アフリカ諸国は、54か国で約14億人を擁し、2050年には世界人口の4分の1を抱えるようになると言われるなど、若く、エネルギッシュで、潜在力に溢れた地域である。豊富な鉱物資源や高い経済成長率を誇ることから、日本の経済安全保障やバリューチェーンの確保の観点からも重要な地域であり、更に開拓すべき投資先として世界の関心も集めている。一方、紛争やテロ、政治的混乱、海賊の活動などの安全保障上の課題を抱えている地域でもある。アフリカの平和と安定の実現に向けて、国連PKOのほか、アフリカ連合(AU:African Union)などの地域機関が積極的に活動している。
スーダンでは、2023年4月、国軍と準軍事組織である「即応支援部隊(RSF:Rapid Support Forces)」とが、RSFの国軍への統合などをめぐって対立し、武力衝突に至った。同年5月以降、米国、サウジアラビア、AUなどの仲介によって停戦が模索されてきたが、実効的な停戦には至っておらず、依然として激しい戦闘が継続している。
南スーダンでは、2011年のスーダンからの独立以降、政治的対立や民族対立等に起因する大規模な武力衝突が発生したが、2018年9月には、衝突の当事者であるキール大統領、マシャール副大統領(当時)らによって、和平合意にあたる「再活性化された衝突解決合意」(R-ARCSS:Revitalised Agreement on the Resolution of the Conflict in the Republic of South Sudan)が署名され、正式政府発足に向けたロードマップなどが示された。2020年には暫定政府が設立され、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in South Sudan)がR-ARCSSの履行を支援している。一方で、R-ARCSSの履行はいまだ限定的であり、2024年9月には、総選挙を2026年12月まで再延期すること、暫定政府の統治期間を2027年2月まで再延長することがR-ARCSSの当事者間で合意された。2025年3月には、上ナイル州を中心にキール大統領派を支持する南スーダン人民防衛軍(SSPDF)とマシャール第一副大統領を支持する反主流派(SPLM-IO)間での衝突が発生したり、マシャール第一副大統領が自宅に軟禁されたりするなど、現在も、政治的対立や地方における散発的な武力衝突は継続しており、依然として不安定な情勢が続いている。
近年、西アフリカでは、軍事的政権奪取が相次いで発生した。2020年8月と2021年5月にマリ、2022年1月と9月にブルキナファソ、2023年7月にニジェールでそれぞれ、国軍の一部兵士による軍事的政権奪取が発生した。同地域からは米軍やフランス軍、国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA:United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali)等が撤退し、イスラム過激派などによるテロや襲撃事件が頻発するなど、治安の悪化が深刻な問題となっている。
参照図表I-3-10-1(現在展開中の国連平和維持活動)、3項2(アフリカにおける動向)、4章5節2項(2)(海賊)、III部3章2節2項2(国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS))
アフリカは、安全保障面ではかねてより米国、欧州、ロシアとの関係が深い。そのうえで、近年はロシアとの関係のさらなる深化に加え、中国によるアフリカへの関与が目立っている。
中国は、従来からアフリカ諸国との経済面における関係強化に努めているが、近年は軍事的な関与も強めており、首脳クラスのみならず軍高官の往来も活発であるほか、武器輸出や部隊間の交流なども積極的に行われている。また、中国はアフリカにおける国連PKOへ要員を積極的に派遣している。このような動きの背景には、資源の安定供給を確保するねらいのほか、将来的にはさらなる海外拠点の確保も念頭に置いているとの見方がある。
