトルコからの調達のほか、国産無人機の開発も進めている。
パキスタンは、2001年の同時多発テロ以降、対テロ分野で米国と協力しており、米国は2004年にパキスタンを「主要な非NATO同盟国」に指定し、関係を強化してきた。しかし、テロ対応をめぐりお互い非難し合うなど、両国は緊張関係が続いた。
2022年4月に発足したシャリフ政権下では米国との関係改善がみられ、同年9月、米国務省は、対テロ作戦を支援するためとして、パキスタン政府に対して最大4億5,000万ドルのF-16戦闘機の維持・サポートに関する契約を承認すると決定したほか、同年10月には3年ぶりにバジュワ陸軍参謀長(当時)が訪米し、オースティン国防長官(当時)などと会談した。
一方、米国は2024年12月、長距離ミサイル開発による拡散上の脅威が継続していることを理由に、弾道ミサイル計画に関係するパキスタンの4つの企業や機関に対して、制裁を科す旨発表しており、今後の両国の関係が注目される。
パキスタンと中国は、「全天候型戦略的パートナーシップ」のもと、密接な関係を有し、首脳級の訪問が活発であるほか、共同訓練、武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力も進展している。海上輸送路の重要性が増すなか、パキスタンがインド洋に面しているという地政学上の特性もあり、中国にとってパキスタンの重要性は高まっていると考えられる。
一方、近年は中国人を標的としたテロ事件がパキスタン国内で相次いでおり課題になっている。そのようななか、両国は2024年11月~12月に対テロ共同演習「勇士(Warrior)8」をパキスタン国内で2019年以来5年ぶりに実施している。