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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 太平洋島嶼国

太平洋島嶼国は、大平洋上に位置する島国・地域の総称で、広い排他的経済水域を有していることから豊富な水産資源の供給地であり、エネルギー資源の輸送ルートにあたるなど、わが国にとって重要な地域である。

大平洋島嶼国は、「国土が狭く分散している」、「国際市場から遠い」、「自然災害や気候変動などの環境変化に脆弱」などの困難を抱えている。

また、太平洋島嶼国のうち軍隊を有している国は限られており、フィジー、パプアニューギニア、トンガの3か国に留まる。

こうした中、気候変動を安全保障上の唯一かつ最大の脅威と位置付けており、海面上昇による国土消失や自然災害の規模拡大を深刻視している。

これらの国は従来、オーストラリア、フランス、ニュージーランド、英国、米国と深い関係を有しているが、近年中国のアプローチの活発化により、大国間の地政学的競争が顕在化してきている。例えば、2022年4月、中国がソロモン諸島との間で、中国の警察・軍の派遣や艦艇の寄港・補給が可能となる内容を含むとされる安全保障協力協定を締結した一方で、2023年5月、米国はパプアニューギニアとの間で、同国の港湾や空港に米軍がアクセス可能となる内容を含むとされる防衛協力協定に署名している。さらに、中国が大規模インフラ整備や病院船派遣などを通して影響力拡大を模索する中、米国は、既存の軍事プレゼンスの維持・拡大を図っている。また、オーストラリアも、地域へのプレゼンス拡大に積極的に取り組んでおり、太平洋島嶼国支援の予算を大幅に増額するほか、2023年には、パプアニューギニアと安全保障協定を、ツバルとファレピリ連合条約(ツバル語で「良き隣人」や「相互扶助」の意味)を、2024年にはナウルと経済・安全保障に関する条約をそれぞれ締結している。この地域への関与をめぐる米中豪を中心とした競争が注目されている。