例えば、2017年8月には、ジブチにおいて、中国軍初の海外拠点として、後方支援を目的とするとされる「保障基地」の運用が開始され、2024年7月と10月には、「保障基地」に駐留する中国軍部隊とジブチ軍が共同演習を実施した。また、アフリカ沿岸国での活動もみられる。西岸においては、2023年6月から7月にかけて海軍の海賊対処部隊がギニア湾岸諸国を訪問して共同演習を実施した。東岸においても、2024年7月~8月にタンザニアおよびモザンビークと2週間に及ぶ共同演習を実施している。さらに、中国はロシアおよび南アフリカとも、2019年11月と2023年2月に3カ国で共同演習を実施した。
今後も、アフリカ沿岸国を中心に軍事関連施設の建設を検討している可能性が指摘されているなど1、引き続き、アフリカにおける軍事的プレゼンスの拡大を図っていくものとみられる。
ロシアは、アフリカ諸国に対して武器輸出を積極的に行ってきたほか、近年は民間軍事会社の活動などを通じて関与を強めてきた。2023年の「ワグネル」の「武装反乱」やその創設者の一人であるプリゴジン氏の死去後も、ロシアはアフリカへの大きな影響力を維持しているとみられる。2024年以降には、「ワグネル」の一部を取り込む形で露国防省の下で再編されたとの指摘がある「アフリカ軍団」の活動が報じられている。
2020年、ロシア政府は、ロシア海軍の拠点をスーダンの紅海沿岸に開設することでスーダン政府と合意したと発表した。2025年2月には、両国が最終的な合意に至ったとスーダン政府が発表したことが報じられた。スーダンにロシア海軍の拠点が開設されれば、インド洋方面におけるロシア軍の展開能力が高まるものとみられる。
ロシアは今後も、軍事的政権奪取が発生した国々や情勢が不安定化している国々を中心に、アフリカにおける軍事的プレゼンスを高めていくものとみられる。
米国は従前から、米アフリカ軍(AFRICOM:United States Africa Command)を中心として、多国間の共同演習、駐留や訓練ミッション、対テロ作戦への人員派遣、武器輸出などを通じて、アフリカ諸国と軍事的に連携してきた。バイデン前政権の2022年10月に発表された国家防衛戦略においては、アフリカについて、「目的を共有する同盟国、国際機関、地域機構との連携を強化し、同大陸における中国とロシアの悪質な活動を妨害する努力を含め、同地域における米国の各機関・省庁間の取組を支援する」との方針を表明している。
一方で、アフリカの安全保障環境については懸念も示している。AFRICOMは、2024年3月に発表した声明2において、「アフリカにおける我々の国際的な同盟が縮小していることを深刻に受け止めている」と述べている。AFRICOMもまた、同年3月にニジェールが米国との軍事協定の破棄を宣言したことを受けて、米軍は同年9月に同国から撤退することとなった。さらに、AFRICOMが同年8月に策定した戦略文書3においては、アフリカにおける安全保障上の脅威に含まれるものとして、「ロシアや中国などの対外国家主体の有害な影響」をあげている。
こうした懸念は示しているものの、米国は引き続きアフリカに関与していくものとみられる。
欧州も従前から、駐留や訓練ミッション、対テロ作戦への人員派遣などを通じてアフリカ諸国と軍事的に連携してきたが、近年、欧州の影響力は、中露の影響力拡大も相まって相対的に低下しているとの見方もある。
特にフランスは、歴史的背景からアフリカ諸国との関係が深く、旧植民地を中心に影響力を維持してきた。しかし、近年、西アフリカの国々においては、軍事的政権奪取の発生、反仏感情の高まりやロシアの影響力拡大などを背景に、アフリカ駐留部隊の撤退が相次いでいる。こうした事態を踏まえ、現在、フランスはアフリカ地域における軍事態勢の再構築とパートナーシップの維持に取り組んでいる。
最近では、2024年11月にフランスと友好関係にあるチャドがフランスとの防衛協力協定の終了を発表し、2025年1月にフランス軍はチャドからも撤退を完了した。また、2025年2月には、コートジボワールのフランス軍基地を返還したが、フランス軍80人は引き続き、コートジボワールにおいて、同国軍の訓練を実施する予定である。さらに、同年3月、フランス軍はセネガルからも撤退を開始したが、安全保障面での新たなパートナーシップに関して協議を続けている。
このように、駐留部隊の撤退や削減が実施された事例はあるものの、地域の安定化に向けた欧州の関与は継続するとみられる。