国際社会は戦後最大の試練の時を迎えています。
世界平和の既存の秩序は深刻な挑戦を受け、わが国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく複雑なものとなっています。
中国は国防費を急速に増加させ、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化し、尖閣諸島周辺を含む東シナ海や太平洋などでの活動を活発化させています。北朝鮮は大量破壊兵器や弾道ミサイルなどの増強に集中的に取り組み、弾道ミサイルなどの発射を強行しています。ロシアはウクライナ侵略を継続するとともに、北方領土を含む地域での活発な軍事活動を継続しており、さらには中国と共同での航空機や艦艇の活動も確認されています。
防衛省・自衛隊は、このような安全保障環境のなかで、戦略三文書に基づき、国民の命と平和な暮らし、わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜く取組として、主体性・主導性をもって、現在、日本の防衛力の抜本的強化を推進しています。
具体的には、スタンド・オフ防衛能力や統合防空ミサイル防衛能力といった将来の中核となる能力を強化するとともに、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能の強化に取り組んでいます。また、機動展開能力や持続性・強靱性の強化も重要であり、装備品の可動率向上や弾薬・燃料の確保、防衛施設の強靱化への投資を加速しています。
このようなわが国自身の努力に加え、同盟国・同志国との協力・連携も重要です。
まず、米国との同盟関係は、わが国の安全保障政策の基軸であり、インド太平洋地域の平和と安定の礎です。私も、ヘグセス米国防長官との間で防衛相会談を重ね、日米それぞれの指揮・統制枠組みの向上の一環として、自衛隊の統合作戦司令部(JJOC)の設立と歩調を合わせる形で在日米軍の統合軍司令部へのアップグレードが開始されたほか、南西地域における日米の共同プレゼンスの拡大や共同生産・開発・維持整備を含む防衛装備・技術協力の推進など、抑止力・対処力強化に向けた議論を進めています。
また、同志国との間での多層的な防衛協力の推進も不可欠です。私は、年初からインドネシアやフィリピンを訪問し、地域における共通の課題について認識を共有するとともに、運用面を含む広範な分野での協力を進めるべく議論を行いました。5月のインド訪問では「JIDIPi」を打ち出し、それぞれの主体的取組を連携させシナジー(相乗効果)を高めることにより、地域の平和と繁栄を防衛面から支えることで一致しました。
さらに5月末に開催されたシャングリラ会合において、私は「OCEAN(One Cooperative Effort Among Nations: Perspective for the Indo-Pacific)ii」の精神を提案しました。また、その根幹には、各国の国防当局が開放性、包摂性、透明性を確保しながら協力と連携を進め、ルールに基づく国際秩序を回復し、アカウンタビリティを強化し、国際公共益を増進していくという共通の精神が重要との考え方があると述べました。OCEANの精神は、共通の価値と利益を共有する各国が、インド太平洋全体を俯瞰的に捉え、それぞれの自主的な取組の間で協力と連携を強化し、シナジーを生み出すことで新たな価値と利益をもたらしていくことの重要性を強調するものです。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の理念の下、これを防衛分野で実現すべく、日本はこうした取組が必要と考えるすべての国の最良のパートナーであり続けることを宣言しました。
防衛省は今、自衛隊の処遇や勤務環境の改善、採用、援護などの生涯設計の確立といった人的基盤の強化に努めています。
「人は石垣、人は城」。防衛省・自衛隊は人間集団であり、人によって動く組織であり、自衛隊員一人ひとりが防衛力の最大の基盤です。自衛隊員の安定的な確保が至上命題であり、自衛隊員が国防という国家にとって極めて枢要な任務に、誇りと名誉、高い使命感を持って専念できる体制を整えることが不可欠です。このため、総理のリーダーシップの下、「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」を開催し、そこで取りまとめられた基本方針も踏まえ、必要な施策を速やかに実施しています。また、いわば防衛力そのものである防衛生産・技術基盤の強化は必要不可欠であり、防衛生産基盤強化法などにより、その強化に向けた施策を、引き続き力強く進めてまいります。
令和7年版防衛白書は、以上のようなわが国を取り巻く安全保障環境や防衛省・自衛隊の取組を記述しており、防衛力の抜本的強化の進捗について、変化事項やトピックスなどを丁寧にご説明しています。また、統合作戦司令部の創設に伴い、国民の皆さまに統合作戦をイメージしてもらうための特集と、先に述べた自衛官の処遇・勤務環境の改善などに関する基本方針についての特集を、隊員の声などとともに巻頭に設けています。この白書が、わが国が置かれた安全保障環境や防衛省・自衛隊の取組について、より多くの皆さまの一層のご理解を賜るための一助となることを願っています。