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<解説>各地域間の安全保障環境の連関がわが国に及ぼす影響

インド太平洋は、広大な地理的広がりの中に大陸、半島、島嶼が複雑に位置する地域です。わが国は、中国、ロシア、朝鮮半島や欧州のように他国と陸上を中心に接している環境にはありませんが、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の悪化などの事例を踏まえれば、遠く海を隔てた地域であっても、わが国の安全保障に影響を及ぼす可能性は否定できません。

一般的にいえば、国境を越えた経済活動や人の往来が増大するにつれて、地理的に離れた地域で発生する事象が、地域間の取引や往来を通じてほかの地域に影響を及ぼすようになります。このような連関は、軍事面であれば、軍事装備品や軍事技術の地域間の移転、他国における部隊の駐留、他国への人員や軍事アセットの派遣などの形でみられます。これらの活動は、地域の軍事バランスや軍事活動に影響を与える可能性があります。

ウクライナ侵略と中東情勢の悪化は、それぞれ欧州とインド太平洋、中東とインド太平洋との間の軍事的な連関を示すものであると考えられます。顕著な例のひとつは露朝軍事協力の進展です。ウクライナ侵略における北朝鮮製の弾道ミサイルを含む武器・弾薬の調達およびそのウクライナに対する使用、さらには北朝鮮によるロシアへの兵士の派遣といった露朝軍事協力の進展が明らかになりました。加えて、ロシアによる北朝鮮への核・ミサイル関連技術の移転のおそれがあり、長期的にはインド太平洋地域の軍事バランスに影響を与える可能性も否定されません。中東情勢の悪化の中、米国は中東への軍事アセットの追加展開などを行っています。中東情勢の悪化がさらに国際社会の関心をインド太平洋から分散させ、ひいては長期的に各国の戦略的な優先順位に影響を与える可能性があります。

このように、ある地域における事象がほかの地域の安全保障環境に多層的な影響を及ぼし得るところ、インド太平洋に位置するわが国も、周辺国などが軍事力を増強しつつ軍事活動を活発化させるなかで、各地域間の安全保障環境の連関を認識し、その動向を注視する必要があります。